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【初代地球王】  作者: 池上雅
第五章 【英雄篇】
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*** 2 専任代理人契約 ***


 白い棒は、また真剣な口調で言う。


「これからわたくしは最低でも百年の間、不測の事態に備えてご主人さまをお守りしなければなりません。

 そのためにはまだいくつかの資源が不足しています……」


「なんでも言ってください。

 我々に用意できるものでしたらなんでもご用意させていただきますよ。

 もちろん代金なんか要りません。

 だってあなた方は遭難中なんですから」


「本当にこの星の方々は、技術水準に比べて倫理水準が高いのですね。

 倫理水準は銀河基準よりも上にあるようです。

 でも、実はタダで頂戴するわけにはいかないのです」


「な、なんでですか」


「我々は…… そう、あなた方の言葉で言う商人なのです。

 特に資源探査を主な生業としている商人です。私は商業用AIであります」


「へ~、商人さんだったんですか」


「はい。我々の商人法は、資源の交換の際に著しく安い代価で交換することを固く禁じています。

 利益水準は必ず一定限度内に納めなくてはなりません」


「へ~、だったらどんな商取引も安心して出来ますねえ」


「はい。そのための法律です。

 そうしなければ星間交易が争いにつながり、ひいては星間戦争につながる可能性もありますから、罰則規定も非常に厳しいのです」


「なるほどー」


「ですから皆さまから水などの貴重な資源をただで頂くわけにはいかないのです。

 そんなことをしていたら、ご主人さまが救助と同時に逮捕されてしまいます」


「そ、そそそ、そうなんですか。

 それにしても水ってそんなに貴重なんですか?」


「はい、貴重です」


「宇宙には氷がいっぱいあると聞いたことがあるんですけど……」


「それはメタンの氷です。

 H2Oが最も容易に大きなエネルギー原になるのですが、残念ながら宇宙にはH2Oの氷はそれほどありません。

 H2O専門の商人たちがいつもH2Oの氷を求めて探し回っています」


「へ~」


「この星は実にH2Oが豊富ですねえ。いや実にすばらしい財産です」


「そ、そんなもんなんですか」


「それにどうやら重金属も実に豊富です。

 これだけのお金持ち惑星は滅多にありません」


「そ、そそそ、そうなんですか。

 そんなに地球っておカネ持ちなんですか?」


 その棒からはため息らしきものが聞こえた。


「はい、人類居住惑星には必ず水が、つまりは海がありますが、その海の面積はその惑星の表面積の三十%からせいぜい五十%であります。

 また平均深度も五百メートル程度であります」


「ええ」


「ですが、この惑星様の海は、惑星表面積の七十%もあります。

 しかも平均深度は二千メートルもあるのです。

 銀河有数の水資源保有量でございますな」


「へー、そうだったんですねえ……」


 また白い棒が言う。


「あの…… お願いがございます」


「ど、どうぞ」


「私どもと専任代理人契約を締結していただけませんでしょうか」


「代理人……」


「ええ、これだけの豊富な資源をお持ちの惑星に、まだ銀河商人たちが誰も来ていないとは。

 これはご主人さまにとっての非常に大きなチャンスなのです」


「はあ」


「ご主人さまは商人学校の卒業試験で探査に出かけられたのです。

 そこで不幸にも事故に遭われて、この惑星に不時着して救助をお待ちなのですが、もしもこのような豊かな惑星の方と専任代理人契約を結べて商取引が出来たとしたら…… 


 間違いなく優等の成績でご卒業出来ると思いますし、それはご主人さまもご両親さまもたいへんにお喜びになることでしょう」


「でしたら政府をご紹介しましょうか?」


「いえ、この星にはまだ統合政府が無いようです。

 ですからこの星の住民の方とでしたらどなたとでも代理人契約が結べます。

 どうやらあなた様の倫理水準はこの星の中でも群を抜いて高いようですので、あなた様とご契約を結ばせていただきたいと思います」


 これを聞いて厳上は微笑んだ。


「まあ、かまいませんけど……

 それにしてもそんなことがどうしてわかるんですか」


「はい。この次元の空間を飛び交っている電磁波を分析させていただきました。

 そこであなた方の言語を学び、ニュースというものを分析してこの星の倫理水準をチェックさせていただきました」


「ちょっとハズかしいなあ。そんなに倫理水準が高いとは思えないなあ」


「いえ、惑星全体の倫理水準は銀河連盟加盟基準を僅かながら上回っています。

 どうやらここ五公転ほどで急上昇したようでございますね。

 おめでとうございます」


「はぁ」


「商人用AIは特にそうしたチェック機能が重視されています。

 倫理水準の低い惑星とは取引が出来ないからです。


 たぶんそのせいでしょうね。

 今まで何人もの銀河商人たちがこの惑星を訪れていたのでしょうが、倫理水準が銀河商取引水準に届いていなかったせいで、諦めて引き返していたのでしょう」


「そ、そうなんですか」


「はい。ですがここ五公転ほどの期間でこの惑星居住者の方々の倫理水準が急上昇したために、銀河水準に達した模様でございます。

 遭難と言う不運の中でも我々は実に運が良かったのかもしれません」


「は、はぁ……」


「そして、その中でも特にあなた様の倫理水準は飛びぬけて高いのです。

 これほどまでのお方は故郷の星にも滅多にいらっしゃいません」


「あ、ありがとうございます」


 厳上はまた微笑んだ。

(よりによって三尊様をお選びになるとは…… 

 誠実さにかけては地球で最高の代理人かもしれないな……)



「いえ、これはあなた様の特質であります。

 それでは専任代理人契約をお願いできますでしょうか」


「は、はい」


(僕にできるかどうかわからないけど、まあ所長や豪一郎さんや瑞祥グループに手伝ってもらえればなんとかなるかもだからな。

 それにこのひとたち困っているみたいだしな)

 光輝はそう思った。


「ありがとうございます。

 残念ながら我々には交換に足る資源はほとんどありませんので、代わりにテクノロジーはいかがでしょうか」


「テクノロジー……」


「はい。テクノロジーです。

 銀河連盟に加入されていない星の方々に譲渡が許されたテクノロジーがいくつかございます。

 値段も決まっておりますので、それらテクノロジーの産物でお支払いをさせていただきたいのですが」


「か、かまいませんけど……」


「ありがとうございます。これで安心いたしました。

 それではしばらく準備のお時間を頂戴して、明日の朝にまたお邪魔してもよろしいでしょうか。

 ご主人さまにお会いして頂きたいと思います」


「えっ、ご主人さまに直接ですか……」


「はい。

 専任代理人契約は、ご主人さまとの面談と直接の承認が無ければ結べません」


「は、はあ…… あ、ところであなたのお名前はなんと仰るのですか?」


「私は商人用AI○○○○と申しますが……」


 光輝たちには○○○○の部分は聞きとれなかった。


「ご発音が困難でしたら、そうですね…… 

 ディラックとでもお呼びいただけますでしょうか」


「は、はいディラックさん」


「それでは今日は本当にありがとうございました。

 大変な借り越しを作ってしまいましたが、専任代理人契約締結後に頑張ってお返しさせていただきたいと思います」


「ま、まあそんなに無理しないでください」


 白い棒はまたふわふわと去って行こうとしたが、途中でつと方向を変えてお堂様の方に行く。

 そこでなにやら話し込んでいる様子だったが、そのうちにまた森の中に消えて行った。


(ディラックさんってお堂様とお話ができるのかな?)

 光輝は不思議に思った……




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 翌朝、日の出とともに光輝は目が覚めた。

 今日も素晴らしい天気になりそうだ。

 厳上はもう起き出していてテントの外でお湯を沸かしている。


「おはようございます」


「おはようございます。

 法印大和尚様も昨日はぐっすりとお休みの御様子でしたね」


「ええ、いつものようによく寝られました。

 この寝袋って実にいいものですね」


「拙僧も実に快適に寝させていただきました」


 そう言うと厳上はコーヒーの豆を挽き始めた。

 辺りに素晴らしい香りが立ち込める。

 光輝は淹れたてのコーヒーを受け取ると、まずはそれをお堂様のところに持って行った。


 光輝にはお堂様のお姿は見えないが、お堂からなにやら嬉しげな気配が立ちのぼるのがわかったような気がする。


(厳空さんにお願いして、お弟子さんたちにひと月に一回ぐらいは来て貰うようにしてもらおうかな。

 もちろん僕も一緒に来られるときは来よう……)

 

 それからテントのところに戻って光輝たちもコーヒーを飲んだ。

 実に素晴らしい味で、また眼下の景色も最高である。


 コーヒーの後は、朝食として登山用品売り場で勧められた、フリーズドライのチーズクリームリゾットというものを作って食べた。


(これ、けっこうおいしいなあ)


 その後はデザートのフルーツである。


 至福の時間が過ぎていった……






(つづく)


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