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【初代地球王】  作者: 池上雅
第四章 【成熟篇】
124/214

*** 17 転入生受け入れ式 ***


 八百人ほどの子供たちの目が輝き出し、皆毎日楽しそうに暮らし始めたのを見て自信を深めた龍一所長や幹部たちは、瑞巌寺学園の規模を拡大して行くことにした。


 まずは県内のすべての児童養護施設の管理者たちを瑞巌寺学園に招いての見学会である。


 施設管理者たちは県知事の強力な推薦のもと、県職員に連れられて続々と瑞巌寺学園に見学にやってきた。

 そうして、子供たちの部屋や大リビングルーム、自慢のダイニングルームやそこで供される豪勢な料理を見て衝撃を受けるのである。

 さらに食後には、子供たちはネイマールくんを筆頭に超有名プロスポーツ選手たちと入り乱れて、大リビングでスポーツ番組を観戦しているのだ。

 野球やサッカーの過去の録画番組では、ヒーローになった本人がその場にいて解説してくれたりするのである。



 だが、何よりも既存施設の管理者らを驚かせたのは、そこにいた子供たちの様子である。

 明らかに自分たちのところの子供たちとは違う。

 皆目がきらきらと輝いている。


 良心的な管理者たちは皆うなだれた。

 自分の城に閉じこもって、子供たちに命令出来ること自体を喜んでいた管理者はすぐにわかった。

 いちいち文句を言い出したからである。


 それもまるで言いがかりのような文句ばかりであった。

 きっと自分の楽しみが奪われそうになっているのがわかったのだろう。


 うなだれた管理者たちは皆、後に瑞巌寺学園の職員として再雇用された。

 文句ばかり言っていた管理者は、再就職先を紹介してやって、もう二度と子供たちの前には現れないようにした。


 彼らは、再就職先でもまだろくに仕事もできないくせに、やたらに若いものに命令したがったために、すぐに誰からも相手にされなくなったらしい。



 緊張しながら瑞巌寺学園にやってきた子供たちもすぐに新しい環境に慣れた。

 なにしろ密かに子供たち全員に上級霊が取り憑いていて、彼らを守ってくれているのである。

 今度も特に子供にやさしい上級霊たちに頼んである。


 おかげで、子供特有の勢力争いやケンカが始まると、その子たちはすぐに動きが鈍くなってしまってだんだん動けなくなってくるのだ。

 イジメなども起きようが無い。

 しかも二十四時間監視体制である。


 子供たちは皆最初は不思議がったが、どうやら龍一所長が「みんなお釈迦様の御光に見守られている」と言ったのを信じ始めているようだ。

 まあ、あながち間違いでもないだろう。


 それにここではうるさく命令する大人たちがいない。

 大リビングでいくらテレビを見ていても、誰も怒ったりしないのだ。

 こうして子供たちの目はすぐに輝き始めるのである。



 次は近県の施設である。

 総務大臣、つまり旧自治省を統括する後藤代議士の要請により、近県の県庁の担当者たちが大勢瑞巌寺学園に見学にやってきた。

 中には知事が来た県もある。

 まあ、みんな瑞巌寺の見学には来たかったのだろう。


 同時に多くの霊たちが全ての児童養護施設に派遣され、二十四時間体制でそこの施設の管理者たちの行動をチェックした。

 子供たちに命令ばかりして、命令すること自体を楽しんでいるような管理者たちは、やはり再雇用先を推薦して退任させることになっている。


 逆に心から子供たちのことを思い、命令などほとんどしない管理者たちには瑞祥学園の職員としての雇用を申し出た。



 決定打になったのは龍一所長の方針だったかもしれない。

 まあ、なにしろあのノーベル平和賞、国民栄誉賞、そして大勲位菊花賞受勲者である。


 真剣に聞く近県の担当官や知事たちを前にして、龍一所長は語った。


「え~、この瑞巌寺学園では、高校を卒業しても子供たちは出て行く必要はありません。

 大学進学のための資金もすべて奨学金を支給します。

 貸与じゃあなくって支給です。


 それに社会人になってからも出て行く必要はありません。

 子供たちのお兄さんお姉さんとして一緒に暮らして貰えるように、住宅を格安で貸与します。

 だってふつーの家では大きなお兄さんやお姉さんが一緒に暮らしてたりするでしょ」



 施設の子供たちが大学に進学することが難しい現状を嘆いていた県の職員たちは驚いた。

 しかもその県に対しては、子供たちの育英予算は今までと同じ額の支給でかまわないというのだ。

 差額はすべて瑞巌寺学園が負担するというのである。


 すべての県がこの新制度に同意した。

 瑞巌寺学園の子供たちは瞬く間に膨れ上がりそうだ。



 近隣の小中学校は慌てた。

 とてもそんな大勢の子どもたちを急に受け入れるキャパシティーは無い。

 これを予期していた龍一所長は、県庁を通じて文部科学省に対して新設校の設置許可申請書を提出していた。


 もちろんすぐに認可が下りている。

 なにしろ文部科学大臣はあの新田代議士なのである。


 龍一所長は瑞巌寺学園幹部たちの前で言った。


「えー、新しい小中高一貫教育瑞巌寺学園の小学校の校長先生は厳箭さんに、中学校の校長先生は厳勝さんにお願いしたいと思います。


 高校の校長先生は厳真さんにお願い致します。

 全体の理事長先生は厳空さんにお願い致します」


(不良中学生だったこのわしが理事長先生とは……)

 厳空はまたため息をついた。



 瑞巌寺学園小学校・中学校・高等学校は順調なスタートをきった。

 そのほとんどの児童生徒たちは、となりの児童養護施設瑞巌寺学園の子供たちである。

 その数も続々と増えていった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 今日は瑞巌寺学園中学・高校の転入生受け入れ式の日である。

 幸いにも天気は快晴だったので、広い校庭で転入式が行われた。


 今までほとんどが他の施設にいた転入生たちは、見た目にも緊張している。

 これから同級生たちとの勢力争いがあるだろう。

 上級生たちからの示威行動もあるだろう。

 周囲は在校生たちが取り囲んでいるのである。


 腕っ節に自慢の者たちも緊張していた。

 そういう勢力争いに参加することを諦めていた生徒たちも、どうせまたウルサイ先生が命令ばかりするのだろうとうんざりしていた。



 司会が言う。


「それでは瑞巌寺学園高校の厳真校長先生よりひとことご挨拶を頂きまーす」


 転入生たちはまた長い説教を聞かされるものとさらにうんざりした。


 校長の厳真権大僧正が壇上に上がった。

 今日は煌びやかな正式法衣姿である。


 在校生たちから歓声が上がる。

 それも冷やかしやからかいではなく、心からの歓声のようだ。

 どうやら校長は大した人気らしい。


 すると、校長先生は台の上に正座したではないか。

 そうして転入生たちに向かって、「高校の校長を務めさせていただいております厳真と申します。転入生の皆さまどうかよろしくお願い致します」と丁寧に言い、その場で平伏したのである。


 転入生たちはびっくりした。

 驚きのあまりついつられてお辞儀を返してしまった者も多い。

 厳真は平伏を終えると体を起こし、そのまま微笑んで台から降りた。


(……こ、これで挨拶は終わりか?)

(……ほ、本当に一言なのか?)

 また転入生たちは驚いた。



「次は在校生代表からひとこと歓迎のあいさつでーす」


 ものすごく大きな体をした高校三年生が壇上に上がった。

 顔も厳つく、今瑞巌寺での修行僧見習いとして研修中のためスキンヘッドである。


 実は下級生にも慕われていて、そのせいで最近生徒会長になったやさしい生徒である。

 だが転入生たちにはそんなことはわからない。

 転入生たちは身構えた。


「転入生の諸君っ! ようこそ瑞巌寺学園へっ! みんな楽しくやろうぜっ!」


 そう言ってガッツポーズを取ると、その三年生も台から降りた。


「ひとことじゃあなくって三ことだったぞーっ!」


 とかいうヤジとともに、また在校生たちから大歓声が上がった。

 なんだかやたらにノリがいい。

 またもや転入生たちはびっくりした。


 また司会の声が言う。


「それではこれをもちまして転入式を終了させていただきまーす」


(……こ、これで終わりなのか?……)

 またも転入生たちが驚いている。


「引き続きまして、これより転入生歓迎会を開催いたしまーす」


 また在校生たちから大歓声が上がる。

 さっきまでの歓声よりも大分大きい。

 どうやら相当に楽しみにしていたらしい。


 また転入生たちはとまどった……







(つづく)


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