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【初代地球王】  作者: 池上雅
第四章 【成熟篇】
123/214

*** 16 うぷぷぷぷぷ ***


 今日は瑞巌寺の僧侶さんたちが来てくれて、瑞巌寺学園の子供たちにパフォーマンスを見せてくれる日である。

 実は密かに将来の修行僧や弟子たち募集の目論見もあり、皆真剣に準備していた。


「さあ、今日はみんなに瑞巌寺の僧侶さんたちがその修行の成果を見せてくれるよー」


 司会は今日も龍一所長だ。

 だんだんこういうことが上手になって来ている。


 子供たちから歓声が上がった。

 もちろんプロスポーツ選手たちも大勢見に来ている。


「さあ、最初は若い修行僧さんたちのワザからだね」


 上半身裸になった若い僧侶がひとり出てきた。

 その体はプロ選手たちと遜色ない程鍛え上げられている。

 顔つきも整っていて、高校生の女の子たちはちょっと頬を赤らめている。


 その僧侶はおもむろに国旗掲揚用のポールに近づいて行った。

 体を横にして開いた両手でポールにつかまる。

 そうしてなんと、足を地面から離してポールに垂直にとまったのだ。

 素晴らしい腹筋と腹斜筋が盛り上がっている。


 昔某スポーツ飲料のCMで見たことのある演技だったが、子供たちは誰もそんなものは見ていない。

 もちろん海外から来た選手たちも見ていない。


 その両手でポールに対して直角につかまった僧侶は、体の反動を利用してそのまま手だけでポールを昇り始めた。

 まるで国旗掲揚だ。


 子供たちから大歓声が上がった。

 プロ選手たちもびっくりしている。

 そうしてまたするするとポールを降りて来た僧侶は、子供たちの前に立つと大歓声に迎えられた。

 最近だいぶ増えて、そろそろ八百人に達しようかという子供たちがみな喜んでいる。



 次は二人の僧侶が出てきた。

 一人が逆立ちをして、もう一人が立ったままその僧侶の腰のあたりを掴む。

 そうして二人はそのまま側転を始めたのである。


 上下逆さまに組んだ二人はそのまま回転して進んで行った。

 その進行方向には大きなマットを持った別の僧侶たちが待ち構えている。

 二人は回転したままマットに激突した。

 どうやら止まれないようだ。


 またも子供たちから大歓声が上がる。

 プロ選手たちも大喜びで手を叩いている。



 今度は十人の僧侶たちが出てきた。いずれも逞しい体つきだ。

 まずは四人が横にくっついて四つん這いになる。

 その上に三人が乗って四つん這いになる。

 その上に二人が乗り、さらに一番上に小柄だが敏捷そうな僧侶が乗った。

 まあ、どこにでもある人間ピラミッドである。


 ところが……

 今度は長いロープを持った二人の僧侶が出てきた。

「行くぞーっ!」という掛け声とともに、十人のピラミッドが「応っ!」と答える。


 そうしてなんとピラミッドの形のままで縄跳びが始まったのである。

 十人の人間ピラミッドがその形を保ったまま縄跳びをしているのだ。

 一番下の四人の身体能力は大変なものである。


 子供たちも選手たちも、あっけにとられてその妙技を見ていた。

 最後には一番上にいる僧侶が片ひざ立ちになり、両手を上げてポーズまで取っていた。


 演技が終わると子供たちから大歓声が上がる。

 みんな人間がそんなことが出来るとは思ってもいなかったようだ。

 プロ選手たちも子供のように手を叩いていた。



「それでは次は権大僧正様たちによる立ち合いでーす」


 厳真と厳勝が静かに出てきた。

 長身ですらりとした厳真に対し、大きな体つきの厳勝である。

 まさに柔と豪との対戦のようだ。


 厳真と厳勝は、静寂の中正対して正座するとお互いに平伏した。

 二人とも実に平静な姿である。


 立ち合いが始まった。

 途端に厳勝の大きな気合の声が迸る。

 子供たちは皆硬直した。

 選手たちにもその激しい気合は十分に伝わった。


 厳勝がその恐ろしい拳や蹴り技を次々に繰り出す。

 厳真が優雅な動きでそれらを次々にかわす。


 まさに舞を見ているかのような動きだった。

 まるで格ゲーのような動きである。


 ときおり厳勝の必殺の拳が厳真に当たる。

 そのたびにどごんと恐ろしい音がする。


 だが厳真も瞬時に体をかわして急所には当てられていない。

 盛り上がった筋肉に当てて弾いているだけである。

 その華麗な動きもまったく変わらない。


 とうとう厳勝が必殺の連続回転蹴りを放った。

 子供たちが息を呑む。選手たちも息を呑む。


 その蹴りを空中に逃れた厳真が、空中で厳勝の腕を捉えたらしい。

 地面に降り立ちざまに今度は厳勝が投げられて空に飛んだ。


 だが厳真はまだその腕を離していない。

 そのまま地面に叩きつけられた厳勝の胸に、厳真の必殺の正拳突きが気合とともに繰り出される。

 だがその拳は厳勝の胸に当たる寸前で止められた。


「ま、まいった……」


 二人はまた正対して平伏し、体を起こすとにっこりと微笑みあった。


 我に返った子供たちから盛大な拍手が起こる。

 選手たちも我に返って子供たちよりも盛大な拍手を送った。

 皆これほどまでの達人たちの立ち合いは見たこともなかったのである。


「すっごいワザでしたねえー。

 みんなも修行したらあんなふうになれるかもよー」


 司会の龍一所長がそう言うと、子供たちの目が輝いた。



「それでは最後に、瑞巌寺の僧侶さんたちの頭領である厳空さんに、模範演技を見せていただきましょー」


 龍一所長がにこにこしながらそう言うと、厳空の体が硬直した。

 明らかに予定外のことらしかった。


 だがすぐに大勢の僧侶たちが重そうな瓦を持って来て、十二枚もの瓦を厳空の前に積み重ねる。


「ふつーはこういう瓦割りってね。

 瓦と瓦の間に隙間があって、一番上の瓦をなんとか割ると、その瓦が落ちた勢いで下の瓦が次々と割れて行くものなんだって。

 でもよく見てね。この瓦の間には隙間が無いでしょー。

 だから本当に全部割らないとならないんだよお。

 みんな瓦を触って確かめてごらーん」


 子供たちは恐る恐る瓦を触った。

 昔少し武道の心得のあったプロ選手たちも瓦を触った。

 その瓦は重く硬く、たとえ達人でも一、二枚しか割れそうにないものだった。


 龍一所長がまた明るい声で言う。


「それじゃあ厳空さん、よろしくお願いしまーす」



 厳空は真剣な面持ちである。

 言われた通りその瓦をすべて割るのは至難の業だということはよくわかった。

 達人であればあるほどそういうことが事前にわかるものである。


(せいぜい上六枚だな……)

 厳空はそう思った。


 だが逃げるわけにはいかない。

 その瓦をすべて割るのは不可能だが、たとえ拳が潰れても腕が折れても子供たちを失望させるわけにはいかないではないか。


(まあ、腕がぐしゃぐしゃになってもまた三尊殿が治して下さるだろう…… 

 せいぜい痛いのを我慢すればいいだけの話だ……)

 そう思った厳空は静かに覚悟を決めた。


 瓦の前に仁王立ちになったその立ち姿から、強烈なオーラが立ちのぼり始めた。

 プロ選手たちの多くにはそのオーラが見えたはずである。


 覚悟を決めて拳を固めた厳空の口から必殺の気合が放たれた。


「喝ぁぁぁぁーーーっ!」


 そうして、振りあげた拳を十二枚もの瓦に叩き下ろそうとした瞬間、それは起こったのである。


 なんと厳空の必殺の気合とともに、手も触れていないのに瓦がぴしぴしと割れ始めたのだ。


 それは上の瓦から下の瓦に徐々に広がって行った。

 そうして皆の見守る前で、すべての瓦が真っ二つになったのである……


 その場の全員がフリーズした。


 厳空だけは何故か上空を見上げて嘆息している。

 もちろん厳空担当の超上級守護霊、厳春のポルターガイストの力のおかげであることがわかっていたのだ。


(……厳春様と皆のいたずらか……)


 我に返った子供たちのあちこちから、「カ○ハメ波だ……」「カ○ハメ波だ……」という驚嘆の呟きが聞こえ始めた。


 海外から来たアスリートたちも皆カ○ハメ波のことは知っていた。

 なにしろ日本のアニメは今や世界中を席巻しているのである。

 聖KOUKI様の周りにはサ○ヤ人までいたのかと皆驚愕している。



「それじゃあ最後に、もっと派手なカ○ハメ波を見せてもらおうかー」


 龍一所長がそう言うと、また大勢の僧侶たちがブロックを持ってきた。

 そうしてそのブロックを子供たちから離れたところに積み重ねて行ったのである。


 見る間にブロックの壁が出来てゆく。

 それも何重にも重なった、まるで四角い箱のような壁だった。


(仕方あるまい…… こうなったら最後まで茶番に付き合うか……)


 そう嘆息した厳空が、ブロックの壁の前で必殺の正拳突きの構えを取る。

 そうしてその拳を壮烈な気合とともに突き出すと……


 そのブロックの塊全てが、轟音とともに粉々になって砕け散ったのであった……





 その日の夕方、誰もいなくなった広場で座禅を組んだ厳空の姿があった。

 そのすぐ上方には老僧の霊の姿も見える。


「厳春様。今日は皆と一緒に拙僧に茶番を仕掛けられたのですね」


「茶番ではないぞえ。皆あのように喜んでいたではないか。ほっほっほ」


「それにしても…… あれではまるで詐欺ではないですか」


「いやいや決してそのようなことはない。

 わしはなんとあの厳隆大上人様から、お主に万が一のことが無いよう守護霊となることを直々に申しつかったのである」


「それがなんのご関係が……」


「あのときお主は、拳が砕けようと腕が折れようと、全力を尽くす覚悟を決めておったであろうに」


「はい……」


「そんなことになってみぃ。

 お主のケガを防げなかったと、わしが厳隆大上人様に怒られてしまうではないか」


「そ、それとこれとは……」


「それから考えてもみよ。

 お主の守護霊になって常にお主を守れとあの厳隆大上人様が仰ったのであるぞ。

 そんなことは光輝宗八百年の歴史の中でも初めてのことなのじゃ……

 それこそそれはお主の手柄そのものじゃろうに。

 じゃからわしがお主の代わりに瓦やあの石の塊を砕いてやったのも、お主の手柄なのじゃ」


「そ、そのようなことを仰られても……」


「それにしても、あのときの皆の顔と言ったら…… うぷぷぷぷぷぷ……

 練習した甲斐があったというものじゃあ…… 

 またいつかやろうなぁ厳空よ♪」


 厳空はまた天を仰いで嘆息した……







(つづく)


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