表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初代地球王】  作者: 池上雅
第四章 【成熟篇】
122/214

*** 15 今度こそ本当に納得 ***


 あるとき、ネイマールくんが全員を代表して龍一所長にお願いを言いに来た。


 どうやらネイマールくんは、瑞巌寺学園に来ている百人近いプロ選手たちのまとめ役になってくれているようである。


「龍一所長様。本日は皆を代表してお願いに上がりました……」


 見事な所作で平伏しながらネイマールくんが言う。

 龍一所長はちょっと苦笑しながらネイマールくんに楽にしてくれと言った。


 ネイマールくんは続ける。


「日本の方々から聞いたのですが、いつも聖KOUKI様の周りにいらっしゃる仏教の僧侶の方々は、毎朝瑞巌寺で聖KOUKI様を囲んでZAZENという修行を為されていらっしゃるとのこと。


 我々にも是非それを見学させていただけないものでしょうか。

 そうしてもしお許しを頂けるなら、我々もそれに参加させていただけないものでしょうか」


 龍一所長はその場で厳空権大僧正に連絡を取って了承を貰った。


「それでは明日の朝皆さんと瑞巌寺に参りましょう」




 翌日の朝、早めの朝食を取ると、一行はバスに分乗して瑞巌寺に向かった。

 最初は座禅場での座禅の見学である。


 超一流のプロ選手たちは、まず広大な座禅場を埋め尽くす千人の僧侶たちの姿に驚かされた。


 その僧侶たちは、すべてあの聖KOUKI様の方を向いて静かに足を組んで座っている。

 よく見れば聖KOUKI様の傍らには、五歳ぐらいの女の子もやはり修行着姿で座っている。


 まもなく彼ら一行が見守る中で座禅が始まった。

 すぐに聖KOUKI様から巨大な光が発せられる。

 厳真が気を入れてその御光を皆に見せてあげているのだ。

 彼らスポーツ選手たちも皆毎晩見ている光だったが、今日は一層大きく輝いて見える。

 多くの敬虔なキリスト教徒たちは跪いた。



 すると…… 座禅場の周りの森から続々と野鳥が飛んでくるではないか。

 そうして聖KOUKI様の傍らで同じく座禅を組んでいる少女の肩にとまったり、その周囲に集まったりしているではないか。


 何百匹ものリスたちも走って集まって来る。

 それに続いて数十頭ものシカまで集まって来る。

 キツネもタヌキもいたが、彼らも大人しく座っていてリスや野鳥には目もくれない。


 それら膨大な数の野生の動物たちは、皆静かに少女を取り囲んでその前に大人しく佇んだのだ。


「ホーリー…… ゴッド……」


 そうした呟きがまた選手たちの口から続々と漏れた。

 皆あまりのことに完全に硬直している。


 よく見ればその少女の後上方には三つの小さな光も見えている。

 またもや奇跡を目の当たりにした選手たちは、そのまま僧侶たちと同様に動きもせずに固まっていた……



「あ、あの少女は誰なのですか?」


 座禅が終わった後に、ようやく口を開いたネイマールくんが一同を代表して聞いた。

 動物たちは座禅が終わると静かに森に帰って行っている。


「あの子は三尊君の娘さんなんです。ひかりちゃんって言います。

 日本語でLIGHTっていう意味なんですよ」


 龍一所長がそう言い、通訳がそれぞれの言語に通訳すると、皆いっせいにため息をついた。

 震えている者も多い。


 そのひかりちゃんが聖KOUKI様に連れられて皆の方に近づいてきた。

 にこにこと微笑みながら可愛らしい口調で、「みなしゃん初めまして。ひかりでしゅ」と挨拶をする。


 大きな体をした百人近くもの選手たちが、全員いっせいに跪いて口々に母国語で挨拶を返した。


「それでは皆さん、光輝君と一緒に瑞巌寺学園に戻りましょうか。

 それからまた治療施設で三尊君の御光を浴びて頂きましょう」 


 龍一所長がそう言うと、選手たちは皆静かにバスに向かって歩き始めた。

 いつもは賑やかな集団だったが、今は奇跡を見た後だからか妙に神妙で静かである。


 そうした彼らは、バスに戻るとまた驚愕した。

 一緒に治療施設に行く光輝の専用車の周りを、自衛隊の装甲車両が取り囲んでいたのである。

 全部で十二台もの装甲車両がいた。

 周囲にはきびきびと敬礼する迷彩服姿の自衛隊員も大勢いる。


「こ、このアーミーは……」


「全部三尊君の護衛のためのひとたちです」 


「な、なにか危険情報でもあったんですか?」


「いえいえ、これはいつもの護衛体制です。

 もしも危険情報なんかあったら、この百倍の数の護衛車両が出て、上空には戦闘機と戦闘ヘリも飛んじゃいますよ。

 あ、ついでに地上監視衛星もフル稼働してくれるかな」


 選手たちは皆また硬直した。


「あ、お気づきではなかったかもしれませんけど、あの瑞巌寺学園やその隣の瑞巌寺治療施設も同じように警護されているんですよ。

 いつも皆さん頑張ってくださっています。

 実は近所に地対空ミサイルの配備された基地まであるんですよ」



 これにはさすがに選手たちも驚いたようだ。

 いつもVIP扱いには慣れている選手たちだったが、流石にアーミーに護衛された経験は無かったのである。

 せいぜいボディガードぐらいだった。


 それが監視衛星や地対空ミサイル部隊とは……


 その日から選手たちの光輝に対する態度がさらに恭しくなった。

 翌日から全員が瑞巌寺での座禅に参加した。



 そうしてとうとうある日の夕方、治療施設での仕事を終えた崇龍さんがやってきたのである。


 超有名プロスポーツ選手たちは、崇龍さんの巨体を見て完全に固まった。

 特にNBAの選手たちは気絶しそうなほど驚いている。

 後で瑞巌寺学園の職員たちに、あのお方はバスケットボールをするのかと聞いていた。


 もしもライバルチームにでも加入されたら到底太刀打ち出来ないと不安になったのであろう。

 なにしろ座ったままダンクシュートが出来そうなのだ。

 そのボールですらこのお方の前では野球のボールのようだ。


 職員たちが笑いながら、あのお方は霊なのでボールには触れられないのですよと説明すると、NBAのスーパースターたちはほっとしていた。


 そうして皆、崇龍さんと親しげに談笑する光輝や龍一所長を見て、改めてここ瑞巌寺の恐ろしいまでの力を感じ取ったのである。


 龍一所長は、調子に乗って崇龍さんに頼んで外の庭で本来の大きさになってもらった。

 夕闇の濃くなる中、三十メートルの大きさになってくれた崇龍さんは笑っている。


 MLBのピッチャーたちは、このお方が味方チームで外野を守ってくれたら自分の被本塁打がゼロになると思ったがなにも言わなかった……


 ネイマールくんやスアレスくんは、このお方が味方チームのゴールキーパーになってくれたら、絶対にチャンピオンズリーグやワールドカップで優勝できると思ったが、これもなにも言わなかった……



 世界の超一流アスリートたちは、皆腰を抜かしながら今度こそ本当に納得したのである。


 法王様の指輪を嵌め、アーミーや地対空ミサイルに守られ、自分たちのケガを奇跡の光で治してしまう聖KOUKI。

 その娘で野生動物を自在に集める少女。

 そして怪獣のような友人。


 彼らは自分たちのケガがみるみる治ってしまうのも当然のことのように思えたのである。



 ケガが完治して自国に戻る選手たちは皆光輝たちの前にひれ伏して泣いた。

 そうして自国に帰ってからも、驚く友人の選手たちにその奇跡の体験を語ったのである。


 もちろん治療費も滞在費も無料だが、たったひとつ、瑞巌寺が営んでいる児童養護施設の子供たちと一緒に食事をして楽しく遊んであげることのみが義務であるとも伝えた。


 こうして瑞巌寺は世界中のアスリートたちの聖地となったのである。



 その後、大リビングのTVでは子供たちにスポーツ番組が大流行する。


 なにしろどんなスポーツの試合を見ても、同じテーブルについて一緒に食事をした選手たちがやたらに出場しているのである。


 僕たちが私たちが肩車してもらったり一緒にゲームをしてもらったりした選手が、画面では大活躍しているのだ。

 応援に力が入らないわけはない。



 そうして…… 

 知り合いの選手たちを応援する子供たちの顔も、更にどんどんと明るい表情に変わっていったのである……







(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ