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【初代地球王】  作者: 池上雅
第三章 【飛躍篇】
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*** 26 始祖厳隆上人と大天使ガブリエル ***


 法王猊下が席に戻られると、その後は崇龍上人の紹介である。


 後方の人の中から上級退魔衆のひとりがそっと抜け出して、カメラクルーのところに行った。

 彼らがカメラに触れていないと崇龍さんや霊たちがカメラに映らないからである。


 猊下や天皇皇后両陛下、および首相やその随員に対して、龍一所長が言う。


「これより崇龍上人を御紹介させていただきます。

 上人様は大きいので驚かれない様お心のご準備をお願い申し上げます」



 厳勝が座禅を組むと、一同から十メートルほど離れたところに崇龍さんの巨体が出現した。

 初めて崇龍さんを見た首相やその随員から「おお」という驚きの声が漏れる。

 法王猊下は以前にも崇龍さんに会っているのでにこにこされていた。


 そのとき皇后陛下が「まあ!」とお言葉を発せられたので、皆が慌てて皇后さまを振り返った。

 もしや驚きのあまり御気分でも…… と皆心配したのだ。


 皇后さまは仰られた。


「あ、ああ、すみません…… 

 とうとう崇龍上人様にお会いできてあまりにも嬉しくてつい……」


 どうやら皇后さまは相当な崇龍さんのファンであらせられるようだ。

 その瞳がきらきらと輝いている。


 龍一所長が皇后さまに申し上げた。


「よろしければお近くまで参上していただきましょうか?」


「いいえ、それにはおよびません。皆さまにお許しを頂戴してわたくしが……」


 皇后さまは嬉しそうに立ちあがられると崇龍上人に近づいていかれた。


「まあまあ、大きいおからだでいらっしゃいますこと。

 わたくし崇龍上人様にお会いさせて頂くのが楽しみで楽しみで。

 わたくしの孫たちが崇龍様のお人形をプレゼントしてくれたほどですの。

 今わたくしのお部屋に飾ってありますの」


「皇后さま。もしお許しをいただけるのなら、わたくしの本来の姿をお見せ申しあげてもよろしゅうございますでしょうか」


 崇龍さんは実に嬉しそうだ。


「まあまあ、ぜひにも……」


 皇后さまはもっと嬉しそうだ。

 天皇陛下は少し苦笑されていた。きっといつも聞かされていたのだろう。


「それでは皆様にも失礼いたしまする。

 この崇龍の本来の姿をお見せさせていただきまする」


 崇龍さんはそう言うと、正座してこちらを向いた姿勢のままつつっと後方に下がった。

 そうして立ち上がるとゆっくりと高さ三十メートルの本来の姿になっていった。

 やはりいつもの怪獣映画のような光景だ。


「まあ! まあ!」


 皇后さまは両の手のひらを合わせて少女のように喜ばれている。

 対照的に首相とその随員たちは仰け反っている。


 後ろに控えていたSPたちは、足を一歩前に踏み出したものの必死で堪えている。

 離れたところにいた機動隊員たちは、足を二歩踏み出したがかろうじて隊長が止めた。

 さらに調子に乗った崇龍さんはぷかぷかと宙に浮き始めた。


 龍一所長が言う。


「それでは皆様を歓迎させて頂くために集まった、霊たちの姿もお見せさせていただきたいと思います。

 霊たちは浮かんでおりますので高いところから失礼をばいたします」


 そして所長が合図すると、周囲の空にゆっくりと霊たちの姿が浮かび上がった。

 その数三十万人に達する膨大な数の霊たちである。


 首相たちはさらに仰け反った。

 SPたちの額には汗が浮かび始めている。


「この霊たちこそが、我が国の警察に協力してくれて、多くの事件を解決してくれた恩人であります。

 全員皆さまにお会い出来るのを楽しみにしておりました」


 法王猊下が立ち上がって、周囲を見渡しながら長いこと拍手をしてくださった。

 さすがに法王様はバチカンでも大勢の霊たちを見て慣れている。


 天皇陛下もお立ちになって、やはりにこやかに長いこと拍手をされたり周囲に向かってお辞儀をされたりしてくださった。

 首相たちも我に返っておなじく盛大に拍手をしたりお辞儀をした。


 霊たちはそれに応えていっせいにお辞儀を返している。

 彼らもけっこう感動の面持ちである。


 崇龍さんはまたゆっくりと元の大きさに戻って皆の近くに帰ってきた。

 それとともに霊たちの姿もゆっくりと消えていく。


 また龍一所長が言った。


「さて、それでは皆さまに、瑞巌寺名物瑞祥椀をお召し上がりいただきたいと思います」


 これは実は法王猊下からの強いリクエストだった。

 マリアーノ君の報告書で何度も瑞祥椀について聞かされていたのである。


 すぐに清二板長の弟子たちが、出来て五分の最高の瑞祥椀を捧げて現れた。

 もちろん直接汲んで来たあの清水を使った最高の瑞祥椀である。

 最高の椀物は、熱湯では作られないのですぐに味わうことが出来る。


 ひと口召しあがった法王猊下が「おお!」と声を出された。

 天皇陛下も「これは……」とお声を発せられ、皇后さまも「まあ!」とまた仰られた。

 首相たちも驚きの声を発しながら椀を味わう。


 皆、ときおり天を仰いで嘆息した。


「う、旨い……」


 極上の料理に慣れているVIPたちもその味には感動している。


 法王猊下が仰った。


「料理長さまはいらっしゃいますか?」


 真っ白な板前服を着た清二板長が前に出て来て正座した。


「すばらしいお椀を真にありがとうございました。

 わたくしの留学生たちは、毎日このように美味しいものを頂戴していたのですね……」


 法王猊下はそう羨ましげに仰ったあと続けられる。


「料理長さま。ぜひバチカンにもお店を出していただけませんでしょうか」


 清二板長が意表を突かれてうっと言った。


「ローマ法王庁が全面的にバックアップさせていただきますぞ」


 清二板長はなんと答えていいかわからず狼狽している。

 みんなこんな板長を見るのは初めてだ。


 龍一所長の目に、ミハイル司教がちらりとマリアーノ司教に目をやって、少し悔しそうな顔をしたのが目に入った。

 マリアーノ司教は得意げな顔をしている。


 法王猊下は、「それでは是非ご検討くださいませ」と仰ってその場を収められた。



 その後も歓談は続いたが、崇龍さんと光輝の交代の時間となり、崇龍さんは一同にお詫びをして病院に向かう。

 皇后さまは少し残念そうなお顔をされていた。


 光輝は修行衣のまますぐにやってきて法王様に挨拶し、暖かい抱擁を受けた。

 続いて天皇皇后両陛下に挨拶し、また暖かいお言葉を頂戴した。


 その後は光輝の座禅のパフォーマンスである。

 また上級退魔衆が光輝の斜め後方で座禅を組んで、一同に光輝の御光を見せる準備をした。


 光輝がその場で座禅を組むと、いつもの通り強烈な光が満ち溢れ、その中央にお釈迦様のお姿が浮かび上がる。


 また皇后さまが「まあ!」と仰ってくださり、一同も感動の面持ちでその光を見つめた。



 この御光こそが、現在全世界二千五百万人もの命を救っている奇跡の御光なのである。

 しかもガン患者以外にも若干の治癒効果のあるありがたい御光なのである。

 一同はしばらく言葉も無くその御光を浴びていた。


 五分ほどで厳空が光輝の肩にそっと手を置く。

 最近の光輝は、座禅を組んだ途端に途方も無い集中力で忘我の境地に入ってしまい、放っておけば十時間でも二十時間でもそのままになってしまうため、こうやって誰かが座禅の終了を知らせてやる必要があった。


 光輝の座禅が終わるとその場の全員がぱちぱちと拍手をする。

 この青年の御光こそが現在の日本の景気回復の中心であり、日本が世界中から感謝されている理由なのだと思った首相はひときわ大きく拍手をした。



 そのとき……

 突如瑞巌寺上空を薄紅色の霧が覆った。

 そうして、皆が驚いて上空を見上げる中、霧の中に二つの大きな穴が空き、その中から強烈な二条の光が地上に差しこんで来たのである。


 そして、一同が硬直して見守る中を、二つの大きな人影が降りて来たのだ。

 地上近くに降りた人影の内の一つは、光輝宗の始祖厳隆上人である。

 その後ろには厳空大僧正の姿も見えた。


 そしてもう一方は、なんとあのシスティーナ礼拝堂に降臨された大天使ガブリエルのお姿だったのである。

 両者ともほぼ五メートル程の巨大なお姿であった。


 瑞巌寺の僧侶たちがわななきながら平伏した。

 法王猊下と枢機卿も、震えながらその場に跪いて手を組み、頭を垂れる。



 厳隆もガブリエルも、その場の一同を微笑みながら見渡し、まずは厳隆が口を開いた。


「拙僧は厳隆と申しまする。

 ご歓談中に誠に失礼ながら、本日はお釈迦様の名代としてお言葉を預かって参り申した」


 僧侶たちがいっそう平らかになる。


 大天使ガブリエルも言葉を発した。


「皆さま初めまして。天使ガブリエルと申します。

 本日は主イエス・キリストより、皆さまにご伝言を預かって参りました」


 法王猊下と枢機卿はわななきながらさらに頭を下げた。


 大天使ガブリエルが、横にいる厳隆上人の方を向いて、どうぞお先にというように微笑んだ。

 厳隆上人は微笑みながら頭を下げてお言葉を発せられた。


「法王猊下、枢機卿猊下。

 お釈迦様よりのご伝言を申し上げさせていただきまする。

 このたびは我ら仏門の徒を厚くお助けくださいまして、誠にありがとうございまする。

 おかげでこの瑞巌寺を始めとする僧侶たちが、立派にその仕事を果たすことが出来申した。

 深く御礼申し上げまする。


 また日本国の皆さまにおかれましても、大変にお世話になり申した。

 併せて深く御礼申し上げまする」


 厳隆上人はそう言うと深く深く頭を下げられた。

 瑞巌寺の僧侶たちも法王猊下に向き直り、さらにさらに平らかに平伏する。

 通訳の言葉を聞いた法王猊下と枢機卿猊下も、深く頭を下げられた。



 続いて大天使ガブリエルがお言葉を発せられた。


「瑞祥研究所の皆さま、瑞巌寺の僧侶の皆さま。

 主イエス・キリストよりの伝言をお伝えさせて頂きます。


 私どもの教会に多大なるご助力を頂戴いたしまして、誠にありがとうございました。

 おかげさまをもちまして、あれほど多くの人々を救うことが出来ました。


 加えて、世界に大いなる平和をもたらせ始められたことに対しても、厚く御礼申し上げます。

 また日本の皆さまにおかれましても、大いなる御助力に対しまして厚く御礼申し上げます」


 そう言うと、大天使ガブリエルも跪いて頭を下げた。

 僧侶たちも法王猊下も枢機卿猊下も、まだ震えながら頭を下げている。


 光輝たちはただただ硬直しているのみだったが、そのうちに我に返ってその場で低く平伏した。

 首相たち一行も固まったまま平伏している。



 天皇陛下が満面の笑みを浮かべてお言葉を発せられた。


「皆さまにお会いできて、こんなにうれしいことはございません。

 これからもどうぞよろしくお願い致します」


 天皇皇后両陛下も深々と頭をお下げになられた……







(つづく)


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