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第04話 「金貨と砂金を日本円にかえる」

 三度もやれば、要領はわかっていた。

 俺はそう苦労もなく、現代日本へと戻った。

 “戻った”――というと、なにか違和感があった。どちらかというと、向こうの世界に行くときのほうが俺の中では“戻る”という感覚になりつつある。

 向こうではまだ夕方だったのに、こちらではすっかり暗くなっていた。

 ああ異世界なのだなぁ、と思った。


 俺はポケットに手を入れた。金貨が4枚。それと革袋にぎっしり詰まった重たい砂金。

 これは実物だった。幻ではなかった。

 異世界は本当に存在したのだ。そして俺は行き来してきた。


 とりあえず今夜は部屋に戻るか。眠る場所が必要だ。

 明日は忙しくなりそうだった。


    ◇


 翌朝。

 いつもと同じ時間に目が覚めた。

 笑ってしまった。もう“辞めた”のに。目覚まし時計もセットしていなかったのに、目が覚めた時間は習慣的に同じだった。

 枕元にあった目覚まし時計を、とりあえずゴミ箱に放りこんで――。

 俺は金貨と砂金の袋を手に、部屋を出た。


 向かった先は近所にあった大きな金券ショップだった。

 看板にデカデカと「貴金属、金、銀、買い取り」と書いてあったのを覚えていたからだ。

 しかし古銭は取り扱っていないだの。刻印がないと買い取れないだの。純度の証明が必要だの。

 あげくの果てには、警察に通報されそうになったので、とっとと引き上げてきた。

 何件かその手の店を回って全滅で、最後に訪ねたのは、何十年も前からやっていそうな、いまにも潰れてしまいそうな、古い古い店だった。いわゆる「質屋」というやつだ。

 年代物のブラウン管のテレビでじいさんは、目にルーペをはめて、金貨をじっくりと眺めた。


「この金貨はどこの古銭かは判らんね。地金で売るより、その手の専門店に持っていったほうが高く売れるかもしれんなぁ。砂金は買うよ。ただしグラム2000だ」

「1グラム2000円ってこと?」

「そ」

 じいさんは素っ気なく言う。

「これって何グラムぐらい?」

「1キロはあるね」

「1キロって、つまり、1000グラム?」

「そ」

 じいさんはまた素っ気なく言う。

「えーと……」

 俺は計算をした。2000の1000倍は……。えーと……。


「200万」

 じいさんが素っ気なく言う。

「えええええ――っ!?」

 俺は驚いた。びっくり仰天した。

「文句があるなら、よそに持っていきな。うちはその値段でしか買わんぞ」

「いやいやいやいや! 文句じゃなくて!」

 俺は首をぶんぶんと振りたくった。

「そんなに貰っていいのかと」

「これでもうちはかなりボッてるほうだ」

「そ、そうなんですか」

 てゆうか。言うんだ。それ。言っちゃうんだ。

 その一言のおかげで、俺はこのじいさんを信頼することにした。本当にぼったくるつもりの人間は、そんなことを言うはずがない。


「買ってください」


「おい」

 じいさんは後ろに向かって声を投げた。

「はい」

 家の奥のほうに、高校生ぐらいの女の子がいた。その子が返事を返す。

「金。金庫から出してやれ。200万な」

「はい」

 これまた年代物の金庫の扉が、重々しく開く。

 とん、とん、と、百万ずつの束が、二つ置かれた。

 うっわー。うっわー。うっわー。

「お金持ちですねー」

 じいさんの孫娘だろうか。女子高生が、にこっと可愛く笑いかけてくれた。


    ◇


 200万を手にした俺が、まずやったことは、登山グッズの専門店に行き、大きなバックパックを買いこむことだった。

 向こうの世界に持ちこめる物は、自分で持ち運べるものに限られる。

 手提げ袋では20キロが限度だ。登山用の大きな背負い袋なら、自分の体重ぐらいは運べるようになる。


 次に俺のやったことは、向こうに持ちこむ品物を吟味することだった。

 当面。予算のことは気にしないで済む。

 200万円もあれば、相当な物を買いこむことができる。なにも高価な物である必要はない。そもそもバックパックに入りきる程度の物しか向こうには持って行けないわけで――。

 こちらの世界ではありふれていて、向こうの世界ではありがたがられる物――。そうしたものを探せばいいのだ。

 あちらの世界の人に喜んでもらおう。俺はそのことしか頭になかった。


 昨日、塩を買ったスーパーに行った。

 店でいちばんデカいカートを押して歩きながら、店内をあちこち回った。

 目についたものは、かたっぱしからカートに放りこんだ。

 食料品。日用品。雑貨。最初のうちは「これは向こうでありがたがられるだろうか」といちいち考えていたが、そのうち、深く考えるのはやめた。

 ただし、たとえばトイレットペーパーの塊だとか。そういった、かさばるものは選ばない。

 そこそこカートがいっぱいになったところで、バックパックの収納量をきちんと計っておけばよかったと後悔する。これぜんぶ入りきるだろうか?

 まあ、だいたいこんなものかと見切りを付けて、レジに向かった。


「ああ。そうだ」

 最後に思い付いて、マジックと宛名シールをカートに放りこんでおいた。

 商品に値段を書いておかかないとならないだろう。

 マジックについては、ふと思いついたので、ごっそりと、あるだけ取っておいた。

 この手のものを買うなら百円ショップが安いのだが、べつに営利目的でやっているわけでなし。値段にはあまりこだわらない。


 レジを通すとき、昨日と同じ店員がまた変な顔をしていた。

 支払いはたったの2万円。残金198万円ほど。

 バックパックにぎゅうぎゅうと詰めこんだ。なんとか入りきった。


 さあ! 異世界へ!

 背中の荷物は重かったが、俺は――足取りも軽く、歩きはじめた。


再び異世界へ。

あちらの世界に恩返しの開始です!


あと関係ないですが質屋の孫娘、けっこう好きです。そのうち再登場させたいです。

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