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異世界Cマート繁盛記  作者: 新木伸


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第116話「大図解」

 いつもの昼すぎ。いつものCマートの店内。

 俺は頬杖をつきながら、売れ残りの商品を、なんとなくもてあそんでいた。


 お絵かき帳と、二四色のクレヨンセット。

 売れると思ったんだがなー。なぜか不人気なんだよなー。


 紙もクレヨン(みたいなもの)も、こっちの世界にあった。

 ただし紙はなんかちょっと目が粗いし、クレヨンっぽいものは色数が少ない。

 なら画用紙を綴じたお絵かき帳と、二十四色もあるクレヨンセットを持ちこめば、飛ぶように売れるはず! ……と思ったのだが。


 どうも贅沢品に見られてしまったようで、あんまり売れない。


 買ってゆくお客さんの層を見ていると、ここぞと気合いを入れて買いにきている人が多い感じ。

 たとえば子供の十歳の誕生日だとか。(こちらでは十歳の誕生日は特別な意味があるらしい)


 値段は手の届きやすい庶民価格に設定してあるのだが……。


 お絵かき帳も、クレヨンセットも、向こうで千円ぐらいだったから、こっちでは銀貨一枚。


 Cマートにおけるレートは、銀貨が千円、銅貨が百円、そして金貨だと一万円と、そうした感じになっている。

 こちらの世界の勘定は十二進数とかになっているので、本当は桁が変わるごとに一〇倍でなくて、十二倍ずつ上がってゆくのだが……。

 まあ、誤差だ。


 高級品を安く並べれば売れる、というわけでもないらしい。

 こちらの世界の人は質素な生活をしていて、そこからあまり踏み出さない。

 不思議なバランス感覚を持っている。


 まあ、それはそれとして――。


「なんですか? マスター? お絵かきですか?」

「お、おう」


 お絵かき帳を覗きこんできたエルフが、そう言った。


 ぜんぜん気づいていないっぽいので、俺のほうがむしろびっくりしていた。

 俺……。そんなに絵がヘタかなぁ?


 俺がイタズラ描きをしていたのは、バカエルフ大図解。


 脳味噌――バカ。肉のことしか頭にない。

 胃袋――いつも腹ぺこだぞ。

 尻――意外と暗算型。

 髪飾り――葉っぱが生えてる。


 ……だとか。

 そんなことを好き勝手に描いていたので、覗きこまれたときには、ちょっとビビった。

 しかし見事なまでの完全スルーだったので、気づいていなかったっぽい。


 ふむ……。

 ふむふむ……。


 俺は調子にのって、もっと色々と書きこんでいった。


「ふう。パーフェクトだ」


 バカエルフ大図解が完成して、俺はそうつぶやいた。

 一仕事をやり終えた気がする。


 そして……。お絵かき帳の反対側のページが空いている。


 ちら、と、エナの姿を見る。

 エナは棚の並び替えをやっている。

 ん。しばらくかかるな。


 俺は創作意欲を働かせて、まっさらなページに、さらさらとクレヨンを走らせていった。


 エナ脳――意外と乙女だぞ。

 エナ手――たまに叩いてくる。

 エナほっぺ――ぷにぷにだ。

 エナ髪――黒々つやつやオカッパ


「お茶、できたよ?」


 熱中して描いていたら、エナがすぐ近くまできていて、そう言った。


「うわぁ!」

「?? ……どうしたの?」

「な、なんでもないっ。なんでもないったら、なんでもないっ」


 俺は盛大にビビリながら、そう言った。

 心臓がバクンバクンしている。


 テーブルのほうに行く。お茶を飲む。

 お茶を飲んでいるあいだも、気が気ではなかった。

 カウンターに残したお絵かき帳が、開いたままだったからだ。


「マスター。さっきから、なに描いてたんですか?」

「い、いや……。なんでもない」


 バカエルフが言ってくるので、俺はそう答えた。


「隠さなくてもいいじゃないですかー。上手でしたよー」

「い、いやべつに、上手なわけでは……」


 本当に上手であれば、本人だということがすぐにバレているわけで……。

 バレていないということは、つまり、俺に画力がないわけで……。

 まあ、バレていないからこそ、俺はいまこうして無事でいられるわけだが……。


「これって、なに? 絵本とかに出てくる怪物さん?」

「い、いやぁ……、それは……」


 エナが、たたたーっと走って戻って、俺の書きかけのお絵かき帳を持ってきてしまった。

 開いたままのページを見せて、俺に聞く。


 俺は答えに詰まった。


「なんか凶悪そうですねー。人のことを、頭から丸かじりしちゃいそうですねー」

「こわい」


 二人は怪物だと思ったようだ。

 それはじつは、おまえたち二人なのだと……言えない。

 言えるわけがない。


「あれ? ねえここ……、エナ脳って書いてあるよ?」


 あっ……。

 エルフのときには、単に「脳」としか書いてなかったが、さらにワル乗りしたエナのときには、「エナ脳」と書いてしまっていた。


「マレビトさん」

「はひいぃっ」

「これ……、ひょっとして……、わたしとエルフさん?」

「あっ……、あっ……、あっ……」

「あっ、じゃ、わかりません」


 俺が「あっ」しか言わないでいたら、エナがぴしりと、そう言った。


「はいいぃぃ、そ、そうですうぅ……」


 俺は白状した。

 もうすでに半ベソだった。全ベソになるのも近いと思った。


 エルフとエナと、二人から、あとでこっぴどくとっちめられた。



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