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異世界Cマート繁盛記  作者: 新木伸


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第71.6話「チューボーどもさわぐ」

「うっおー! ラムネ! ラムネ! 俺俺俺! これ好きなんだよなー!」

「えー! マジ! マジ飴ちゃん! 握り放題なのー! すっげー! カッケー!」

「エクスカリバーだーっ! 本物だーっ! カッケーっ!」


 中坊どもは、とかく、うるさい。オスガキが特にうるさい。他の三倍くらいうるさい。


 口が三つついてるんじゃないかっていうぐらい、うるさい。

 あと最後のそれは「エクスカリバー」じゃねえっつーの。

 自称勇者がそう呼んでいるだけで、Cマートにおける正式名称は「ゾンビクラッシャー」だっつーの。


 ガキどもは現地通貨は持っていないので(ジルちゃん除く)。俺が特別に〝おこずかい〟をやることにした。


 それを使ってやつらは店でお菓子を買いまくる。

 店の隅の壺貯金から出ていった〝おこづかい〟は、また売上金として壺のなかに回収されてゆく。循環しているだけともいう。


 中坊どもは、エナの指揮する、よく訓練のきいたこちらのガキども一個小隊と、ガキ同士、すぐに打ち解けて、一緒になって遊んでいた。


 カンケリ、けいどろ、オニごっこ、かくれんぼ、白線渡り、けんけんぱ、チョコレートグリコパイナルップル、だるまさんが転んだ、かごめかごめ、はないちもんめ。


 ありとあらゆる遊びを、こちらの世界に伝播させていった。


 俺もだいたい全部の遊びを知ってはいたものの、遊びを教えるという発想は、これまでになかった。

 品物を輸入することばかり考えていた。


 遊びを輸入するだけでも、いろいろと、無双できていたんだなー。

 ほー。へー。はー。


 まあさすがにこのトシになって、遊びを教えるために、ガキどもと一緒に遊ぶというのも、アレではあるが――。


「ふははは! この高坂翔子を捕まえられると思ってカーッ!」


 アレな女が一人いる。

 いいトシをしてガキどもに混じって同レベルで遊んでいるオンナがいる。


「あー。ノド渇いたー。もっくーん。ラムネちょーだーい」


 高坂翔子が戻ってきた。

 店の入口の石段に、その無駄にデカイ尻を、どっかと下ろす。


「もっくん、やめい」


 汗の浮いた肌を、俺は見ていた。

 タンクトップから伸び出た、むきだしの肩や首筋を、汗が覆っている。きらきらと日差しを跳ね返している。


 昔から。こいつ。ガードゆるいんだよなー。そんで、押しにも弱くて、チョロいオンナだったりするもんだから……。悪いオトコにでも引っかかっていないか、心配だー。


 ま。いまさらもう関係ないのだが。こいつが悪いオトコに引っかかっていようがいまいが、どーだっていいのだが。俺もいい男とは、ぜんぜん、言えなかったしな。


「はい。ラムネ。……です」


 我がCマートのラムネ部長のエナが、手詰めラムネを持ってきて、翔子に渡している。

 そして俺にも一本、ぐーと、押しつけてくる。


「ああ。ありがと」


 俺はそう言ったが、エナはなんでか、ぷいっとそっぽを向いて、行ってしまった。


 へんなエナー……?


 そういや……。中坊どもが遊びにきて、うるさくなることを、事前に相談してなかったなー。

 俺の一存で決めちゃったのは、まずかったかなー。迷惑してるのかなー。


 しかし俺もまさか、こんなに大所帯で、こんなに賑やかになるとは、予想外だったしなー。


 翔子までやってくるのは、もっと予想外だったしー。

 ま。あとで謝っておくかー。


「なー。姉ちゃん。アイスねーんか?」


 クソガキが、うちの女店員を口説きにかかっている。いや。べつに口説いちゃいねーか。アイスをねだっているだけか。


 しかし異世界に来てアイスをねだるとは、バカなガキだな。あるわけねーじゃん。ここをどこだと思っている? 異世界だぞ?


「あいす……とは? なにか美味しいものの響きがしますー」

「甘い汁を、氷らせたような……おかし?」

「それは、甘いものを氷らせれば、いいんですかー? いいんですかー? ジュースとかでいいですかー?」

「いいんじゃね?」

「じゃー、やってみますかー」


 あれれ? ……やるって? なにを?


氷の精(フロスティン)に申しあげる。凍てつく彼方より現れ出でよ。乙女のささやきに応えて此なりし物を氷結させよ」


 エルフの娘は、虚空に向けてそんな言葉を紡いだ。

 手のうえに載せたボウルには、果物のジュースが入ってる。


 空中の一点に歪みが生じる。


 そこから、きらきらと輝く無数の氷片を伴って、真っ白な冷気が吹き下ろしてきた。


「すっげー! 魔法だ! マホウだっ!! はじめてみたーっ! うおーっ!!」


 オスガキはエキサイトしている。キラキラした目で、エルフの娘を見つめている。


「おま……、それ……、魔法……?」


 俺も口をあんぐりと開いて、エルフの娘を見つめていた。


「やですよー。わたしが魔法なんて使えるわけないじゃないですかー。わたしは、単なる小さなスーパーマーケットの、単なるおバカな一従業員ですからー。……ね?」


 やがてこちらの世界のガキどもも群がってきた。


 はじめて食べる氷菓子に、みんな、目を丸くしている。

 アイスを口に入れたときの、驚いた顔は――すぐに笑顔に入れ替わっていった。


    ◇


「おいしー。おいしーですねー。バーベキュー。おいしいですー。みんなで食べるのー。おいしいですー」


 夕飯に間に合った美津希ちゃんは、感激しながら、バーベキューの串を両手で一本ずつ握っている。


「おっふ!! おっふ!! おっふ!! 肉……、肉、おいひいれふぅ~」


 こちらはバカエルフ。鼻水垂らして、ちょっと正視できない感じで、喜んでいる。


 〝牛肉〟を食うのは、初めてではなかったはずだが――。


 ビーフシチューとか大和煮とかコンビーフとか、缶詰ばかりで、生肉から焼き上げたばかりの、ごろんとした塊は、そういや、食ったことがなかったっけ。


 店の前の路上に置いたバーベキュー台では、向こうの世界の食材も、こちらの世界の食材も、分け隔てなく、仲良く並んで、こんがりと焼かれていた。


 向こうの世界の中坊どもは、こちらの世界の肉や野菜がめずらしいのか。「すんげー」とか「しらねー」とか「おもしれー」とか言いながら、ぱくぱくと食べている。


 こちらの世界の住人は、向こうの食材がめずらしくて、「おっふおっふ」言いながら貪り食っている。


 いや。意地汚く貪っているのは、バカエルフ一人だけだが。


 なにしろ店の前でやっているものだから、通りがかる人たちが、めずらしそうな顔をして見てゆく。


 馴染みのお客さんが通りがかると、引き留めて、よく焼けた串を一本押しつけて食べていってもらう。


 道行く人に、バーベキュー台が、もう三台も売れた。トング付き、たれ付きの一式セットで銀貨二枚なり。ちなみに炭はこっちの世界にもあるのでセットには含まれていない。


賓人まれびとさんの世界のお肉は、面白い味がするねえ」


 オバちゃんも店から出てきて一本食べて、そんなことを言っている。ツンデレ・ドワーフのほうは、肉よりも、串だのトングだの、アルミのタンブラーだの、金属製品のほうに興味があるようだ。そのうちキングまで、のこのこと顔を出しそうな感じだ。


「ジル。おま。肉ばっか食いすぎだぜー。野菜食えよヤサイー」


 食い意地の張ったクソガキが、自分のカノジョから肉を強奪している場面に出くわしてしまっては――。俺は天からゲンコツを振らせなくてはならなかった。同じ男として。


「おいてめえ。カレシならカノジョに肉を譲ってやれ。だいたい肉ならいくらでもあるぞ。すぐ焼けるぞ」

「俺。カレシとかゆーの、違うしー」

『そうですよ。ケンケンは、どっちかっていうと、カスミちゃんのカレシで』

「ぶぅはあぁぁぁ!!」


 話にのぼったカスミちゃんが、口の中一切合切を噴出させて、目を剥いて、びっくりした顔をしている。


「なっ、なっ、なっ……? なんであたしが巻き込まれっ――? あたしちがうよっ!? お兄ちゃんいるからっ!!」


 なんか中学生は中学生で、ややこしいことになっていらっしゃるようらしい。


 俺はモノスゴイ勢いで釈明をはじめたカスミちゃんを、微笑ましく見つめながら――。

 一人、皆の輪を外れたところに、ぽつんと座っているエナのところに場所を移した。


「ん? どうした? エナー?」


 あまり食の進んでいないエナの隣に座って、俺は言う。


 エナはバーベキューの串を持ったまま。串からは、肉も野菜もちっとも減っていない。


「お行儀とか、気にしなくていいんだぞー。バカエルフみたいに、おっふおっふ言って食っていいんだぞー。バーベキューは、豪快に食べて、いいんだー」


 お手本をしめすように、俺は、肉汁をだらだらと垂らしながら、塊にかぶりついた。


「うん……」


 エナは俺に見習って、肉に、かぷっと噛みつきはしたものの……。

 すぐに口を離して、またぼんやりと、遠くを目をやる。


 見ているわけでもないのだろうが、その目が向いている先は――。

 高坂翔子の背中であった。


 昼間、中坊どもに混じって遊んでいたときには、飾りっ気もないタンクトップだったが、いまはべつのオサレなオベベに着換えている。


 むう。翔子のくせに生意気な。


「ああいう服。ほしいのかー?」


 そう聞くと、エナは、ついっと目を逸らす。


 逸らした先は――。こんどは、美津希ちゃんの背中だ。

 美津希ちゃんも美津希ちゃんで、けっこう、おしゃれな服で決めている。

 JCたちの中にあって、JKの貫禄を見せつけている。


 やっぱ服が欲しいのかなー?


 白……でなくて空色のやつと、黒いメイド服と、二着しかあげてないしなー。

 でも服って、俺が選ぶの、ほとんど不可能なんだよなー。


 誰かについていってもらわないと、選べる気がしない。

 美津希ちゃんとかに、ついてきてもらって……。ああ。翔子でもいいのか。


「こんどまた、買ってきてやるぞー。美津希ちゃんとか、翔子に頼んで――」


 言いかけた。そのとき――。

 ばっちーん、と、俺は頬を叩かれてしまっていた。


 えっ? ええっ? ええーっ……?

 俺は驚いた顔で、ほっぺたを押さえながら、店の中に入ってゆくエナの背中を見送っていた。


 夕食のあと、中坊どもが持ちこんできた花火をやったが、エナは、ずっと段ボールハウスのなかにこもりきりで、出てこなかった。


 エナは、気むずかしいお年頃らしい……。


 へんなエナー。へんなエナー。へんなエナー?

明日に続きます。3話連続のエピソード、明日でおしまいです。

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