表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界Cマート繁盛記  作者: 新木伸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/142

第105話「おまつりきたる」

 祭り当日。

 Cマートの店内は戦争のような状態になっていた。

 本来の業務そっちのけで、出店の準備で大忙しだ。


「にーちゃん、ハッピが足んねーぞ。ユニフォームがねえぞー」

「どっかの段ボールのなかに何枚もあるだろ」

「オレ! 赤いのなーっ! 赤はリーダーの色なーっ!!」


 オスガキがうるさい。特にケンケンとかいうバカガキがうるさい。

 俺はしっしっと段ボールのほうに追い払った。


「あたし、お店屋さんって、やるのはじめてー! なにやるなにやるー!? ジルちゃんなにやる? セラちんなにやるっ!?」


 メスガキもうるさい。まあこっちは華やかでいいのだが。


「占いとかはどうでしょう?」

「勝手に店を増やすな……。って、まあ、べつにいいんだが……。やれるのか? 占い?」

「本式ですわよ?」


 黒髪のお嬢様は、薄く微笑んだ。


「セラちん霊能力者だもんねーっ!」


 この娘、なにか神秘的な感じがあるなぁ、とか思っていたら、ガチっぽい?


「霊なんていません。いないに決まっているじゃないですか。……ははは。非科学的な」


 オスガキの片割れがブルってる。幽霊怖い派か。


『わたし? ジャグリングとかやります?』


 Cマートの運送バイトでもあるジルちゃんは、胸に提げてるホワイトボードに、そんなことを書いている。

 この子はなぜだか、友達と一緒の時には、筆談系少女へと変わる。

 日本語の会話はカタコトになってしまうらしいが、この世界なら、母国語で話せば翻訳魔法で通じるのに――。普段、口を聞かない自分のイメージが、壊れてしまうことを気にしているようである。


「ジャグリングって、なんだっけ?」

『いろいろ、投げて、空中でお手玉みたいにするやつです。ナイフとか』

「ナイフ!?」


 なにそのキラージャグリング。

 しかし、ジルちゃん書くの早ええーっ! ノータイムで普通に会話できている。


「しかしそれは、縁日っていうより、大道芸だなぁ。……まあ、いいのか?」


 店の数よりも、人数のほうが余り気味だ。

 占いの館と、大道芸と、追加で……。


「あたし宝石屋さんになりたいーっ! なるーっ!」


 ひと山いくらの詰め放題、宝石屋さんが、名乗りをあげた。


「いちいち咆えんでよろしい」

「うそっ! あたし咆えてたっ!?」


 このアホの娘は、元気でいいなぁ。妹として、一家に一匹、ほしいなぁ。


 中学生軍団のもとを離れて、俺は大人年齢の女子たちのところに行った。

 翔子と美津希ちゃんが並んで座って、フランクに串を刺している。


「あー、ほら、ウワサをすれば、やってきたー」

「おいこら? なんの噂をしてたんだ?」

「もっくんの、あれやこれや」

「うふふ。いろいろ教えていただきましたー♡」

「カンベンしてくれよ」


 翔子と美津希ちゃんは、仲良くなるのはいいのだけど、翔子のやつが、あることないこと吹きこんでいるんじゃないかと、たまに心配になる。

 女同士の会話を詮索するほど野暮じゃないつもりだが……。

 うう……。気になる。


 美津希ちゃん、もうたぶん、聞かされているんだろうなー。

 もう、知ってるんだろうなー……。

 俺と翔子が、昔、付き合っていたということも……。


「たっぷり言っておいてあげたさねー。もっくんが、いかにバカでアホで、どーしよーもないかっていうコト」

「なんじゃそりゃ」


「高校生時代の賓人まれびとさんが、どんなふうだったか、いろいろ、教えてもらってましたー」


 ああ。そのへんね。

 そのへんならセーフだな。意外と爽やか系だったしな。


 Cマート風〝おまつり〟の準備は、あちこちで進んでいる。

 近所から援軍に駆けつけてきてくれたオバちゃんが、踏み台の上に乗って、大きな鉄板と格闘している。本番前の練習だ。


 縁日の花形。ヤキソバである。

 これがないと、おまつりが始まらないと言い切れるほどの重要アイテムである。――個人的に。


「オバちゃん。ヤキソバできたか? できるか?」

「こんなん。やったことないけどね。こんなんでいいのかね?」

「いいのいいの。すげー美味そう。さすがプロ」


 出店の種類は、シロウトでもできる簡単なものを選んだつもりだが、ヤキソバの調理は、少々、シロウトの手には余った。

 そこでプロのオバちゃんにご登場願った。


「だけどこの、そーす? とかいうやつ? こんなにドバドバかけちゃって、いいのかい?」

「いいのいいの。茶色くしちゃって、いいヨいいヨー。それがヤキソバってもんだヨー」

「あんたのとこの食い物は、どれも味が濃いねえ。豪勢に調味料使うねえ。それでおいしいんだね」


 俺が異世界にきて学んだ「おいしい」とは、つまり、味が濃いということである。

 ソースで真っ茶色のヤキソバも、ケチャップとマスタードをドバドバかけるフランクフルトも、きっとヒット商品となるはずである。


 ヤキソバと格闘するオバちゃんのところを離れ――。

 途方に暮れた顔で、ぽつねんとしている人物のところに向かった。


 オーク姉である。


「こんな恩返しの機会があるのに、私にできそうな手伝いは何一つなく。そこで知恵を絞ってみたのだが――。斬竜刀の叩き売りというのは、どうだろう?」

「それ。いつもやってる」

「で、ではっ……、そ、そうだ。たとえば腕力勝負で――う、腕相撲というのはどうだろう? 一回銀貨一枚で、腕相撲で勝負するのだ。相手が勝てば、これまでの溜まった参加料がすべて――」

「腕。へし折らんようにな。対戦相手のほうの腕な」


 皆まで聞かずに、俺はそう言った。

 オーク姉の場合、対戦相手の心配を、まずすべき。


 樽が一個あればできる、簡単な「出店」の仕事をオーク姉に割り当てて――。


 最後に、目立たない無表情組が二人のところに立ち寄る。

 うちのエナと、向こうの中学生軍団の、小森ちゃんとかいう子だ。


 エナはせっせとラムネの瓶詰めをしている。

 クエン酸と重曹と砂糖を混ぜたものを水に溶かして、泡立ちはじめた液体を、ビンに入れて、素早くひっくり返してやると、炭酸の圧力で、ビンの中のビー玉が自動的に栓をするという仕組みだ。


 そして無口相棒の小森さんも、かき氷セットの準備に余念がない。

 発泡スチロールの箱を開けて、たくさん入った氷ブロックを確認して、また閉める。

 その繰り返し。


 無口無表情なりに、楽しみにしているのだとわかる。


 うちのCマートのかーいーのと、向こうのGJ部中等部のかーいーのと、無表情なりに懇親を深めている二人から離れる。


「マスター。お疲れさま」


 エルフのやつが、レモネードを俺のほっぺたにあてて、そう言った。

 ひやっとした。カップには氷が浮かんでいて、たっぷりと露がついている。

 これも商品。こっちにない飲み物は、たぶん、大人気。


「もうすぐですねー。楽しみですねー」


 キンキンに冷えたレモネードを飲みながら、俺は空を見上げた。

 空はだんだんと暗くなりつつある。おまつりの時間だ。

ジルちゃんは既出ですが、その他の中学生集団は、WEB版ではお初だった気がします。

彼らが出てくるエピソードは、年末年始あたりに数話分、掲載の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ