第103話「おまつりに必要なもの」
「やー、めずらしいさねー。たっくんがおごってくれるなんてー」
「おまえには、いろいろ、世話になっているしな」
ポニテ美人をファミレスに誘って、昼飯を一緒にする。
「なんでも食っていいぞ」
メニューを差しだしながら、そう言った。
「ステキ肉とかも?」
「おう。食え食え」
俺はそう言った。
ごちそうといえばステーキか。こいつ。万年金欠なんだろうなぁ。もっと高い店にしてやればよかったか。でもこいつの昼休みのメシだし、近場にそんなに高い店なんてなかったな。しょうがないな。
しかし、こいつ、「ステーキ」のことを「ステキ肉」とか言う癖。高校生のときのまんまだな。
ウエイトレスのお姉さんに「レアで!」と元気よくステーキを注文して――。
そして翔子は、俺に顔を向けた。
「――で、なんなの? また頼み事? こんどはなにで困ってんの? それとも相談?」
「うえっ?」
あまりにも鋭く、図星を指されて、俺はうろたえた。
「な、な、なんでそうなるのかな……?」
「そりゃ、これで二回目だし。また急にメシおごってくれるなんていうし。なんか下心あるに決まっているじゃん」
「し、し、し、下心……っていうのはー、な、なにかなー?」
「エナちゃんとケンカでもしたの?」
「いや、ないない」
「じゃあ美津希ちゃん――のほうはないよね。このあいだ話、してきたし」
このあいだ、美津希ちゃんの件で、こいつに相談した。
はじめは偽装ケッコンをして、美津希ちゃんに諦めてもらおうかと思っていたのだが、それよりもいいアイデアがあるとかいうことで、翔子に任せた。
その結果、女同士話をつけて(?)、ぐいぐいとくる美津希ちゃんのアプローチは止まったわけだが……。
「じゃあエルフさん……、ってことも、ないよね。あの女神みたいな人とケンカなんてするはずないし」
「はあぁぁ? 女神ぃ?」
あまりに変なことを言うもので、俺は思わず、そう言っていた。言うに事欠いて女神ぃ? あのバカワンコを? 肉味のことだけしか頭にないおバカなやつを?
まあたしかに、あいつはいつもニコニコしているやつだから、ケンカとかは、した覚えはないのだが。
そしてまあ……、こいつがあいつをどう誤解していようが、それはいまは関係ないことで……。
「なんで俺の困りごとは、女がらみと決まっているんだ……?」
「だって、そうじゃん。あ――ケッコンしてくれっていうのは、なし、だからね?」
「しねーよ」
ステーキが出てくる。うわーい、と、食いはじめた翔子を前に、俺は話しはじめた。
「なんか、あっちのほうで、お祭り? カーニバル? なんかそんなのが、あるっぽいんだ」
「ふむふむ」
「だけど、えらい地味なお祭りっぽくてな? それでも楽しみにはしてんだけど。どうせなら、もっと楽しく、盛りあげられないかと思ってな」
「それで、なんでわしに?」
「おまえ。お祭りマスターだったろ?」
「ふえっ? そだっけ?」
「そうだよ。毎年、神輿、担いでたじゃねーか。あと文化祭っていえば、率先して、模擬店とかやってたし」
「そういえば、たっくん、イベントのときって、ひっそりとしてたね」
「わりいかよ。お祭り大好き人間じゃねーんだよ」
俺は知っている。よく見ていた。
うちの地域の祭りというのが、ふんどし祭りなのだ。男がふんどしなのは言うに及ばず、なんと、女までもがふんどしとゆー、その筋には有名な祭りなのだった。
ふつうは怯む。
参加するにしたって、せいぜい小学校低学年ぐらいまで。
それがこいつは、なんと高校生にもなって参加していたのだ。
ふんどしを引き締めて、ぷりぷりしたケツを見せつけて、神輿をかついでいたのだ。
「あのさ、おまえ……、去年も出たのか?」
「でたけど? 道場の師匠が、氏子総代やってるし」
「今年も出るのか……?」
「でるけど?」
なんですと。
「ああ……。うん……。応援にいくわ」
「応援? 一緒にかつごうよ?」
「無理」
それはそうと、本題だ。
「お祭りっていえば、つきものの、あれやこれやがあるだろ。うちの店で、こんどの、そのカーニバル? とかゆーのに合わせて、やろうと思っているんだが。ヤキソバだの、フランクフルトだの、綿菓子だの、あとヨーヨー釣りとかスーパーボールすくいとか、あーゆーの、どうやってやるのか、ノウハウがぜんぜんなくってなー」
「ああー、なるほどー。それは楽しそうだねえ」
翔子は、うなずいた。
「いいよー。手配したげるよー。機材のレンタル店とか、知り合いいるしー。あんず飴とか、ソースせんべいとかで、クジやるんだったら、ちょっと特殊なものがいるから、テキ屋の知り合いに相談しないとだめかもだけど」
テキ屋まで知り合いにいるのか。さすが、お祭り娘。
「クジは禁止だ。あっちの世界ってな、なんでか、娯楽がすくなくってな。クジなんてやった日にゃ、おまえ、みんな目をぐるぐるさせちまうに決まってる。そして当局に規制されちまうんだ。だから、射幸心? とかゆーのを、あおるのは、なしな。せいぜい、スーパーボールすくいまでだな」
「ふぅん」
「ああ、あと、ラムネもいいわ。〝ラムネ部長〟がうちにいるから」
エナがCマートのラムネ部長だ。〝じゅーそー〟と〝くえんさん〟と、水と砂糖で、清涼飲料水を作り、空き瓶に詰め直してリサイクル販売をやっている。
「じゃ、出し物、なにをやりたいのか、書き出してみてよ」
そう言われて、俺は、一覧を書き出した。
・ラムネ。(エナのお仕事)
・綿菓子。(お子様に大人気。たぶん)
・ヤキソバ。(これは外せん)
・イカぽっぽ。(見た目のインパクトだいじ)
・フランクフルト。(これがないと、はじまらない)
・かき氷。(ちと季節じゃないが、必須だろう)
・スーパーボールすくい。(男の子の魂)
・ヨーヨー釣り。(ハンティングの醍醐味)
・キラキラしたステキなジュエル、ひとすくいいくら。(女の子に大人気のはず)
と、思いついたものを、次々書き出してゆくと――。
「ちょっとちょっと。それ何人でやるつもりなのさ?」
「えっ?」
「一人二役だの三役だの。無茶っしょ?」
「ああ、そっか……」
うちの店員は三人。やれる出し物は、せいぜい、三つ。
「しかし……。うーむ……」
俺はうなった。
このなかから、三つに絞るなんて……。
無理っぽい……。
「いや……、しかし……、だが……、うーむ……」
俺がリストを見ながら、うなっていると……。
「じゃ、応援、呼べば?」
「応援?」
「あっち行ったことのあるコたち、何人、いたっけ?」
「おお!」
俺は、ぽん、と、手のひらを打ち合わせた。
いるいる! たくさんいる! 中坊どもがわんさといる!
オモシロイことの大好きな中坊が、いっぱいいる。
ジルちゃんは定期便のアルバイトだし。そのカレシ……ではないっぽい、ケンケンとかいうオスガキも、もう何度か来ている。そのほかにザ・庶民派妹的なコと、ハイソなお嬢様っぽいコと、無口無表情のコと、厨二系のスカしたオスガキとかいて、このあいだ〝合宿〟とかいって、皆で泊まりにきていた。
やつらの「GJ部中等部」というのは、なにがなんだかわけがわからないが、なにやらオモシロイことを追究する部であるらしい。
祭りだ! とか言えば、きっと手伝ってくれるに違いない。じゃなかったら、もう泊めてやんねー。
「ひの、ふの、みの……」
俺は全員を数えあげた。
Cマートの面々。あとGJ部中等部の面々。
「おおお。うちと中坊どもで、もう九人!」
「ほらあと目の前に、親切な美人がいるでないの」
「一〇人!」
「あとなんだっけ? オークのお姉さん? もっくんにプロポーズしてるっていう?」
「いやあれはそんなロマンティックなものではなく、単なる交……。まあそれはいいとして。――一一人!」
「あと美津希ちゃん呼ばないと恨まれるよ? もっくん、刺されるよ?」
「刺され――!? 一二人っ!」
すごい! リストはもっともっと増やしていいっぽい!
その後、LINEでさくっと連絡を取って、中等部の連中と美津希ちゃんに応援を頼んだ。
快諾だった。
俺はスマホなんぞ永久始末しているので、連絡は翔子のスマホでやった。
なんで翔子、皆とID交換してんの? ――ま。いいんだけど。
そして、なんでか皆から、〝お姉様♡〟とか〝アネゴ〟とか呼ばれて、慕われているんだけど。――ま。いいんだけど。
すんません。ちょっと間が空いてしまいましたが、「おまつり」連作のつづきです。
あと3話ほど、毎日1話ずつお送りします。




