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まなこ閉じれば光  作者: 酒田青
できたて掌編
7/33

俺の彼女は犯罪者予備軍

 Twitterの、ライトノベルのタイトルを決めてくれる診断メーカーで出たタイトルを作品にしてみました。

「ねえ、首絞めていい?」

 俺の彼女――佐藤真白(さとうましろ)が嬉々とした笑みで俺を見た。俺はほんの少し疲れた気分でベッドの上のネクタイを見つめた。彼女が大好きなこの青いストライプのネクタイは、俺たちが通う高校の制服の付属品で、真白は会うたびに俺に外させる。

 真白は名前に似つかわしくない色黒の少女で、テニス部で部長をやっていた。手足はすらりと長く、顔もかわいらしい。知的な光の宿った真ん丸な目は、愛情一杯に俺を見つめる。彼女は赤いネクタイがついたブレザーの制服を着ており、短いスカートの裾から半分太ももを覗かせていた。

「いいけど……。軽くな。痕が残るから」

 俺はすっかり諦めきって答えた。真白は微笑み、いそいそと俺のネクタイを手に取った。

 真白に首を絞められるのには慣れた。体の関係を持ってから真白は俺により執着するようになり、浮気性の俺に対して常に不安を抱いているためか、いつしか首を絞めて独占欲を満たすようになった。首を絞めるときは俺の青いネクタイを使う。お陰でネクタイは伸びまくっているし、俺は首の痕を隠すためにネックウォーマーが欠かせなくなった。俺はサッカー部だが、練習のときにもネックウォーマーを外さないことで怪しまれている。とても面倒くさい。しかし、真白は首を絞めさせるのを条件に体を許してくれるのだ。現に俺たちはさっきまで行為に及んでいた。部屋は俺の服で散らかり、熱気で包まれ、俺は半裸で、真白は制服を身につけてはいるもののあの甘い香りを全身から立ち上らせていた。

「ね、ベッドに寝て」

 真白が俺に指示を出す。やれやれ、と俺はその通りにした。仰向けになる。さっきの行為のせいだと思うが、背中と接するシーツが湿っている。

 真白はベッドに乗った。おれにまたがり、むっちりとした足が俺の肌に吸いつく。彼女を下から見上げていると、俺は少し興奮した。真白もそうだ。けれど、俺の興奮と真白の興奮は違う。彼女は、俺を自分のものにする喜びに浸っているのだ。

 するっと、ネクタイが俺の胸の上を滑った。真白は目を細め、俺の短い髪をしゃりしゃり鳴らしながら撫でた。俺はぶるっと震えた。顔が近い。真白は俺の頭を持ち上げ、ネクタイを首に回した。ああ、始まる。

 首を撫でるだけだったネクタイには、次第に力が込められていく。俺は段々息苦しくなる。呼吸をしようとしても、空気は少ししか入らない。真白は唇を横に引き、俺の目を見つめながらネクタイを左右に引っ張っていた。腹部の辺りにある真白の下半身にも力が入る。

「苦しい……?」

 真白が訊く。俺は頭の中が半分もやがかったようになりながら彼女を見る。彼女は喜悦に顔を歪めていた。だるいけれど、そろそろやめてほしいから頷いた。真白は顔を紅潮させ、目を爛々と輝かせながら微笑んだ。

「苦しいんだ。裕太は今、私の気持ち次第で生きるか死ぬかってところなんだよね」

 俺はまたうなずく。

「恵里佳もみちるもこんなことはできないんだ」

 俺が浮気した相手の名前を出してきたので急いでうなずく。

「嬉しいなあ。私、裕太を所有してるんだ。裕太、かわいい」

 彼女は俺に口づけた。酸素を求めて開いた唇に。彼女が俺の口の中に舌を差し入れた。それから丁寧にねぶる。俺はそれに応える余裕などなかったから、早く終わらないかと思っていた。

「裕太、愛してる。愛しくて愛しくてたまらない」

 真白は泣きそうな顔で俺を抱きしめた。その瞬間、ネクタイが緩んだ。おれは大きく息をする。ぜいぜいと、何度も呼吸を繰り返す。生きられた。今日も生きられた。

「苦しかった?」

 真白が訊く。おれはやっとの思いでうなずく。真白は、満面の笑みを浮かべた。それから、ベッドを降りて鞄に手を入れ、細長い何かを出した。

「今日はこういうのもあるんだよ」

 巻きつけられたハンカチを外すと、それは使い込まれた包丁だった。真白はよろけながらベッドの隅に後ずさったおれを見つめ、包丁を撫でながら、

「今から私の名前を裕太の体に刻もうと思う。いいでしょ?」

 と微笑んだ。

《了》


 ライトノベルではない感じだし、この程度だと犯罪者予備軍じゃないかも……と思いますが、雰囲気が出ていると思うので投稿。2015.1.23.酒田青枝

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