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まなこ閉じれば光  作者: 酒田青
できたて掌編
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恐竜ビルヂング

 もう当たり前すぎて今こう言うのも馬鹿らしい。けれどあえて言おう。「ビルは恐竜になった」。

 世界中の恐ろしいまでの摩天楼。天を突くほどにそびえ立つビルディング群。ぼくは大型ビルが大好きだった。あの圧倒されるような大きさの中に、会社や店や家が無数に入っているのだから。

 常々、恐竜みたいだなあと思っていた。生きた巨大生物。恐竜と大型ビルは似ている。

 そこでぼくは大人になって建築家になり、恐竜をイメージした丸い目玉をビルの外装にデザインするようになった。ビルそのものはほとんどただの直方体だ。けれど、上のほうの隅にちょいと目を作ると、ビルはたちまち恐竜じみて見えた。

 そんなビルを三棟ほど作ったころだろうか。できあがったビルがある日突然鳴いた。

「おおおーん」

 と、地響きがするほど大きな声で。ぼくは完成したビルを披露するパーティーに参加していて、紅白のリボンを握っているところだった。ビルのデザインの依頼をした社長や、社員や、様々なお偉方がたくさんいた。マスコミも大勢駆けつけていたし、芸能人だってたくさんいた。ビルは今のところ世界一高いとテレビで騒がれていて、てっぺん付近の角に二つ、外装を盛り上がらせる形で目がついていた。がっしりと大きく高い、ティラノザウルスみたいなビルだった。

 それが、鳴いた。ビルの前で談笑していたパーティーの参加者たちは、ぴたりと口をつぐんだ。

「おおおーん」

 ごごご、と地面が揺れた。地震かと思ったがそうではないとわかった。だってビルが歩き始めたからだ。長い首を少し傾け、折り畳んでいたらしい足を伸ばし、のっしのっしと。無人の巨大ビルは自分の望む方向へと歩き始めた。

 ぼくたち人間は大変なショックを受けた。だってビルが歩いたのだ。恐竜さながらに。しかもビルは一度も使われていないのだ。建設費用はどうなる。

 「おおおーん」という声は、離れた場所からも聞こえてきた。見ればぼくが設計したビルが次々と歩き始めていた。目をぎょろぎょろさせ、まさに生き物という感じだった。中にはたくさんの人たちがいて、下のほうの窓からは慌てるスーツの男女が見えた。

「おおおーん、おおおーん、おおおーん」

 目のないビル、つまりぼくが設計していないビルまでもが立ち上がった。ゆっくりゆっくり歩き出す。今や歩いていないビルはないくらいだ。地面に取り残された人間は呆然とし、ため息をついた。

「どういうことだ」

 社長が訊いた。ぼくは答えた。

「ビルは恐竜だったということなんでしょう」

 ビルと恐竜を繋げて考えたことがないらしい社長はふんと鼻を鳴らした。

「大変な損害だ」

 ところが損害は大したことがなかった。歩くビルでは人々が住み、働き、買い物をするのが当たり前になったからだ。世界中のビルが同時に動き出したらしいからそうならざるを得ないだろう。せいぜいビルのない地面を整備するくらいだ。今や世界は真っ平らになってしまった。

 恐竜のビルはぼくたちに優しく、帰る家の入ったビルは迎えに来てくれるしぼくらが買い物したいビルを呼んでくれる。ありがたい限りだ。

 そういうわけでビルが恐竜だというのは当たり前になった。動く恐竜型の建物に住む暮らしは不自由もあるが、子供を中心に好評だ。乗り物みたいなものだからお年寄りにも。

 ぼくも夢想が叶ったことに喜んでいる。

《了》

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