天井都市
寝室に入る。セミダブルでクリーム色のシーツのかかったベッド。ヘッドボードの棚にはたくさんの本。わたしに読まれるのを待っている本たちだ。赤い背表紙の本を手に取り、薄い金属のしおりが挟まれているページを開く。しおりは横から見た蜂のステンドグラス風の姿だ。本は象の上にキリンが乗ってそれを猿が登っていく場面。「……そして蟹食い猿は気づいた。蟹が口から這い出てくる。蟹が自分に食べられたのは高い空に昇るためだったのだ。蟹は空に溶け込んだ。分散して、消えた。しかし、……」ふと興味が薄れて本を閉じた。電灯を消し、クリーム色の布団に潜り込む。仰向けになって目を閉じ、わたしは寝ようとする。気まぐれを起こした。わたしは眠気に逆らって目を開いた。そのときあれは見えたのだ。
ネオンの華やかな都市だった。白い灯りがインドの王宮のような形に丸く膨らんでいる。一番大きな塔の先端には針があり、私に向かってくるかのように鋭く尖っている。王宮の周りには赤や青や緑のネオンで形作られた碁盤目状の平たい都市。人々は白い引きずりそうな衣装を身にまとい、頭に白いコック帽のような長い帽子を被っている。それらが集まり、談笑し、喧嘩し、物を売り買いしている。外国の栄えた都市といった印象だ。
ただ、その都市はわたしの部屋の天井に逆さまに張りついているのだ。天井一杯に広がった都市は、穴を通じて他の部屋にも続いているようだった。わたしはネオンの明るさが目障りで仕方ない。何しろ眠気に逆らって目を開けているのだ。早く寝たい。おまけに都市は人々の会話がかまびすしい。目も、耳も、うんざりだと言っている。都市はわたしが寝ていると思ったから姿を現したのだ。ならばこうすればいい。
「見えてるよ」
わたしははっきりと発音して彼らに知らせた。都市の人々はびっくりしたように黙り、ネオンがまたたき、都市はふつりと消えてしまった。
わたしはやがて眠りに落ち、穏やかな目覚めを迎えてから、あれは何だったのかとやっと思った。
《了》