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まなこ閉じれば光  作者: 酒田青
できたて掌編
4/33

狼男の夜

 家に帰るのが嫌になって、夜の街をうろうろしていた。九時にもなると高校生に馴染みの店は閉められ、街は夜の顔になる。ネオンが光り出す。空は黒々としているのに、わたしの周りはむやみやたらに明るかった。黒い服のキャッチのお兄さんがいるし、派手な年齢不詳のお姉さんが歩いて行くし、会社員の男女は楽しそうに飲みに繰り出す。面白いなあ、と思う。

 そろそろ帰ろうかなあ、と思う。そもそも帰りたくなかったのは親と喧嘩したわけでも試験の成績が悪かったからでもなく、何だか家に帰って一日をリセットしてしまうのが惜しかったからだ。帰ったら叱られるだろうが、いいのだ。

 バス停でバスを待つ。ベンチに座り、リラックスした姿勢で。そこに、狼男がやってきた。

 がうう、と彼は言った。わたしと同じ高校の制服を着ているが、袖から出た手は毛むくじゃらだし、首から上は完全に狼だ。灰色の狼で、ハスキー犬めいて見える。

「奇遇だね」

 という意味に聞こえたので、うなずいた。彼は多分、隣のクラスの瀬田君だ。真面目で親切な少年。彼も狼男になっちゃったのか。

 最近若い男性が狼男になってしまう現象が多発しているのだ。うちのクラスでも三人の男子が狼男になってしまった。最初は自分で気づかない。変わってしまった自分の姿に違和感を覚えにくいらしい。瀬田君も気づいていない。気づいたら、恥ずかしがるかもしれない。狼男化については色々な憶測がされているからだ。

 瀬田君は私が考え込んでいるのを見て、困ったように、くうん、と鳴いた。

「瀬田君、今日は満月だね」

 わたしが沈黙を解いて言葉を発すると、彼は嬉しそうに口を広げた。この口は私の頭なんて軽く収められるんだろうなってくらい大きな口だった。

 がうう、と彼は言う。多分、「おれ、満月が好きなんだ」という意味だ。

「そうなんだ」

 わたしがにっこり笑うと、瀬田君はうんうんとうなずいた。犬に懐かれているみたい。瀬田君ってこんなにかわいかったっけ。

「瀬田君はどうしてこんな時間にここに?」

「わうう(君こそ)」

「そうだね、確かに」

「がうう(いい夜だからね。何となくうろついてたんだ)」

「瀬田君、真面目なイメージだから意外」

「うー(心外だなあ)」

 わたしは瀬田君のいかにも残念そうな顔を見て笑った。確かに真面目という言葉は素敵な感じがしない。

「一緒に帰ろうか」

 わたしは立ち上がり、瀬田君の腕を引いた。バスに乗ってしまったら狼男差別者にとやかく言われることが多いからだ。彼は一瞬不思議そうな顔をしたが、わうう、と言ってついてきた。「嬉しい」という意味だ。

 月のきれいな夜だった。真っ暗な空にぼやけた満月が浮かぶ。橋を渡り、川面に反射する満月を見た。ばらばらに散らばって輝いていた。

 明日になれば彼は人間に戻り、このような犬じみた愛嬌を見せなくなるだろう。けれどわたしは彼のことが好きかもしれない、と思った。明日はわたしから話しかけてみよう。

 隣の彼は、黒目がちな狼男の目を、わたしに向けて微笑んでいた。その愛おしむような目に、わたしは照れた。

《了》


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