あなたはいつも笑うから
あなたはいつも笑うから、わたしはいつも殺したいと思う。あなたのまっさらな人生が羨ましいから、わたしはぐちゃぐちゃに壊したいと思う。あなたは明るくて優しくて、わたしなどにも親切で、そんな自分を意識すらしていなくて、ヘドロのような思考をぐるぐると蛇のように回るわたしとは大違いだ。今日みたいに世界が終わろうとしている日ですら、あなたはわたしを一番に選んで街歩きに誘う。わたしは笑みを浮かべて一も二もなくうなずいて、揃って荒廃した街のシャッター通りに向かう。誰も彼もがこそこそしているのにあなただけは晴れ晴れとした顔だ。大きな流れ星が地球に落ちて、ひと月後にはわたしたちは死んでしまうというのに。
あなたは言う。
「あのさ、一瞬で死ぬのと、じわじわ死ぬの、どっちがいい?」
「どういうこと?」
「いいから答えて」
「……じわじわ死にたいな。色んなことを考えられるから」
「わかった」
何がわかったのだろう。わたしはボロボロになったアスファルトの屑を蹴る。あなたはシャッター街のスプレーアートを眺める。苛立ちと怒りによる殴り描きのような、とてもアートとは言えない代物。その横にでかでかと「くそったれ、世界」と書かれている。「確かに」とあなたはつぶやく。わたしは首をかしげる。「くそったれ、世界」という言葉にあなたが同調したように思えたからだ。
わたしたちは街を見下ろす丘にたどり着く。初夏のケヤキの木の下で、わたしたちは無言で眼下の街並みを眺める。古墳や森がところどころにある、ごみごみしたわたしたちの街。わたしは全然好きじゃない。あなたと違って。
「わたしさあ、死ぬならあんたと一緒に死にたかったの」
あなたはぽつりと言う。わたしはわけがわからない。あなたはいつも幸せそうで、まっさらで、優しくて、心の淀みなんかなくて。
「わたしは嫌いなの、この世界が。だから流れ星にお願いしたの。だから世界は壊れていくの。わたしはあんたと死にたいんだ」
わたしはおろおろとあなたを見つめる。
「わたしなんかと一緒に死ぬなんて嫌だろうね。だってあんたはまっさらで、誰にでも親切で、わたしのことなんて何番目かに友達だと思ってるだけなんだもん」
わたしはあなたをただただ見つめる。わたしの目は、初めて見るあなたの皮肉めいた表情を捉えている。
「でも、そうは行かないよ」あなたは笑う。「残念でした、わたしの勝ち」
Twitterの診断メーカーで出たお題の通りに書いてみました。「あなたはいつも笑うから」で始まって「残念でした、私の勝ち」で終わる7ツイート以上の話。2020年5月21日