trainbottom
ヘッドは頗る上機嫌だ。
「幹ー、荷物って何が入ってたの?」
「えーっと、教科書とかペンケースとか、あと…図書館で借りた本とかだけど?」
「幹、ネットさんは多忙だから余り刺激をしないようにな」
そんなに起こりやすい人なのかしら。
「まぁ云ってみれば皆のお母さん役ってところかな?」
3両目の最後尾に運転席があるのが見えるはずだが、何故かシャッターで隔離されている。
「おーい、誰かいるかー?」
セットはシャッターの向こう側に呼びかけながら頭を掻く。
どうやら中に1人居るようだ。
ヘッドはシャッターを一気に引き上げる。
中は雑多な書類で溢れている。
「ネットさん。御髪が落ちてるよん♪伸ばすのじゃなかったのん♪」
呼ばれたその人は立ち上がると無言でシャッターを下ろそうとする。
「邪魔しないでもらえる?」
中国服に身を包み、黒髪で切れ目の背の低い方だ。
何かノートに書き付けながら、電卓を叩きに机に向かおうとしている。
女性だろうか、判別が付かない。
「この前のリング線事件、世話になったな」
セットはそう云うと、ネットさんのノートを覗き込む。
そこに沢山の名前が連ねてあった。
「そうだな…この中に彼女の名前が無いということは…」
「もしかして…幹は初めての登校だったのかな?」
私は少しだけ身震いする。
どこにやったのだろう。ポケットにはハンカチと定期券しか無い。
「幹、ちょっとこっち来い。お前のバッグこれだろう」
セットが差し出したのはブランド物のバッグだった。
「違います。私のは普通のバッグに蝶のブローチが付いた物です」
「私の名前はネット。その子は?新しい迷子?」
「ちっがうよー。只のおっちょこちょいだよー」
ネットさんと呼ばれた彼女…?いや、彼はレッドの目を好奇心からか更に細くしながら私の目を覗き込むとこう言った。
「あなたの鞄の中に面白い本があったから、勝手に読ませて貰ったよ」
「へぇ…その本見覚えがあるな…」
セットは相変わらず私の肩を抱いたまま覗き込んでくる。
いい加減話して欲しいのだけど…
ネットさんは袖をひらりと翻すと立ち上がり、ノートを畳み、耳に挟んだペンを手に取ると、そのペンに付いているキャップを私に渡してくれた。
「これなあに?私の荷物の中には無かったはずだけど」
「君は荷物を探しているのでしょう?もしかしたらコードの悪戯で屋根上にあるかも知れないよ」
ネットさんの助言にヘッドが反応する。
「そだね。幹、見に行ってみようか」セットは考える。
幹とコードを引き合わせても良い物だろうか。