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trainland
私は突然、目が覚めた。
目に入ったのはリノリウム版とブルーの座席の毛羽立ったシートだけだった。
誰かに寝顔を見られたのでは無いかと顔をしかめて見せる。
「お休みでしたか?」
その男の髪は黒く天然なのか、もさもさしている。
それを無理矢理帽子に詰め込んでいる様子だ。
顔は整っているが目はどこか宙を向いている。
暫く睨んでいると男は胸のポケットから、黄色の紙切れを取り出した。
「どうぞ」
「何ですか。それは」
「切符ですよ」
「切符なら、もう持っていますよ」
私の学生服のスカートから定期券を取り出す、綺麗な3ヶ月使える物だ。
お気に入りのパスケースに入っている。
ビニールのゴムがびょーんと伸びて、タッチで使えるものだ。
「可愛らしい物をお持ちですね」
何だかお世辞をワザと言われたようで余計に腹が立つ。
男はニコニコ笑いながら切符を持っている。
「もう良いです。運転手さんに聞きます」
「俺が運転手さんでも有るのですよ」
心底、馬鹿らしい気持ちになって来た。私は立ち上がると運転席への道を真っ直ぐに駆け出した。
窓の外は真っ暗で、今、自分が何処に居るのかも分からない。