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みちしお  作者: 三塚未尋
6/7

第6話

 下駄箱でローファーに履き替え、外に出ると、ものすごく暑かった。

 太陽はちょうどはるか真上に上り詰めていた。

 学校のいたる場所からセミの合唱が聞こえていた。

 隣では、二見くんが歩いていた。

「うへー、こりゃ暑さのピークだ」

 校門へ歩きながら、二見くんはカッターシャツの胸元をつまんで首もとから何度も空気を服の内側へ送り込んでいる。

「そ、そうだね」

 わたしはつい素っ気のない返事をしてしまい、しまったと後悔した。けれども、彼は気にする様子もなく、話を続けてくれる。

「こういう日は冷房の効いた部屋で一日中マンガでも読んでたいなぁ」

「あ、それ。お母さんも同じようなこと言ってた」

 ふとわたしがそう言うと、二見くんはまた笑った。

「やっぱりこの暑さじゃ、誰だってそう思うんだね」

「そうだね」

 言った直後、バカ、と自分を心の中で叱った。


 そうだね、じゃなくて!!

 もうちょっと話が続けられそうな答え方をしないと!!


 案の定、話はわたしの「そうだね」で途切れてしまった。恐くて二見くんの横顔が見れない。


 話題、話題、話題は--。


 何かいい話題は無いか、必死に考える。

 校門に近づいてきた。なんだか昇降口から校門までがあっという間な気がする。

 と、校門から、体操服姿の男子生徒が集団で走って入ってきた。運動部の人たちだ。

 彼らは走ったまま、わたしたちを通り過ぎていった。

「あれは陸上部だな。この暑いのに、すごいな」


 そうだ、部活の話題!


「ねぇ、二見くんって弓道部だよね」

 思い切って、彼の顔を見ながら言った。

 彼はちょっと驚いたような表情をわたしへ向けた。

「ん、よく知ってるね。それがどうかしたの?」

「べ……つに、どうもしないけど--―」

 話題を見つけたものの、そこからどう話を繋げていけばいいのか思いつかず、結局失敗してしまった。

 そう思っていたら、

「森川さんは、吹奏楽部でしょ」

 彼が話を繋げてくれた。

 しかも、わたしがどの部活に入っているかを知っててくれた。飛び上がりたいくらい嬉しくなった。

「う、うん、そうだよ」

「たしか中学も吹奏楽部だったよね。森川さんって音楽とか好きなの?」

「音楽はそんなに好きじゃないんだけど……。わたし、運動オンチだから運動部には向かなくて。美術部もいいなって思ったんだけど、絵もヘタクソだから」

「それで、吹奏楽部に入った、と」

「うん」

 校門を抜ける。

 ここからも、二見くんとは同じ道だ。

「でも、すごいね、森川さんは。僕は聴く専門で、音楽センスなんて全然無いからさ」

「二見くんは、どんな音楽聴くの?」

「んー、いたって普通だよ。とりあえず流行りの音楽はラジオとかで聴くし。気に入った歌はカセット買ったり、友達から借りたりする」

「わたし、ラジオってあんまり聴かない。テレビとかならよく観るけど」

 二見くんは「へぇ」と相づちをうった。

「じゃあさ、トシちゃんのダンスも観たことあるんだ」

「トシちゃんって、田原俊彦?」

「そうそう」

 田原俊彦は、歌手だ。たしかドラマでも、あの人の歌が使われていたような気がする。

「僕、あの人好きでさぁ。四月にやってたドラマの主題歌もあの人の歌なんだけど、あの歌の入ったカセット、今日やっと友達から借りたんだ」

「もしかして、お昼休みのあれ?」

「あ、なんだ。見てたんだ、森川さん。智里たちと話してたみたいだったけど」

 言われて、わたしはちょっとドキッとした。まさか彼もわたしのほうを見ていたなんて、思ってもいなかった。

「二見くんが呼ばれたのが聞こえて、ちょっと気になって見てたら、なんか渡されてて……」

「ふーん、そうなんだ。あいつ、同じ部活の友達なんだ」

 二見くんは、わたしが見ていたことなんて、全く気にしていないようだった。それが幸いだったと感じる反面、ちょっと悔しかった。

 それから、わたしは何とか話題を繋げていった。といっても、彼がほとんど繋げてくれたようなものだけど。

 でも、学校を出てからは、ちょっとずつ、ちょっとずつ、二見くんと話すことに慣れていくのが自分でもわかった。

 智里ちゃんたちの言ったとおり、慣れれば大丈夫なのかもしれない。

 二見くんと話すことに、少しは慣れたと思う。

 それでも胸のドキドキは止まらなくて、彼のちょっとした仕草にも緊張してしまう。


 肩、高いなぁ。


 中学校の時は、わたしと同じくらいの身長だったのに、いつの間にか二見くんのほうがグンと背が高くなっていた。

 体が大きく成長した二見くん。

 でも、性格はちっとも変わってないみたい。

「それでさ、次に来たのが--―」

 言葉と笑顔を、一緒に投げかけてくれる、優しい人。


 知ってる。

 遠くからずっと見てたもの。

 その笑顔を

 わたしは、ずっと前から知ってる

 無邪気で

 子供っぽくて

 陰りのない、あなたの笑顔


 あの雨の日に出会った時から、わたしはずっと二見くんが好き。誰かが二見くんを蔑んでも、わたしの想いは絶対に変わらない。

絶対に--。


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