one scene ~chinese cafe~ vol.11
彼女は僕の全てを、お見通しだった・・・
前からずっと・・・本当に、全てをだ・・・
一年前のあの日のメールは、彼女自身も「最後に・・・」決着をつけたいと訴えるような内容ではあったけど、きっと本心ではないと僕はわかっていた。
だけど反対に彼女は、その本心を僕が知っているから、またきっと優しい言葉で抱きしめに戻ってくる・・・とも考えていたはずだった。
それでも「今回は違うかも」とどこかで彼女は感づいていることを、メール以外に電話で直接連絡をしてこなかったことで、なんとなく伺えた。
彼女と僕は阿吽だった。
別れる際まで・・・
だから会ってしまっていたら、別れられなくなることが分かっていたんだ。
お互いの本心をきっと、知ってしまうから・・・
そして・・・・
今日・・・
一年のブランクは、二時間近くの会話で、お互いの全てを思い出させ・・・お互いの今を、知ることになってしまった・・・お互いの今の本心を・・・
「愛は決して陰っていない」
という本心を・・・
今日という日は本当に全てが不用意だった。
再会後のプランを始め、どこに気持ちを落ち着かせるべきなのかさえ・・・
それでも会えると考えたのは、一年という月日は僕をどう変化させたかは分からないが、少なからず彼女には充分な月日だったのだと思ったからだ。
でも・・・何も変わっていなかった・・・
「二人の愛は、決して陰っていない」
それでも彼女は、あの頃には一度も見せたことの無い凛々しい顔で
「もう一度聞かせて・・・あの日の・・・さようならを・・・目を見て・・・」
と言った。
彼女は僕の全てを、お見通しだった・・・
前からずっと・・・本当に、全てをだ・・・
僕の弱さも、強さも、残酷さも、優しさも、彼女への嫉妬も、愛の深さも、そして・・・
僕のすべきことさえも・・・
彼女には、わかっていた。
「うん・・・ごめんね・・・俺も頑張るから・・・だから・・・さよならだよ」
その言葉はまるで、一年前に止まっていた二人の時間を、重く閉ざされていた扉が開くかのように、ようやく動き出させるのだった。
そして僕は胸の奥に再び灯りだした何かを感じた。
「俺、絶対頑張るから・・・」
この愛が陰ってしまう前に・・・
「杏仁豆腐・・・食べる?」
彼女はこらえていたかの様な笑顔で、うなづいた。
店内の活気に負けじとかかる音量のBGM。
あちこちに飾られている男と女の下着の中身をかたどった卑猥なオブジェ。
「訳ありな様子の恋人同士?」などと隣の席を気にする者は、この雑踏の中には恐らくいないだろう。
そんな僕たち二人も、この店にはよくある風景でしかない。
今日もこの店は24時間年中無休で留まることなく
通りすぎていく人間模様をただ黙って
拒むことも追うこともなく
笑い声と涙を区別することもなく
包み込むように受け入れ
そして
見送ってくれるのだった・・・
fin.