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第七話

 席はお約束のごとく明治の隣になる。

 教科書などもないので、これまた明治が見せることになるのだが、そのためには机をぴったりとくっつけて優麗と密着しなければならない。


 優麗の肩が明治の肩とふれあい、明治は緊張してしまう。

 視線を下げると、身長の差から胸元がチラリと見えてしまい、赤面する。


「なんか……夢見たいですね。こうやって高校の授業を一緒に受けることが出来るなんて」

 

 嬉しそうな表情で目を輝かせている優麗の顔を見て、思わず見とれてしまうが、すぐに我に返り視線をそらす。


「あんまりくっつくな。いいから授業に集中しろ」

「いえいえ、せっかくですからラブラブな雰囲気であたし達の仲を見せ付けましょう」


 ゴチリと拳骨が優麗の頭に直撃して優麗は机にうずくまる。

 ううと、すこし涙目になりながらも授業中ということもあり、あまり騒がず静かにする。

 やれやれ、取りあえずは大人しくなったかと一息ついて、あまり優麗の事を意識しないように黒板へと目を向けて、明治も授業に集中し始めた。



 やるか? 

 いや待て。まだ授業中だチャンスをまつんだ。確実に仕留めなければ。 

 クソ、何で彼方さんがあんなやつと。


 このままでは彼方さんが三次元の汚らしい現実に染まってしまう。救い出さなければ。


 明治はクラスの男子が発している、不穏な空気には気付かず、おまけに優麗に教科書を見せて、そのたびに軽くではあるが優麗におちょくられ、といった明らかにバカップルがかもし出す空気を自分が発していることに全く気がつかない。


 担任の教師から聞いていたのか、それぞれの授業を担当する教師は、優麗のことには一切触れず、いつものように授業を進めていき、時折、優麗をさして発言などを求めることもしている。


 そのたびに優麗は嬉しそうにはきはきと答え、教師もまんざらではない顔をする。

 


 そして授業が終わり、昼休みとなり、午前の最後の教師が教室から、出て行く。

 見計らったように一気に騒がしくなるクラス。


「優麗ちゃん! 一緒に食事しよ!」

「あーちょっと抜け駆けしないで、彼方さんあたし達と食べよ?」

「みんな落ち着いて優麗ちゃんが困っているでしょ? まずはクラス委員であるあたしが」

「果歩ーそれってずるいんじゃない? 職権乱用だよ」


 わいわいがやがやとあっという間にクラスの女子に囲まれる優麗。

 まあ、この分なら当面は学校で変な事はされないだろうと、安心して昼の食事の確保のため購買部へいこうと席を立つ。


「明治。少しツラを貸してもらおうか……」

 

 ん? と視線を向けると優麗とは対称的に明治の周りにはなにやら不穏な空気を纏った男子生徒がずらりと並んでいる。


「あ、これから購買部に行かないと……」


 がしっと肩をつかまれ、朝のように一瞬ではかい締めにされる明治。


「お前ら何をする!」

「連行!」


 ざっざっざっと一糸乱れぬ統率のもと、明治はそのまま教室から連れ出される。

 有無を言わせないその行動は何処かの軍隊かと思わせるほどだ。


 屋上へと連れ出され、あっという間に円を組むような形でクラスの男子に囲まれる明治。

 もちろん、その中心には明治がいる。


「えっと……皆さん? これはどういうわけなのかな?」


何故自分がいきなりこのような場所へ連れてこられたのかさっぱりわからないのである。


 チラリと親友である晴彦に目を向けると、にやにやと笑っている。

 やばい、絶対にろくなことが起きない。そう直感して少し後ずさるが囲まれているということで後ずさる余裕もない。


「田井正明治よ。それは我々が聞きたいのだがな?」

 どこかしら時代ががっているような口調で、男子生徒の一人が冷たく氷の目線である。


「一応言っておくが僕は無実だぞ?」


 良くわからないが身の潔白を主張しておかねばならないと危機感を募らせる。


「黙れ! いいか? 我々には学業を行うと言う崇高な義務がある。にも拘らず貴様はあの可憐な彼方さんと授業中にだというのにいちゃいちゃとしおって」


 明治にとっては全く見に覚えのない出来事だ。あくまで明治の主観ではあるが……。


「だ、誰がいちゃいちゃなどしているか! ちゃんと授業を受けていたわ!」


「それにだ! は、裸エプロンだと? 全国の男子生徒がいや、全世界の男が憧れてやまない男の夢を高校生の身でありながら……嫌がる彼方さんに無理やり強要するなど言語道断である!」


 話が捻じ曲がっている! 全世界規模に広がっている。


「そんなわけでだ。貴様には反省を促すと共にロープなしバンジーをしてもらおうと思ってな。諦めろ我が校の校則で決まっていることだ」


「んな校則聞いたこともないわ! 今勝手に作っただろ。おまけに死ぬだろこの高さ! 冗談では済まされないぞ」


 必死で身を守ろうと正論を叩きつけるが、男の嫉妬とはとにかく厄介な代物であり、常識など通用しない。

 が、しかしさすがに殺人はまずいと思っているのか、少しばかり沈黙する。


「ふむ。確かにお前の言うことも一理ある。しかし優麗ちゃんLOVELOVE隊、隊長として何かしらの罰を与えねば示しがつかん」


「なんだそれは? 聞いたこともないぞ?」


「昔からある隊だ。今入隊すればもれなく彼方さんの生写真がついてくるぞ」


「大嘘を言ってんじゃねえよ! それ明らかに今作っただろ! つうか写真なんていつとったんだよ! むしろただの心霊写真だろ!」


「黙れ! ロープなしバンジーは諦めてやるが、罰はちゃんと受けてもらう」


「やめろーーー!」


 明治の絶叫が屋上にこだました。


 しばらくして、屋上にポツンと取り残される明治。

 うつぶせに寝ており、顔にはいくつかの痣がついている。


 制服はなにやら足跡などで汚れておりボロボロの状態だ。

 やがて、指先をピクリと動かしようやく体を起こす。


「いやあひどい目にあったね」


 爽やかな笑みを見せて晴彦がそう言ってきた。


「おのれも加わっていただろーが!」

 間髪いれずに相手に怒鳴りつける。ちゃっかり嫉妬に狂った男子生徒の暴走に乗っかって楽しんでいたのだ。


「ったく。あいつが現れてから僕の生活はむちゃくちゃだよ」


 制服についたほこりをパンパンと払い落としながらぶつぶつと文句を言う。おまけに腹の虫がなってまともに昼を食べていないことを自覚して、手でおなかを押さえてしまう。


「ほらよ」


 いつ購入してきたのか、晴彦が手に持っていたパンを明治に放り投げる。

 それを受け取り、袋を開けて明治は一口食べ晴彦に一応礼を言う。


「まあ、今日ぐらいなもんなんじゃない? こんな騒ぎ。みんな珍しがっているだけだし、あいつらの嫉妬も今日ほどじゃなくなるだろ」


「だといいけどな……あいつらには恐怖心と言うものがないのかよ。ったく幽霊だぞ。いつ取り殺されるかこっちは不安だってのに」

「だったら本当に拒絶すればいいじゃん。御祓いを頼むとかさ」


 確かに晴彦の言う通りではあるのだが、そこをはっきりと出来ないのが明治である。

 ほんのわずかな期間しか過ごしてはいないが、あれほど楽しそうな優麗の顔を思い出すと、そう思い切った行動には移れない。


 そんな明治の性格を昔から知っている晴彦は特に何も言わずに、自分のパンを食べている。


「まあ、今のところそれほど深刻な害はないし、しばらく様子を見るよ」

「そ、まあ頑張って」


 明治の答えを予想していたのか、そっけなく答える。


「一応言っておくけどな明治」

 

 いきなり深刻な表情で晴彦は明治に向き直る。

 

「な、なんだよ……」


「可愛いというのは正義だ」


 思い切り晴彦を殴りつけ、明治は屋上を後にした。

 

 

 教室へと戻る途中、明治の耳に色々な噂が飛び込んできた。


「マジかよ?」

「ほんとほんとすっげえ可愛いの! おまけに幽霊だってよ」

「ああ、俺も見たよ。あのぷかぷか浮かんでいる姿たまらないね」


 などといった噂である。

 すでに優麗の存在は学校中に広まっているようだ。


 内心、色々と心配していた自分がアホみたいだと自己嫌悪に陥りかけるが、それをいっても仕方がない。

 階段を下りて、二階にある自分のクラスへと向かうその途中に、女性にしてはやや長身の生徒が明治の目の前に現れる。

 端整な顔立ちに、少し硬質な感じがする黒い髪の毛。

 切れ長の瞳ではあるが、少し細長くやや冷たい印象を持つ女性である。

 明治の記憶にはない女性で、その女性は意味ありげに明治に視線を送っているような気がしたが、見たこともない女性にいきなり話しかけるなんて勇気など持ち合わせておらず、気のせいだろうと思い込み、明治はそのままその女性とすれ違い、歩を進める。


 見られていたような気もするし、そうじゃないような気もするし、煮え切らない気持ちではあるが、無視することに決めて、教室の扉を開ける。


 

「明治さーん」


 優麗が明治の姿を見て、スーッとやってきて嬉しそうな表情である。


「なんだよ……また変な事でも吹き込んだのか?」

 少し疲れており、言葉に棘があるが優麗はあまり気にしていないようだ。


「見て下さい! これ! 一杯皆さんのアドレスを貰いました!」

 

 優麗の手にしている紙には様々なアドレスが書かれており、「いつでも連絡してね」とか「わからない事があったらなんでもきいてね」など一言添えられている。


 明治が男子生徒と亀裂が入ったのと対称的に、優麗は女子生徒とうまく親睦を深めたようである。

 うまく言っているようで何よりだ。


「よかったな……僕は色々と疲れているから今日はせめて少し大人しくしててくれ」


 幽霊にアドレス……こいつ携帯なんて使えないだろう。手続きにだって一苦労だし、月々の料金だってバカにはならないとは思うが、せっかく楽しそうにしているのだ水をさすこともないだろうと自分の席に座る。


「ほんとに疲れているようですね。よかったら肩でも揉みましょうか?」

 

 なにやら妖しげな手つきだ。


「お前は公共の場でもそのノリなのかよ!」

「いつでもどこでも愛する殿方のためなら」


 キャーっと黄色い歓声が沸き起こる。主に女子からの歓声だ。


「ほんと一途なんだね優麗ちゃん」

「なんか羨ましいな。あたしも彼氏ほしー」

 

 などと嬉しそうである。

 もちろんそれとは別に怨念が振りまかれている。


 机の下に物騒なものを用意している男子生徒たちだ。

 

「お前は僕の高校生活を破壊するのが目的なのか」

 もうどうでもにでもなれというように机に突っ伏す。

 優麗は少し心配そうな顔だ。


 なんにせよこうして優麗の高校生活第一日目は幕を閉じ、放課後となった。

 帰るときもまた優麗を一目見ようと駆けつけた他のクラスの生徒達や先輩達がいて、これまた一騒動あったのだが、何とか切り抜けて、家路に着く。


 優麗は鼻歌を歌いながら楽しそうについてきている。


「ほんと疲れた……」


 そんな一言に優麗は鼻歌をやめて明治に向き直った。


「……あの……やっぱりご迷惑でしたか?」

 いつもと違いしおらしい態度だ。こんな表情は今まで見た事がなく違和感を覚える。


「どうした急に? 迷惑なのはいまさらだろ?」


 明治なりの冗談なのか苦笑しながら答えるが、優麗の表情は変わらない。


「そうですよね……迷惑でしたらあたしは……」


「いったろ? 迷惑なのはいまさらだ。一つや二つ増えたって大したことじゃない。それにだ。すでにお前はクラスの一員だ。いきなり明日から来なくなってしまえば女子からは痛い視線で見られるだろうし、男共からは間違いなく殺される。すでにお前は峰ヶ崎高校の一員だ胸を張っていろ」


 ふんというように最後は視線をそらして、ぶっきらぼうに答える。

 優麗はそんな明治の優しさを感じ取り、再び笑顔に戻る。


「ええ、そうします! 胸を張ります! そして張った胸を明治さんにさわって」

 カッターがぐさりと脳天に突き刺さり地面にうずくまってしまう。


「調子に乗るな!」


 うずくまった優麗を無視してスタスタと家へと向かい、そんな明治を優麗はどこか嬉しそうに追いかけていった。


 ここで一区切りです。

 

 次回は「優麗ちゃんの部活動」です。

 

 

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