第二十二話
「みなさん! では早速部活動を始めましょう!」
優麗が目を輝かせて声を張り上げる。
初めてのちゃんとした部活動ということで、かなり張り切っている様子だ。
「そうだな、ただ単に井戸端会議をるためにこの部屋を用意したわけではないしな。では早速はじめていくとするか」
湊も優麗の言葉に追従する。
目の前に置かれているティーカップからは湯気が立ち込めて、ほのかにいい香りが部屋を満たしていく。
「ではですね。まず幽霊についてみなさんに知ってもらおうと思いまして、あたしから説明いたしますね!」
パチパチパチと執事を含めた四人から拍手が沸き起こった。
「まず、幽霊というのはですね……」
みんな静かに耳を傾けている。
幽霊とはなにか、漠然と知ってはいてもちゃんと説明できる人などいない。
「……なんでしょうかね?」
「幽霊であるお前が分からなくてどーすんだよ!」
明治が思わず怒鳴ってしまう。
優麗は後ろ手に後頭部をかいて、えへへと困ったような笑みを浮かべている。
そもそも幽霊の定義とは一体何なのか? 科学的に解明されていない以上、そういったものを定義づけるのは非常に困難である。
普通ならば、死んだ人が肉体を捨て、魂となってこの世をさまようものと考えるだろう。
しかし、幽霊の中には生霊というのも存在している。
生きている人の怨念が形となって、害をなす存在だ。これもまた幽霊の一つと定義付けるのであれば、前者の定義がひっくり返ることになる。
ようするにわけがわからなくなるということである。
また肉体を捨てないでも、死んだ人がよみがえる現象も幽霊の一つの形でもある。
こちらはヨーロッパやアメリカではゾンビと呼ばれゴーストの一種と認識されている。
こうやって考えると、一口に幽霊と言っても様々だ。
基本的には死んだ人間が、何らかの形で蘇るものを幽霊と認識して構わないが、先ほど述べた生霊の例もあるのでやはり一概にこれだとはいえない。
「……というわけであたしにも分かりません!」
「だったら始めから偉そうに口火を切るな!」
「まあまあ落ち着きたまえ、この部活の趣旨は怪談を集めて文集にすることだ。幽霊とは何なのかというのはそれぞれの考え方に任せようではないか」
明治は思わず目を見張り、耳を疑った。
優輝がまともなことを喋っているのだ。それこそ変なものに取り付かれたのではないか? と考えてしまった。
「なにやらとてつもなく失礼なことを考えていないかい? 明治君?」
「あははは、いやだなあ。気のせいですよセンパイ」
わざとらしくごまかし、それが通用したようだ。ずいぶんとちょろいなとも思ってしまった。
「優輝の言うことも最もだな。私も少し調べてみたが、幽霊とは非常に曖昧な存在みたいだ。日本に伝わる怪談話のほとんどが妖怪にまつわる話と言ってもいい」
ここで静かに紅茶を楽しんでいた湊が発言した。
「日本で有名な妖怪と言えば、雪女、猫又、猫娘、一反木綿、子泣き爺、などアニメでも知られるような妖怪だが、これらにまつわる話は全て日本古来からある怪談からきている。そう考えると、妖怪と幽霊は密接に繋がっているといっても過言ではないかもしれん」
博識なのか、それともこの部活のために調べてきたのか定かではないが、湊の発言には明治は深く興味をそそられた。
「明治君は、何か怪談にまつわる話を、知っているかね?」
「そうですね……僕の場合は口裂け女や、ちょっと古いですけど人面犬などの類でしょうか? あとはよくある学校七不思議ですね」
「それは20世紀に入って近代に作られた、いわば都市伝説の類だな。とはいえ、古来から伝わる怪談の中にも当時においては都市伝説と言われている話が広まって作られたと言われている怪談もある。もしかしたら、そういう話が100年後には立派な怪談話として知られているかもしれんな」
なるほどと明治は感心してしまう。
昔の娯楽が今では歴史ある話として伝えられる。これは今でもよくあることだ。
「つまり、紫式部が書いた源氏物語は、当時の平安時代の女性に大人気だったと聞く。これを現代に当てはめると、ハーレムを築き上げる主人公にはぁはぁと息を荒げている腐女子と対して変わりないということを湊は言いたいんだね!?」
」
銃声が部屋の中を木霊し、優輝は銃弾を受けて倒れた。
「あ、あの湊先輩?」
「悪は滅びた。これで世界は平和になったよ」
いきなりすぎて、思わず言葉を無くしてしまう明治と優麗。
「心配するな。ここは完全防音だし、何が起きても外部には漏れんよ」
「いえ、そういうことじゃなくてですね」
「僕の身を心配してくれているのかい? さすが親友ダネ」
あっという間に蘇る優輝。
「額にに穴を空けられてなんで生きているんですか! 血が出てますよ!」
「あははこの程度じゃ僕は死なないさ。なぜなら」
「三崎家の御曹司だからですね。はい分かりました」
ハンカチをかみ締めて恨めしそうに涙ぐみ、優輝は明治を見やる。
「ひどいじゃないか! 僕の決め台詞を先に言うなんて!」
「どんだけ悔しいんですか!」
「あたしにも話しかけてくださいよ! 明治さん! 湊先輩とばっかり話していると嫉妬してしまいますよ!」
優麗の髪の毛がざわめいてきた。
「子供の集まりかよ。ここは! おとなしく部活を進めんか!」
騒がしい部活動の第一日目はこうして始まったのである。
やがて喧騒は収まり、一通りの方針や知識の交換を終えた後はみな思い思いにくつろいでいる。
優麗は湊と一緒にクッキーなどのお菓子を頬張りながら、軽く勉強を教えてもらっているようだ。
優輝はTVを見ながら、経済新聞を片手に読んでいる。一応は三崎家の教育を受けているので、そういった情勢が気になっているのだろう。
その辺はさすがだなあと少しだけ見直す。
そして明治は、本棚に宇宙に関する本を見つけ、ページをめくっている。
色々な惑星を紹介している本であって興味深そうにそこに書かれている内容を目で追っていく。
「そういえば、宇宙人っているんでしょうか?」
明治の唐突な言葉に皆が注目する。
「ずいぶんといきなりな話題だな」
湊が苦笑しながら声をかけてきた。
「いえね……その幽霊の存在がいるのであれば宇宙人もいてもおかしくはないんじゃないかなーと」
「額に穴があいても生きているような化け物もいるし、強ちいないとはいえないな」
「そんな生き物がこの世にいるのかね? 是非お目にかかりたいものだよ。湊も子供っぽいところがあるんだな」
湊は無言で優輝に手鏡を渡し、その後に一言添えた。
「ほら存分にお目にかかるといいぞ? 気の済むまでな」
「……天使しか映っていないではないか」
「……三崎先輩って……いろんな意味で凄いですね」
「ははは、もっと褒めてくれたまえ! それよりもだ明治君!」
ずいっと顔を近づけられ思わず背けてしまう。
「いきなりドアップにならないで下さいよ。食欲が失せてしまいます!」
「……とっても傷つくようなことを言われた気がしたが、それはおいておこう。なぜ僕だけ苗字で呼ぶのかね?」
非常にうっとうしいことになりかねないと思うと同時に、過去に似たようなやり取りがあったことを思い出す。
この先輩の精神レベルは優麗と一緒なのかよと思わずに入られない。
「男の人を名前で呼ぶのは親友だけと決まっていますのでねー」
あははははと笑って回避を試みる。
優輝は指をぱちんと鳴らし誰かに合図のようなものを送った。
とたんに今まで何処にいたか分からなかったリチャードが現れて、明治の前に大量の札束を用意した。
これだけの金を目にして明治はさすがにたじろいでしまう。おそらく1億は軽く突破しており、2億、3億の金すらも凌駕しているかも知れない。
「これでどうかね?」
「何がですか!? 自慢でもしたいんですか!」
「僕たちの友情の証だよ受け取ってくれたまえ」
きらりと白い歯を爽やかに光らせる。
「受け取りましょう! 明治さん! 愛情はあたしの体で示しますから!」
「お前は何を考えとるんじゃ!」
「やっぱ愛だけでは食べてはいけませんから!」
目をいつも以上に輝かせて優麗は優輝に追従する。
「結婚適齢期の女のような考え方だな……ともかくこんな大金受け取れませんよ!」
現実味がなさ過ぎるのか、よく考えずに断ってしまう。もし冷静であればこれほどまでにはっきりと断れたかはさすがにわからない。
「なるほど、金では動かないか……よし」
そういうと、いきなり携帯を片手に何処かへ電話する。
「ああ、頼んだ。明治君!」
「何ですか!」
「君は今日からA国の独裁者だ!」
「国一つまるごと買わないで下さいよ! おまけに独裁者ってなんですか!? 思い切りイメージ悪いじゃないですか! いりませんよ! 大体いきなり金を用意したり、国を用意したり何なんですか?」
「……な、名前で呼んでほしいのだ」
「あんたはそれだけのために億単位の金を用意したり、国を買収するのかよ!」
顔を赤らめてもじもじし出す優輝。
気色悪いことこの上ない。
「優輝様は恥ずかしがり屋さんでして」
リチャードがうんうんとうなずくように意味ありげな視線を明治に送る。
「朝の通学路で湊先輩の胸を揉んだり、昼休みの廊下で下着下着と連呼するような人の何処に恥ずかしがる要素があるのか是非とも聞きたいんですが?」
「さあ名前で呼んでくれたまえ、じゃないと今度はこの国の総理の首がとぶことになるぞ!」
「何する気だよ! もうそれ見返りとかそういうレベルじゃないからな! 国を巻き込んでの嫌がらせだよ!」
わかっていたことではあるが、感覚が違いすぎて手に負えない。
湊をチラリと見ると、ウィンクしてきた。
そやつの相手はしばらく君に任せる。
なぜか分からないがそういう心の声が聞こえてきた。
「分かりましたよ! 優輝先輩! これでいいんでしょ?」
「さすが我が親友!」
「親友相手に国家を巻き込んで嫌がらせをするのがあんたのやりかたですか? 全く」
「男同士の友情って素敵ですよね!」
「そうだな。明治君にはしばらく優輝の相手をしてもらうとしよう。なに、あくまで友情だ。心配することはないぞ優麗君」
いつの間にか「彼方君」から「優麗君」に呼び名が変わっている。
そうして、完全下校時刻の時間となり、部室から出て四人は家へと帰宅することになった。
明治は、なんで宇宙人がいるかどうかの話から、億単位の金や、国家単位の問題に発展するのか不思議でならず帰りは頭を抱えていた。今日は良く眠れそうである……。




