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第十八話

 教室を出ると、突如校内放送が校舎に響き渡った。


「あーあー本日は晴天なり。よし、さてこの放送を聞いていると思われる我が愛する婚約者、市ヶ谷湊。僕を捕まえたければ僕を愛していると大声で叫ぶが良い。そうすれば君のそのふくよかな胸に僕は喜んで顔を押し付けよう」


 思わず言葉を無くしてしまうほどの変態的な放送である。

 優麗のほうもそういった意味では恐らく負けてはいないだろうが、可愛い女の子と言う見た目のせいか、それなりに可愛らしく思える部分もあるのだが、自分より年上の男が似たようなことを言うとこれほど気持ち悪くなるのかと身震いしてしまう。


 湊は怒りに体を震わせて今にも爆発しそうな勢いだ。


「……あの先輩は一体何がしたいんですか?」

「明治君。一つ忠告しておく。奴にそのようなことを問うのは無意味だ。今回に関しては恐らく浜辺での追いかけっこ程度にしか思っておらんよ」


 浜辺での追いかけっこ……思わず頭の中で想像してしまう。


「あはは待ってよ優輝~、もう追いつけないよ~」

「ふふふ、さあ僕はここだよ。もう少し頑張らないとおいて行っちゃうぞ~」

 

 ……ダメージがでかすぎる今の想像はなかったことにしよう。

 明治への贈り物と言う行為からどうやったらこんな過激な追いかけっこになるのか、ともかく元凶に一発入れなければ気がすまない。


「まあ、ともかくあの先輩を撃ち殺してもいいんですね?」


 考えを放棄して、手にした小型のマシンガンをしっかりと握り締める。


「ああ心配するな。奴を仕留めれば後のことは私に任せておけ。君が犯罪者になることなど絶対にありえんからな」


「分かりました。まずは放送室からですね」


「いや奴はすでにその場から離れている……恐らくは放送室のある三階校舎から非常口を使い……中央階段から屋上に出ると思われる」


「自分から逃げ場のない屋上に行くんですか?」


「奴の身体能力を舐めるな。屋上から飛び降りたところで傷一つつかんよ」


 人間離れしているにもほどがありすぎるが今更である。

 大きく息を吸い込み、そして吐く。


「優麗お前に頼みがある。聞いてくれるか?」


「あ、明治さんが頼みごとですと? あたしに!? こ、これはもう色々な意味で千載一遇のチャンスじゃないですか! ここで恩を売っておけば後々の明治さんとのラブラブ生活がさらに充実」


 カチャっと音がして優麗は自分に銃口が向けられたのを自覚してしまう。


「優麗……今はお前の馬鹿に付き合っていられるほど、僕には余裕がないんだ」


「ああ、しまった本音が」

 

 涙目になりながら自分のバカさ加減を恨めしく思ってしまう優麗。

 思ったことをそのまま口にしてしまい、明治に聞かれてしまったことを激しく後悔する。


「ええもう恩を売るとかそんな打算なことは一切考えず明治さんのお手伝いをいたしますですはい」


 句読点すらつけないような早さで、慌ててまくし立て、何とか明治の機嫌をこれ以上損なわずに済んだようだ。

 明治が銃口を下に下ろしたことによって、ほっとする。


 そして優麗は明治の頼みごとを二つ返事で了承してその場から廊下の壁をすり抜けて姿を消した。

 

「何を頼んだんだ?」

 

 湊が聞いてくる。


「すぐに分かりますよ。さあ屋上へ行きましょう」


 そういって明治は湊を誘導して自分も屋上へと向かった。


 明治と湊は、もし読み違えてれば、誰もいない屋上で時間を食うことになってしまうと考えて、二手に分かれた。


 湊は西側階段から、明治は東側階段からといった単純な挟み撃ちの要領である。中央階段と非常口には各小隊が張り付いているので、何かあれば連絡入る手筈となっている。


 優輝が屋上を選ばず、校内を駆けていくのであれば何処かの網に引っかかるはずだ。


 そう考えての行動である。


 明治にも湊の小隊の何人かが護衛、もしくは援護するために付けられており、四人行動となっている。

 東側階段に辿り着きゆっくりと上がっていく。今のところ特に問題はなく、時折お互いの場所を知るために湊から無線で連絡が入ってくる。


 あちらも順調に行動しているようだ。


 階段を登りきったところで人影が明治の前を横切る。

 明治は瞬時に手にしたマシンガンを構え銃口を向けてその相手を補足するべく、追いかけた。


 チラリとしか見てはいなかったが、優輝と同じような茶髪が目に入ったのだ。


「待ちやがれ! 変態野郎!」


 相当頭に来ているのか、言葉がかなり乱暴になっている。

 全くためらいもせずにマシンガンの引き金を引き、轟音を鳴らすが、相手には全く当たらない。


「弾をすり抜ける特技でもあんのかよ! あの先輩は!」


 舌打ちをもらし、一度銃口を下げて距離をつめることを優先し一気に駆け出していく。

 最初の一歩を踏み出した時、足に何かが引っかかって、明治は盛大に前のめりに倒れていく。 

 

 と、そこへ絶妙のタイミングでいきなり目の前に女生徒が現れて、明治とぶつかり合い、巻き込まれて明治と倒れることとなった。


「な、何が……いってえ……」


 頭をチカチカするが、いまはともかくあの悪魔を一刻も早く倒さねばならないと、急いで床に手を着き立ち上がろうとしたが、床の堅い感触ではなく、なにやらふにゃりとした柔らかい感触に手の平に包まれる。


「なんだ?」

 

 目線をやると、自分は身も知らぬ女生徒の上に乗っかっており、そして手の平は見事にその女性の胸を包んでいる状態である。


「あ、あ、いえ、その」

「ああん! 殿方に胸を触れられましたわ」


 なにやら恍惚の表情を浮かべながる女性。

 頭の中は色々とパニックである。


「ははは! 明治君! 僕からの贈り物その2を受け取ってもらえたようだね! 遠慮することはないぞ! 彼方君には内緒にしておいてあげよう! 男と男の約束だ!」


 放送室はすでにもぬけの殻のはずにも拘らず、再び校内放送が響き渡る。

 これだけ大声で喋っておきながら内緒も何も無い。

 自分の足をとられた原因を見てみると、ロープが廊下の端から箸までピンと張られており、明治はますます怒りを溜め込んでいく。



「愛人の座というのもまた甘美な響きよね」

「あんたも一体何考えているんだよ!」

「いやあ、いいバイトがあるって紹介されてついね」


 すごく犯罪の匂いがするので追求するのをやめた。

 ともかくこの女性に関わっている暇などない。すぐに立ち上がり、屋上へと向かう。


 屋上へ向かう途中、ちょうど湊達の姿も見えて、ここで二人は再び合流した。

 湊のほうもなにやら青ざめている表情をしつつ、相当怒りを溜め込んでいるようである。


「明治君……やつの罠にかかってしまったか?」

「……あの校内放送を聞いていましたか?」

「私もな……あんな古典的な手に引っかかるとは」


 二人は沈黙する。

 言葉にしなくてもお互いが何をしたいかなど分かり合える。

 あの馬鹿を完全にこの世から消し去ってくれる。そう心を一つにして、屋上の扉を開いた。



 朝の爽やかな風が、明治と湊の体を優しく撫でる。しかし、二人の心境はそんな優しさとは無縁の状態だ。ようやく追い詰めた宿敵を前に二人は銃口を向ける。


 優輝は屋上の端にある柵に背中を預けて、まるで二人がここまで来るのを待っていたかのように大胆不敵な笑みを見せている。

 二人の構えているマシンガンの銃口など取るに足らないといわんばかりだ。

 その態度が余計に明治と湊を苛立たせている。


「ここまでだな。優輝。遺言があれば聞いておこう」

「ふ、湊。僕が遺言を言う時は君の胸の中でと決まっているんだよ?」

「その行為は諦めてくれ。私の胸は本当に愛するもののためにあるのだ」

「後輩の前だからって照れなくても言いと思うぞ」


 どこまでもお花畑な思考をもつ優輝を相手に、これ以上は問答無用とばかりに引き金に力を入れようとするが、そのタイミングの虚をつくかのごとく、勇気は明治に話しかけた。


「さて、僕の贈り物は気に入ってもらえたかい? 明治君も男だ。多少は色々と遊びたくなるときもあるだろ?」

「先輩。それある意味、女性の尊厳を踏みにじる犯罪の中でも最低のランクに位置することだと知っていてやっているんですか?」


「……ほう……中々フェミニストな発言だね。しかし安心したまえ、金銭的な取引は一切していない。それなりの見返りは用意したが、どこまで許容するかは全て彼女の意志に任せてある。僕としては手が触れ合う程度や、よくて後に一度だけ健全なデートをしてもらえればそれでよかったんだがな。女性慣れしていなさそうな明治君にとってはいい練習になるだろ? デート初体験であたふたして彼方君に格好悪いところを見せる前に、一度女性とのデートというのを体験するのも悪くはなかろう」


「大きなお世話ですよ! まあ、とり合えず僕の心の平穏を取り戻すために死んでください」


 明治のほうも引き金に力を入れていく。


「ふむ、二人とも一体何をそんなに怒っているのか分からないが、僕は怪我をするわけにはいかないのでね。ここは逃げさせてもらうよ!」


 そういって柵に手の平を乗せて、ひらりと柵を越え地上を目指そうとしたが、それは起きなかった。

 石のように優輝の体が固まり、動けなくなってしまったのだ。


「……おかしいな……体が動かないんだが……」

「優麗。姿を見せてもいいぞ」


 スーッと優麗の姿が明治達の上空に浮かび上がる。


「優麗君の仕業だったのか。あははこれはマイッタネ。一体いつからそこに?」

「初めからですよ。ずーっと屋上にいました」


「……姿を隠していたのは何のためかね?」

「だって先輩優麗の力を知っているから、姿を見せてたら僕達が来る前に逃げるかもしれなかったじゃないですかー」


 あははは、と笑い声を上げながら、明治は快活に答える。

 そして、湊のほうも明治が優麗に先ほど何を頼んだのか、ここでようやく把握する。


 優輝は内心さすがにあせる。体が動かせない以上、逃げ場も何もない。優麗の姿が見えなかったので、てっきり野次馬に混ざっていると考えていたのだ。


「これは一本とられたね。ふーむ困った」


 あまり困っているような口調ではない。

 長年この男と付き合ってきた湊は何かやばいと直感的に感じたが、何がやばいのか分からない以上、対策を練ることも出来ないし、明治達に忠告することも出来ない。


「知っているかね? 彼方君。明治君はここへ来る途中、君以外の女性の胸をそれはもう涎をたらしながら嬉しそうに何度も揉んでいたのだよ? 証拠もしっかりと取ってある。金縛りを解いてくれたら見せて上げよう」


 湊は舌打ちをして、明治は青ざめる。

 優麗の顔が可愛らしい女の子から夜叉に移り変わり、髪の毛が一気に伸びていく。

 いつの間にか白い死に装束のようなものを来ており、まだ日は高く、夏に向かっている時期だというのに、屋上は零下に支配されたような温度に感じられた。


「明治さん? 本当ですか?」


 いつの間にか優麗の髪の毛が体にまとわりつき徐々に締め上げられていく。


「ま、待て! 優麗! 先輩の口車に乗っちゃ駄目だ! いつものお前にもどれ!」

「明治さん? あたしは本当ですか? と聞いているんです」


 胸を触った事実はあるものの大分脚色されている。しかし、それを1から説明している暇はなく、考えがまとまらず一瞬沈黙してしまう。


「優輝。貴様何を考えている?」


 湊は優輝に止めを刺そうにも優麗の髪の毛が邪魔で狙いが付けられない。

 

「なあに、僕だけ痛い目に合うのは嫌と言うことさ」

「こ、この大馬鹿者が!」

「明治さんの馬鹿ーーーーーー!!!」


 湊と優麗の叫び声が屋上に木霊すると同時に、優麗の力が解放され校舎が一気に崩れていく。

 校門の前にいた野次馬達は気楽そうに拍手などして喜んでいた。




                ───────────────



 崩れた校舎のガレキから、ズタボロの状態となった湊がゆらりと立ち上がる。

 傍に倒れていた優輝の胸倉をつかみ自分のほうへと一気に引き寄せる。


「ははは……おい優輝。覚悟はいいか?」


「君はどのような姿になっても可愛いね」

 

 そういうと引き寄せられたことを幸いにとほっぺにキスをする。

 

「いい加減にあの世へいけ!!」


 凄まじい右アッパーが優輝の顔面を襲って優輝は天高く舞い上がり、きらりと星になった。


「明治さんの浮気者! 明治さんの浮気者! 明治さんの浮気者!」

「ゆ、優麗。分かった。分かったから力を緩めてくれ。く、苦しい」


 髪の毛を全身に絡みつかされて、明治は理不尽な理由によって苦しい思いをしている。

 これにより、幽霊部の名前が色んな意味で学校中に知れ渡ることとなった。


 ちなみに当たり前のことだが、本日は休校である。


 

 とりあえず一区切りです。ここまで読んでいただいた読者様にまずはお礼を。

 ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

 

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