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第十五話


 いつの間にか、四人は校庭に移動しており、その真ん中にたたずみ睨みあっている二人の男女。

 一方は、容姿端麗、眉目秀麗といった言葉がふさわしい端正な顔立ちの少年であり、超巨大企業の御曹司でもある三崎優輝。


 もう一方は、漆黒の黒髪に、普段であれば、星々の光をちりばめたような綺麗な瞳を持つ少女なのだが、今はその瞳の色は赤く妖しく輝いており、漆黒の髪は生き物のようにうねうねとうごめいている。

 足はなく、ぷかぷかと浮いている姿は幽霊そのものですでに多くの人にその存在を受け入れられている人物だ。

 名前は彼方優麗。


 二人から放たれる雰囲気は、まさに決闘者にふさわしく、優輝も幽霊だからと言ってひるむ事無くしっかりと相手のほうに体を向けている。

 そしてその表情からは、笑みが漏れており、余裕すら見せ付けているようだ。


「湊先輩……えっと。何が起きたか僕に分かりやすく説明してくれますか?」


 明治が隣にいる一つ上の少女に問いかける。

 その少女も明治と同じようにげんなりとした表情のまま、現実逃避をしたいといわんばかりに顔を覆っている状態だ。


 校庭にはいつの間にか多くのギャラリーが出来ており、注目を浴びている。


 そんな中、噂が噂を呼び次々と人が増えていく。


「ちょっと何が起きたのよ? 何で優麗ちゃんあんなんなっているの?」


 耳を澄ますと聞き覚えのある声がしてそちらの方向に目を向けると、クラスメートの女子が一番の事情通と思われる金崎春江に質問をしていた。


「そ、それがあたしにも何が起きたのかわからなくて……どうも三崎先輩が田井正君のことが好きで手を出したらしくて、それに怒った優ちゃんが三崎先輩に復讐しようとしているみたいなの」


 良くわからないといっておきながらも、捏造した事実を真実のように周囲に振りまく春江。


「オロオロしながら捻じ曲げた事実を振りまくなよ。三流ゴシップ記者」

「でも、田井正君を巡っての喧嘩というのは事実でしょう?」


 ふふんと笑みを浮かべる春江。


「ま、まさか田井正君って……へー道理でねー」

「ま、まあ恋愛の形は様々だし……う、うん別にいいんじゃないかな」

「キャーまさかの寝取られ展開! しかも相手は三崎グループの御曹司。タマリマセンナア」


 とても不名誉な噂があちこちで流れているのは気のせいだと思いたい。むしろ気のせいであってくれと心底願う明治。


「で、でもさ市ヶ谷先輩はどうなるの? まさか男に婚約者を寝取られるなんてねえ」

「ま、彼女の家は金持ちだし? 男の一人や二人くらいいいんじゃない?」

「婚約者を男に寝取られる金持ち美少女……これはいいわね」


 同じくとても耳にしたくない噂があちこちで飛び交い、コメカミをヒクヒクとさせている市ヶ谷湊。

 やはりあの男は息の根を止めておくべきだったと心底後悔している。


 昔からあのような言動と行動で大騒ぎを起こしては周りを巻き込み、そのとばっちりが湊へ必ず降りかかる。いい加減嫌気がさして、どこか落ち着ける場所を探していたのだが、どこへいっても必ずと言っていいほど自分の前に現れる。

 おそらく、三崎グループの情報網を使い、徹底的に調べているのだ。

 

 湊のほうも自分の家の諜報を使い、なんとか切り抜けようとはしているのだが、いたちごっこになりつつあり、きりがなくなってきている。おまけに、互いの両親は若い者に任せようなどと言って、ほとんど感知していない。両家の親が公認ということでますます厄介なのだ。


 後輩にすでに迷惑がかかっているのは一目瞭然である。ある程度は予想していたが何故にここまで大事になるのだと疑問符だらけだ。


 視線が明治と合って、二人揃って仲良く肩を落とした。



「ふふふ、彼方君。僕は女性相手といえども手加減はしないよ? 無茶なことはやりたくはないが、三崎グループの人間として負けるわけにはいかないのだ」


 腕を組みすでに勝ち誇ったような笑みと共に、優麗を挑発する優輝。

 彼自身三崎グループの人間として様々な教育を受けていることもあり、スポーツにおいてはその万能さを発揮している。

 また勉学のほうもかなり優秀で、テストに関しては、婚約者である湊とつねにトップ争いをしているほどだ。

 例え相手が幽霊だとしても臆する理由は何一つない。


「あたしの明治さんを誘惑するものは男性と言えども放置しておくわけには行きません。幽霊の恐ろしさをその身に刻み付けるがいいです」


 一言で言うならばとても怖い。

 髪の毛が優麗の怒りに呼応するかのようにうねうねと動き回り、今か今かと、待ちきれない様子である。赤い瞳はさらに輝きを増しており、また優麗の衣服もゆらゆらと陽炎のように動いている。


 当人同士にとっては凄まじく真面目な様子ではあるが、見ている方は明治と湊を除いてのんきなものである。中には賭け事さえしている輩もちらほらと見えており、この学校の特殊性を改めて思い知らされた。


「さあて、いよいよ世紀の対決です。超高スペックを誇る三崎グループの御曹司である三崎優輝。対するはこれまた超高スペックをほこり、一気に峰ヶ崎高校のアイドルの位置に上り詰めた彼方優麗。この戦いどう見ますか?」


「そうですね。一つ言えるのは戦いが激しくなれば優麗ちゃんの……色々な悲鳴や色々な姿が見られるかもしれません」


「……そ、それは……き、期待してよろしいのでしょうか。と、特に色々の部分を?」


「ええ、私はこの日のために高性能録音機とカメラを用意しておきました。こ、これはもう三崎先輩を応援するしかありません」


「う、うまく取れたら私にもおすそ分けを……」


「少し黙っていて下さい。ここから先はあまり見逃したくはないので」



 いつの間に用意されていたのか、実況席では明治のクラスメート二人がマイクを片手に全校生徒に伝わるよう喋っている。

 

「明治君……君のクラスはいつもあんなのなのかね?」

「言わないで下さい」


 握りこぶしをわなわなと震わせて怒りに堪える明治。

 同情するような目つきで湊は優しく明治に声をかけた。


「私のクラスも似たようなものだ。あまり気にするな……」


 そして決闘が開始された。


 初めに動いたのは、優輝のほうである。

 いつの間にか手に持った薙刀なぎなたを突き出すような構えで、一気にトップスピードに乗り優麗に肉薄する。

 

 優麗のほうは相手の動きに合わせるかのように、髪の毛を四方から襲わせるが、優輝の身体能力はかなりのもので、右へ左へと見切ったようにかわし、間合いに入ったところを大きく振りかぶり、一直線に振り下ろした。


「許せ……」


 ポツリと一言を漏らし、優麗の体を切り裂いていく優輝。

 すでに勝ちを確信しているかのような表情である。


 しかし、あまりにも手ごたえがなさ過ぎて、薙刀が地面にたたきつけられ、その衝撃で手がしびれてしまう。


「なあああななな! 手、手が痺れる~……なんで……」


 視線を上げると赤い瞳をした優麗がニコリと微笑んでいた。

 優輝は額から汗が流れ落ちるのを自覚し、さらには寒気もセットで襲い掛かってきた。


「あたしは幽霊ですよ? すり抜けは自分の意思で自由に出来ますので」

「……こほん……あー彼方君。物は相談なんだが、ここは一つ引き分けとしようじゃないか」


 その答えに優麗は行動をもって答えた。

 髪の毛が優輝の体にまとわりつき、ゆっくりと締め上げられていく。


「ま、待て! 彼方君! ぼ、僕は三崎グループの後継者だ。負けるなどということは許されない立場にある! いくらほしい?」


 いきなり買収をし始める優輝。

 

 どよめくギャラリー。


 見ていられないと言わんばかりに顔を覆っている二人の男女。

 先ほどまでの自信はどこへやら、なんとかこの場を切り抜けようと、優輝は口を動かすが、全く効果がない。


 優麗はニコリと微笑みながら髪の毛に力を入れていく。


「人の恋路を邪魔するものは……幽霊に呪われて死んじゃえばいいんです!」


 そうして、優輝の体は天高く、それはもう見えなくなるほどの高さに舞い上げられて、そして地面にめり込んだ。


「決着! 勝者。彼方優麗!」


 実況の言葉と共に大歓声が沸き起こる。

 どこに盛り上がる要素があったのかさっぱりとわからない明治と湊。


「おおっと? ここでなんと二年生のギャラリーが、地面にめり込んだ三崎先輩を埋めていくーこれはどういうわけでしょうか?」

「恐らくは、リア充死ねと言うことなのでしょう。経済力に加えて、市ヶ谷先輩が許嫁など私だって認めませんよ」

「一番恐ろしいのは、恵まれない人の嫉妬ということですね。それでは本日はこれでお別れです」


 実況が締めをして、決闘はあっさりと終わりを告げた。


「あのまま息の根が止まってしまえばいいのだが」


 湊がつぶやいた言葉は聞かなかったことにしようと明治は思った。 

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