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第十四話

 部員の一人が決まり、あと一人決まれば正式に部活として認められることとなり、優麗は上機嫌だ。 

 対する明治は優麗の意外な一面を見せられて、少々困惑気味でもある。


 それに、なぜに超大金持ちのお嬢様である市ヶ谷湊がわざわざこのような部を選んだかそれも気になるのだ。

 軽く聞いてみたが、「怪談話が好きだから」の一言ですまされ、それ以上追求できなかったが、どうにもすっきりしない。


「これで部員はあと一人というところか」

 

 教室へ戻る途中、湊がそう言ってきた。

 

「ええそうですね。誰か心当たりはいますか?」


 明治が訪ねると、港はあごに手をやり、思案顔になる。

 何人かの心当たりはいるようだ。

 しかし、一応条件があるのでそれを考慮せねばなならないこともあり、なかなか見つからない。


「女性はこれ以上だめですよ?」


 優麗が釘をさす。

 どうにも先ほどのことが尾を引いているようだ。

 あまり明治に女性を近づけたくないのだろう。嫉妬と言えば可愛いものだが、明治にとっては笑い事では済まされない。 

 今後不用意に女性と二人きりになるのは出来るだけ控えようと心の中で誓う。


「一人……心当たりはいるが……というより私がこの部に入ったことを聞きつければ必ずやって来る人物がいるんだ」

 

 あまり嬉しそうな顔ではない。というよりもむしろ迷惑そうな顔つきである。


「たぶんお前達にも迷惑がかると思うが」

「優麗の相手以上に苦労する相手なんていませんよ」


 明治がポロリと本音を漏らす。


「明治さん……そんなひどいこといわないで下さいよ……あの夜あたしを押し倒して可愛いよって言ってくれたのは嘘だったんですか?」

「嘘を言っているのはおのれだろうが! 捏造まがいなことを口走るな! 僕はそんな事を一言も言った覚えはない」

「押し倒した事実は認めるのか……やるな明治君」

「いえ、そ、そうではなくてですね」


「あ、今赤ちゃんが動いた」


 手をおなかに押さえる優麗のあたまにポカリと拳骨が飛ぶ。


「い、痛いです」

「あほな事を言うな。僕の人格が疑われるだろ」


 そんな二人のやり取りを見てクスクスと手を口に当てて楽しそうに笑う港。

 

「仲がいいんだな君たちは」

「はい!」


 優麗は元気良く答えるが、明治は釈然としない表情だ。なにやら言いたいことがあるのだろうが、取りあえずは何も言わないと言うことを選ぶ。

 

「まあ、帰りにでもその人物を紹介しよう……あまり気が進まないが……」

「あの無理しなくても……」

 

 本当に気が進まない面持ちな湊を見て、明治は少し遠慮する。


「なにせっかくだし少し手伝わせてくれ」

「分かりました。でもこっちでも何人か探してみますから」

「ではな」


 そういって彼女は二年の校舎へと向かい姿を消した。

 

「どんな人なんでしょうね……」

「さあな、授業が始まるからこっちも早いところ教室に戻るぞ」


 そうして教室の扉を開くと、男子生徒達が死屍累々と横たわっているのを目にする明治。

 まるで悪霊に襲われたかのように真っ青な顔でみんなピクピクとうごめいている。


 

「なななな……」

 あまりな光景に二の句が告げず、教室の入り口で立ちすくんでしまった。


「たーいーしょー」


 いきなり後ろから声をかけられて、心臓が跳ね上がる。

 髪の毛がぼさぼさな状態で、クラスメートの一人がいきなり声をかけてきたのだ。


「驚かすな!」

 言うと同時にハンマーで殴りつける。

 そのまま男子生徒はパタンと廊下に倒れた。


「こ、この惨状は一体……まるで悪霊が襲来したような状況ではないか」

 

 スーッと優麗が離れていく。

 

「金崎説明してもらおうか?」

 

 どうやら女生徒に限っては全員無事なようだ。

 一番事情に詳しそうな金崎春江にに話を聞く。


「えっとね。田井正君が女の子と二人きりになったあと優ちゃんが手当たり次第に暴れてこうなったの」

 

 キャハッと楽しそうに答える春江。ずばり正直に言われて、優麗は背後であたふたと慌てている。


「優麗……? 詳しく話を聞こうか?」

「……怒らないって約束してくれます?」

「ああ、もちろんだとも」

「久々に力を解放したために加減が聞かなくてですね」

「……下らん嫉妬で一々クラスを半壊に追い込むな!」

「嘘つきー怒らないって言ったじゃないですかー。でも男の嘘にわざと騙されるけなげな女ってのもいいですよね」

「わけのわからんことを言っておらんで、降りて来い!」


 すでに宙に浮かび上がり、明治の手から逃れている優麗。

 明治は手にハンマーを持って握り締めている。


「優しくしてくれるなら、その胸にとびこぶべッ!」

 

 小さなハンマーが優麗の頭を直撃した。


「しっかし派手にやったわねー。これはこれで珍しいものが見れたから良しとしましょう」

 

 金崎がうんうんとうなずいている。倒れている男子生徒たちの顔はなぜか幸せそうである。


「うちのクラスが特別な変態ばかりなのか、それともこれが普通なのか男は良くわからん」

 やれやれというように、次の授業のための準備をする。



               ────────────────


 放課後、先輩である湊と待ち合わせの場所に辿りついた明治たち。

 湊はすでに約束の場所の二年校舎で待っていたようである。


「お待たせしました先輩」

 明治たちが来るのを見て、視線を上げると、たんこぶだらけの優麗が目に入り思わず苦笑してしまった。

「何が起きたんだ?」


 お昼に別れて、後は授業を受けるだけの時間で、どうやってこれほどのこぶをこしらえたのか気になってしまう。


「えぐえぐせんぱーい……明治さんがいじめるんですぅ」

 

 甘えるように湊の胸に飛び込む優麗。そんな優麗を湊は優しく受け止めて後頭部を撫でる。


「やれやれ、何があったかは知らんが夫婦喧嘩もほどほどにな」

「夫婦じゃありませんよ」

「耐える愛って素敵ですよね」


 先ほどの涙は何処へやらけろっつぃた表情で、夫婦と呼ばれたことにとても嬉しそうな声を出す。

 この女はほんとに懲りないなと額を抑えるが、今は別のことを優先しなければならない。先輩である湊に余計な時間を使わせるわけにも行かず、本題に入る。


「それで? 先輩。心当たりの人物とは?」

「ああ、もうすぐ来ると思うんだが……本来ならば別の人間を紹介したかったが、あいつのことだもうすでに私がこの部に入っていることを聞きつけているだろう」


 言葉を聞く限り、その人物を湊はあまり紹介したくないようである。むしろ毛嫌いしているといってもいいほどの嫌悪感を示している。

 そんな人物ならわざわざ部活メンバーに加えなくてもいいとは思うが、せっかくだ。

 嫌なら断ればいい話である。


 特に問題はないだろうとタカをくくっていた。


「ふふふ……なるほど……湊さんが珍しく部活動をすると聞きつけてみれば、こういうことでしたか」


 いつの間にか来ていたのか、いきなり一人の男子生徒が現れた。

 まずその生徒の第一印象は凄まじく二枚目ということである。


 パーツ一つ一つとってみてもこれ以上ないくらいバランスが取れており、鋭い目にキリッと通った鼻筋。髪の色は、染めているのかそれとも他の理由からなのか分からないが、淡い茶色の髪をしており、身長も明治と比べてやや高いほうだ。


 スタイルのほうも足が長く、これまたスタイルのいい湊に負けてはいない。

 二人で並んでいるのを見るととても絵になるなあと思わず感心してしまうほどだ。

 しかし、湊のほうはあまり顔色が優れていない。


 むしろ、ため息を吐いて嫌悪感を隠そうともしていない。


「優輝アホ見たく格好つけていないで自己紹介したらどうだ?」

「おっとこれは僕としたことが……僕の名は三崎優輝みさきゆうき。そして彼女の婚約者でもある」


 ……さてこれは何といえばいいのか……いきなりの暴露発言に思わず言葉を失ってしまう。


「ふふふやりますね。でもあたし達も負けてはいませんよ。あたしの名は彼方優麗。明治さんの生涯にして唯一の女です」


 キラリと優輝の目が光り、優麗の視線と交差する。

 なにやらバチバチと火花を散らしているようである。


「なるほどそう来たか……ならば言い換えよう。僕の名は三崎優輝。市ヶ谷湊の処女を頂くことを約束されている唯一の男だ」

「むむむ……あたしの名は」

 

 きっちりと二人の頭にハンマーが振り下ろされた。

 目から火花を散らし、地面に頭を抱えてうずくまる二人。


「何を下らん対抗意識を燃やしているんだおのれは!」

「何を下らない対抗意識を燃やしているのよあんたは!」


「何をするマイハニー。僕はただ自分の立場をはっきりさせようと」


 頭に大きなこぶをこしらえているにもかかわらず、けろりと立ち上がる優輝。頑丈なのか回復力が凄まじいのか、ともかく全くダメージにはなっていないようだ。


「せんでいい! 大体ね。私はあんたが婚約者だって事自体認めていないのよ!」


 見事なまでに二人の関係を表しているセリフが放たれ、明治は理解した。そして同時に湊にたいしてなぜか少しだけ親近感を覚えてしまった。


「なるほど……よーくわかりました……」


 明治はなぜ、湊がここまで嫌悪感を示していたのか、迷惑そうに顔をゆがめていのか直感的に理解して、ポツリとつぶやくように湊に向かって理解を示す。


「分かってくれたか……まあそういうことなんだがなどうだろう? 反対してくれても一向に構わんぞ? と言うかむしろ反対してほしい。朝も昼も夜も、毎日毎日付きまとわれ安住の地がほしかったのだよ。びしっと言ってやってくれ。部活のメンバーを決める権利は君たちにある。あとは部室さえ決まれば……こやつから逃れられるのだ」


 三崎グループ。こちらも市ヶ谷に負けないほどの資産を持つ企業である。恐らくは親のしがらみか何かで一応は婚約者にされたということなのだろう。

 そして、あの性格からすると湊は相当に苦労しているようだ。


 そのために、部活と言うのを選び、ある意味逃げ場所を作って安住の地を得たかったに違いない。

 自分達の部活を選んだ理由は、出来たばっかりで、余計な人間関係のしがらみに捕われないというのが理由の一つに上げられるのだろう。


 そして部活に所属した事を知れば、必ずこの男がついてくるが、そこは先も湊が言ったように部活のメンバーを決める権利はこちらにある。ここで拒絶すれば、一時でもこの男から離れられると考えたのだ。


「分かりました。拒否しましょう。部活メンバーは別に集めますので」


「なぜだ! この美貌! そして経済力! ついでに言えば成績優秀である僕を拒否するだと? 一体何の権利があってそのようなことを言う?」


「部活をするのに何一つ必要のないことを力いっぱい自慢されてもこっちが困ります! それに部活創設メンバーとして拒否する権利はこちらにありますよ。大体怪談話を話せるんですか?」


「ふふふ、この僕にできない事など何一つない。怪談話か……では話してやろう。聞いて驚け」


 ずいぶんと自信があるようだ。湊は少しだけ不安そうな顔つきである。条件をクリアーしてほしくないのだろう。


 優麗のほうはわくわくとしながら目を輝かせている。存在自体が怪談のやつが何でそんな楽しそうに出来るんだよと突っ込みたくなるが我慢して相手の話を静かに聞くことにした。


「では、これは僕の友達が体験したことなんだがな」


 雰囲気を出すためなのか、少し声を抑えてゆっくりと話し始める。


「ある日僕の友人は森の中を散歩していた。しかし、やがて日が暮れてそろそろ戻ろうかと思った時、道が分からなくなり森をさまようことになったのだ」


 なるほど、テンプレではあるが出だしとしてはまずまずだろう。

 そう思い静かに続きを待つ。


「いけどもいけども森から出られる気配はなくやがてあたりは真っ暗となる。ほーほーと何処からともなくふくろうの鳴き声が聞こえてくる。耳元で羽音が鳴り、前が見えない。友人は少しずつあせってくる。ともかく明かりが必要だ。方向感覚もすっかりなくなり、右も左も分からずに草木をかきわけとにかく歩く」


 そこで、優輝は一息ついた。

 雰囲気としては中々である。それなりの語り口調で、怪談話にふさわしい雰囲気をいつの間にか作り上げていた。

 優麗はもちろんのこと、明治もいつの間にか話に引き込まれており、優輝の話に耳を傾けている。


「どれくらい歩いたかは分からないがすでに歩く体力も失われ、気力もなくなり思わず森の中でへたり込む友人。そんな時ふと見上げると森の木々の向こうから明かりが漏れてきた。なんだろう? と友人はその明かりに誘われるように重い体を動かし、やっとのことでその明かりの場所に辿り着く」


 再び一息入れる優輝。

 喉が渇いていたのか、いつの間にかジュースを手にしておりそれを一口飲む。


「そこはなんと見事なまでの料理店であった。お腹が空いていた友人はこれ幸いにとその料理店に駆け込む。これで助かった……友人はそう思い料理店の中にはいると、立派なテーブルが用意されている」


 ん? とここで明治は首をかしげた。なぜかどこかで聞き覚えのある話だと感じたのだ。 

 チラリと視線をやると湊が手で顔をおおっている。


「そこへ座るとウェイターがやってきて友人に挨拶をした。そして友人にまず着ている上着を脱ぐように指示してきたのだ」


 おい……ちょっと待て……それ……。


「友人はサービスが行き届いていることに満足して上着を預ける。すると今度はシャツを脱ぐように指示を受ける」


 ……間違いないこいつは……。


「ずいぶんと不思議な要求をするもんだなと友人は首を傾げるが、早いところ料理にありつきたいので素直にシャツを脱ぎ上半身を裸にする。するとこんどは下のズボンを脱ぐように言われる友人」


「はい結構です」


 明治は優輝の話をいきなりさえぎり、ジト目で優輝の事を見ている。


「ふっどうした? あまりの怖さについていけなくなったのかね」

「注文の多い料理店のパクリはいけません。そもそもそれは怪談じゃないでしょうが!」

「……な、な、なんのことだね? ぼ、僕が他人の話をパクるだなんて」


 見事なまでの動揺である。ある意味正直者ともいえなくもないが、これは怪談ではない。

 せめて注文の多い料理店をそのまま話すのならともかく、ばれないようにオリジナルティを加えたつもりなのか余計にたちが悪い。


「そ、そうですよねパクリはいけませんよね」


 優麗が追従するが、全く気付いていなかったところを見ると説得力が皆無である。


「僕の完璧な話がいつの間にか広まって誰かがそれを元に創作したんだろう。うんそうだ」

「先輩が生まれる前からその話はあります! 無駄な抵抗ですよ」


 湊を見ると肩をすくめている。こういうやつなんだと言っているような気がした。


「そいうわけで入部試験は残念ながら失敗ということですね」

「いつ失敗したのか是非聞きたいね」


 すぐに立ち直って居直る優輝。


「たった今、失敗したばかりだろーが! 鳥頭か!」


 先輩であるはずにもかかわらず思わず大声で怒鳴りつけてしまう。しまったと思い、口をふさぐ明治。

 だが、優輝は大して気にしていないようである。


「いつ失敗したのか証拠を見せてもらおうか? 何時何分何十何秒地球が何回回った時かも含めてな」


 瞬間、湊の長い足が凄まじい勢いで、優輝の側頭部を見事に襲う。

 片足で立っているにもかかわらず、大地をしっかりと踏みしめ、軸が全くぶれておらず、バレリーナもびっくりするほどのバランス感覚だ。


「貴様は何処の小学生だ!」


 物凄い勢いで頭から壁に激突して、そのままめり込む優輝。

 

「すまんな明治君。やはり君に迷惑をかけてしまったようだ」

「いえ、気にすることありません。多分先輩の蹴りがあと一秒遅かったら僕がやっていました」

「ふふふ、この程度で諦める僕だと思うなよ」


「すげえ回復力だな……」


 何事もなかったようにめり込んだ壁から抜け出し、髪を後ろにたなびかせる優輝を見て明治は思わず感心してしまった。

 そんな優輝に湊は嫌悪の表情を隠そうともせずに、はっきりと皆に聞こえるような声で優輝に自分の意思を伝える。


「あのな優輝……私はお前が嫌いだ」

「僕は好きだ」

「あたしは明治さんが好きです」

「お前はだまっとれ!」


 ちゃっかり会話に混ざる優麗を押さえて二人の会話に耳を傾ける。


「わかったよ……湊」

「分かってくれたか」

「君は一時的に気の迷いを起こしているんだね」


 何の事を言っているのかさっぱりと要領がつかめない。しかし、嫌な予感は収まらない。

 

「おい優輝……なにを言っている」

「全部僕に任せておいてくれたまえ。明治君といったね」


 そういうと明治にいきなり向き直る優輝。


「な、なんですか?」

「なるほど……顔の作りは僕ほどではないにしろ、まあまあの部類に入るな……目つきがやや悪いが」


 優輝はつかつかと明治のほうへ歩み寄りながら、明治への評価をする。

 


「ほっといてください」

「どっちにしろ君が邪魔な存在というわけだ」


 明治も要領が全くつかめない。だが、聞こえてきた言葉はとても不穏に感じた。「邪魔な存在」などと言われれば、相手は間違いなく自分に対して好意を抱いてはいない。それくらいはさすがに分かる。


「君に決闘を申し込もう!」


 ビっと指を明治にさして、いきなり妙なことをのたまう優輝。明治の思考はますます混乱するばかりだ。

 決闘ってなんだっけ? と思ってしまうほどの急展開についていけない明治。

 何故にいきなり決闘などと言う単語が出てきたのかさっぱりである。


「何故そうなるんですか!」


 当然の疑問だ。いきなり現れて、いきなり馬鹿なことばかりして場をかき乱し、挙句の果てに決闘……流れが全く読めない。


「湊、君はこの男に心を奪われたんだね」

 

「おい……優輝」

 抗議の声を上げようとした湊の声を手で制する。

 タイミング的に見事に虚をつかれ、一瞬沈黙してしまう。


「まあ、長い人生だ。ごくたまに一時的な気の迷いで芋の煮っ転がしを食べたくなることもあるだろう。なに、僕は心が広いからね、それくらいなら許容するさ。そういうわけで明治君。君に決闘を申し込むことにした」

「どういうわけなんですか! 全然意味が分からん!」


「黙れ! 人の婚約者に手を出しておきながら白を切るなどお天道様が許しても、この僕が許さん!」


 先ほど「心が広い」といった自分のセリフをすでに忘れているのかのように凄まじい形相で明治を睨みつける。

 なにやらとても凄い勘違いをしているようなのだ。なんとかして誤解を解かねばとんでもないことになる。主に隣にいる少女が……。

 ちらりと視線を向けると、濃い紫色のオーラを体中から吹き出ており、ついでに髪の毛が生き物のようにうごめきつつある。


 思いっきり、優輝の言葉を間に受けているようだ。

 アホ二人が集まるとここまで収拾がつかなくなるのかとアホの怖さを改めて思い知る。


 そして、優麗の髪の毛が明治の体にまとわりつき一気に引き寄せられた。

 

「お、おい優麗」


 いきなり目の前に夜叉が現れて、明治は逃げ出したくなったが、髪の毛に捕われていて逃げ出すことが出来ない。手加減されているのか強く締められているわけではないので、それほど苦しい思いをせずに済んでいるが、決壊寸前のダムを相手に下手に刺激してはどうなる分かったものではない。


「明治さん? どうしてあたしを捨てるの?」


 色々と過程が省かれている。というより、方向がとんでもない方角に向かっている発言である。

 なぜに、湊が明治に惚れているという勘違いから明治が優麗を捨てると言う結論に至るのか物凄く聞きたいが怖くて聞けない。


 言葉一つ間違えるだけでとんでもないことになるのは目に見えている。ゆえに明治はさて、どう説得しようかと悩んでいたが、空気を読まないもう一人のバカがこの場に存在しているのを忘れていた。


「おい、そこの幽霊少女よ。明治君との決闘は僕が先約だ! 余計な手出しは今は控えてもらおうか」


 ギラリと幽霊の赤い瞳が優輝をとらえる。

 しかし優輝は全くひるまずにむしろ優麗を逆に睨みつけているようでもある。


「先輩? 今、明治さんと大事な話をしていますので邪魔しないでいただけますか?」

「残念ながら、今、僕達の邪魔をしているのは君のほうだと思うが? 彼方君」

「あたしは明治さんとお話しをしているんです」

「ほう奇遇だな。僕も明治君とお話をしたいのだが?」

「明治さんはあたしのものですよ?」

「そんな事誰が決めたのかね? 個人が個人を所有するなど今の日本では認めらていない」


 話がまたまた変な方向へとそれている。

 明治の体から優麗の髪の毛がスーッとひいていき、明治は体の自由を取り戻した。

 しかし、今度はその髪の毛が別の方向へと向いている。


「明治さんを奪おうとするものは許せません」

「なるほどつまり僕に決闘を申し込むわけだな。よろしい受けて立とう」


 バチバチと火花を散らしているバカ二人に、頭を抱えてしまう明治と湊であった。


 

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