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第十三話

 「これでよし。あとはどれだけ人が集まるかだな」

 

 学校について、部活員募集用の掲示板に張り紙を張る二人。

 優麗は期待するようなまなざしで、その張り紙を見ている。


「100人くらい来てくれるでしょうか?」

「そんなに集まるはずがないだろ」


 小学校に上がる前の幼稚園児のような発言をする優麗。

 怪談話をまともに三つも話せる高校生がそんなにいるとは思えない。だからこその制限なのだ。

 二人はそのまま教室へと向かう。


 二人がいなくなったあとに、一人の女性がその張り紙を見て、たたずんでいたことに明治達は全く気がつかなかった。


 すでに多くの生徒達が教室でがやがやと騒がしそうにいろいろな話をしている。

 

「おはよー優ちゃん」

「おはよーございます春ちゃん」


 教室の入ると早速金崎春江が朝の挨拶をしてきた。

 早速メモとペンを取り出し、優麗に質問をする。


「部活決まった?」

「ええまあ、幽霊部にしました」


 さすがの春江もこれには沈黙せざる終えなかった。

 何か優麗なりのジョークなのだろうかと頭に?マークを浮かべる。

 

 優麗はとり合えず一通りのことを説明して、ようやく納得してもらえた。


「なるほどねー。いいんじゃない? 優ちゃんらしくて。でもメンバーが集まるかねえ」

「きっと大丈夫ですよ」


 根拠のない自信を見せ付けられて春江は思わず苦笑してしまう。

 

 明治はそんな二人から離れて自分の席に向かう。すると、そこへ隊長が現れて明治に声をかけてきた。

 そして無言で手を差し出す。

 何のために手を差し出したのか、隊長の意図がつかめない。またなにか馬鹿な要求でもしてくるつもりなのだろうと、無視するが、肩をつかまれ歩みを止められた。


「なんだ?」

「例のものは?」

 

 そう言われてようやく思い出す。優麗の家での写真を要求されていたのだ。

 すっかりと忘れていた。


「すまん忘れていた」

 隊長がギラリと睨んできた。


「……あまり遅くなるとお前の身に不幸な事故が起こるかもな」


 不吉な一言を残して明治から離れていった。

 やけに殺気が含まれているなと身震いし、早いところ要求通りにしなきゃなと考え、ついでにいい小遣い稼ぎになるし、これくらいいいよなと自分への言い訳をする。



 お昼休みに入ると、優麗がいつものように弁当を持ってきた。

 普段であれば、ここでバトルが開始されるのだが、朝のこともあり、血の涙を流しながら大人しくしている男子どもの圧力に耐えながら、一緒に食事をする明治。


 そんな明治の教室に一人の女生徒が尋ねてきた。


 名前を呼ばれて席を立つ明治。

 明治だけが呼ばれたので優麗がついていくことはなかったが、優麗は気が気でなくなる。


「どどどどどどどうしましょう! あ、明治さんが! ああああああきあああいあきちゃんががが」


 凄まじいまでのパニックだ。


「ちょっとちょっと! 優ちゃん落ち着いて!」

 

 春江が慌てて宥めるが全く効果がない。


「おおおおおおおおちっちっちっちんんちん」

「優ちゃん危険な発言してるから! やばいから! 深呼吸してって幽霊だから息してないか」


 目をぐるぐると回しながら、ついでに体を天上付近まで浮かばせ体ごとぐるぐると回っている。

 さすがに手が付けられない状態である。

 突如ピタリと動きが止まり目に見えるほどの怪しげなオーラを撒き散らす優麗。


「ふふふふ……何者であろうと明治さんを奪おうとする者は許せません……こうなればあの女に取り付いて、毎夜枕元に立ち精気を吸い取り、殺してやりましょう」


「ひいいいい優ちゃんが壊れたああ」


 涙を流しながら、地べたにぺたりと座り込む春江。

 冗談に聞こえないからなおさら怖かった。


「田井正。早く帰ってきなさいよー」


 


                ─────────────



 明治は校舎の人気のない場所まで、その女性に連れてこられていささか緊張気味である。

 全く見覚えのない女性なので、なおさらだ。

 心当たりがあるはずもなく、一体自分に何の用事だろうと首をかしげる。


 良く見てみると、以前屋上からの帰りに階段ですれ違った女性である。

 硬質な長くて黒い髪の毛に、切れ長の瞳だが、少し細長く冷たい印象である。背の高さとしては明治よりも頭半分低く、女性にしては身長が高いと思わせる。腰の位置がやや高めで、足が長く、スタイルはよく充分すぎるほどだ。


 このような高スペックの女性が一体自分に何の用事なのか心当たりがさっぱり思いつかない。


「ここらあたりでいいか」


 女性は唐突に言うと足を止めて、明治に向き直る。

 整った端正な顔立ちは、美人と言うのにぴったりな表現で少し気後れしてしまう。


「まずは自己紹介からだな。二年の市ヶ谷湊いちがやみなと。よろしくな」


 先輩であった。どうりで見覚えがあるはずもない。

 向こうが名乗ったからにはこちらも名乗らなければならないのが礼儀と言うものである。


「あ、えっと……一年、田井正明治です。あ、あの何の用事でしょうか?」

 

「ふふ、そうびくびくしなくてもとって食いはしないよ。君の彼女じゃあるまいし」

 

 彼女とはもちろん、優麗のことをさしている。否定をしたいが、今はそこを話題にすべきではない。それに彼女は「市ヶ谷」と名乗ったのだ。

 そのことに明治は気をとられる。


「市ヶ谷って……あの?」


 噂には聞いていた。超巨大企業の市ヶ谷グループ。そこのお嬢様がこの学校に通っている。

 事実であり、明治も何度かその噂を耳にしてはいたが、特に興味を抱くこともなかったので顔などは全く知らなかった。


「そうだ。その市ヶ谷だ。驚いたか?」

 

 肩にかかっている髪を軽い仕草で、後ろになびかせ腕を組む湊。その仕草がとても絵になっており、さすがとしか言いようがない。


 そんなお嬢様であり、先輩である彼女が自分に何のがあるのだろう。ますますわけが分からず混乱する。


「ええ、まあ……それなりに」

「なんだつまらん。もう少し驚くと思ったんだがな」


 相手の予想外の反応に、本音が漏れているが、顔は笑っている。それほど気分を害したわけではなさそうだ。

 明治としては、すでに幽霊に取り付かれている状態である。それに比べれば他の出来事など取るに足らない存在で、感覚が多少麻痺しているのであろう。

 そんな明治の心情を見抜いたのか、湊は微笑んだままだ。


「牡丹灯篭という話を知っているか?」


 唐突に湊が問いかけてきた。聞き覚えがない名前である。

 さすがに灯篭と言う言葉は知っているが、牡丹灯篭などという単語はあまり聞いたことがない。おまけに彼女は話といった。何かの物語なのだろう。


 少し沈黙して考えるが、やはり答えは思い浮かばない。


「いえ知りません」


 そう答えると湊は少し眉をひそめ、意外そうな顔をする。


「おやおや、幽霊部の部員ともあろうものが、日本三大怪談の一つを知らないとはな」

「日本三大怪談?」

「そうだ。四谷怪談、番町皿屋敷、そして牡丹灯篭。これがいわゆる日本三大怪談といわれている話だよ」


 さすがに前者の二つは知っている。が、最後の一つであるである牡丹灯篭は聞き覚えがない。

 しかし、日本三大怪談と言っている以上そこそこ有名な話なのだろう。

 興味が沸いてきた。


「どのような話なのですか?」

「こんな真昼間から話す内容でもないが……まあいいだろう」


 そうして彼女の口から簡単に内容が語られていく。

 江戸時代、とある旗本の男と、女が互いに一目惚れをするが、女のほうが死んでしまう。

 なのに、なぜか夜な夜な、男の下へとその女性が足を運ぶ。

 知り合いが、その様子を見てみると、骸骨と楽しそうに話している男の姿が目に入り、慌ててその男に忠告する。


 男は近所の寺の和尚に助けを求め、魔よけの札を貰い受け女の侵入を阻むことに成功するが、知り合いの男に裏切られ、魔よけの札を取り除かれてしまう。

 そうして男はそのまま死んでしまうというお話だ。


 もう少し詳しく説明すると、お家騒動にまつわる話にもなってくるので長くなると最後に一言付け加えた。


「なんか……それって」

「まんま君たちだな」

 

 相手の言葉を先取りする湊。


「せ、先輩冗談でもそういうことを言うのはやめましょうよ」

 

 分かっている所詮は創作の出来事で、少しばかり怖い御伽噺のようなものである。

 しかし現状を見てみると、当てはまることがいくつかあり、寒気がする。


「一目惚れです」


 優麗の言葉が頭によぎる。

 牡丹灯篭も一目惚れから始まっている。

 いやいや考えすぎだろと頭を振る。


「あははははは、いやすまんすまん。すっかり怖がらせてしまったようだな」


 突然笑い出す湊。目には涙を浮かべている。

 どうやらからかわれたようだ。

 

「まあ、この話はいろいろと枝分かれしていてな。最後は男のほうも必ず死ぬんだが、少しずつ内容が違ってくる話でもある」

「というと?」

「男は知り合いに裏切られるというのが本筋なんだが、とある話では、どうしても女にあいたくなって自分から魔よけの札をはがし女の元へ足を運ぶというオチもあるのさ。ちなみにこのオチは男のほうは女の骸骨と共に発見されるが、安らかな笑みをたたえたままだそうだ」


「色々あるんですねえ」

「まんま君たちに当てはまるがな」

「だからやめて下さい! シャレになっていませんから!」


 笑いを噛み殺している湊を見て、明治は最初とはずいぶんと印象が違うなと感じた。

 どうやらこういったいたずらじみたことが好きな先輩のようだ。

 お嬢様と言っても自分達とは、大して変わらないんだなあと認識が改められた。


「それで? 私は合格か?」

「へ?」

 

 いきなりそのようなことを言われて、明治は思わず思考を停止させてしまう。

 何の事なのか把握できなく、頭を悩ませる。


「なんだ。鈍い奴だな。お前達の部に参加したいといってるのだよ」


 相手の言われて、ようやく合点がいく。

 

「そういうことでしたか」

「条件には『三つ怪談を話せるもの』とあったが、まず一つ目はクリアーでいいか?」


 充分すぎるほどである。自分が知らなさ過ぎたのかも知れないが、牡丹灯篭の話は明治にとっては新鮮な話であった。


「そうですね。OKですよ。じゃあ今日からよろしくお願いします」


 明治の言葉に湊は訝しむ。

 条件はまだ全て満たしていないのに、すでに部員扱いされたからだ。


「どういうことだ? 私はまだ全ての条件を満たしていないが?」

「まあ、それは優麗目当てで来るようなアホな連中を遠ざけるための方便でして、先輩ならいいんじゃないですか?」


 この先輩からはクラスの連中のような野次馬的な雰囲気は感じ取れなかった。ゆえに明治は二つ返事で快く了承したのだ。

 まあ、こんな部に入りたい動機は気になりはしたものの、それはおいおい聞いていけばいいだろう。

 ともかく今は普通に部員を集めることが最優先なのだ。


「ダメデス」


 突如、頭に響き渡るような声がして、思わず明治と湊は頭を抱ええ、声の出所を探す。

 見上げると、そこにはいつの間にか優麗がふわふわと浮かんでいた。

 しかし、いつもとなにやら雰囲気が大分違う。


 髪の毛は生き物のようにうねうねと動いており、目の色は赤く染まっている。

 身につけている服ですら、ゆらゆらと揺れており、その雰囲気はとても不気味だ。


 牡丹灯篭の話を聞いた後なだけあり、明治はその姿に身震いする。

 一体何が起きているのかさっぱりわからない。


 見ると、湊のほうは、なんでもないようにたたずんでおり、笑みすら浮かべている。

 

「お、おい? 優麗? どうしたなんかいつもと大分違うが……」

 

 本能が告げているのか、相手を刺激しないように、優しく声をかけたつもりではあったが、上ずっている。

 はっきり言えば逃げ出したい気持ちにかられているのだが、湊をおいて自分ひとり逃げるわけにはいかない。


「ソノオンナハダメデス」


 言葉が通じていないのか、怪しげな発音だ。


「ゆ、優麗。お、落ち着け。駄目って何が駄目なんだよ」


 瞬間、髪の毛が伸びて、まるで襲い掛かるように湊へ向かっていく。

 このままでは無事では済まされないだろうと直感したが、明治の反応が遅れどうしようもない。

 が、湊が髪の毛に捕まる前に、一言声を発した。


「そうそう、私には許嫁がいてな」

 

 ピタリと髪の毛が湊の前で静止する。

 静寂がこの場を包み、聞こえるのは遠くからの喧騒のみである。


 そして優麗の髪の毛がスーッとひいて、元の長さに戻っていく。

 優麗の雰囲気もいつもと変わらなくなり、目の色も赤い血のような色から、星々の光をちりばめたような黒い瞳に戻っていった。


「合格です」


 盛大に力が抜けた明治。


「何が合格なんだよ! っていうかさっきのは一体なんだったんだよ!」

「すいません。明治さんが女の人と共に姿を消したなんて知ってしまい思わず気が気でなくなり、力を解放してしまいました」


 てへっと可愛らしく舌を出すが、さっきの姿を見ている分だけ可愛さが半減している。


「女の嫉妬は怖いぞ? 明治君」


 湊がしたり顔で言ってくる。

 少しばかり不満そうな顔をする優麗。自分以外の女が明治のことを下の名前で呼ぶのが気に食わないのだ。

 しかし、先輩であるし、許嫁もいるということで許した手前、不満をぶつけるわけにもいかない。

 

「お前は僕が女の人といるたびにあんな恐ろしい真似をするのかよ!」

「します! 浮気は駄目です! 許しません!」


 浮気も何も付き合っている自覚など一切ない。が、それを言ってしまえば収拾がつかなくなりそうだし、先ほどの件もある。

 要するに怖いのだ。

 幽霊の怖さというものを改めて認識させられ、ため息をつく。


「ふふ、よろしくな彼方君。私は市ヶ谷湊」

「彼方優麗です。よろしくです先輩」


 そんな明治の心境を無視して、和やかに談笑する二人の少女。

 日はまだ高くお昼の出来事であった。

 

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