第十二話
自分の席に着き、朝から疲れたようにため息を吐く明治。
あのあと、家に帰ると、優麗が一生懸命料理している姿を見て、怒る気が失せてしまい、また優麗がしおらしく落ち込んでいる様子などあまり見ていたくなかったので、拳骨一つお見舞いして許すことにしたのだが、疲れていることには変わりない。
教室では優麗が友達といろいろと話しこんでおり、相も変わらず嬉しそうである。
全くあの女は能天気なものだなと心の中で毒づいて、鞄から授業道具を取り出し机に入れていく。
「それで優ちゃん部活。何にするか決まったの?」
新聞部である金崎春江が優麗に部活が決まったかどうかの質問を投げかける。
優麗は昨日つけていたメモ帳を取り出しパラパラとめくりはじめ、一つ一つ確認していく。
「うーん……それなりに興味がある部活はいくつかあったんですけど……」
チラリと明治のほうに視線を向ける。
やはり、明治と一緒に部活をしたいという思いがあるので、なかなか自分ひとりでは決められなかったようなのだ。
もちろん、昨日明治に「文科系の部活なら考えてやる」といわれたことも考慮しているのだがいまいちピンと来るものがなかった。
「新聞部はだめ?」
どうやら春江は諦めてはいないようである。
「明治さんがいい顔しなくてですね……やはり夫婦はお互い尊重しあわなければなりませんから」
明治には二人の会話が聞こえてはいないが、幾人かの男子生徒がその声をキャッチする。
そして、朝の挨拶と共に明治に攻勢を仕掛け始めた。
「あはは、そっかじゃあさ自分達で部活を作ってみたら?」
「おお、その手がありましたか! これはこれはご親切にどうもです」
明治がわけが分からず男子生徒の攻勢に対抗している間に、とんとん拍子に話が決まっていく。
「ほうやるではないか……明治の分際で」
「何だよ! その『〇びたのくせに』みたいな発言は」
手に箒やら何処で手に入れたかは知らないが木刀やら物騒なものを持っている男子生徒に対抗すべく明治も何処で手に入れたか分からないような、木で出来たハンマーを持って対抗している。
お互い息が荒くぜーぜーと肩で息をしているのを見ると激しいバトルが繰り広げられていたのだろう。
そこへ担任教師がやってきて朝の喧騒が静まっていく。
「ちっ命拾いしたな」
「月のない夜は気をつけろよ」
「優麗ちゃんの処女は拙者が頂くでござる」
最後だけすさまじく場違いな発言だなと思い、さらにあんなキャラうちのクラスにいたか? と首を捻ってしまう。
「ただえさえ疲れているのに朝から無駄な体力を使わせおって」
「もう一種のお決まりみたいなものだから気にしたら負けだよ」
「おのれも加わっているくせに無関係を装うような発言はやめんか」
晴彦の顔面に明治のこぶしがめり込む。
「さ、最近ますます過激になって来ていないか? お前」
「誰のせいだ!」
元凶を辿れば優麗のせいということになるだろうが、そのことをあえて無視して晴彦を責める。
そして、そのままHRが開始された。
一通り午前の授業が終了して昼休みとなる。
明治は購買部へ行こうと、席を立つが、優麗がいつの間にか用意していた弁当を差し出してきた。
「あっきはるさーん。はい愛妻弁当です」
恥じらいと言うものをどこかにおいてきたのか、当たり前のように明治の机に置く。
そしてどよめく教室。
公衆の面前でこのようなものを差し出すなど明治にとっては公開処刑にも等しい。
優麗の食事の腕はすでに充分に承知しているので、弁当そのものに対しての警戒心は全くない。しかし、なぜにこのような人目のあるところで臆面もなく差し出せるのかあ、明治は周囲からの様々な圧力により色々と逃げ出したい気分である。
「あ、あのな優麗」
「はい」
「弁当は凄く感謝しているんだが、もう少し控えめに渡してほしい」
「いえいえ、やはり変に遠慮してしてしまうと、あたし達の仲にひびが入ったと思われてしまいます。やはり見せ付けなければ」
「日本には奥ゆかしさと言う文化があってだな」
「はいどーぞ。あーん」
口を開けた瞬間に優麗が弁当のおかずを素早く箸で掴み明治の口に入れる。
「おおおおおお」
さらに教室がどよめく。
中には拍手すらしているクラスメートもいる始末だ。
だがそれと比例するかのように、木刀などを用意する男子も見受けられる。
顔を真っ赤にしながら、とりあえず口に入れたものをかんで飲み込む明治。
そして昼休みのバトルが開始された。
「うぉのれ田井正! ぶっ殺す!」
「裏切り者裏切り者裏切り者」
「絶対に許さんぞ! この虫けらが!」
四方八方から襲い掛かってくる嫉妬に狂った鬼達が、様々な武器を手にとり明治に襲い掛かる。
明治のほうも負けてはおらず、いつの間にか手に持ったハンマーを頭上に掲げその攻撃を撃退していく。
「いい加減に疲れてこないのかよ! このパターン!」
「貴様を亡き者にするためなら例え爪の先をなくしても後悔せぬわ!」
「ただの爪切りじゃねえか! せめて深爪くらいしろよ!」
木刀とハンマーの打ち合う音が教室に響く。
ある意味これも恒例のやり取りとなっているので、女子達はなんでもないように自分達の食事を食べている。
「田井正君も、毎度毎度大変ねえ」
「まあ、男子はこれくらい元気なほうがいいんじゃない?」
「ていうかさ、いい加減さっさとくっついてイチャイチャしてればあほらしくなって誰も何も言わなくなるのに」
「あはは言えてるー優麗ちゃん。そこ危ないからこっちにおいでー」
のんきな会話である。
すでに5人の男子をを撃退したが、未だ3人ほどの男子が残っており、明治の体力は限界に近い。
ぜーぜーと息を荒くして動きが鈍って来ており、とうとう打撃を受け、撃沈する。
そこへちょうど担任の女教師がやってきて喧騒がやむ。
「せ、先生! た、助けて下さい!」
恥も外聞もかなぐりすてて、明治はここぞとばかりに女教師に助けを求める。
明治たちの様子を一瞥して、その威圧感により攻撃の手が緩むが甘かった。
「我がクラスにいじめはありません」
シーンと一瞬凍りつく教室。
いじめかどうかはともかく目の前で行われている事を無視する教師。
がっくりとうなだれる明治をよそに、優麗のほうへと歩み寄る。
「頼まれていたものです。これに部活の名前。活動内容。部員数を記入して後で職員室まで持ってきなさい。そうそう最低4人いないと部活とは認められませんからね。さすがにそこまで特別扱いは出来ませんので」
「はい。ありがとうございます!」
用事を手早く済ませて教室を出て行く担任。
「それでいいのか! 聖職者! おのれ!」
明治の心の中に担任も敵と認識されたのであった。
今日も一日様々なことがあり、やはり体が疲れている。
帰りのHRが終わり、鞄に勉強道具をしまいこんでいると、優麗がいつものようにスーッと明治の下にやってくるはずなのだが、今日は違った。
わくわくとまるで子供のように目をキラキラさせ、自分の机の上においてある紙にむかってなにやら書き込んでいる。
昼間の教師とのやり取りで何かを受け取っていたようではあるが、それが何なのかまでは把握しておらず少し気になり、上から覗く明治。
部活の名前。
『明治さんと愛を育む部』
部活内容。
『明治さんと愛を育み、子供を作る行為をする』
部活員。
『田井正明治。彼方優麗。お岩さん。雪女』
パコーンと音が響き渡る。
明治が手にした小さな木で出来た小槌のようなもので優麗の頭を叩いたのだ。
優麗はキューっと机に上半身を思わず投げ出してしまう。
「何を考えておるんだ。お前は……こんな部が認められるはずがないだろ!」
「どーしてですか! 愛する男女の営みはごく自然な行為であり、神聖で素敵なことなんですよ!」
頭に小さなこぶを作るも、明治に詰め寄りながら対抗する優麗。
「常識で考えろ! こ、子供を作る行為など普通の高校生には認められていない!」
「あたし常々不思議に思っているんですけど何で駄目なんですかねー。愛し合う男女のごく普通の行為じゃないですか」
「……責任が取れないからに決まっておるだろ! そういった行為には様々なリスクが出てくるんだ」
「妊娠でしたら問題ありませんよ」
再びパコーンと音が響き渡る。
「お前の基準と一緒に考えるなアホ」
部活動の話からいつの間にか、変な話に変わっており、明治は軌道修正を試みる。
「大体な、お岩さんも雪女もうちの学校に籍はないだろ。それくらい分かれ」
そもそも実在するのかすら怪しい存在だ。
優麗の存在を見ていると存在していそうではあるが、それとこれとでは話が別である。
「例え99%無理でも1%の確率があれば」
「お前は何処かの世紀末の主人公かよ。それに雪女は妖怪であって幽霊の類じゃないだろ……」
「親戚みたいなものです」
「どうでもいいから却下だ。却下! もう少しまともなのにしてくれ」
残念そうな表情をして、消しゴムを取り出し、かいてある項目を全て消していく優麗。
明治はアホなことに付き合わされて少しだけうなだれるも、机を向かい合わせにして、なんだかんだいって優麗の部活動に付き合う気である。
「さて、ではまず部活内容を決めましょう」
「そうね……文科系のほとんどはすでに存在しているから、やっぱ何処にもないような部活にしなきゃ駄目ね」
「何処にもない部活内容ねえ……なんか思いつくか? ってさりげなく会話に加わっているんじゃねえよ!」
見ると、いつの間にか新聞部の金崎春江が、見事なまでに違和感なく明治たちの輪に加わっており、明治は豪快にずっこけてしまう。
「新聞部としては優ちゃんがどんな部活を立ち上げるのか興味があってね。是非ドキュメンタリー式で取材して行こうと思って」
まあ、自分達二人だけで悩むよりは、三人寄れば文殊の知恵のごとく他にも人はいたほうがいいだろうと考えてこれ以上文句を言うのをやめる。
明治が了承したことによって、金崎春江も輪に加わり、一緒に考えてくれることになった。
「では早速。優ちゃん。今のお気持ちは?」
春江は鞄の中からおもちゃのようなマイクを取り出し優麗に向ける。
さすがは新聞部といったところかその様子は実に様になっている。
「はい、ドキドキしています。なんてたって明治さんとのはじめての…ポッ」
「と彼女は初々しい姿を見せてくれました。二人の仲がどうなるか今後気になりますね。では明治さん今のお気持ちをどうぞ」
バキッと破壊音が木霊する。
向けられたマイクを明治はあっさりと折ったのだ。
「何すんのよ。結構高かったんだから。それ」
「やかましい。邪魔しに来ただけならさっさと自分の部活に行け」
「こうやって政府の圧力によって言論の自由は奪われていくのね」
「個人のプライパシーもちゃんと守ってほしいもんだな。優麗も悪乗りするのはやめんか!」
他の生徒たちはすでに教室を出ているので、明治達は三人で部活に関する事柄を決めることとなった。
部活の名前、部活の内容、そして一緒に部活動をするための最低限の人数。これらを決めていかねばなら何のだが、優麗と春江は馬鹿なことばかり提案して一向に進まない。
何で自分はここにいるのだろうと思わず現実逃避をしたくなる。
「あーいっけないーもうこんな時間だ」
唐突に春江が時計を見て慌てて席を立つ。
「ごめん優ちゃん。あたしもう行かなきゃ。部長がうるさいからね」
「いえいえ気にしなくていいですよ。むしろあたし達のために時間を使っていただいて感謝しています」
優麗はニコリと微笑みお礼を言う。
明治は仏頂面で頬杖をつきながら悪態をたれる。
「ほんと、何しにきたんだよ金崎……」
馬鹿な会話ばかりしていてちっとも本題に入れなかったのだ。明治の愚痴も仕方のないことである。
無駄に時間を使わされて気分になり少々不機嫌だ。
「それじゃあたしいくけど二人っきりになったからって変な事したら駄目だよ。田井正」
「むしろ優麗に言ってくれ」
そうして教室には明治と優麗の二人が残ることとなり、春江は教室を出て行く。
騒がしいのがいなくなると、とたんに静かになる夕暮れの教室。
二人きりということをより意識させられ、すこし緊張してしまう。
優麗のほうはいつもと違い、少し真剣な顔つきになり、記入用紙を眺めて難しい顔だ。
「明治さん」
「何だよ」
「好きです」
頬杖がいきなり崩れて机に頭をぶつける。ストレートすぎるにもほどがある。
「い、いきなり変な事をのたまうな! 今まで真剣に悩んでいたのは何だったんだよ!」
「いえ、どうやったら明治さんの心を盗めるか悩んでいました。どうでしたか?」
「今は部活のことに頭を使え」
意外にストレートな押しには弱いのだが、顔に出すわけには行かない。照れ隠しもあり、ぶっきらぼうに答える。
明治自身は優麗のことをどう思っているのかふと考える。
流れるような艶のある黒い髪に、星々の光をちりばめたような綺麗で大きな瞳。 少し小柄ではあるが、胸の当たりはふっくらとしており、柔らかそうな印象だ。
性格は色々とむちゃくちゃで、散々振り回されてかなりの被害をこうむっている。
……うん、好きになっているということはありえないな。
そう結論付けて自分自身を納得させる。
それが本心なのかどうかは誰にも分からない。
「決まったか?」
特に口を挟むこと無くしばらく、黙って様子を伺っていた中々決まらない優麗に業を煮やしたのか声をかける。
「こういうのはどうでしょう?」
記入用紙に何かを書き込み、明治に見せる優麗。
部活名
『幽霊部』
「……」
目をマッサージするかのように 少しばかり親指と人差し指で押さえて再び確認。
『幽霊部』
「……い、一応聞いておこうか……何故この名前になったのかを」
笑顔をヒクヒクと引きつらせながら、無理やり心を静めるかのように大きく息を吐く。
幽霊が幽霊部を立ち上げて、幽霊部員になる……考えたら負けだとなぜか思ってしまった。
「あたしが幽霊だからです!」
まさにどうだと言わんばかりに胸を張り、立派な態度で張り切った声を上げる優麗。
もうこれ以上ないくらい完璧だと言わんばかりである。
「お、落ち着いて下さい! 明治さん。暴力は良くありません!」
小槌を手にしてわなわなと震えている明治を見て思わず慌ててなだめる。
一応は彼女なりの何かしらの理由があるのか、明治は相手の言い分を聞き入れ席に座りなおした。
「えっとですね……まあそれも理由の一つなのですが、部活内容に関わってくるんですよ」
「……内容とやらを聞かせてもらおうか」
何かに耐えるような押し殺した声で続きを促す明治。
「最近の子って怪談話とかご存知なのでしょうか?」
ふと言われてみて明治は沈黙する。
自分が知っている怪談話といえば、皿屋敷、四谷怪談、あとは紫鏡である。
どれも有名な話ではあるが、詳しく内容を知っているかと思えば必ずしもそうではない。
「好きな奴は知っているんじゃないの?」
「そうですね好きな人なら自分から興味を持つかも知れませんが、一般的にはあまり知られていないんじゃないでしょうか? ですのでここは幽霊の事を良く知ってもらおうと思いまして、いろんな怪談話を集めた文集を作って、より多くの人に知ってもらおうということです」
なるほど一応筋は通っているなと感心する明治。
確かに昨今、怪談話を話せる同年代は少ないと思ったのだ。確かにこれならば問題はない。
しかし、よりにもよって『幽霊部』……もう少し何とかならんのかと少しだけ思ってしまった。
「どうですか?」
少しだけ緊張した面持ちで、優麗は明治に聞いてくる。
自分としてはよく出来た内容だと思っているだけに断られてしまえば、ダメージはでかい。
「まあ、いいんじゃないの? 先生が認めてくれればな」
「やりましたー」
席から大きく浮かび、天上付近でくるくると喜びの舞を披露する。
よほど嬉しかったようだ。
こうして部活名と部活内容は決まった。あとは部活のメンバーを集めなければならない。
最低四人のメンバーなど優麗が一声かければ簡単に集まると思うが、そのほとんどが部活の内容ではなく優麗を目的として集まることなど目に見えている。
やれやれとこれからの事を考えて、少しだけ気が重くなるが、楽しそうかなとも少しだけ思った明治であった。
帰りに職員室に寄って、担任に記入した紙を渡す。
担任はそれを一瞥して、明治と優麗にむき直るった。相も変わらず冷たい印象である。
明治は後ろめたいことなど何一つないのだが、心か何処か落ち着かない感じで、少しばかり緊張している。
優麗のほうはというと、怖いもの知らずなのかはたまた明治とは別の印象を担任教師に抱いているのかニコニコと笑顔だ。
ほんの少しだけの沈黙のあと、担任が口を開く。
「ふむ……少しばかりオカルト研究会と内容がかぶっていそうですが……まあいいでしょう。それではあとはメンバー集めですね。出来るだけ早いうちにそちらのほうも提出して下さい」
ごくあっさりと認められ、ほっとする。なにかしらいちゃもんをつけてくるんじゃないのかと警戒していたのだ。なんにせよ問題がないならそれでいいかと考えて職員室を後にする。
「それでは、あとは部活メンバーですね。どうしましょう?」
「優麗が一声かければ結構集まると思うが……」
しかし優麗は珍しく少し浮かない顔である。
「どうした? ここまではうまくいっているじゃないか?」
「うーん……あたし目当てで部活に来られても明治さんは迷惑ですからねー。明治さんに迷惑をかけていいのはあたしだけです」
ほう、意外と考えてるんだなと少しばかり感心する。
言葉だけ取ってみれば、自意識過剰な女の発言に聞こえなくもないが、彼女の人気を見れば事実である。最後の一言は余計だが。
意外な一面を見せられて、明治は少しだけ優麗のことを見直した。
しかしこれでは部活部員をどうやって集めるかが問題となってくる。
方法の一つとして女子部員だけ募集する……少しだけ頭にそのことがよぎったが、すぐに却下する。
そんな環境に耐えられる精神力を持っているほど図太くはない。
なかにはハーレム最高! と考える者もいるだろうが、明治には少しばかり荷が重過ぎる。一度はそういう環境に身をおいてみたいと思わなくもないが、冷静に考えると無理と判断したのだ。
部員集めのことを考えながらいつの間にか学校の玄関口へと辿りついて、結局答えが出ないまま帰宅することになった。
家について、いつものように自分の部屋でくつろぐ明治と優麗。
優麗は寝る時だけ明治の姉の部屋を使い、普段は常に明治の部屋にいる。
当初は、部屋に女の子がいるのに対して、何かしら落ち着きがなかったが、今では大分慣れている状態である。
最近はいきなり迫ってくるようなことはせず、明治の部屋で漫画を読んだりテレビを見たりしてくつろいでいるので明治も特に何も言わない。
ただ、ときおり急に迫ってくることがあるので完全には油断は出来ない。
現在は、明治の机に向かい、部員集めの方法のため頭を悩ましている。
「ぬぬぬぬ……どうしましょう?」
ベッドでヘッドフォンをしながら音楽を聞いて漫画を読んでいる明治に声をかける。
「僕に聞くな。優麗の部活だろ?」
声をかけられたことによってヘッドフォンを外し、相手に任せる。
一応は明治も考えてみたのだが、いい方法が浮かばない。
最低4名。
すでに明治と優麗は確定しているので、残り2名を集めればいいのだが心当たりが全く浮かばないのである。
親友……というか悪友である晴彦を頭に思い浮かべたが、すでにバドミントン部に所属しており、候補から外れる。
優麗と仲のいい金崎春江。これも新聞部に所属しているため候補から外れてしまう。
隊長……論外にもほどがある。
それなりに考えては上げているのだが、結果として芳しくなく、放棄したのだ。
「とりあえず明日募集用掲示板に張り出そう。条件はそうだな……最低怪談話を三つ話せる人。これだけでも大分絞られてくるんじゃないか?」
「おお、それはいいアイディアですね。さすがです。ではお礼として」
そういうと優麗は何かを投げつけてきた。
手にとって見てみると、それは女性が身につける衣装であり、男にとっては無用の長物なのだが、なぜか男から大人気の代物である。
要はブラジャーと言う名前の衣装ということだ。
淡い青色のストライブの模様をしたそれは明治にとっては刺激が強すぎる。
「……たまに真面目に考え事をしているかと思えば結局これか!」
手に持ったブラジャーを力一杯握り締めて優麗に投げつける。
見事に優麗の頭の上にふわりとそれが乗っかる。
「おや? あたしのこういう姿を見たいなら始めから言ってくれればあべ!」
パコーンと小さな木のハンマーが投げつけられた。
「いいから普通に身につけてろ!」
「明治さん!」
すぐに回復した優麗が真剣な面持ちで明治に向き直る。
「何だよ」
「あたしノーブラです!」
「分かりきっていることを口にださんでもいいわ!」
「見せたいです!」
「見せんでいい!」
いつものようなじゃれあい? がはじまった。




