第十話
少し短めです。
優麗の部活見学はまだまだ続く。
きゃぴきゃぴと足はないがスキップするような感覚で、優麗は色々な部活を一通り体験していく。
そのたびに、男子生徒から痛い視線が突き刺さり明治は気が気でない。
おまけに常識はずれなことをする優麗に振り回され、いささか……どころかかなり疲れて来ている状態である。
ソフトボール部では、すべてHRという快挙を成し遂げるわ、料理部では何処に材料があったのか、あっという間に満漢全席を作り上げ周囲を圧倒するわ、二次元部では様々な衣装を大喜びで着てそのたびに明治に迫り、明治はズタボロにされ、新聞部では金崎春江が、明治にあの手この手で色々と言葉を変えてインタビューをして言葉を捻じ曲げでっちあげに近い記事を作るのを阻止するのに余計な体力を使うわ散々な目にあっていた。
それでも明治はなんだかんだ言いながらも優麗に付きあっている。
優麗はそんな明治に心底感謝をしており、いろいろな形でいつかお礼をせねばと気合を入れていた。
ぞくりとなんとなく背筋に寒気が走るが原因が分からず困惑する明治。
そして本日最後になるバドミントン部へと足を運ぶ二人。
体育館は他の高校に比べてかなり広く作られており、様々な室内競技が、それぞれ決められた場所で、練習をしている。
「や、来たね」
手にラケットを持ち体操着で二人を迎えたのは、湯浅晴彦である。
額には汗が光っており、結構ハードな練習をしていたようだ。
「まあな。疲れたよ。なんか飲み物くれ」
明治は親友ということもあり遠慮なく飲み物を要求する。
「残念ながら今は用意していないな。自販機まで行くしかないね」
「じゃあいいよ。僕はここで座ってるから好きなように遊んで来い」
前半は晴彦に、後半は優麗に向けての言葉である。
「はい! バドミントンは初めてなので緊張します」
「部長には話を通してあるから、好きなラケット持って行っていいよ」
晴彦の言葉に優麗はうなずき、その辺においてあったラケットを手にとって、晴彦と一緒にコートへと向かう。
晴彦は簡単なルールだけ説明して、後は楽しんでもらおうと手加減してプレイを開始した。が、やはり幽霊である。
すでにネットの高さ以上に陣取っており、さすがに何処に打ち込めばいいか、晴彦は困惑する。
まあいいか、と思いながらプレイを楽しんでいる。
優麗も楽しく相手が打ち込んできたシャトルを打ち返す。
シャトルとはバドミントンの協議で使われるいわゆるテニスで言うボールの役割を果たすための道具の一種である。
さすがに常に頭上から打ち込まれ、また、優麗の運動能力? もあって経験者であるはずの晴彦は常時押されっぱなしだ。
相変わらず反則的なやつだなとぼーっとしながらその様子を見ている明治。
「あっはっはっ! 噂には聞いていたけどありゃ凄いね。大会に出場させりゃ優勝を狙えるよ」
豪快な笑い声を上げている相手を見上げると、優麗とは別の女子生徒が明治の隣にいつの間にか立っていた。
雰囲気からして先輩のようである。
すらりと引き締まった太ももが明治の目に眩しくうつる。
自分が座っているので相手の高さは性格には計れないが、自分よりやや下かなと言うところかと予想をつける。
「そのまえにいろいろと問題がありますよ。選手として出場させてもらえるかどうか。いくらうちの学校に認められたからと言って大会で認められるとは限りません」
「そりゃそうだね。田辺晶。一応バドミントン部の部長を務めている。君が田井正だね」
やはり先輩であっていたようだ。
それにしてもスポーツをしているだけあって引き締まっっているなあと少しだけ魅力を感じてしまう。
「良くわかりましたね」
「今や、あの子の恋人ということで有名人だからね」
全身全霊をかけて否定したいが、なにを言っても無駄である。一度広まった噂をかき消すなど情報工作の訓練でもうけていないかぎり、ただの高校生には荷が重過ぎる。
「それで実際のところはどうなの? 幽霊の恋人だなんてさ」
例え先輩であろうと、この手の話題に対しての好奇心は押さえきれないようである。
ワイドショーのネタにされた気分になりますます落ち込んでしまう。
「恋人ではありませんよ……」
そう一言だけ告げる。
相手の声のトーンで深く追求するのはやめようと考えたのか、晶は軽く肩をすくめるだけで特に何も言わなかった。
そこへ、へとへとになった晴彦がやってきた。
「もうだめ。限界。彼女底なしだよ」
「だらしがないな湯浅。女子に負けるなんて恥とは思わんのか?」
「げっ部長……」
「まあいい、後で鍛えなおしてやる。覚悟しておけよ。彼方! 次はあたしが相手だ」
そういってコートに飛び込み、優麗と打ち合いを始める。
晴彦はそのまま明治の隣に腰をおろして、汗を自前のタオルで拭き始める。
「相当疲れたみたいだね」
「ああ、さすがに練習の後に彼女と打ち合うのは無謀だったよ。まさかあそこまで押されるとは思わなかった」
負けた割にはあまり悔しそうな表情ではない。もし優麗が生身であったなら、晴彦はムキになっていたのであろうが、お遊びととらえているのか軽く事実を受け止めている。
本来は打ち込んでいることにかけては結構な負けず嫌いの性格なのである。
「しかし大分受け入れられてきたみたいだね。優麗ちゃん」
「世の中間違っている。明らかに間違っている。僕の常識を返してほしいよ」
そんな会話にクスクスと笑う晴彦。
「それで何か思い出した?」
唐突にそのようなことを言われて明治は困惑する。
思い出す? 何を? 何かこいつと約束でもしてたか? と首を傾げるも心当たりが全くない。
「思い出すって何だよ? 金でも借りてたか?」
「違うよ。まあ分からないならいいさ」
「なんだよ……気になるなあ」
「まあまあ、ほらお姫様を迎えに言ってあげな。俺はしばらくここで休んでいるから」
ちょうど優麗がコートから出てきたので晴彦は彼女を迎えに行くように促す。
明治としてはいろいろと言いたいのだが、本当に相手が疲れている様なのでそっとしておくことにして、腰を上げて、優麗の下へと向かった。
「きっと優麗ちゃんも明治自身が思い出すことを望んでいると思うよ」
誰にも聞こえないような静かなつぶやきは、体育館の部活の声にかき消され消えていった。




