第9試合 有音VS奏 7
有音が気づいた、いや、むしろ気づく事が出来たそれは『料理の本質』といってもいいくらいのもの。技術だけでは一流になる可能性は低いのだ、良く覚えておきたいところである。
「料理にとって重要な事、これを実践できるか忘れているかで食べたいと思えるかどうかとの考えが浮かんでくるのやもしれん」
それに清と高美が続いた。
「そんな工夫でこんな料理が出来るんだって新鮮さを楽しげに話す。食べてみたいって思わされる気持ちも大事にしたいところ。そう思うな」
これまで審査の際に席を立つなんて行儀の良くないと考えている事はしなかった高美ではあるが有音をつい頭をなでにいってしまっていた。でもこれは微笑ましい光景に見られていそうでもある。
少しばかり長い話になったものが一段落したっぽいので司会の命がまだ聞いていない勝因を話してもらうように誘導する。
「大体の事が敗因を聞いただけでわかったかとは思いますが一言でも良いので勝因を伝えていってもらえますか?」
命のそれを受けて、まずは清が勝った理由を伝える事にした。
「最初は集中できない理由があってバタバタしていたようだけど、最終的には想いのこもった料理を作れたからこそ僕達にも響いたんだと思うよ」
自然と料理を作る時に大切な事を話す回になっていたのでいつもは勝因や敗因を審査員同士で相談して1人にしているのに全員が――それだけ各審査員が言いたい事があったのかもしれない。
「私からも少しだけ。彼の食べてもらいたいという気持ちが伝わってきたの。それが大きいかもしれないわね」
高美が今、思った事をつぶやく。最後に番参審査委員長が自分の意見を総括した。
「ただ味だけの審査なら良くない兆候の有音君に勝利を宣言しなければならなかっただろうね。でもこれを聞いた場合はどうかな? 味の5大要素、甘み・辛味・酸味・苦味・旨みは良かったが――――」
そこでもったいぶる番参審査委員長。
「いったいその評価で特に重要視している事は何なんですか!?」
高飛車な態度を取ってしまっていた時の有音が復活してしまったわけではない。驚きのあまり、声が上ずってそう聞こえてしまいかねない声が出てしまっただけなのだ。
有音は慌ててしまっているが、番参審査委員長は気にしていなさそうな様子である。ただ淡々と5大味要素より上のものを語り出した。
「わからんか……"温かみ"だよ。先程審査員の2人が言っていた料理を食べてくれる人のための想いや、美味しく食べてくれればという愛情を込めたというのが伝わる料理がそうだろうね」
その話を聞いた有音が、先程の番参審査委員長の仮定話に返答する。
「いえ、多分味だけの審査だったとしても私は釈然としない気分を味わっていたと思います。味の5大要素より上のものが有ったという絶大な衝撃で」
どうやら敗因と勝因についての話が終わったようなので司会の命が今回も皆さんと一緒に試食しましょうと提案する。
「これが味だけを追求した料理のう。わしも美味しいのに誰のために? ……という物足りなさで残念感を少し」
「盛り付け1つで食べたいかどうかという気持ちって変化するものですよね。切った材料とか不格好でも何だかそちらを選びたくなります」
応援席から出演可能性の有った者達が降りてきて味見を始める。込流と想が全員の考えていそうな事を声に出したので結局誰からともなくうなずいた。




