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episode1 雨 4

 大変お待たせしました、第4話です。

 今回はより文字数を抑え、表現も比較的ライトにしたつもりです。

 誤字や気になる部分がありましたら遠慮なく言ってください。


 Episode.1 雨4



 A.D.3266/6/06 《アメリカ北部:トーキョー》

 かつてのアメリカとカナダの境界に築かれた都市『トーキョー』。

 この都市は、極東の島国『ニッポン』出身者を中心としたフリーランダー集団の拠点を起源としているが、それが戦闘を中心に請け負う半ば傭兵のような集団だった、という話はあまり知られていない。

 大きな理由として、その外観がある。

 中心部は様々な企業や行政関連のビルが立ち並び、何重もの高架道路やビルの間を通るトンネルなど、日中でも明かりが点いていなければならない場所があるような、立体的な都市を形成している。

 中心都市から離れると急速に建造物の高さは低くなり、離れれば北は森林公園などがある自然保護区、東は自然保護を兼ねた特殊な建物の多い住宅地、西と南には一般的な住宅地に姿を変えていく。

 戦うことばかりしている集団が、これほどの都市を築く礎になったとはなかなかに信じがたいはずだ。

 教育現場でもそれほど掘り下げられないことで、わざわざ試験問題に出す学校もそう無い、となれば次代を担う子供達にも浸透しない。

 そして、そのフリーランダーの運営するギルドだ。

 ギルドの本部ビルは中心都市にあるが、これといった特徴も無い建物なので、周囲の企業ビルに溶け込んでいる印象だ。

 やっていることも他の企業と大して変わらない事務ばかりで、1階ロビーで依頼の斡旋待ちをしている様子は、大きな病院のロビーに似た雰囲気がある。

 職員も全員フリーランダーのため、制服など無く私服ばかり、というのが企業ビルとの雰囲気の違いを作り出しているように見える。

最近になって、女性職員の間で制服を作ろうという運動があるらしく、女性職員の服装には統一感が出てきている。

 ハイスクールに進学せずに就職した女性職員が始めたことらしいが、反対する者もいないので好き勝手にやっているようだ。




 今日もまた曇り空。

 多くの店舗の開店時間とあって人通りは多いが、天気の悪い日が続くと街の雰囲気はあまり明るくない。

 この日、ヴァイスはアリッサを連れてギルドに出向いていた。

 昨日、最低限の術後入院からアリッサが退院し、帰路についていたところに連絡があり、この時間を指定で呼び出されたからだ。

 仕事を受けたのでチームを組んで行こう、という内容で、その間アリッサをギルドに預けるという話になっている。

「・・・はい、これで完了です。次の方、どうぞ」

 ヴァイスが自動ドアをくぐったとき、呼び出した人物は受付の仕事をしていたため、しかたない、と軽食所の飲食スペースのテーブルに向かうことにした。

 手術で取り付けられた歩行補助ユニットに慣れないため、歩行のぎこちないアリッサに合わせて、いつでも支えられる距離で隣をゆっくりと歩く。

「あ、せんぱい!」

 一つのテーブル席から手を振る少女を見つけ、そのテーブルに向かう。

 花のヘアピンと短い髪が特徴の少女で、サイズが合っていないのか、袖がずいぶん余っているらしい例の制服(仮)を着用している。

 席にはもう一人座っており、こちらは切り揃えられた長い黒髪と射抜くような目が特徴の女性だ。

 身長はリィラより僅かに低いぐらいだが、スタイルの良さでいえばこの女性の方が確実に上だろう。

「こんにちは、ヴァイス、アリッサさん」

「こんにちはです。せんぱい、アリッサさん」

 黒髪の女性は詩村月乃うたむらつきの、花のヘアピンの少女は詩村花凪うたむらかな

 氏名から察する通り、この二人は姉妹だ。

 いま受付で仕事をしている詩村雪斗うたむらゆきとという兄と、数年前にトーキョーにやってきた。

「こんにちは、月乃さん、花凪」

 この兄妹とヴァイス、リィラやアンジェリカらはよくチームを組む仲で、この年代の中ではそれなりの実績を出しているほうだ。

 その一方で詩村兄妹はギルド本部の事務職員でもあり、最近の月乃と花凪は制服(仮)でいることが多くなったようだ。

「話は聞いているわ。もう少し待っていてちょうだい」

「わかりました」

 椅子を引いて先にアリッサを席につかせ、その隣の席に座る。

 アリッサはあまり関わろうとしなかったが、雑談をしながら待っていると、10分程度して雪斗が受付の仕事をあがってきた。

 雪斗は、白とも銀ともつかない長髪を肩ぐらいで束ねている、今年24歳になるにしては社会人らしくない風貌だ。

 しかしここは自由奔放な連中の巣窟であり、彼らフリーランダーを社会人と呼ぶのも違和感があるというもの。

 コスプレじみた格好が溢れるこの空間ではむしろ、雪斗の服装は特徴が無い、と言えるほどに普通のカジュアルファッションに見える。

 軽く挨拶を済ませ、ヴァイスの向かいに座った雪斗は1枚の紙をテーブルに置いた。

 それが今回チームを組んでやりたいという仕事らしいが、読む限り雪斗一人でも簡単に片付くような内容だった。

「ただの配達じゃないか。なんでこれをチームで?」

 食材や日用品を都市北部の霊園を管理する寺院や教会に配達する、という内容で、よく運送業が手が足りないときに依頼してくるものだ。

 業者の倉庫で依頼の荷物を受け取り、PHにでも格納して持っていく。

 あとは受け取りサインを業者に渡して依頼完了、という日雇いアルバイトにしても相当簡単だ。

 しかも、この依頼は寺院と教会の2件にしか行かない。

「こいつはついでだ。本命はこいつ」

 そう言って輸送の依頼の上に、もう1枚の書類を置いた。

 それには別の受諾サインがしてあり、いまヴァイスと雪斗は受けることが出来ない筈のものだ。

「サクラが受けた依頼?」

 雪斗たちと同じく、よくチームを組む仲であり、先日ヴァイスの家の掃除を手伝った友人の名がサインしてある。

 北部の鉱山跡に棲み着いた突然変異動物の駆除という内容で、どうやら都市の外にある農村からの依頼らしい。

 魔力を使う戦いが全世界的に頻発しているいま、大気に残留した術式の抜け切らない魔力にアテられた動植物が変異する、という事例は珍しい話でもない。

 しかし変異と言っても、凶暴性が増すだとか術式の不完全な魔術を使うなど、外見にまで影響を及ぼすことは無い。

 外見にまで異常が出るというのは、よほど膨大な魔力を吸収したか、術式を細胞に浸透させた状態で世代を重ねた新種動物などの場合で、突然変異ともなると人体にも影響があって然るべき異常事態だ。

 近年にトーキョー近隣でそれ程の大規模戦闘は行われていない。

 隠れ住んでいた新種動物が人里に現れたか、別の要因で変異したか、なんにしても簡単な依頼ではないことは確かだ。

「ヴァーゼとカノンをチームにして向かったんだが、2日経って連絡が無い。だが、あいつらの家はどこも捜索依頼を出せるほど金が無いからな」

 槍による近中距離戦闘能力と多彩な魔術を扱うサクラと、砲狙撃特化のヴァーゼ、戦闘力が高いわけではないが立ち回りが上手いカノンの3人が、変異しているとはいえ動物に敗北するということは無いだろう。

 それが2日も経って連絡ひとつ無いというのは、何かあったと思わないほうがおかしい。

 相談を受けたのは一昨日の夕方で、昨日は一人で調査していたらしい。

「調査の結果、3人はその農村を占拠したらしい連中に捕まった可能性があることがわかった」

「農村を占拠・・・? 盗賊かなんかか?」

 盗賊程度にあの3人がそう簡単に敗北するとは思えないが、続けようとしたが、雪斗が説明するようだ。

「その村は人種の対立が以前から問題になっていた程でな。死人が出ることもあったらしい」

 そういう事例はヴァイスも知っているが、それと村を占拠した連中とどういう関係があるのか、と考えたところで答えが解った。

「フィアーズピースの武力介入ね」

 答えたのはアリッサだった。

 そのとおり、血みどろの殺し合い寸前までいったその農村はフィアーズピースの武力介入を受け、力に抑えつけられているのだ。

「サクラたちを拘束した理由は判らないが、大した力の無い農村相手にずいぶん物騒な武装を使ったらしいから、何か裏があると見ていいだろうな」

 その村には何か秘密があり、十分な武装を持っていたサクラたちもその関係者と思われた可能性がある、というわけだ。

「目的は3人の救出か。わかった。すぐにでも行こう」

 ヴァイスの反応は判りきっていたもので、雪斗も当然そのつもりだ。

 しかし、ヴァイスは村人も助ける、とでも考えてそうでそれが怖い。

「本当はもう1人、それこそヴァーゼあたりがいればよかったんだが、代わりになれそうな人材はいないからな」

 月乃や花凪も戦闘は出来るし、リィラやアンジェリカもいるのだが、そのメンバーでは代理の出来ない役割を担うのが砲狙撃戦のヴァーゼであり、今回のような場合こそ欲しい人材だったのだが、仕方ない。

 一応、ヴァイスがハンガーに格納しているいくつかの武装のなかには銃もあるのだが、ヴァイスの射撃技術はヴァーゼの代わりを務められるほどではない。

「それじゃ月乃さん、花凪、アリッサをよろしく」

 先に話をしていたのだが、アリッサの機嫌はよくない。

 託児所にでも預けられたように思っているのかもしれない。

「ええ。任せなさい」

「おっけーです、せんぱい」

 手を振ってみると一応返してくるあたりに律儀な性格が窺えるが、不機嫌さは落ち着くどころか、かえってしかめっ面にさせてしまったようだ。

 いや、理由があって不機嫌、というよりは素直な態度がとれずにそうなってしまっている、という感じか。

 人見知りなのだろう、と思うことにしてヴァイスは雪斗と共に自動ドアをくぐった。




 ヴァイスと雪斗が出て行った自動ドアから視線を戻し、月乃は軽食のメニューをテーブルに広げた。

「さて、スイーツでも食べてのんびりしましょう」

「さんせー!」

 メニューを覗き込むために月乃の手元に向かって身を乗り出すが、「お行儀が悪い」と頭をメニューで叩かれ、渋々別のテーブルからメニューを持って来た。

 それもどうかと思うが、月乃は呆れた態度で、今度は正そうとしない。

 花凪が持って来たメニューは1冊ではなく、アリッサの分もあった。

 月乃が正そうとしなかったのはそれが理由だったのだが、アリッサはそれを理解していないようだった。

「そういえば、なんでリィラせんぱいとアンジェちゃんも誘わなかったんだろ?」

 花凪は睨みつけるようにメニューを眺めながら、アリッサにもあった疑問を述べる。

「ヴァイスなら誘わない、と思ったからでしょうね」

 花凪は首をかしげていて、アリッサにもよくわからなかったが、月乃はその理由に確信があるようだ。

 答えに自信があるように、注文も決まったようで、迷わずテーブルに置かれた呼び出しボタンを押した。

 それを見た花凪が焦ってメニューに向かうが、月乃はクールそのものだ。

「誰にでも過保護すぎるのよ、ヴァイスは」

 「ま、それを察する愚図兄もよほどだけれど」と付け足し、注文をとりにきたウェイトレスから受け取った水に口をつけた。




 依頼の配達を終え、先にコンビニで買っておいた弁当を少し早い昼食に摂る。

 公園のベンチはあまり座り心地がいいとは言えないが、昼食を摂るだけならこれでも問題ない。

「で、なんでこんなついでの仕事なんて請けたんだ?」

 ヴァイスとしてはすぐにでも仲間を救出に行きたかったところだろうが、雪斗は別の依頼をわざわざ請けていた。

 これは何故か、と思うのは尤もだ。

「一銭にもならないのにただ仲間を助けるためだけに戦った、とすると誰が何を思うんだろうな」

 雪斗に言われ、ヴァイスは頭では答えを出した。

 しかし、ヴァイスはそこで「でも」という人間だ。

「ヴァーゼとカノンはともかく、サクラはまた、おまえに負い目を感じるだろうな」

 それを予想して、雪斗はヴァイスが口を開く前に答えを口にした。

 理解していることでも、言葉にするかでその重みは変わる。

「おまえの過保護は、サクラをかえって追い詰める。だから今回は別の依頼を請けて、そのついでってことにしてソレを軽減しようってんだ」

 サクラは以前ヴァイスに助けられたことがある。

それが負い目となっていて、返そうと張り切ったことが空回りしてまたヴァイスに救われる、という事態になった。

 サクラはそういうことを重く感じやすく、しかしヴァイスもそれが自分の存在意義と言わんばかりに誰の手でも引いてしまう。

 雪斗もその両方に関わっていて、ヴァイスとサクラがお互いのために空回りしていることを理解していた。

 いや、それは2人の間だけではなく、ヴァイスの行動がそういう歪みをあちこちで生んでいるのを全てではないが知っている。

 アリッサもまた、新たな歪みになることだろうが、それに雪斗が直接干渉すれば、それはヴァイスと同じになってしまいかねない。

(あのお嬢様は、リィラやサクラ以上にヤバイかもな。世間知らずというより、他人知らず過ぎる)

 ヴァイスは何も言わずに聞いていた。

 自分でも理解はしているが・・・、といったところか。

 食べ終えた弁当の容器を公園のゴミ箱に捨て、2人は都市の外、北に向かって歩き出した。




「・・・退治出来てねぇのかよ」

 鉱山跡近くの森の中、5メートル近くはあるだろう巨体を見上げ、雪斗は肩を落とした。

「いや、別の個体かもしれないぜ?」

 「実際のところはわからないけどな」と付け足し、ヴァイスはコンテナから愛用の複合剣を取り出す。

 鎌になっている刃を展開し、装甲の継ぎ目から紅い燐光を漏らす異形の剣。

 雪斗も大分見慣れたつもりになっていたが、やはり不気味な感覚がいまだに拭えない。

 使用しているヴァイス自身は何も感じていないようで、いや、感じているはずだ。

 むしろヴァイスはその感覚の正体を知っているのだから。

 術式武装らしいのだが、どういった術式が内蔵されているのか、その術式がこの感覚の正体なのか、それは判らないが、魔力カートリッジを装備しているあたり、使用する気が無いというわけでもないらしい。

「・・・こうして遭ってしまったのであれば、斬るもやむなし、か」

 雪斗が取り出したのは一振りの太刀。

 専用の特殊な術式とギミックを備えた鞘は、そのままでも十分に鈍器として使えそうだ。

 『火断』と呼ばれる、詳細不明の術式刀鍛冶が創作したとされる武装のひとつで、詩村兄妹は3人ともこれと同型の刀を愛用している。

 同型が3振りもあるということは、量産された品の可能性があるが、詩村兄妹以外で使用しているところは見たことが無いので、詳細は不明だ。

「悪いが覚悟してくれよ、巨大熊。遭っちまった以上、殺られる前に殺るしかないんでね」

 おそらくは術式を内包して世代を重ねた種だろう。

 身体中から氷の剣が突き出した巨体は、その外見からは想像もつかないほどに俊敏なようで、野犬を追っていたらしいところに遭遇したところだ。

 しかも、この巨体はどうやら1頭だけではないらしい。

「3頭はいるな」

 正面の1頭の背後と、横からも巨体が現れた。

 すぐに襲ってこないのはこちらの動きを窺っているからなのだろうが、獲物に逃げられて機嫌がよくないのか、臨戦態勢に入っているのは間違いない。

「群れのようだな。子供らしいのを含めれば、8頭か」

 囲まれている、というわけでもないようだが、先ほど見た俊敏さで追われれば逃げるのは難しい。

 後のことも考えて全て斬ってしまうのがいいのだろうが、群れ、家族と考えると心苦しい。

 しかし立ち止まっていても、いずれは襲い掛かってくるだろう。

「・・・本当に、ごめんな」

 一息に距離を詰め、熊の懐に飛び込む。

 熊も反射で氷の刃が突き出した太い腕を薙ぐ。

 ―――。

 しかし、懐のヴァイスが吹き飛ばされることは無かった。

 巨大な腕はあらぬ方向に飛んでいき、木の幹に叩きつけられ、その木を砕くように叩き折って落ちた。

 熊がそれに気づく前に、腕を斬られた痛みに叫びをあげる前に、ヴァイスは氷の刃を足場に巨体を駆け上がり、その首に刃を振り抜いた。



 ヴァイスが正面の1頭に向かったと同時に、雪斗は横に現れていた1頭に向かっていた。

 居合いのような構えから、鞘が展開し、電気が走る。

 瞬間、そこに雪斗の姿は既に無く、巨体の背後で小熊に刃を振り下ろしていた。

 そして崩れ落ちる2つの巨体。

 一方は腕と首を刈り取られ、一方は腰から真っ二つに斬られ、咆哮も無く静かに横たわる。

 神速の居合いを可能にする、身体強化に特化した術式が内蔵された鞘と、魔力を変換し熱を纏う刀身のセットで運用させる『火断・閃境』。

 身体への負荷を軽減する術式と、摩擦軽減の術式も併せて内蔵されており、その尋常でない動きもそれほど負荷も無いらしい。

 雪斗よりも小柄ながら、身体強化無しで巨体を斬り裂いていくヴァイスのほうが、よほどおかしい身体能力だろう。

 雪斗の刀は、その性能故に斬っても血や脂が残りにくい。

 しかし、そういう性能があるわけでもなく綺麗なままのヴァイスの剣は、やはり異常な何かがあるように感じられた。




 鉱山跡の丘から一望できる農村の様子は、やはり穏やかな雰囲気とはいえないようだった。

 さまざまな武装を携えた戦闘のプロが至るところに配備されている。

 バケモノ揃いのトーキョーのフリーランダーに鍛えられた、ヴァイスと雪斗が遅れをとるということは無いだろうが、それでもサクラたち3人と捕らえるほどとなると、油断は出来ない。

「作戦はあるのか?」

 さすがにフィアーズピースを撤退させられるような作戦は無い。

 それ以前に、戦争抑止のために現れた彼らを退ける必要など無い、と雪斗は考えており、作戦は捕らえられた仲間の救出にし絞られる。

「オレが囮になって暴れる。おまえはその隙に裏口から忍び込んで3人を救出しろ」

 ヴァイスのコンテナにはサクラとカノンがギルドに預けていた予備の武装と、ヴァーゼ愛用の銃と同じ物が格納されている。

 3人を救出し、そのまま戦力にして雪斗を援護し、全員で逃走という作戦だ。

 サクラたちが捕らえられている建物は調査済みだが、それは昨日の情報であり、その後移動させられていた場合、この作戦は失敗する。

「ちと賭けくさいが、やるしかないな」

「行くぞ」

 意を決して、2人は動いた。




「あの2人、今日は帰ってこないかもしれないわね」

 アリッサを花凪と、昼過ぎに呼び出したリィラとアンジェリカに任せ、月乃は今回の件についての新たな調査書類に目を通していた。

 そこに記載されていたのは別の勢力の情報と、フィーアーズピースの部隊構成。

 月乃が注目しているのは、部隊構成の中にある1つの名前。



 作戦のために二手に別れる手はずの場所で、2人は立ち止まっていた。

 武器を構え、先程巨大な熊と対峙したときとは比べものにならない、緊張が背筋を伝う感覚に襲われる。

 対峙するのは1人の女性だった。

 長い髪と眼鏡、服がスーツならどこかの大企業の秘書と言われても納得できるイメージの容姿。

 しかしそれも、右手に持つヴァイスの剣以上に奇抜な形状の武装が木端微塵に砕いている。

 長い柄と、それを守る刃のグリップガード、そして柄の先にあるものは金属の塊。

 ハンマーと長柄、大剣を複合した異形。

 だがヴァイスと雪斗を緊張させているものは、その異形ではなく、武装に彫られた記号。

「まさかこんなのに遭遇するとは、ツイてねぇな、オイ」

 ヴァイスと同じぐらいはある女性の身長を超える大きさの武装、それを片腕で軽々と構え、魔力を込められたそれが術式を発動する。

 どこから集められたか、女性の周囲を浮遊する水の塊が、意思を持っているかのようにうごめく。



 月乃が注目するその名前は、悪魔にしか適性の無いといわれる星座をモチーフにした能力を有する者の1人。

 中でも強大な力を持つ黄道十二星座の1人。



 水瓶座『アクエリアス』



 ようやく主人公のバトルシーンです。

 フリーランダーの仕事もこれから少しずつ、色々紹介していきますよ。

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