episode1 雨 10
まず、遅くなって申し訳ありません…。
今回もまた前後編(もしかしたら前中後編になるかも)で、9話でちょっとだけ触れたヴァイスと詩村兄妹の出会いの話になります。
そして、ロンド達ティアファントムを新たな動きを見せ始めます。
Episode.1 雨10
A.D.3266/7/01 AM10:00 《トーキョー》
高架道路しか見えない空のほうを見上げ、一つ荷が降りたような気持ちを感じる。
それと似たような表情をした人や、浮かない顔をした人が行き交う、ここは病院の前だ。
アリッサは歩行補助ユニット無しでも自然に歩くことが出来るようになり、包帯も取れて傷跡も残らず綺麗に完治した。・・・怪我のほうだけは。
いまだ内蔵へのダメージは残っていて、魔力もほとんど戻っていない。見込まれていたよりずっと治りが遅いということで、このことについては後日また検査することになった。
「どうやら何かの術式をしかけられていて、それのせいらしいが・・・、詳しくはまた検査してみないと判らないと言われた。けどここでは前例が無いって話で、検査機材の準備にまだ時間がかかるみたいだ」
PHで仲間たちに報告するヴァイスの横で、しかしアリッサの表情はどこか嬉しそうだ。まだ全てが元通りというわけではないものの、しかし何の支えも無く自分で地を踏みしめることに喜びを感じているのだろう。
やはり幼い容姿からは“嬉しそうな子供”を思わせる雰囲気が出ているが、涼やかで余裕のある表情からは無邪気な子供とはどこか違う印象を受ける。実際子供ではないのだから、本当なら雰囲気にも大人の余裕があってもよさそうだが、ヴァイスはそんなアリッサの様子が微笑ましくて、ずっとこのままでもいいのかもな、とよく考える。
「この後? 買い物して一旦昼飯食べに帰るけど。あぁ、わかってる、忘れてないよ」
報告を終えたヴァイスが振り向き、表情と手振りで誘う。その一瞬で先程まで上機嫌だったアリッサの表情が変化する。
ちょっと残念だ、とヴァイスは思ったがそれは口にも顔にも出さない。
「一人で行きなさい。わたしはもう全然大丈夫なんだから」
「・・・脚のことを心配してるから誘ってるわけじゃねぇよ。いや、心配はしてるけど、そういうことじゃない」
機嫌が悪くなった理由を察してフォローするが、アリッサはまだ納得してはくれないらしい。
腕を組んで、目を合わせまいと顔を逸らす様子はやはり年上には到底見えない。
「今日はリィラの誕生日だから、プレゼントを買うのに付き合ってもらおうと思ってな」
リィラの誕生日のことはアリッサも何日か前にアンジェリカから聞いていたので、なにか用意するべきか考えてはいた。
誕生日プレゼント。
アリッサはポケットに収まっていた、ヴァイスにロックされてしまっているコンテナを握り締めた。
それに収まっている物が、これまでのアリッサの生涯に与えられた唯一の誕生日プレゼントかもしれない。
しかしそれに親心も愛情も、誕生日プレゼントという意図も無かったというのは、手にした15歳のあの日にはもう解っていたことだった。
見てみたい、どいういうものなのかを。アリッサが想うのは誕生日を祝うということと、祝われるということ、それがどんなものなのか見てみたいというだけだ。
「でも意外。アンタならもっと早くから用意してると思ってた」
ヴァイスは苦笑いしている。どうやら用意はしていたらしいが、おそらくは昨日の仕事かそれより前か、とにかく紛失したか破損したのだろう。
らしくないミスをしたものだ。あまり見せない申し訳無さそうな表情からは普段の余裕はあまり感じられず、自分も何も用意していないというのに、不思議と優越感を覚えたアリッサは「仕方ないわね」と言って買い物に付き合うことにした。
「参考までに、何をあげる予定なの?」
いつもの帰り道を行かず、中央の商業区へ向かう道を曲がる。
久々の何のサポートも無い歩行だというのに、アリッサの頭はすでに思考を切り替えて、そんなことは奇麗サッパリ忘れてしまったように軽い足取りだ。
「新しいリボンを。・・・いまリィラが着けてるリボンは、さすがにそろそろくたびれてきてるからな」
例によって街並みはガラリと雰囲気を変え、このちょっとした距離で比較的静かだった病院周辺とはまるで正反対の賑わう姿を見せる。
最近は随分とアリッサもこの雰囲気の切り替えが激しい街に慣れて、このぐらいでは何とも思わないようになっていた。
「そう、じゃあわたしもリボンにしようかな」
「なんでだよ・・・」
何故か自信ありげに胸を張っているアリッサに、ヴァイスは苦笑いするしかない。
「アンタなんかよりずっと可愛いリボンを選べる自信があるからよ」
本当に、年上扱いは出来そうにないな、と改めてヴァイスは思った。
そうこうしているうちに、だいたい目的のものが並ぶ地区に入ったようだ。
ブランド店なども多く並び、ショーウィンドウには女性向け・男性向け、様々な服が並べられている。
「さぁ、どんなのにしようかな」
A.D.3266/7/01 AM11:30 《アメリカ:テキサス州 ラボック》
うだるような熱気に包まれる街のカフェテラスで、瑛莉は溶けたアイスのようにテーブルに突っ伏していた。
街に出ることはマーティンから禁止されているのだが、忘れているというよりろくに話を聞いていなかったのだろう、瑛莉は毎日のように出歩いていた。
10日前の戦闘のせいでこのあたりは壊滅的に破壊された建物も多く、一般人の進入が規制されているため周囲に人は居らず、当然オープンしている店など一軒も無い。
手に持ったミネラルウォーターは、つい先ほど進入規制区域の外で買ってきたものだったのだが、すでにぬるくなってしまっている。
新しいのを買うついでにそろそろ昼食にしようかと時計を確認したところで、今日が何の日だったかに気がつく。
「・・・あ、今日誕生日だ」
知り合いの女の子の誕生日だったことを今更思い出して、しかし瑛莉はこういうときに「いや、ちょっと遅くなってもプレゼントを贈ろう!」などと言って立ち上がるような性分ではない。
「諦めよー・・・」
そう、これが瑛莉だ。
戦闘の爪あとが残った街で、まだまだ悲しみに暮れる人々の様子が見られる街で、自身が戦端を切って誰よりもたくさん殺した本人は、後始末に追われる仲間たちのことも微塵も考えずにこんな様子だった。
「お昼は何を食べようかなー」
結局その日の昼食は、街の食堂で昼食を食べていたマーティンの目の前に堂々と着席したことで、隊舎に連れ戻されて面白くも無い定食になった。
しかし夕方には、街の食堂でパスタを食べている瑛莉の姿が目撃されたとか。
A.D.3266/7/01 《トーキョー》
結局目的のものを買うまでに幾度も脱線し、ウィンドウショッピングやまったく関係ない服の試着など、2時過ぎに空腹に気づくまで寄り道してしまった。
昼食を食べに一度家に帰る予定だったのだが、近くの食堂で食べて直接ギルドに来ることになった。
「なんだかんだ言って仲いいですよね、せんぱいとアリッサさんって」
パーティー会場にと貸し切ったギルドのロビーにあるカフェスペースの一角で、飾り付けの手伝いをしていたアリッサは花凪のそんな一言に凍りついた。
花凪がどういう意味で言ったのかはこの際置いておくとして、仲がいいように見えているらしいのは聞き捨てならない。
「どうしてそう思うの?」
そんなはずはない、私はあの男が気に食わないのだから、という気持ちが顔に出ているのを自覚して、しかし花凪はそれにも嫌な顔一つせずに答える。
「この短い間にお互いのこと結構理解してるんだなー、って思うからですよ」
「そんなこと、同じ家で過ごしていれば嫌でも・・・」
「それに今日デートしてたじゃないですか」
「デッ・・・!? あ、アアアレはそんなんじゃないからっ」
いま自分はどんな表情をしたのだろう。ついさっきは解ったことが今度はわからなくなっていて、アリッサは混乱した。
花凪の表情は意地悪したそうなものになっていて、しかし少しして息をつくとその表情をやめてくれた。
「まだ、ちょっと早かったかもですね、ごめんなさい」
アリッサはなにか返事をしようとして、しかしすぐに言葉が出せないでいると、花凪の方から別の話題を振ってきた。
「お兄ちゃんは」
なぜ雪斗のことなのかと思いながらも、急速に気持ちが落ち着いていくのがアリッサ自身自覚できた。その様子を見ながら花凪は続ける。
「お兄ちゃんは昔、せんぱいとすごい大喧嘩をしたそうです。わたしはそのとき気を失っていたらしくて、後でお兄ちゃん達から聞いた話なんですけど」
ヴァイスと雪斗の過去のことか、とアリッサは相槌を打つ。
雪斗がトーキョーにやって来たその日のことで、背伸びしたい新人だったヴァイスの失敗と、それに巻き込まれてしまった詩村兄妹の出会いの話らしい。
それがヴァイスとアリッサの仲がいいように見えることにどう繋がるのかはわからないが、花凪にはそこに何らかの共通点を感じているのか、二人にもっと仲良くなって欲しいから話すエピソードなのか、とにかく聞けばその思惑もわかるのだろう。
パーティーの準備を進めながら、ときに手を止めて花凪は知る限りのことを楽しげに語って聞かせた。
A.D.3260/4/20
まだまだ肌寒いアメリカ北部、正確にはカナダに入っているらしいが、書類上アメリカ国内にあるトーキョーの朝は濃い霧に包まれていた。
寒いから、となかなか布団から出てこない母から布団を取り上げ、姉のように慕う少女も起こしにいこうとして、しかし1ヶ月近く前からもうこの家にはいないことを思い出して少し寂しく思う。
ヴァイスはなんでも1人でこなしてしまうしっかりした少年で、しかしまだまだ子供だった。
ジュニアハイに在学しながら、すでにギルドに登録されたフリーランダーとしていくつかの仕事をこなし、母と姉による修行の成果もあってちょっとした戦闘に加わることもできる。
天才少年、などともてはやされてもおかしくないように思えるかもしれないが、この頃は将来のためにある程度の訓練や実施研修を子供に受けさせる親も珍しくないので、ちょっと先を行っている、程度に認識されていた。
「ねぇヴァイス、ほんとーに大丈夫なの・・・?」
「本当に大丈夫だって。支援はヴァーゼに頼んであるし、それに瑛莉姉ぇは今日別の仕事受けてるんだろ? そっちに行かなきゃ」
昼前ともなると霧もすっかり晴れ、といっても仕事を受けてギルドから出てきたところは高架道路の天井の下、晴れ渡った空など見えない。
心配そうな様子の瑛莉と別れ、ヴァーゼと合流して本日の仕事へ向かう。
「そういえば、今日誰か引っ越してくるって日だっけ」
廃墟というか、もはや遺跡のように廃れ砂にまみれた町のなかを、キョロキョロと見回しながら歩く。
トーキョーと大陸横断線の間にあるこの町は、100年以上も昔に戦争で焼けた場所らしいが、物資の運搬などで今でも多くの車が通過する。
廃墟を利用したちょっとしたマーケットはあるものの、しかし完全な形を残した建物はほとんど無いため、住居にしている者など、それこそほとんどいないだろう。
トーキョーと違って水資源も無い荒野のド真ん中なのだからそれも当然だが。
ヴァイスとヴァーゼは、ここでマーケットを開いているという年配のフリーランダーの車に同乗させてもらってきたのだが、ここまでの惨状だとは予想していなかったらしく、ここに来るまでに通り過ぎてきたデ・ラッグは立派に町だったのだと思わされる。
「あぁ、ケイトさんが他所で育ててたってヤツラ、今日来るんだっけ。この道通るかもしれねェな」
ヴァーゼはこの頃からこんな喋り方で、服装も例によってつなぎだった。スカートを穿いている姿など見たことも無かったし、まるで想像できない。
「ケイトさんも大変だよな。別のギルドにも出向して教導してるってだけじゃなくてさ、孤児の面倒も見てるっていうんだから」
「アタシらも面倒見てもらってる側だけどな」
そんな話をしながら歩き、やがて一軒の廃墟の前で口も脚も止めた。
「・・・ここだな」
表向き他の廃墟と変わらないように見えるが、中に見える床の一部の材質が違う。
今回のターゲットである強盗団のアジトの可能性は高い。
「作戦とか考えてあるのかい?」
「強行突破」
「そいつァいい。アタシら向きの作戦だ」
詩村兄妹は戦災孤児だった。
天使と悪魔の戦争に巻き込まれ両親を失い、兄弟3人だけでさまよい歩きながら生きてきて、ケイトに拾われても最初はなかなか心を開こうとしなかった。
それもいつしかケイトや、育ててくれた小さなギルドの人達のおかげで開かれていき、雪斗の決意によってこの日新たな地へ移住することになった。
「全ての人の助けになりたい!」
ケイトはしかし雪斗に諭した。人には限界があり、広げた腕の範囲がせいぜいだと。目に映る範囲すらも人は助けきれないものなのだと。
「だったら、オレはこの腕の範囲を広げる。目に映る範囲よりももっと広げて、より多くの人を助けるんだ!」
もう18になるというのに、まるで子供のように腕を広げて夢を訴える姿に何を感じたのか、ケイトは詩村兄妹をトーキョーに移住させることを決めた。
フリーランダーの街でも、その人数を持ってしても街の全てを助けきれないというのを思い知らせるためだったのか、経験を積ませるためだったのか、本人は意図を語ろうとはしなかった。
世話になった人達に別れを告げ、詩村兄妹を乗せた車はケイトの運転で荒野に敷かれたアスファルトを走る。
昼を過ぎた頃、もうすぐ中間点というところでケイトのPHが着信音を鳴らす。
知り合いの息子が仕事に出ていて、トーキョーに向かう途中のマーケットにいるはずなので様子を見てきてくれないか、という頼みごとだった。
ケイトは渋々ながらに応じて、休憩がてらにその様子を見るためにマーケットに寄ることになった。
探してくるから、と言われて小遣いを渡された雪斗達はひとまずマーケットを見て回ることにした。
今朝まで過ごした町のマーケットよりもさらに小さな規模のものだったが、品揃えは比較にならないほどさまざまなものが並んでいた。
トーキョーに向かうものや、トーキョーからやってきたもの、それは土産物から食料品がほとんどだったが、旅のお供にと想定されたものばかりのようだ。
興味に惹かれるままにあちらへこちらへと歩き回っているとやがて、通りの方が騒がしくなってきていることに気がついた。
「なんだ? ちょっと行ってみようぜ、っていない!?」
月乃と花凪がいなくなっていたのにもここでようやく気がつき、少し行動に迷った後、何かの事件に巻き込まれていないか心配になって騒ぎの方へ行ってみることにした。
人ごみを掻き分けて通りに出ると、しかしそこにはもう誰もいなかった。
聞こえて来る話によると、最近このあたりを騒がせている強盗団がこの先の廃ビルに追われるように駆け込んでいったらしい。途中、この通りで女の子2人を連れ去って。
「まさか、そんなベタな・・・」
きっとそうだという予感を胸に、PHを起動させコンテナから1本の剣を取り出す。
スイッチを入れると柄のカートリッジから魔力供給を受け、術式によって身体能力の強化と障壁展開を行う程度の術式武装だが、いまの雪斗はコレぐらいしか持っていなかった。
走りながら妹たちとケイトに発信するが、妹たちのPHは電源が切られ、ケイトのほうは何回コールしても何故か出ない。
これはいよいよ何かが起こっていると確信して、PHの音量をミュートに設定すると、十分な助走を経て廃ビルの扉を蹴り飛ばした。
ヴァイス達による強盗団のアジトへの強襲は失敗した。
苦戦するほど強い者がいたわけではなかったが、思っていたよりも地下に広がるアジトは広く、首領他数人がそれぞれ別の出口から逃走してしまったのだ。
『せいぜい2、3部屋だと思ってたのに、なんだよこの謎の地下施設は』
「何かの研究施設だったっぽいケド、随分古いものみたいだし、昔の戦争で上の町と一緒に壊滅したとかそんなもンじゃねェかな」
PHで通信しながら、地上の町の地図と現在地を照らし合わせ、最適な狙撃ポイントに最も近い出口を探して走る。
ヴァイスは首領を追ってもうじき地上に出るだろう。
「ん?」
崩れた壁の隙間から、奥で何かが光ったように見えた。
少しだけ通り過ぎたそこに戻り、隙間を覗くとそこには大きな円柱のようなカプセルが立っていた。
「まさか生体カプセルとか、そんなマッドな代物じゃねェだろうな・・・」
廊下を回りこんで入り口を見つけるが、プレートが剥がされていて何の部屋だったのかはわからない。
中に入っても棚には何も無く、巨大なカプセルの下のほうにはやはりプレートが剥がされた跡があった。
床には盗賊団が散らかしたと思われるゴミが散乱しており、どうやら女を連れ込む部屋に使っていたらしい。漁ってもここの研究関連の資料は出てこないだろうと断定して、もとの目的に立ち戻り再び出口を探して部屋を飛び出した。
ケイトからの着信があったのはちょうど出口を見つけた頃だった。
『おいガキども、調子はどうだ?』
「無理しないで、手伝ってくださいとか言ってもいいんだぞ?」と冗談交じりにケイトが言うが、正直なところ本当に手伝って欲しい状況になってしまっていた。
地上に逃げた強盗団が、散り散りに逃げずに合流しようとしているらしいのはありがたいことなのだが、ヴァイスが聞き込みをしたところ、一般人の女の子2人が人質に取られてしまったらしいことがわかった。
『なるほどわかった。だがアタシも今日はほとんど武装を持ってきていない。ヴァーゼとは別のポイントで狙撃に徹するが、ヴァイスは1人で大丈夫か?』
『勿論ですよ。あんな連中楽勝です!』
地下での戦闘で1人ひとりがいまのヴァイスよりも弱いことはわかっていたが、この頃のヴァイスはやはりまだまだ子供だった。
『ちょうど入り口近くに1人いるみたいだ。一気に片をつけてやる!』
ケイトの注意も聞かずにヴァイスはPHをミュートにすると、マッピングモードに切り替えて自身の居場所を2人に送信するようにだけして、蹴破られたように扉を破壊された廃ビルに突入していった。
ヴァーゼはその姿を確認すると、到着したポイントから廃ビル内部の様子を探り始める。
「まァ、なんとかするさ」
A.D.3266/7/01 《トーキョー》
「へぇ、そんなことがあったんだ」
「!!」
突然背後から声をかけられ、アリッサと花凪は猫のように飛び上がって驚きを表した。
「そんなに驚かなくても・・・」とちょっとショックを受けた様子の咲月が、話の続きを聞きたそうにしている。
アリッサはどうも、この糸斬咲月という女性が苦手だ。
人懐っこい性格で、基本的に大雑把なくせに小さなことに気が回って、自分より他人で、ときどき意地悪になって楽しそうで、ヴァイスが2人になったみたいに思うことがある。
しかし違うところもあり、やたらヴァイスにくっ付きたがったり、それを見ているアリッサやリィラたちの様子をニヤニヤしながら見てきたり、そんな様子がちょっとだけ頭にくる。
身長がちょっと高くて胸も大きく、そのうえ手足も腰も細くて、胸の大きさ以外はモデルみたいな体型なのも、ちょっとだけ頭にくる。
かなり強い魔力を持った天使で、理由は秘密とのことだが、ときどきアークエンゼルスに追われているらしい。
(さっさと捕まっちゃえばいいのに)
自分で捕まえる、という発想に至らないあたり、アリッサもだいぶこの街に染まってきてしまっているようだ。自分もアークエンゼルスの一員なのだということを、このように忘れているときがあるぐらいには。
「咲月姉ぇサボってないで料理の手伝いしてくれねぇかな?」
許可を得て借りている厨房からヴァイスが出てきて、呆れた様子で咲月の肩を掴む。
「えー、面白そうな話だったのに・・・」
そのまま引っ張られるように厨房に連れて行かれるが、ヴァイスはそこまで強く肩を掴んでいなかったように見えた。引っ張る強さも簡単に抜ける程度だっただろうということから、結局咲月は自分で戻って行ったようなものだ。ヴァイスも咲月がその程度で連れ戻せるのを解っていたから、強くしなかった。
咲月が厨房に消えていったのを確認して、2人は息をつく。
安堵を感じる反面、アリッサはなにかもやっとしたものを胸に感じて、なんとなく気持ちが悪い想いだった。
(なんでだろう。なにか、おもしろくない)
「へぇ、今日はパーティーなのか。いいなー、僕も参加したいなー」
外からロビーの様子を見て、そんなことを呟いたロンドだったが、大衆が行き交う通りで空気を読まずにいつものマントにフードという怪しい格好をした男の空気に溜息をつく。
「・・・冗談だよ。じゃあ、こっちのお祭りももうちょっと準備にかかることだし、あのパーティーの開始にご一緒させてもらう形で始めて、参加した気になる、っていうのはどうかなぁ?」
暗いサングラスの下の瞳は見えないが、嗤っているのは間違いない。
今度はフードの男が溜息をついて、
「それで構わない。僕は今夜は別件で参加できないが、他の参加者によろしく言っておいてくれ」
「おっけー」
ロンドはその“別件”についてはまったく触れず、すんなりと了承した。別件の内容を知っているわけではないが、ティアファントムとはそういう組織なのだ。他所のチームでも似たような会話は多々あり、“別件”には干渉しないというのは暗黙の了解になっている。
フードの男を見送ると、ロンドもギルドのロビーを一瞥してその場を後にした。
祭りの開催をパーティー開始に合わせるために、準備を手伝いに。
「彼らもきっと楽しんでくれるよね、アハハハハッ」
今になって読み返すと、ちゃんと設定とかまとめ直したくなってきますが…、EP1もこのあたりでだいたい半分なので、いつかちゃんと纏めて書き直して紙媒体で出せたらいいなー、ということにさせてください…。
誤字とかあったら直すので、感想ついでによろしくお願いします。