第七話 伝説
久々の投稿となってしまいました……
これからは定期投稿できるように頑張っていきます
カシムさんの話によると、冒険者ギルドは約十五年ほど前に解体されたのだそうだ。理由についてはもともと独立気風の強かったギルドを大陸連合の国家が恐れたからだとされている。おそらく際立った組織力と冒険者の戦闘力を背景に高い軍事力を持っていたギルドの力を国家が恐れ、重大な事態が起こる前に解体してしまおうということだったのだろう。この結果大陸に統一的なギルドは存在しなくなり、代わって大陸連合が認証した資格を持つマスターによって運営される小規模ギルドが乱立することになったらしい。
現在、大陸では星の数ほどのギルドが互いにしのぎを削っている。ギルド間でクエストを奪い合うなんてざらで、中には大規模な抗争まで引き起こすギルドもあるのだそうな。ただし、冒険者はどこかのギルドに属さないことにはよほど高名な人間でない限り暮らしていけないので、否応なしにこの熾烈な争いに巻き込まれている。そのためどのギルドに所属するのかを選ぶのは冒険者にとって一大事であり、ギルドの方も登録を希望する冒険者に対して厳しい条件を課すところがほとんどなのだそうだ。
しかも困ったことに、たいていのギルドは登録する際に身分証明をする必要があるらしい。しかも、身分証明なしで入れるギルドはたいていが現代でいうところのブラック企業のようなところなのだそう。これは家すらなく碌に身分を証明できない俺たちにとっては最悪の事態だ。このままでは、某自由業まがいの仕事をせざる負えない。俺はこれからの将来を慮ってふっと息をついた。
すると隣で話していたカシムさんが俺の顔を覗き込んできた。彼の目は実に心配そうである。そこで俺は特に黙っていることでもないので、メシルの正体などを適当にごまかしながらおおよその事情を話した。
「なるほど……おおよその事情はわかりました。よしっ、私に任せてください!」
「えっ! そんなことできるのか?」
カシムさんはやたらと自信満々だった。俺はそんな彼に、わずかばかり疑いの目を向ける。すると彼は、これでもかといわんばかりにどーんと大きく胸を張った。
「ふふ、こう見えても私もいっぱしの武器商人。冒険者さんたちとはそれなりにつながりがあります。そのコネを使ってなんとか良いギルドを捜してみましょう!」
「おおっ! ありがとう!」
「いえいえ、何のこれしき。さてと、ではさっそくその推薦状とやらを見せていただけますかな? それの内容がわからないことにははなしにならないので」
俺はカシムさんに頭を下げると、袋の中から丸められた推薦状を取り出した。その帯封を紙を破らないように慎重に取り外すと、俺はそれをカシムさんにそっと手渡す。カシムさんはいつの間にか取り出していた虫眼鏡で丁寧にそれをチェックした。すると、どんどんと彼の顔が青ざめていく。その額からは汗が滝のように噴き出して、目は真ん丸になっていた。
「こ、これは本物なのかい? 君は本当に……あのアリアナの弟子なのかい?」
「そりゃ本当だけど……。アリアナさんってそんなに有名なのか?」
「孤高の英雄アリアナ……。かつてこの世界を滅ぼそうとした魔界の帝王に、たった一人で立ち向かった人間さ」
カシムさんの話によると今から百年ほど前、この世界に魔界の帝王と名乗る強大な魔物が侵略の手を伸ばそうとしていたそうだ。その魔界の帝王とやらにたった一人で戦いを挑み、見事に討伐したのがあのアリアナさんらしい。
カシムさんが言うには、アリアナさんはもともと王都からはるかに離れた辺境の村の出身であったそうだ。だが、その村はやがて魔界から噴き出した猛烈な瘴気により、全滅の憂き目にあった。アリアナさんはそんな中でただ一人生き残り、村が滅んだ原因となった魔界の帝王を倒すことを決意したらしい。
それからアリアナさんはただ一人で修練の日々を重ねた。魔界のことなど誰にも信じてもらえず、むしろ全滅した村の生き残りと忌み嫌われる中で、彼女は己を強くするためだけにすべてをささげていったのだ。身体の肉が裂けるのを無理やりに魔法で治療し、孤独で壊れそうになる心を復讐の炎で覆い隠し。常人にはおよそ耐えることなど出来ない修練を日々重ねていった。
おそらくこの時、俺が習ったオリガ聖剣流は編み出されたのだろう。もしかしたら「聖剣」というのを流派の名に冠したのも、この事実からすると魔界の帝王を倒すという彼女の意思が込められていたのかもしれない……。もっともアリアナさん以外に真実はわからないのだろうが。
ともかくそうしてアリアナさんが修行の日々を始めてから十年以上の歳月が過ぎた時、ついに魔界の門が開かれた。平和にかまけていた冒険者や騎士団には碌な力はなく、空から襲来する悪魔の前に人々は逃げまどうばかり。人間はこのまま滅びていってしまうのかと誰もが思った。そんな人々の心が絶望に染まった時、たった一人でアリアナさんは闇に染まった空に浮かぶ玉座に向かって突撃したのだ。
剣に乗って空を飛ぶ彼女は、玉座を守る数千にも達する悪魔たちをもろともせず彗星のように突っ込んでいった。体にまとわりつく悪魔を払い飛ばしたり、彼らの放つ怪光線を交わしたりしながら、一直線に玉座へと彼女は迫ったのだそうだ。そして見事に魔界の帝王の前にたどり着いた彼女は、帝王の放った恐るべき威力を秘めた魔力弾をはじき返して見事帝王を打ち破ったのだ。
だがその時、アリアナさんは帝王の呪いにより死ぬことも老いることもできない体にされてしまった。永遠の生の苦しみを味わうべし、ということだそうな。そのためそれ以降も現在に至るまで生きていることは確実なのだが、時折どこか辺境のギルドにひょっこり顔を出すだけでそれ以上のことについてはまったくわからなかったらしい。
……ここまでカシムさんの話を聞いて、俺はあきれたように息をついた。どこをどうしたら、そんな悲劇的な英雄があんな軽いノリの性格になるのだろうか。正直、この伝説のアリアナという人物が、俺の師匠のアリアナさんかどうかはものすごく疑わしく思えた。
「うーん……。もしかしたらその英雄アリアナと俺の知っているアリアナさんは違う人かも……」
「さすがにそうかもしれませんねえ……。嘘はついていないにしろ、同名の別人かもしれません」
「それはないわ」
ひょっこりと現れたメシルが、いやに自信たっぷりに言ってのけた。俺とカシムさんは彼女の方に視線を向ける。すると彼女はいつもの無表情を保ちながらも口元をニヤッと歪めた。そしてゆっくりとその細い唇を開く。
「そう言える根拠は二つ。アリアナさんがあなたが生まれてから十数年の間まったく老化していないこと。もうひとつは彼女も剣に乗って空を飛べたこと。根拠にするにはこれで十分」
「なるほど、確かにそういうことなら……」
「そう言われれば、アリアナさんはやたら若々しいし剣で空も飛べたな……」
俺とカシムさんは得心したような顔をした。そう言われてみれば、アリアナさんはやけに年をとらなかったし、剣で空も飛べる。伝説の英雄アリアナの特徴をきっちりと押さえていた。やたらにストイックな修行をしていたのも昔の名残だと考えればしっくりくる。信じがたいことだが、俺の育ての親で師匠でもあるアリアナさんは世界を救った英雄だったようだ--。
いかん、また作者の趣味が全開に!
……今回の話の元ネタがわかった人はいますかね?
あの人はさすがに桃〇白先生ほどの知名度はないと思いますが……
ただし、ストーリー的には数段重要な人ではありますけどね