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第五話 旅立ち

 俺がメシルと出会って三ヶ月後、ついに俺が旅立つ日がやってきた。……なぜ早々に旅立たなかったのかというと、俺にもいろいろあったのである。アリアナさんの出した卒業課題をクリアしたりとか、さらに追加された謎の必殺技もどきの習得課題をこなしたりとか。


 アリアナさんは俺がソードギアに認められたことによって、俺に今まで教えるつもりのなかった必殺技のようなものまで教えてくれた。曰く「オリガ聖剣流、唯一にして最終の奥義」なんだそうだ。それがどういった技なのかはここでは省くが、危険な技だとだけは言っておこう。これを出すときは、相手を殺す覚悟が必要なほどに……。


 このように必殺技を習得した俺はメシルと一緒に旅立つのだが、アリアナさんもまたこの地を離れてもともと暮らしていた土地に帰るのだそうだ。家の地図をもらっているのでまた会えるとは思うが、しばしの別れ。俺は早朝から家をひっくり返して荷物の整理をしているアリアナさんの背中を見て、わずかな郷愁にも似たものを感じる。そうやって思って住み慣れたこの小さな家とももう、お別れだった。決して広いとは言えない小屋同然の家だが、そこかしこに想い出がある。子供の時に付けた小さな柱の傷や床の汚れ、そのすべてが俺にはかけがえのない想い出のように思えた。


 俺が物思いにふけっていると、隣の部屋からメシルがずいぶんと大きな荷物を背負って現れた。彼女はそれを玄関から外に出すと、俺の方をふっと見る。その目は明らかに俺を呼んでいた。こうしてメシルに促された俺はかなり後ろ髪を引かれる思いをしながらも、潜り慣れたドアを抜けて、家の外へと出たのであった。





 俺が家の外に出ると、そこには大荷物を背負ったメシルが待ちくたびれたような顔をして立っていた。彼女は大きなリュックサックを揺らしてこちらに振り向くと、無表情な顔をして事務的な口調で俺に話しかけて来る。この三カ月ですっかり慣れたが、この少女はとても無表情でなおかつ事務的な口調を好むようだった。

 

「そろそろ出発する。街までは遠い」


「待って、アリアナさんがまだだ」


「そう、ならもうしばらく待つの」


 メシルはコクっとうなずくと荷物を下ろした。そうして俺たちはアリアナさんが来るのをしばらく待つ。そうして十五分ほどたった時、玄関からごとごとと大きな音がして、体よりも巨大な剣を背負ったアリアナさんが現れた。俺はびっくりして思わずその鉄の塊のような剣に目を奪われる。アリアナさんはこういう武器を好むような人ではなかったはずだ。


「ふう、ごめんね。遅くなったわ」


「……アリアナさん、その剣は?」


「ただの移動用よ。それより、ほれっ!」


 アリアナさんが俺に向かって小さな袋を投げてよこした。俺がその袋を受け取って中身を確かめてみると、金色に輝く硬貨が数枚と何かの紙が丸められて入っている。俺はそれらをいったん全部手の上に出すと、アリアナさんに訝しげなまなざしを送った。


「これは?」


「見ての通り、お金とギルドへの推薦状。要はそこにあるお金で王都まで行って、ギルドへ登録してきなさいってこと」


「うわっ、ありがとう!」


「そんなに頭下げないでよ。照れるじゃない」


 頭を下げた俺にアリアナさんは少し照れたのか頬を朱に染めた。彼女はそのまま大きくふっと息をつくと、背中に背負っている剣を手に持ち直す。それをさらに片手で空に向かって構えると、彼女は俺とメシルの方を振り向いてほほ笑む。俺はニッと十全の笑顔を見せ、メシルもふだんとほとんど違いがわからない程度ではあるがほほ笑んだ。


「じゃ、お先に出発するから。さよなら、また会いましょうね。……そりゃアアアっ!!」


 アリアナさんは裂帛の気迫を放った。それと同時に剣が振り上げられ、大砲の発射音のような轟音とともに発射される。剣は幅広の刃を地面と平行にして、すべるように空を飛んでいく。アリアナさんはそれを確認すると、自身も地面を砕くほどに蹴って空へと舞い上がった。青空の中を弾丸のようにして突っ切ると、彼女は器用に剣の刃の上に着地する。そうしてアリアナさんと剣は瞬くほどの間に、空の彼方に消えゆく星となってしまった。


 ぽかーんと固まる俺とメシル。剣で空を飛ぶなんて、びっくりするほど新しい移動方法である。あっけにとられた俺とメシルは互いに顔を見合わせた。普段なら何があっても無表情を崩さないはずのメシルの表情が、若干ではあるが崩れてしまっていた。それだけ、彼女にとっては衝撃的だったのだろう。俺にとってももちろん衝撃的すぎるのだが。


「……斬新」


「まあ、普段からめちゃくちゃな人だったけど……」


「……これ以上はたぶん気にしたら負け。そろそろ出発しましょう」


「そうだね、じゃあ行ってきます!」


「行ってきます……」


 俺とメシルは誰もいなくなった家に向かって手を振った。何の変哲もない木と土でできた丸っこいデザインの家が、妙に小さく見える。それだけ俺が大きくなったということだろう。その少しくたびれたような姿に俺はすでに懐かしさに近いようなものを感じつつ、一歩旅路を踏み出したのだった。







 家を旅立った俺とメシルは丸一日後、何の問題もなく森を抜けて草原に出た。もともと俺は森の魔物など相手にならないほどに鍛え上げられていたし、メシルも伝説の武器が変化したにふさわしい戦闘力を持っている。問題などめったなことでは起きるはずがなかったのだ。そうして涼やかな風が心地よい草原に出た俺とメシルは、そこだけ草の抜けた街道らしき道を発見した。俺たちはそれに沿って南へとまっすぐ歩いて行く。持っている地図が正しければ、このまま道に沿っていけばあと二三日でオークスという街へたどり着けるはずだ。そこからは王都まで乗合馬車に乗って一週間ほどの距離である。


 だがこの時、めったなことでは起きるはずのない問題が発生した。


「きゃあああああ! 誰か助けてくださーーーーい!」


 道の先の方で人のよさそうな行商人らしき人--どうみてもオジサン--が見るからにガラの悪い山賊のような連中に襲われていたのである……。


オジサンですみませんっ!

でも第二のヒロインはまたすぐに登場しますのでご安心を。




……ところで、アリアナさんの移動方法の元ネタわかる人はいるかな?

結構マイナーだと思われる人が元ネタなのですが……

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