プロローグ
妄想いっぱいで書き始めた小説です。
お目汚しかと思いますが、これで暇をつぶしていただけたら幸いです。
転生、それはもともと仏教用語。だけど今は仏教用語としてではなく、もっぱらネット小説のジャンルのひとつとして定着している。わかりやすくいうと、トラックではねられた主人公が異世界へ~というパターンの小説がこれにあたる。もっとも、ネット小説では定着しているが市販の小説ではほとんど見ない……そんなことはさておき。
俺もまた、転生した数少ないであろう人間の一人である。しかも、ネット小説のテンプレートど真ん中のトラックにはねられてというパターンでだ。でもまさか、近所の八百屋のトラックが一部でうわさの転生トラックだったとは……。前に流行った携帯電話のCM風にヨソウガイだったけどな。
まあとにかくそういうわけでトラックにはねられた俺が、なぜかおぎゃあと生まれ変わって早数カ月。意識がはっきりしてきてから数週間が経過した。さすがにこれだけ時間が経過すると人間いろいろと落ち着いてくるもので、俺も周りの状況をだんだんと把握できてきた。
いま、俺はよくわからないところに暮らしている。家の隣に馬鹿みたいに高い塔が建っていて、その周りは地平線の果てまで続く原生林。ここが地球かどうかはまだわからないが、たぶんファンタジーな世界なんだろうなと思う。なにせ、森自体は地球にもあるだろうが家の隣の塔の高さが尋常でないのだ。まさに雲を貫くといった表現が適切で、俺がまだ赤ん坊で視力が弱いことを考慮しても先が霞んで見えないほどの高さ。東京でスカイツリーが開業するとか話題になってたが、あれを軽く凌ぐくらいの高さがあるだろう。しかもそれが大理石っぽい白い石でできているのだ。地球の石造建築でこんなふざけたものがあったら、さすがにあまり学歴の高くない俺でも知ってると思う。
あと住んでる場所以外にも重要なことがわかっている。それは俺には親がおらず、どこかから拾われてこの家で育てられているらしいということ。
意識がはっきりしてきて最初に見た人間は、現在も俺を育ててくれている女の人。俺は最初、この人が母親なんだろうなと考えていたのだが、最近はどうにも違うと思っている。この人が母親にしては父親にあたる人物をまったく見かけないし、母乳などで育てようとする気配が一切ないのだ。頭の中が大人なのに母乳を飲まされるのは恥ずかしいことこの上ないが、母親ならば当然母乳で育てたいと考えるだろう。それを全くしようとしない、というより考えに入れてないようなこの人の行動にはものすごく違和感を感じる。
さらに加えて、この人はなんというか……びっくりするほど母親らしくない。彼女は背が高めでメリハリの効いたモデルのような体形をしている妖艶な美女なのだが、腰から剣を下げている上に年がら年中自己鍛錬に励んでいるのだ。しかも、どこぞのバトル漫画に出てくるような超ハードで見ているこっちが疲れてきそうなほどの……。たとえば俺を背中に乗っけた状態で指立て伏せ一万回とか。
でもこんなバトルジャンキーっぽい人でも今では俺の保護者である。俺を拾ってかなり優しく育ててくれていることには感謝しなければならないし、俺も感謝している。事実この人に拾われてなければ俺は意識も覚醒しないうちから獣に食べられるか飢え死にしていただろう。たぶん、いや絶対に俺はこの恩を一生忘れないし忘れてもいけないと思う。……ただし、ようやくはいはいができるようになってきたばかりの赤ん坊の足に重りを装着するのはやめてほしいんだ……と思う生後まだ数カ月の俺だった。