姉の代わりに結婚させられた聖女は、未来がやばかったので時を戻してもらって溺愛される
とある夜会にて。
「これは、これはアデラ様。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。主催は我が家ですが、本日の主役は間違いなくエイミー様とアデラ様です。ぜひともアデラ様にご紹介したい方がいますので一一」
「紹介ねぇ? ごめんなさい、私もお姉様みたいに、運命の訪れを待っているの。失礼するわ」
私と姉のエイミーは、初代聖女の血を引くオーストン侯爵家に生まれた。
それは、それは、大切に育てられた。
世の中が、自分達中心に回っていると勘違いするほどに。
だって、王族でさえ私達に一目おいて接してくれたもの。 何か困ったことがあれば駆けつけると、魔道具のブローチも持っているのよ。すごいでしょ?あっ、このことは秘密なんだった。
わがままになるのは当然でしょう?
「ねぇ、見て、アデラ様よ。 お高く止まっちゃって。挨拶する? どうする?」
「無視しましょう? だって、挨拶してもしなくても、どうせ文句言われるもの。
それに……くすくす、今の言葉聞いた? 運命の訪れを待っているんですって。くすくす、笑える」
「ぷっ、ほんと、あっはははは」
「しーっ!聞こえるわよ」
バッチリ、聞こえていますよ。どうなるか身を持って知ってもらいますからね。
「ねぇ、ちょっと!」
私は、主催者に気分を害したと訴える。
「どこの令嬢だ! あの二人をつまみだせ! さ、さ、アデラ様、どうかご機嫌を直してください」
「そうね、私も大人げなかったわ。もう少しここにいようかしら」
うふふ、いい気味。 追い出されちゃって。明日には噂の的ね。あの令嬢達の婚期は、間違いなく遠のいたわね。私のことを馬鹿にするからよ。
いいじゃない、運命の相手を信じたって。
「アデラ? また、誰かを追い出したの?」
「エイミーお姉様!座ってなくて大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。あまり長居しないから」
エイミーお姉様は、アルフレッド様と結婚して現在妊娠中だ。
エイミーお姉様が家督を継ぐことになっている。両親は引退して、私と一緒に、静かな領地へ引っ越している。
だから、私も早く相手を見つけて出て行かなければいけない。
輝くような金色の髪を持ち、どこか儚げな印象のお姉様と違って、赤毛で細目の私は、我が強く敬遠されがちだった。
実際に、わがままなのは認める。でも、強くないと、社交界ではやっていけないでしょ。優しいお姉様のことも悪く言う人だっている。だから、私が強くならなくちゃって。
「あら、お姉様、お隣の方は?」
お姉様の隣に、お義兄様ではなく、銀髪のイケメンが佇んでいる。金髪と銀髪の美男美女の破壊力すごいな。
ちなみにお義兄様は、金髪。お姉様と並ぶと本当に光っているのではないかというくらい眩しい。
「お初にお目にかかります、オーストン侯爵令嬢。私はギガ・クウォーター。クウォーター伯爵家の三男です。しがない田舎の伯爵家なので、ご存知ないかもしれませんが……。あの、オーストン侯爵令嬢?」
「……いい」
ドン、ドン、ドン、ドン、鼓動が早くなる。これは、運命の音……?
声もいい。顔もいい。ギガ……名前もなんか大きくていい。ん? クウォーター……小さくなった?
とにかく、いい。 一目惚れしてしまい、思ったことが声に出て、放心する。
「はは、オーストン侯爵令嬢は、かわいらしい方ですね」
「ひぇ?ア、ア、ア、アデラとお呼びください」
「では、改めて、よろしくお願いします。アデラ嬢」
「……むり」
「あら、もしかしてアデラ?うふふ、ちょっと外すわね。ギガ、アデラをよろしく」
「お姉様⁉︎ 二人にしないでください……」
うふふ、とにこやかに笑っていたエイミーお姉様。 まさか、この後あんなことになるなんて一一。
残酷な運命の歯車が、回り始めているとも知らず、この時の私は、ギガ様に出会えたことに、浮かれ喜んでいた。
この日を境に、ギガ様と交流するようになった。エイミーお姉様の遣いとして、頻繁に領地へ訪れてくれる。
お互いに同じ気持ちだと知れた時は、天にも昇る気持ちだった。
ギガ様に相応しい相手になれるように、努力した。わがままを言うのを、なるべく控えた。
両親もクウォーター伯爵も、認めてくれた。
我が家に余っている伯爵位があるので、私が受け継ぎ、結婚する段取りまでトントン拍子で進んだ。
「アデラ、出会った時もかわいらしかったけれど、最近はさらにかわいいですね。でも、私以外に優しい言葉をかけてはダメですよ」
ギガ様は、部屋に二人きりの時は必ず私を膝の上に座らせる。耳元で囁かれて、悶える。必然的に顔中が真っ赤になる。
「近い、近いです、ギガ様。もう少し離れてくださ……って、あぁっ」
押しのけようとした私の手を取り、ギガ様は自身の指を絡ませる。
「あぁ、真っ赤になってかわいいですね、アデラ。もう、今すぐにでも食べてしまいたいです。あと、もう少しの我慢ですね。アデラ、いいですか? 最近のあなたは優しすぎる。出会った頃のように、もっと強く拒否してください、勿論、私以外に対してですよ? 言い寄る男共が多すぎる」
「もう、分かりましたから、指をはなしてください」
「もう少し、このままで」
ギガ様と婚約してから、急に婚約の申し入れの手紙が増え始めた。ギガ様が言うには、侯爵家と繋がりを持ちたい者達が名乗りを上げ出したのだそうだ。しがない伯爵家の三男では、相応しくないと。
ギガ様は、ご自分を卑下しすぎだと思う。
私なんて、聖女の血を引いている肩書きだけで中身空っぽなのに……。
でも、嫉妬してくれているんだよね。
そう思うと、なんだかくすぐったい。
あぁ、早く式を挙げたい。
そんな時だった一一。
エイミーが出産したという報せを受けとったのは。
突然の嬉しい報せに、すぐにお姉様の元へと駆けつけた。
邸に到着すると、ざわついていた。
どことなく、ピリピリとした空気を感じた。
まさか、赤ちゃんに一一?
胸騒ぎを覚えて、急いでお姉様の部屋へ向かった。
「おぎゃぁー、おぎゃー」
赤ちゃんの声だわ。良かった。
生まれたのは、元気な男の子だった。
「おめでとう! お姉様! お姉…さ…ま…お姉様!お姉様!お姉様ーーーー!」
「アデラ様、落ち着いてください」
「どういうことなの!? お姉様はどうして動かないの! 寝ているだけでしょう?ねぇ、そうでしょう? ねぇ!誰か何か言ってよ!」
血の匂いが立ち込める室内。
お姉様はベッドの上に横たわり、ピクリともしなかった。 色白のお姉様の顔は、青白く生気がない。
お姉様が亡くなった? 嘘よ!
だって、あんなに優しいお姉様が亡くなるなんて! この世に神様はいないの?
お姉様は聖女の末裔なのよ? どうしてお姉が……お姉様………。
戸惑う使用人達、泣き叫ぶ赤ちゃん、
現実を受け入れられない私。
そこからの記憶は欠如している。あまりにもショックなことが起きると、頭が真っ白になるというのは本当のようだ。
そして、更にショックなことをお父様から告げられる。
産まれたばかりの男の子ウィリアム一一後見人が必要。
入婿であるアルフレッドでは、周囲が納得しない。引退したお父様が後見人になるならば、アルフレッドの肩身が狭くなる。
エイミーは、アルフレッドを大層慕っていた。それに、なによりウィリアムと引き離す訳にもいかない。
苦渋の決断として、私がウィリアムの後見人となることが決められた。
聖女の血を引く私が、継母となるのが一番だと。
私に選択する道はない、と。
あまりの不条理に激昂した。
だって、そうでしょう? 私はギガ様と婚約しているのよ! 初めて心から好きになった人なのよ! もうすぐ式を挙げるのよ!
どんなに泣き叫んでも、聞き入れてもらえなかった。今までどんなわがままも聞き入れてもらえていたのに……。
これは、オーストン侯爵家の決定事項だからと。 そんなの、あんまりよ……。
結局、私も、粋がってても、単なるちっぽけな手駒の一つにしかすぎないんだ。
監視されて、ギガ様と会うことも、連絡することも一切できなかった。
本人が拒否しているのに、ギガ様との婚約は白紙に。
アルフレッド様と結婚したようだった。
頑として拒否したので、結婚誓約書にサインしていない。けれど、結婚誓約書の控えがある。きっと、お母様がサインしたのかしらね。
こんなの、受け入れられるはずない!
だって、私の人生はどうなるの?
これから結婚して、式は盛大に挙げて、子供だって欲しいし、色々と計画してたのに!
だって、結婚は誰もが主役になれる人生の大イベント。
女性なら誰も憧れてるものでしょ?
聖女の血筋だからって、姉が亡くなったから妹でって、おかしいでしょ!
結婚式の時のエイミーお姉様は、いつにもまして本当に綺麗だったわ。本当に輝いていた。次は、私なんだって思ってた。
なのに、なのに……
エイミーお姉様が亡くなるなんて…
あぁ……あぁ……
お姉様がいない……
寂しくてたまらないのに。
お姉様の代わりなんて、できない!
私が母親になるなんて無理よ!
気持ちの整理がつかなくて、周りに当たり散らす日々が続いた。
「みんなでていって!一人にして!」
手当たり次第に物を投げ続ける。
アクセサリーケースも床に散乱する。
これは…そうだわ!忘れていたわ!
魔道具のブローチが目に入り、手で握りしめて助けを乞う。
「助けてください!」
その瞬間、まばゆい光が辺りを包み込み、目の前に突如として、一人の男性が現れた。
艶やかな黄金色の髪をかき上げ、気怠そうに空色の瞳を向けてくる。
「帝国の小さき太陽に……以下略で、フェリクス王太子様! 助けてください!お願いします!言いましたよね?何かあった時は助けてくれるっって」
私は王太子様に掴みかかり、懇願した。
「不敬だよ、アデラ嬢。まぁ、聖女の末裔だから色々許しているんだけど分かってる? 今だってさぁー、私が、ちょうどこれからって時に呼び出すんだもんなぁー」
「どうせ、綺麗などこぞのご令嬢を口説いていたのでしょう?とにかく助けてくださいませ!」
「ははははっ、図星だけどね、だって、美人好きだからね。あ、その顔はこの国大丈夫かな?って思ったでしょう? そこは心配いらないから。
さて、アデラ嬢、ここからが本題だ。
一つ誤解があるよ。私は、この国のためにならないことはしない。
アデラ嬢にそのブローチを渡したのは、エイミー嬢は人柄も申し分なかったけど、君は、ちょっと……周りを巻き込むんじゃないかなと思ってさ。何かあったときに、私が駆けつけるとそのブローチを渡したんだよ。 決して、君を助けると言ったつもりはない」
「じゃぁ……助けてくださらないのですか……」
絶望感に苛まれて、涙が込み上げてくる。
「まぁ、待ってくれ。らしくないじゃないか、アデラ嬢がそんなにしおらりかったら。
あぁ、ディスってないからね? 君を泣かせたら、ギガから殺される。あれ?知らなかった? ギガの長兄は私の近衛騎士なんだよ。 それに、何度も君に会おうと忍びこもうとしたこと気づいてないだろう?
あのギガを撃退するとは、オーストン侯爵家の騎士も中々だね。
まぁ、その話は置いておいて。
とりあえず、未来を見てから考えよう」
「未来?」
フェリクス王太子様が、両手を広げると手のひらに水晶玉のような光の玉が浮かび上がる。
そこには、二人の女性が写っていた。
「あぁ、これは、うーん、今から16年後あたりだね。こっちは、アデラ嬢、そして……もう一人は、リリア嬢だ。ウィリアムの婚約者だね」
「ウィリアムの? ウィリアムって、赤ちゃんのウィリアム?
「あー」とか「うー」とか言葉もまだ言えないのよ。でも、ウィリアムの手の近くに指を置くとね、ぎゅっと握りしめてくれるの。
そして、口の中に私の指をそのままくわえようとするのよ。
本当にかわいい。 あの、アルフレッド様?どうしてそんな顔するのですか?」
「いやぁ、なーんだ。てっきりさ……いや、甥っ子を可愛がってるんだなと、ちょっと見直したよ」
「どういう意味ですか?」
フェリクス様に詰め寄ろうとした時、光の中から女性の声がした。
「もう引退なさって大丈夫ですよ、おばさま。お義母様とお呼びしなくてもいいですよね?だって、お飾りの妻でしょう?
次代の聖女は私が産みますから。もう、おばさまの時代は終わったのですから。ふふふ。社交界ではもっぱらの噂ですよ、おばさまは、聖女の血を引いている以外価値がないと。
アルフレッドお義父様は、おばさまが嫌いで王城で寝泊まりされてるとか」
光の中で、リリア嬢は、未来の私に向かい罵詈雑言を浴びせている。
「な、な、なんなの!この令嬢は!」
「アデラ嬢、無理もないよ。今回のことは緘口令が出されている。だから、未来のリリアのような若い世代には、真実が知らされていなんだ。
だから、アデラ嬢のことは、夫に相手にされない妻に見えるだろうね。
でも、だからって、これはいただけないね。どうやら、未来のアデラ嬢のイライラが暴走し始めた。
嫁姑の諍いが耐えなかったのは、つらいだろうけど……」
光の中に目を凝らすと、未来の私が何かぶつぶつ言っている。
「フェリクス様、未来の私は何をしているのでしょうか?」
「あぁ、やぱいね。これは呪術だよ。
リリア嬢が妊娠しないように、呪いをかけてるね。 だめだろ、さすがにこれは。
聖女の血筋を途絶えさせてどうするんだ。
呪術には、対価が必要だからね。見てごらん?
リリア嬢が、体調を崩し始めたよ。
そして比例するように、ドス黒いモヤがアデラ嬢を囲んでいるのが見えるだろう?
強い憎しみの感情だ。
呪術を行うとね、憎しみの感情が呪術者の生命を蝕む。
皮膚の色も見てごらん?
土気色に変色しているだろう?
まるで死の匂いを漂わせているみたいだろあう。
人を呪わば穴二つ。
呪術には対価が必要だからね。
もう充分だ。ここまでにしよう」
フェリクス様の手のひらから、光の玉が消えていく。
急に室内が暗くなったみたいに感じて、目がチカチカする。
「さて、アデラ嬢、結論から言うと、確かにこのままだと、この国は聖女の血筋を失うことになる。初代聖女は国の繁栄にこうけんした。
君も知っていると思うが、代々女性にその力が宿る。聖女がいる国は繁栄と安寧をもたらす。だからこそ、政略結婚の道具として使われることを危惧していた。
王族や高位貴族と婚姻を決めるのではなく、自らが見つけた運命の相手と結婚するようにと言い残していた。
けれど、少子化の影響もあり、今では若い聖女の末裔はアデラ嬢だけとなった。
エイミー嬢の出産時に時を戻そう。王宮の医師を派遣し、王家の魔道具も持参しよう。エイミー嬢を必ず助ける」
「そんなことができるのですか!?」
「あぁ、だが、ただというわけにはいかない。優秀な人材が欲しいんだ。許可してくれるね?」
優秀な人材?
聖女の血を引くだけで、空っぽだと思っていたけれど、私には何か能力があったの?
どう答えてよいか分からず、即答できなかった。
「あぁ、優秀な人材だからね? アデラ嬢のことではないよ」
「フェリクス様、おふざけはその辺で。さもないと、その話はお断りします」
バタンと、勢いよく扉が開いたと思ったら、ギガ様が駆け寄ってくる。
「あぁ、アデラ、遅くなってすみません」
ぎゅうっと強く抱きしめられて、混乱する。
懐かしい匂い。ギガ様の温もり。
「ギガ様、ギガ様、本当にギガ様なのですね!会いたかった…んんっ」
抱きすくめられて、唇を塞がれる。
「私もです。アデラ……かわいいアデラ、よく顔を見せて」
「あー、君たち、まだ私がいるんだけど?
目の前でいちゃつくのやめてもらえるかな……はぁ。ギガ、明日から私の側近として勤めるように、命令だ。って、聞いてるのか……もう、勝手にしてくれ」
まばゆい光が辺り一面を覆い始める。
その瞬間、ぐらりと視界が揺れる。
「アデラ、何も心配いりません。大丈夫です。フェリクス様が時を戻しているのですよ。もしかしたら、この記憶も、薄れるかもしれません。けれど、覚えておいてください、私は、生涯あなただけを愛し、一生添い遂げますから。どこまでだって、追いかけるから。
もう、我慢はやめます。受け入れてくれますね?」
ギガ様の優しい眼差しに捉えられて、コクンと頷く。
「アデラ……愛しています」
「ギガ様、私も、生涯あなただけを愛します。っ!」
「ベッドに行きしょう、アデラ」
次の日、立会人としてフェリクス様を呼びつけて、
結婚の誓約書を交わした。
「あー、君たち、私が王太子なの分かっているのかな?だぁ、もう、勝手にしてれ!」
ギガ様は、その後フェリクス様の側近となった。
なんだか悪い夢を見ていたような気がする。
「エイミーお姉様! ウィリアムを抱っこさせてくださいませ」
「アデラ、よく来たわね、ほぉら、ウィリアム、アデラおねえさんでしゅよー」
「ばぅ」
「あぁ、今、きっと私の名前呼んだのね!かわいい!」
なぜか、毎日エイミーお姉様の顔を見ないと落ち着かないのはなぜかしらね。
今日もウィリアムは天使だわ
応援いだけますと嬉しいです!
宜しくお願いしますm(_ _)m




