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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

ぐんぐん

作者: 壱原 一

新学年で、委員会が一緒になった、隣の隣のクラスの□さん。


何度か当番が同じになって、色々はなしていたら、結構なかが良くなって、放課後□さんのお家へ遊びに行く事になった。


普段あんまり行かないけど、聞いたら道は分かるとこ。


一旦いえへ帰って、親へ□さんの家へ行くと言って、□時頃かえりますと言って、買い置きのお菓子を少し持って、自転車に乗って出発した。


大通りと高架橋をぐんぐん。


十字路を折れて小道をぐんぐん。


高速道路の下を潜ると、周りは一気に家がなくなる。全面たんぼばっかりで、車だって見当たらなくて、まるで王者になった気分で、独り占めの砂利道を立ち漕ぎする。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


にゅっと突き出た木立を、遠回りするように曲がったら、その先に□さんの家が見える。


頭の中で予想しながら、木立を曲がり始めたら、木立の少し奥の方に車が停まっているのが見えた。


こっちへ斜め後ろ向きの、小さいバスみたいな形の、長い大きめの白い車。


畑をしているお祖父ちゃんが乗っているのと似てるやつ。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


立ち漕ぎしてるからと思ったら、漕いでる自分だけじゃなくて、停まってる車も動いてる。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


停まったままタイヤ分はずんでる。


なんで?と見ながら曲がり続けて、斜め後ろから通り過ぎる時、車の反対側にある、横に開く長い方のドアが、急に、がららら、ばぁんと開いて、色白の痩せた若い人が、髪の毛を振り乱して、中腰の前のめりになって、両腕をクロールするように掻き回して走って行った。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


漕いで、□さんの家に着いて、振り返ると木立の影になって、車は全然みえない。


□さんとお菓子を食べて遊んで、夕方いえへ帰る時、同じ車がまだあったから、ちょっと離れた所で停まった。


自転車を降りて近付いて、後ろの方から覗いてみたら、後ろの席はホースとかバケツとか、シャベルとか長靴とか満載で、薄暗くて良く見えなかったけど、誰も乗ってないみたいだった。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


それから□さんの家で遊ぶ度、同じ車がずっとある。


放置車両ってやつかな。あの若い人が降りて走って行った時、閉まる音がしなかったから、もしまだそのままだったら、ドア開いてて基地に出来るかも。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


そんな上手い話ないだろうけど、わくわくした気持ちになって、もしかしたらって思えてきて、休みの日、□さんと遊ぶと言って、誰にも内緒で偵察へ行った。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


開いてたら、クッションと毛布を持って。水筒とお菓子とゲームを持って。


宝箱とへそくりを隠して。懐中電灯も置いておいて。


夜に秘密で花火とか。


□さんを誘ってあげるのも良い。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


凄い事が出来るんじゃないかって、どきどきしながら木立を曲がる。


いつも通り車が停まってて、自転車を停めて、降りて、歩く。


あれ以来、通り過ぎるだけだったけど、久し振りに近付いたら、乾いた土埃で汚れている。


でもこの位ぜんぜん良い。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


わくわくどきどきで熱くなって、道の側の長いドアの取っ手を引く。


当たり前みたいに開かない。


助手席の方のドアもだめ。


だけどあの日わかい人が降りた反対側の長いドアは?


木立の影と土埃で窓越しに反対は覗けない。


最後の望みを託して、後ろから反対の長いドアへ回る。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


あ。


閉まってるかも。


閉まってる。


ああドア閉まってるよ。


えええ。ええええ。なぁんだ。


多分あの人が戻って来て閉めたんだ。


放置車両じゃなかったんだ。


やっぱり。やっぱね。そうだよね。


そんな上手い話ないよね。


でもずっと此処にあるの何で?


見たらドアは閉まってるけど鍵は本当に掛かってる?


こんな事めったに無いんだから。


簡単に諦められないよ。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


反対の長いドアに着く。長いドアも運転席も窓は全部かげと埃で覗けない。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


取っ手を掴んで、引くと動く。


がっちゃ、


ずぅうーーーうう…


と横に開く。


開いた途端においがだぱんと掛かり、目から鼻から口から染み、喉を通り肺とお腹に入って、「くさい」と思う前に戻している。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


戻して靴に掛かったのとは別の液が車の床から垂れ落ちる。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


一緒に溢れ返るように沢山の粒と羽音が散ってばちばち全部に当たりながら辺り一面を飛び回る。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


臭いと液と粒と羽音の元は後ろの席に仰向けで半分ゆかへずり落ちている。


液と粒の残りの中に服と靴の残りがあってベルトが外れ下が脱げていてそういう所を見せている人が居たら直ぐ離れて大人に知らせなさいって言われていたのを思い出してぐんぐん泣き声を跳ねさせながら一生懸命みちへ駆け戻り急いで自転車に乗り直して立ち漕ぎで家へ逃げた。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


それから家で親に知らせ、かなり騒ぎになって、その後すっかり落ち着いたけど、今もふとぐんぐんを思い出す。


木立で弾む白い車ぐんぐん。


走って行く若い人ぐんぐん。


臭いと液と粒と羽音ぐんぐん。


夢中で立ち漕ぎするぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ぐんぐん。


ずっと自分の何処か一部がぐんぐんし続けて元に戻らない。


若い人の事を言っていない。



終.

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