1話:宵闇は敵魔術師を圧倒する
魔術師をドラゴンのヒロインと冒険させる話。
色々設定を出していますがお楽しみいただければどうぞ。
「あ~ら♡こんなところではじめまして、『宵闇』殿?こ~んな素敵な日にアテクシと出会うなんて、運が悪いワね?」
「……………そういうあなたは『金沙宝杖のフィガレオ』かな?今晩は。」
「こんばんは♡」
ラル=ディアリマの夜空に広がる満天の星と、月の光が降り注ぐ頃。
“昏き森”の草の上で二人の魔術師が対峙していた。
二人の姿は対照的だった。
フィガレオと呼ばれた男は背の高い細身の男で、魔法銀の糸で織った布に様々な極彩色の刺繍と色とりどりの宝石が施された派手なローブを着こなしており、短い金髪を揃え、まるで狐や蛇のような神経質そうな顔に白粉の化粧をほどこしている。
もう一方の宵闇と呼ばれた男は長身ではあるが黒いフード付きのローブで全身を覆っている。ところどころ金属製の胸甲と籠手、脛当てをつけており、青年はわずかに見える顔立ちからも頑固な印象を与える。
「アナタも、『赤竜』の噂を聞いて探してここに来た。そうでしょ?紙芝居のおとぎ話なら必ず出てくる魔獣の王様、竜。その中でも500年前に姿を消したとされる伝説の存在、『赤竜』……………ンフフフフフフフフフッ!!欲しいッ!!欲しいワッ!!!」
興奮気味にべらべらと欲望を喋るフィガレオとは対照的に黒いフードの男は陰鬱そうにつぶやく。
「一つ質問だけど、『赤竜』を捕獲したと仮定して、あなたはどうするつもりかな?」
「どうするって?決まってるじゃないッ!天然のドラゴンなんて使役するのに良し、実験に良し、魔素いっぱいの肉を食べるに良しッ!そして何より、角、目玉、心臓!!!アテクシのおニューのローブと杖の材料に最適だわッ!!!!」
フードの男は呆れながら質問する。
「…事態の特異性を理解していないな。それに仮に赤竜の杖、を作ったとして、あなたに使いこなせるのかな?」
「は?関係ないわ、美しいものを作りたいから作るのよ。アテクシの美的センスについてこれない、まっ黒黒助のモテなさそうな魔術師クンには理解できないわね♡」
「全く理解できない。それでは属性の相性を重要視していない。どころか本当にその悪趣味な装飾を疑いもしないとは、祭りの日にロバに着せたほうがまだ…うむ、失礼だが恥という概念はご存じかな?」
「死ね♡」
それは一瞬のことだった。
《光属、力術第三階―――『滅光槍』!! 》
極彩色の男が澄んだ声で言葉をつぶやく―刹那―フィガレオの前の空間に光の粒が満ち、それは数多の光の線となり森の木々中を駆け巡り―通り道にあるものすべてを焼き切った。木々がメキメキと音を立てて倒れ、鳥たちが飛び去っていく。あたりに焦げたにおいが充満した。
「ウフッ、イラついてつい消し飛ばしちゃった♡」
言葉と思考から術式を織り出し魔素に命令することで、木々をなぎ倒し、人間を殺しうる光線を放つ。
それこそが、彼ら魔術師が万人に恐れられる力、“魔法詩篇”である。
「『宵闇』なんて気取った名前つけてた魔術師が有名になってたけど、やっぱりこけおどしだったようね♡」
フィガレオの背後から声がする
「殺害を確信するには少し早いな」
それは先ほど仕留めたハズの男の声だった。
「…少しは出来るお兄さんみたいね♡」
フィガレオは先ほどよりも息を吸い込み、そして溌溂とした声で魔素に命令する。
《光属、力術第三階、『滅光槍』 …十重連詩!!!》
黒ずくめの男のたたずまいは変わらず、一言だけ、小さな声でつぶやいた。
《盾》
音もなしに十重ほどの光条が土や樹木をなぎ倒し、男諸共焼き払った、
はずだったが、もくもくと土煙が晴れると、大地の傷跡には身体を魔素の光の膜に覆った男が立っていた。
「ウッソ…なんで立っていられるのよ…」
フィガレオの動揺を気にも留めず、宵闇はつらつらと言葉を並べる。
「一言でいうなら、あなたはこれほど多くの魔法詩篇を展開できるのに、コントロールがまるでなっちゃいない。『滅光槍』でさえ僕の『盾』の角度で弾けてしまうほどだ」
「理由なんて聞いてないワ…」
(アテクシの全力の魔法詩篇に一切傷つかないなんて…やばい揃いの魔術師の中でも相当に『やばい』部類だわ…それに《盾》の呪文なんてチンケな防御呪文が、身体にぴったりと展開できるなんて、それも一言で…!)
ごくり、と嚥下する。豪奢な魔法使いは圧倒的な強者に対峙し、初めて額に流れる汗に気づく。先ほどとはうってかわって声を荒げた。フィガレオはここで使うはずのなかった最終手段――小さな黄金の杖を取り出す。
「こんなダッサイ男にアテクシ負けないワッ!!なぜならアテクシにはッ!この魔導具、『金沙宝杖』があるものッ!!!」
「『金沙宝杖』、起動すれば金銀宝石の砂で辺りを埋め尽くす伝説の魔導具、かつて聖王国の名のある名士が所持して大切に保管されていたと聞いたが…」
「そんなのぶっ殺して奪ったに決まってるでショウッッッ!!!美しいものは全てアテクシの手の中にあるべきなのヨッッッ!!!」
殺気立ち声を荒げる極彩色の男に対して、漆黒の男はつまらなそうにつぶやく。
「そんな奴ばかりだよな、この時代に、わざわざ魔術師になる奴なんて」
「何余裕かましてるのかしらッッッ!!?いちいちイラつくワッッ!!!コレほどの魔導具なんてアナタだって―――」
『宵闇』は目の前の半狂乱と化した男をまるで気にしない様子で腰の鞘からおもむろに黒い短剣を持ち出した。
「いや、魔道具なら持ってるよ。自作の奴を…『魔盗賊の無尽剣』」
「は?」
「武装発動、『鎖剣』」
短剣の刃が細かく分裂し…複数の魔素の光を放ちながら生成された黒い刃の列がまるで蛇のように唸る。その切っ先は敵を貪欲に追跡し、『金沙宝杖』に触れた
「こけおどしをッ!!自作の魔導具如きアテクシも作れ――」
「この短剣はあらゆる武器の形状に変更できて――そして、触れたあらゆる魔導具を分析、再現できる。」
「なッッッ!!!??」
黒い刃の連鎖が蒼く光る。
「分析終了。再現。『金沙宝杖』。」
響く地鳴りと共に辺りから水晶の壁が湧き出し、そしてメルガレオを円状に取り囲んだ。
目前の光景が信じられないフィガレオは、あっけにとられながら逡巡する――
(『金沙宝杖』は望んだ金銀宝石を生み出す魔導具のはず――魔道具の機能はしょせんコピー!本物を持つアテクシの敵ではない!)
「起動ッッ!!!『金沙宝杖』ッッ!!!」
本来なら地中から金銀宝石の刃が取り囲み、『宵闇』の体を貫く――
はずだった。
しかしなにも起こらない。
「なッッ!!!どうしてなのオッッ!!!」
フィガレオが半狂乱にぶんぶんと杖を振りかざす間に、水晶が瞬時に取り囲む。
「『魔盗賊の無尽剣』は分析した魔導具から詩篇の術式を奪うんだ。」
「…うそ…」
『宵闇』は水晶の壁に手を向け、そこで初めて相手に殺意を込めた詩篇を唱えた。
《滅光槍》
五本の指先から放たれた細い光条は水晶に当たると拡散していき、フィガレオを取り囲む。少し手元をずらすといくつもの琴の弦がそろうように様々に彼の体を焼き貫いた。
「がッッ!!!あああああああああああッッ――!!!」
(そんなっ…このアテクシが相手を…見誤ったなんて…!!!イヤよっ…こんなところで…!!!死ぬならアテクシの金銀財宝の上で死にた…かった…!!!)
水晶の壁のなかでどたり、と倒れる音がする。かつて色とりどりの服で着飾った男だったものは、今や黒焦げて見る影もない。
「水晶の棺桶か…あなたのような外道には少し高級すぎる」
「さて…これは術式を戻してから、元の持ち主に届けないとな」
黒焦げの死体から変わらず黄金に輝く『金沙宝杖』を回収し、魔術師は道を急いだ…




