光と羽と。
なぜか、冬の匂いがして目が覚めた。
その日、わたしは何にも集中できなくて、ずっと窓から空を見ていた。見かねた由梨が話しかけてくれた。
「なんかあったの?もしかして、彼氏とケンカとか??」
心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫。なんもないよ。」
わたしはよくできた作り笑いと共に、そう返した。
由梨は、そっか、とそれ以上詮索はしなかった。
「あ、あんたの彼氏きたじゃん。なんか呼んでるよ?」
由梨が向いた方向を見ると、結斗がわたしを手招きしていた。
「いってきな〜」
にやにやしながらそう言った由梨に少し頬を膨らませながら、わたしは結斗の元へと向かった。
「あれ、なんか今日元気ないね?大丈夫?」
「結斗は私が元気ない時、すぐにわかっちゃうんだね」
「うん。誰よりも見てる自信しかないから。」
「何それ」
笑いが堪えきれなくなり、わたしは思わず吹き出した。
結斗も笑った。それだけで少し元気になる気がした。
ひとしきり笑ったあと、結斗は急に黙って、私をぎゅっと抱きしめた。
「あんまり無理しないで。なんかあったら、真っ先に頼っていいから。」
「うん。わかった」
わたしは結斗を抱きしめ返しながらそう言った。
家に帰ってからも、わたしはずっと上の空で、ぼーっとしていたので、ままは気を利かせて早めに休ませてくれた。
眠ればきっとよくなるよ、というままの言葉を思い出しながら、わたしはベットで眠りについた。
夜。
わたしは眩しくて暑くて、苦しい夢を見た。
光る何かが、わたしを追いかけてきていた。
なぜかわからないけど、わたしは それ がとても怖かった。
走って走って、息が切れて、それでも走り続けた。
でも足がだんだん動かなくなって、私は白くて冷たい地面に倒れた。いやだ。いやだ。助けて。誰か。
光はわたしの口からわたしの中に入った。
全身に広がっていく光の感覚が気持ち悪くて、わたしはもがいた。がりがり首をかいた。血が出てきたけれどそんなことは気にしなかった。光は完全にわたしに馴染んだ。
冷たい汗が流れた。わたしの肌は病気のように白く、髪の毛は明るい金髪になってしまった。
何より私には一番の変化が訪れていた。
背中に大きな羽が生えていた。
イラストとか、漫画とか、昔の絵画とかに出てきそうな、羽。鳥のような大きな羽。
わたしの目からは涙が流れてきた。きらきらと輝く涙。
さよなら、どこかからそう聞こえた気がした。
わたしは飛び起きた。手にはお気に入りの布団の感覚。
家だ。私の家だ。
髪の毛は茶色がかった黒、地黒の肌。
この体は、紛れもなくわたしのものだ。
よかった。ただの夢のはずなのにわたしはなぜかほっとした。
時計はまだ朝の3時を指していた。もう少し寝れそう、そう思ってわたしは仰向けに寝転び直した。
「いたっ」
背中に鈍い痛みが走る。すぐさま起き上がりわたしは背中に手を当てた。何かしこりのようなものがあった。肩甲骨のあたり。
わたしはだんだんと過呼吸になった。
そんなはずない。あれはただの夢。現実な訳がない。
洗面台まではしって駆け降りた。
電気をつけ、急いで上の服を脱ぐ。
横からしか見ることはできなかったが、それ はわたしの背中に存在していた。
手羽先のような、皮を剥がされた鳥のような。
小さな羽のようなものが、生えていた。