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サムライ✕ACCEL  作者: ミミササ
序章・百鬼兄弟編
9/39

第9話 依頼内容

ひとまず書置きしている分は投稿しました。

今は新しく書いているので、かなり時間がかかります。(ここまでで3か月掛かっています)


――廃工場――


 夜闇に包まれ静まり返った廃工場で百鬼兄弟は紫嘉茂からの連絡を待っていた。


「なあ兄貴」

「なんだ」


 静寂を破り、天井の鉄骨で寝転がる弟の音宗(おとむね)は前任者から奪った妖魔刀剣を並べる兄の龍宗(たつむね)に質問する。


「なんで龍二達に邪陰をやったんだ?」

「捨て駒として与えたんだ、残る最後の依頼のためにな」

「うわ、それ最悪で最高」


 音宗は起き上がり嬉しそうに笑う。

 初めから依頼に入っていなかった脱獄囚を捨て駒としか見ていなかった龍宗からすればどうでもいい存在にしかないのだ。


「それにしてもビックリしたよな、まさか俺達が特務機関と戦うなんて」

「ああ、今まで生きてきた中でこんなに大きな依頼が来たのは初めてだったからな」



――2年前――



 殺し屋兄弟、百鬼兄弟に黎明監獄に関する依頼が来たのは2年前の事だ。

 貧民街の最底辺として生まれ、幼少期から命がけの生活をしていた百鬼兄弟はいつもの様に殺しの依頼を遂行していた。


「初めまして」


 依頼を終え帰る途中、目の前に一人の男が現れた。その男は全身を黒い祭服に身を包みいかにも神父と言った格好をしていた。


「だれだ」

「ガラクと言う組織の者です。あなた方に依頼をしに来ました」


 その男は警戒する百鬼兄弟の求めるものと引き換えに一人の囚人と適当に選んだ何名かの囚人の脱獄、とある妖魔刀剣の適合者の依頼をした。


「それで、コイツ等はどこにいるんだ」

「黎明監獄と言う場所です」

「っ!!」

「お前、あそこがどんな場所か知っているよな」


 龍宗は圧をかける様に声を低くする。

 それもそのはず、黎明監獄と言えば帝国三大監獄と呼ばれるほど厳重な警備が引かれている場所だ。失敗でもすれば殺されるのは目に見えてわかる事だ。


「知っていますよ、だから貴方達に依頼をしたのですよ」

「そうか、なら残念ながらその依頼は――」

「断りますか?」


 断るより先に男がそう言うと背後から化け物が現れる。

 それも一体だけでなく10……いや30体程の化け物の群れが取り囲むように集まってきている。


「もし依頼を受けてくださるのでしたらこれ以上の力と数、ある程度の資金をあなた方に提供します。断るのでしたら残念ながらここで死んでいただきます」


 周囲を取り囲む化け物を見ると視線を変えずじっとこちらを見つめる。獣が獲物を狙う様に、そうなると逃げると言う選択肢はない。今、百鬼兄弟は異能を持っていない、持っているのは長年経験してきた殺しの技術と殺しに使ったナイフ、護身用の拳銃だけ。


 それら全てを持ってしても目の前にいる化け物とそれを従える男に勝てる気がしない。戦う選択肢もない、もう答えは一つしかない。

 百鬼兄弟は男の依頼を受けるしかなかった、化け物に殺されるくらいならとそれ以外の選択肢を捨て契約者になった。


 1年後、百鬼兄弟は念密な作戦のすえ黎明監獄を襲撃、脱獄犯を集め獨録街へと逃げ込み追ってを次々に殺していった。



――現在――



「兄貴、この依頼が終わったら本当に貰えるかな」

「さあな、ただあの時は受ける以外の選択肢が無かったからな」

「それもそうだよな」


 ゴロンと再び鉄骨の上に寝っ転がる。

 その顔は諦めているような表情だが、どこか微かな希望に満ちているようにも見える。


「――こ、、、し、、、――」


 龍宗の腰につけていた無線機にノイズと共に連絡が入る。


「――紫嘉茂か状況はどうだ――」

「――こちら紫嘉茂、こちら紫嘉茂。龍宗さんアンタの読み通り龍二と紅蓮は捕まった。どうする殺すか?――」

「――始末しておけ。それと、例の適合者はどうなった――」

「――ビンゴ。適合して能力を使えていた。だが、こちらからは暴走しているようにも見えた――」

「――了解。2人を始末したら戻ってこい。その後は約束通りお前の好きにしろ――」


 無線を切りしまう。

 百鬼兄弟が受けた依頼は2つ。一つ目は黎明監獄を襲撃しとある囚人を脱獄させること、2つ目はとある妖魔刀剣……妖刀『紅桜』の適合者を見つけ出し、依頼主に引き渡すことである。


 一つ目の依頼は完遂済み、そして2つ目の依頼ももうじき終わる。

 かなり、危ない橋を渡り指名手配までされても百鬼兄弟には欲しい物があった。ただそれだけのために人を殺し、契約者になり、危険な事にも首を突っ込んだ。


「兄貴、適合者を捕まえるんなら紫嘉茂にも邪陰を渡しておけば良かったんじゃねえか?紫嘉茂じゃ戦えねえし」


 龍二達が戦っている隙に紫嘉茂が邪陰を使い彰たちを襲えば簡単に確保できるはずだ、だが紫嘉茂に邪陰を与えず連絡だけしかさせなかったのには理由がある。


「簡単なことさ。紫嘉茂が欲深いから」

「それだけ?」

「弟よ、人は欲が強くなると簡単に溺れてしまう。そうなってしまえば最後には信頼すらも裏切ってしまう、これは重要な事なんだ」

「そっか」


 わかっているのかいないのか音宗は無邪気な笑顔で返す。


「兄貴、この依頼が終わったらさどっか飯食いに行こうぜ。でさでさ、儲かった金で田舎にでも住もうぜ俺も一回でいいから網持って虫取りとかしたいし!」


 嬉しそうに語る弟の姿に龍宗は微笑む。


「そうだな」


 きっと自分とは違う景色を見ているのだろう。楽しく希望に満ち溢れた世界、平穏で誰かを殺さずとも生きていける、そんな世界を見ているのだろう。



――鈍楽亭――



 半壊した旅館の中、彰を寝かせ宗治は瓦礫の中に人がいないか探していた。


「ふう、こりゃ骨がおれるな」


 あらかた瓦礫をどかしたが人はおず、あったのはボロボロになった荷物たちだ。中には壊れた物だってある。

 弁償するとなったら、いくらになるんだ。


(それにしても、紅桜を使った時の彰の変わりよう、どう見ても暴走…いや乗っ取られているようにしか見えなかった)


 紅桜を使った時、彰はまるで別人かの様に豹変し戦いを楽しんでいた。その様は気が狂ったような人でありながら邪陰に似た戦い方をしていた。


(だが、今まで妖魔刀剣が契約者を乗っ取るなんてことは聞いたことが無い)


 超越者(アクセラレータ)が契約者になる際の強制契約での失敗で邪陰が強くなるのは聞いたことがあるが、妖魔刀剣へと封印された邪陰、ましてや仮契約と言う誰でも結べる契約での失敗や暴走は聞いたことが無い。

 もしかしたら、宗治が知らないだけでそう言うことがあり得るのかもしれない。


(とりあえず、彰が起きたら何か変化が無いと良いな)

「なんじゃこりゃああ!!!」


 彰の事で考えを巡らせていると玄関から先程帰ってきたであろう東雲の驚愕の声が響き渡る。


「あ、帰ってきた」

「宗治くん!これなにがあったんや!」

「りょ、旅館が、、」


 玄関へ向かうと東雲ともう一人、受付嬢さんが小さな悲鳴と共に足元から崩れ落ちて行く。特務機関と協力しているとは言え、旅館が壊れることは想定外だったのかショックを受けている。


「ちょっと邪陰に襲撃されまして」

「ちょっとって、どう見てもちょっとじゃない様に見えるけどな。それより、他の皆は大丈夫なんか?」


 驚きつつも皆の心配をする東雲を見て宗治は違和感を覚える。


(この人、こんな反応したっけ?)

「おーい」


 普段ほわほわしながらも冷静な感じの東雲とは違い、オーバー気味なリアクションをとる姿は不自然に見える。

 そんな事を考えていると東雲たちの後ろから彩希と気絶している囚人を背負っている十兵衛が手を振りながら向かって来ていた。


「ちょっとなにがあったの!」

「邪陰に襲撃されてな、彰が倒してくれた」

「軍人さんが!!」

「だが、ちょっと様子が変でな。紅桜を使った時、彰とは別の誰かが戦っているように見えてな」

「別人ってどんな風に?」


 十兵衛は首をかしげ、宗治と同じように疑問を持つ。

 能力を使って別人の様になるという話は聞いたことが無いからだ。


「それが、わからない。ただ、邪陰みたいな戦い方をしてたから東雲さんなら知ってるかもって思ったんだけど」


――バンッバンッ


 そう言って東雲の方を見ると2発の銃声が鳴り、龍二と紅蓮の頭部へと命中する。


「なっ…!」

「動かないでね」


 東雲?は隣にいる受付嬢を人質に取り、拳銃を突き付ける。

 突然の状況に彩希と宗治は唖然としていたが、ただ一人十兵衛は殺気を当てながら睨みつける。


「冗談にしては面白くないよ、おっさん」

「冗談のように見えるか?」


 引き金に指をかけ、人質の首を絞める。

 その目はギラギラと輝いているように見える。


「そこにいる適合者をこっちに渡してほしいな。それと間違っても異能や妖刀は使わない方がいいよ、お前たちの能力は全部知っているからな」


 妖刀を抜こうとした十兵衛の手が止まる。

 もしこの場で異能や能力を使おうものならためらいなく人質を殺す。そう確信がつく程、相手はこの状況を楽しんでいるように見えた。


「う…ぐっ……が…はっ……」


 首を絞められている受付嬢は苦しそうにもがく、その反応すら楽しんでいるかのように笑みをこぼす。


「どうしたんだよ、東雲さん なんで、こんな」

「?。ああ、そうか。俺いま異能使ってるんだった」


 信じられないといった表情をする宗治に対して紫嘉茂は異能を解除する。

 ドロドロと溶けて行く東雲の顔から見知らぬ男の顔が浮かび上がってくる。


「だ、だれ」

「俺が誰かなんてどうでもいいだろ?それより早くそいつを……」


 紫嘉茂はだるそうに答え、後ろで眠っている彰に視線を移すが誰もいない。


「おい、そこにいるやつはどこへ行った」


 皆、彰が居た場所を見やるとそこには誰もいない、つい1分前まではそこにいたはずの彰はどこにもいない。この状況の中、消えたとすると可能性は一つ。


「異能は使うなって言ったよな。そんなことされたらさ!!」

(まずい!)


 脅しを無視されたことに激怒した紫嘉茂は掴んでいた首に力を入れる。

 激情した紫嘉茂に焦った十兵衛は村正を抜く。


「……あれ?」


 人質として取っていたはずの受付嬢は地面へと倒れており、力を込めたはずの手には感覚がない。

 その代わり、ドクドクと熱い血液の熱と何とも言えない喪失感の痛みだけが流れてくる。


「なんで、俺のう――」


 落ちている自身の腕を見たその瞬間、突然の浮遊感と共に景色が回転する。

 ぐるぐると回る視界に映し出されるのは瓦礫と血に染まった何かだ。ボトンッと地面に落ち、血に染まった何かが自分の胴体である事を理解し、意識が途絶える。


 斬り殺した紫嘉茂の背後には赤い妖刀『紅桜』を持った彰が立っていた。


「そ、宗治」

「彰!」


 先程とは違い今度は意識があるようだ。俯いているせいで顔はよく見えないが、少なくとも暴走しているわけではなさそうだ。


「大体の感覚はつかめてきた」


 初めて人を切ったがそれどころじゃない、動かすのもやっとなほど全身が熱く痛い。妖魔刀剣の能力って使うとこんな痛いの?もう使いたくないんだけど……。


「!!軍人さん!大丈夫なの!?」


 顔を上げみんなの方を見るとギョッとした顔で心配される。


「だいじょ……なんだこれ」


 顔に違和感があり手で触ってみるとべったりと赤い血の様な物、いや赤い血が鼻と口から流れ出ていた。なにこれ、知らないんだけど。


「わぁ」


 直後、体から力が抜けだらんと倒れ込む。これは、貧血なのか興奮によるものなのかわからない(両方です)。ただ一つ言えることがあるとするなら、この仕事もうやめたい。


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