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サムライ✕ACCEL  作者: ミミササ
序章・百鬼兄弟編
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第7話 邪陰との戦闘


 誰が教えるかで少しもめたが、じゃんけんの結果宗治が教える事となった。

 十兵衛は彩希さんと一緒に脱獄囚を探しに行った。


「まず、能力についてだが、そこの説明は知ってるか?」

「知ってる。頭の中に浮かんだ言葉を言えば、それに答えて能力が使えるって言うのは聞いた」

「そうだ。それで、なんで言葉を言えば能力を使えるかわかるか?」

「いや」


 そもそも、能力を使える方法を聞いただけで原理までは聞いていない。

 宗治は妖刀『濡れ燕』を抜き、こちらに見せる。


「言葉で能力が使える理由は、妖魔刀剣の中にいる邪陰との仮契約を言葉と言う形で行うことで行使するんだ。で、その言葉は妖刀が持ち主と仮契約をして、初めて教えてくれる。そうしないと能力はわからないってことだ」


 向けられた濡れ燕の鍔には青い模様のような物が浮かび上がっている。

 その印は紅桜にはついていない。恐れくこれが仮契約の印なのだろう。


「その仮契約はどうやったらできる」

「それがわからない。だから教えられるのはここまでだ。後は妖刀と向き合って教えてもらうしかない」

「マジか…」


 紅桜を見るがなんの反応も示さない。ただの刀の様だ…。

 妖刀が使えない今、邪陰と戦えばオレは何もできずに死ぬ。それがわかっているせいで焦る。


「向き合う…って、どうやったらいいんだ」

「とりあえず妖刀を抜いて反応があれば仮契約ができる」


 言われた通りに紅桜を抜く。

 朱色の鞘から現れた刀身は血の様に赤く染まり引き込まれるような美しさをしていた。


(なんか、綺麗だな…)


 紅桜の美しさに思わず見とれる。

 刀だと言うのに重さや緊張を感じさせない、むしろ軽く感じるし持っているだけ気分がよくなりそうだ。


「綺麗だな」

「ああ」


 宗治がボソッと呟く。

 その反応に同意する。明らかに異様な雰囲気を漂わせる紅桜は”妖刀”と呼ぶにふさわしい。誰しもが狂わされてしまいそうになるほどに目が離せない。


「っと、見とれてる場合じゃなかった。妖刀の反応ってどんな感じなんだ?」


 正気を取り戻し本来の目的を思い出す。

 宗治も思い出したかのようにハッとして答える。


「それは――」


――バコーン!!


 激しい破壊音と共に宗治の姿が消える。


「ッ!!」


 急な出来事に何もできずに崩れる2階と共に下へ落ちて行く。

 紅桜を持っていたせいで受け身を取れずに1階へ落ち、全身が床に叩きつけられる。


「痛ッ!」


 あまりの痛さに声を出す。


「何が起きたんだ」


 顔を上げると崩壊した旅館に差し込む月明りに照らされた2体の化け物が居た。

 一体は全身が茶色く腐った人型の魚の化け物、もう一体は蛙と虫が合わさった様な青く巨大な2足歩行の化け物がいた。

 邪陰だ。直感的に理解した。それは写真で見た姿とは違いより化け物に近い姿だった。


「大丈夫か!」


 消えたと思った宗治は崩れた瓦礫の上に立っていた。


「お前、無事だったのか!?」

「無事だ、濡れ燕の能力で防いだ」


 黒い燕がシュンシュンと宗治の周りを飛び回っている。

 不意を突かれた瞬間、持っていた濡れ燕を当てたことにより攻撃を防いだのだ。


(まずいな、濡れ燕の”触れた能力を取り除く”能力は攻撃向きじゃない。それに今みたいな大きな攻撃だと能力でカバーしきれねえ)


 宗治は考えていた。

 もし、彩希と十兵衛が戻ってこなければ、戦闘に向いていない濡れ燕を使って、邪陰と戦わなければいけない。妖魔刀剣において能力は全てを左右する。

 妖刀を持っている彰は能力どころか仮契約すらできていない。

 契約者でもない2人に取ってこの状況はピンチ以外の何物でもない。ならば、取るべき行動は…。


 グギャッシャアァァァ!!――。


 おぞましい叫び声と共に魚の邪陰は鋭利な歯をむき出しに全速力で宗治に殴りかかる。


「泳げ・濡れ燕」


 襲い掛かる邪陰に宗治は能力を使う。


「ぐっ!」


 一撃目の拳を刀身で防ぐが尋常ならざる力にぶっ飛ばされる。

 空中を舞い着地すると再び殴りかかってくる。


(コイツ、能力を使っていない!?)


 濡れ燕の能力が反応しない。

 単純なフィジカルだけで殴り掛かっている。


「ぐおおおおおお!!」


 防ぐことは無理だと判断し、刀身で受け流すことにする。

 繰り出される拳に全力で反応する。


「宗治!」


 異常な速さの攻撃と圧倒的怪力に押されている宗治を見る。まずい、このままだとオレより先に宗治が死ぬ。

 助けに入ろうと動こうとした瞬間。


 ギシャアァァァッ!!――


 もう一体の邪陰から目を離してしまった事に気がつき振り向く。開いた口から鋭利な棘の付いた舌がまっすぐ飛び出し攻撃される。


「ぐおッ!!」


 咄嗟に持っていた紅桜で防ぐも刺殺さんとする勢いに体がのけぞる。


「ハァ、ハァ、ハァ…」


 想像以上の怪力と未知の化け物からの攻撃に体力を消耗する。

 怖い。そう思ってしまう。


(早く紅桜を使いこなさいないと…)


 明らかに不味い状況の中、賭けるのは能力が判明していない紅桜がこの状況を覆させられるものか否かだ。もし、紅桜の能力が弱ければそこでお終いだ。

 生き残りたいという思いとどうにかしてくれと言う願いから刀を握る力が自然と強くなる。

 紅桜を見ると鍔から赤い模様の様な物が浮かび上がっている。


(これは、仮契約か?)

「っ!!?」


 模様は違うが濡れ燕と同様、仮契約の印だと理解する。すると突然、全身を震わせるほどの悪寒が(はし)る。

 今まで感じたことのない感覚に毛が逆立つ。


「なんだ…これは」


 赤く染まった刀身から瘴気のような物が触手の様にうねうねと絡まっている。

 周りから見れば気味が悪いと思うのだろう。だが、目に写るそれはとても綺麗だ。まるで生きているかのように動く瘴気に段々と意識を取り込まれていきそうになる。


――喰らえ――


 頭の中に言葉が浮かぶ。誰かがそう言わせたいのか鮮明に意識する。

 妖刀を見ると赤い刀身が妖艶に光っているように見える。それはまるで紅桜が訴えかけているように感じる。

 今、この機会を逃せばもうチャンスはないそう思う。


「彰、お前は逃げろ!逃げて、誰か呼んできてくれ!!」


 邪陰の猛攻に耐えた宗治は血を流し、ボロボロになりながら距離を取る。


「……」


 視線を変え邪陰の方を見る。

 蛙の邪陰は体から無数の寄生虫を飛び出し、彰に向けて撃つ。


――ザシュッ


 飛んできた白い寄生虫は赤い閃光が走ると影も形も残さずに消えた。

 その代わり、紅桜の妖円な赤い光は瘴気を増し、より虜になりそうなほど美しくなっていた。


 ああ、綺麗だ。もっと、美しくしたい。

 そう思うと体が軽くなった様な気がする、自然と力も溢れてくる。


「彰。あいつ今、なにをしたんだ…」


 誰かが何か言っている。でも、そんなことどうでもいい。

 いま、なんでもできそうな気がする。


「――ハハッ…」


 彰は不敵な笑みを浮かべる。

 そのまま、一直線に人とは思えない速さで蛙の邪陰目掛けて突っ込む。


「喰らえ・紅桜」


 赤い閃光は獲物(邪陰)を捉える。

 獣が喰らいつくように襲い掛かり、目にもとまらぬ速さで邪陰の頭部を消す。


「ハハハハハハハハッ!!!!」


 狂気と化した彰に何もできず邪陰はただ喰われ、全身を黒く変色させ消滅する。

 止まらぬ勢いでそのまま崩壊した旅館を獣が如く駆け回る。


グギャッシャアァァァッッッ!!!!!!――


 魚の邪陰は奇声を上げ構えを取る。

 邪陰の動体視力を持ってしても捉えきれていないのか構えは守りに代わり、崩壊した瓦礫をはじく音に反応し防御する。その様は天敵に怯える餌の様だ。

 ガシャンッ!と瓦礫を蹴り飛ばす音共に上空から頭部目掛けて落ちて行く。


「フハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!」


 彰は笑っていた。何かに憑り付かれたように狂気的な笑みを浮かべ、目を赤くし、この状況を楽しんでいた。その様は暴走としか言いようがない程、狂っていた。その狂気に邪陰はただ怯えていた。


――グシャンッ!!


 紅桜から何かが出てくる。

 赤い閃光から飛び出したのは切断された白い寄生虫と消えた邪陰の残骸、その塊が魚の邪陰目掛けて落ちてくる。何も反応できないまま邪陰は残骸の塊に押しつぶされる。


 グチャッ!と肉塊が潰れる鈍い音が衝撃音と共に響く。

 落下の衝撃で舞う粉塵と飛び散る腐った残骸が消える中、彰は変わらず笑っていた。


「フハハハハハハハハハハハハッ!!」

「彰…」


 …楽しい。今まで戦う事や死ぬことがあんなに怖かったのに、今は違う。生きてきた中で一番楽しい。邪陰を見ても不思議と恐怖も感じない。


「どうしたんだよ、彰!」


 ?。何だっけ、あれ…。なにか知ってた気がするけど、どうでもいい感じがする。だって今、こんなに楽しくて何にも怖くないんだからさ。邪魔するなら…。


 彰は宗治を見る。その顔はより一層、狂気に満ちていた。


「ッ!!?」


 狂気を向けられた宗治に言い知れぬ感覚が奔る。

 不敵に笑う彰。向けられた視線。次に狙われるのは自分だ、そう直感的に理解する。


 彰は迷うことなく襲い掛かろうと力を籠める。


――そうだ。喰らえ、全部――。


 頭の中で声が響く。誰だ。


「黙れ……これは…オレの体だ!!」


 その瞬間、さっきまでの楽しかった気持ちが消える。

 その代わり今まで感じたことのない苦しみが襲う。


「ぐああああああッ!!」

「彰!」


 痛い。頭が割れる様に痛い。同時に体も重くなる。

 それと同時に思い出す。妖刀を抜いてから何を考えて行動していたか、戦闘を楽しんでいた事、自分が宗治を殺そうとしたことも思い出す。


 あまりの痛みに意識を手放す。

 ドサッと力なく倒れる彰を見て宗治は混乱する。


「一体何がどうなってんだ」


 彰が妖刀を使った瞬間、狂ったように暴れ邪陰を倒し気絶した。

 宗治からすれば訳の分からない状況だ。


(彰が妖刀の能力を使った瞬間、彰とは別の何かが出てきたような気がする)


 幼馴染として子供の頃から彰の事は知っている。

 運動が苦手で本音を言えない性格で一人苦労を抱えるタイプだ。その彰が変わった様に暴れ、戦いを楽しんでいた。そんな奴じゃない事はわかっている、だとしたら……。


(まさか、乗っ取られてたのか)


 気絶する彰の手に握られた妖刀を見る。

 先程までとは違い、刀身が白く透き通っている。まるで憑き者が落ちた様に普通の刀に見える。


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