第61話 山の洞窟
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――第五支部、会議室。
「……それで、その噂を元に九醒王を探そうってことなんだよな」
「ああ」
「難しいですねー……」
会議室の椅子に座る調査分析官以上の役職の人たちに説得する。
正直言って根拠は弱いが情報として少数での調査は必要だと思う。
(緊迫したこの状況で噂頼りの調査は流石に無理か……)
万が一にも支部を離れている間に襲撃されたら、その責任はオレに来る。それだけだと良いが、被害は甚大だろう。
「さすがに噂だけだとな……」
「不確定要素が大きい」
「罠の可能性もある」
やはり全員が不安を口にする。
噂だけの調査。これがどれだけ危険でリスクの大きいことかわかっているからこその発言だ。
「彰さんが提案してくれた少数での調査も、敵の分断作戦の可能性もありますしね」
「やはり危険だとは思うな」
危険派が多数。この流れだと調査は無理な方向で決まりか……。
「私は賛成だ」
次々に否定派が出る中、突如として賛成派が現れた。
その方を見ると黒髪オールバックの男が挙手していた。男の名は志都美 玄斗
「大規模な調査ならまだしも少数での調査なら問題はないと思っている」
「しかし、万が一があったら……」
「その時はその時だ、どちらにしろこちらから動かなければまた襲撃されるのがオチだ」
「俺も賛成かな、軍人さんが行くなら俺とのコンビで行った方が慣れてるし」
玄斗に続いて十兵衛も賛成する。
ここに来て賛成が2、それ以外が反対……どちらにせよ無理な事は無理だったわけか。
「そうですね、先p……玄斗さんの言う通りこのままではムクロ隊の時と同じ結果になりそうですね」
今先輩って言おうとした?ちょっと気になるが……一旦置いといて、同じ結果を避けたいとなると返答は……。
「それじゃあ決まりだな」
「彰さんと十兵衛さん、お二人とその部下での調査をお願いいたします。もしもの時の為に無線機をお持ちくださいね」
「ありがとうございます!」
支部長である杏南さんの決定により、噂頼りの調査が決定した。
――休憩室――
設置されているソファーに腰かけて現在判明している情報を整理する。
(えーと、まず九醒王が確認されたのは第五支部と第六支部)
目撃情報のあった場所はいずれも街中ではなく、人混みの少ない場所。
(次にわかってることは噂。岸森の話だと南の方の掘削中の山が怪しいらしいが……ここの会社とガラクが関係している可能性がある)
あくまで可能性だが、ガラクの手は未だ読めない。
ムクロ隊と言い九醒王と言いガラクの手札が強力であることしかわかっていない。
(そしてここまでのバレていないガラクの素性、これが一番厄介だな……)
「どうした、難しい顔をして」
顔を上げると手に缶コーヒー二本を持った玄斗が彰の前に立っていた。
考えることに夢中で気付かなかった。
「えっと……」
「志都美 玄斗だ、これやるよ」
「あ、ありがとうございます」
缶コーヒーを彰に渡すと玄斗は隣に座る。
「それで、なに考えてたんだ」
「噂の事で少し考え事を……」
「ほー、なにかわかったのか?」
「いえ……ガラクの素性が掴めなくて」
「まあ、わからなくてもしょうがないだろう。それより君、幸治先輩の子供だろ」
突然の質問に思わずドキッとしてしまう。
幸治と言うのは親父の名前だ。どうしてこの人が親父の名前をしているんだ、それに先輩って……。
「君の親父さんには世話になったからな、助けられる事なら助けるさ」
「……親父も特務機関に所属していたんですか」
「ん?ああ、丁度30年前だから神華戦争の時だな」
神華戦争。30年前に起こった隣国カリス王国とカムイ帝国の戦争だ。
まさか、その時に親父が特務機関に所属していたとは……オレには何も教えてくれなかったな。
「その時に命を救われたんだ」
「そうですか……その時から親父は厳しかったですか?」
「厳しい?どういう事だ」
「オレ、幼少期にシノビの訓練だって言われて親父に鍛えられたんですよ」
当時の事は鮮明に覚えている。雫ちゃんと出会った時から出会う前も親父は厳しくオレを鍛えていた。
そんな親父の当時の話が少しだけ気になった。
「そうか……そりゃ君を大事に思っているからだろう。当時の事を思い返せばあの人はきっと後悔しかなかっただろうな……」
「後悔、ですか?」
「ああ……ムクロ隊と戦った時、君は骨斬り三蔵を倒したんだっけ?」
「はい、ギリギリのところで勝てましたが英霊と呼ぶに相応しく強かったです」
「その三蔵と君の親父さんは親友だったんだ」
「……え?」
「あの戦争で君の親父さんはさくさんの仲間を失った、だからこそ君を厳しくも鍛えたんだと私は思う」
その話を聞いて点と点が繋がる。親父が過去に特務機関に所属していた事、骨斬り三蔵が言っていた幸治と言う名前が親父の名前である事、そして親父がオレを大事に思っていた事が今わかった。
(そうか……骨斬り三蔵はオレの事をずっと親父と勘違いしてたのか)
「まあ、親の厳しさと言うのは子にとってはただの恐怖でしかないのだろうがな。他にも何か聞きたいことはあるか?」
「じゃ、じゃあ親父は当時どれくらい強かったんですか!」
「そりゃもうべらぼうに強かったさ、それこそ骨斬り三蔵と並ぶくらいには……」
その後一時間程、玄斗さんから親父の事を聞いたが今までの考えが変わるくらいの経験をしているのがわかった。
「そんじゃ、私は仕事に戻るよ」
「貴重なお話をしていただき、ありがとうございました!」
最後は玄斗さんに礼を言って仕事に戻った。




