第60話 学校の友人
「久しぶりだな彰!遠征って言うから帰ってくるまで合わねえと思ってたけど、まさかこんなところで会うとはな!」
「相変わらず元気だな」
「まあ、元気が俺の取り柄だからな!」
ハハッ!と笑う岸森に少し疲れた感じで返す。元気だけが取り柄と本人は言っているが、本当にその通りだから困ったものだ。
隣に立っていた工藤が服の裾を引っ張り小声で話しかける。
「志藤さん、志藤さん」
「どうした?」
「この人、志藤さんの知り合いなんですか」
「あー、士官学校の友人だ」
「と言うことは……」
「特務機関の事は何も知らないはずだ」
特務機関側の人間と言う可能性は無いはずだ、少なくとも現状そんな話は聞いていない。
岸森は士官学校でできた友人だ。理事長の呼び出しで茶化してきた友人の一人でもあり、遠征についてもオレが言った後に伝えられたはずだ。
「遠征はどうだ、楽めてるか?」
「ああ、新しい友人もできたし上司も良い人だ」
「そうか!ならよかったな!!」
「岸森はどうしてこんな所にいるんだ、学校はどうした?」
「なんかテロ?が起きたせいで最近までは休みが無かったから今日は休み、ここにはぶらぶらしてたら着いた!」
岸森の言うテロと言うのはおそらくムクロ隊による襲撃の事だ、反応からしておそらく詳しいことは聞かされていないのだろう。
「そういう彰はなんでここに居るんだ?」
「オレは……」
(しまった!何も考えずに話していた……こうなったら適当な嘘でも言っておくか)
「後輩に街の案内をしてたんだ」
「!!」
「後輩ってその隣の子か?」
「は、初めまして!後輩の工藤光里と申します!」
「初めまして、俺は岸森 佑!」
咄嗟に嘘をついたが、工藤も察してくれて上手いこと繋がった。岸森も疑う事無く信じているし、作戦は上手くいったようだ。
「そう言えばこの辺りに出るって噂の妖怪の話知ってるか?」
「妖怪?」
「そう、妖怪の話だ」
岸森の話に耳を傾ける。妖怪と言えば邪陰の事だろう、そしてこの辺りに出ると言うことは九醒王の可能性が高い。
「聞かせてくれ」
「なんでも数日前に道に迷った子供が洞窟で雨宿りをしていたら、中から不気味な声が聞こえてきて慌てて逃げたんだと」
「それで、その子はどうなったんだ」
「無事に街まで帰って来たらしいが、おかしな話だよな!ここら辺に洞窟なんてもんは無いのにな!」
ハハハハッと豪快に笑う岸森。確かにこの辺に洞窟なんてものは無い、それどころかここは都会だ洞窟にあたる場所なんてものすら心当たりはないが……情報として聞いておこう。
「確かにこの辺に洞窟にあたる場所なんてものはないが、その子はどこにあるって言ってたんだ?」
「さあ?そこまでは知らねえよ」
「そうか……」
さすがに噂話程度の事を詳しく知っているはずは無いか。
「あー、でも心当たりならあるぞ」
「!」
「南の方に山を掘削中のでけえ穴があるが、そこにいるなら現場作業員が報告するはずだから流石にないとは思ってるが……まあ、所詮は噂話だ!それに、なにかあれば俺達軍人か警察が駆り出されるからな!」
「……それもそうだな。ありがとう、面白いことを聞かせてくれて」
「ん?まあ、面白かったならいいか!俺はそろそろ他の友人との約束があるから、また今度な!」
「お前の話、面白かったぞ!」
駆け早にその場を去る岸森に礼を伝える。
「今度会ったらそっちの話を聞かせろよ!」
「ああ!今度な!」
人混みに消える岸森を見送る。
「志藤さん、さっきの話」
「おそらく掘削している会社にガラクが関係している」
岸森の話を聞く限り子供が聞いた不気味な声とはおそらく邪陰の声だ、そして現場作業員がそれに気づかないはずがない。となるとガラクが直接かかわっているか、子供の勘違いかの二択だ。
(子供は洞窟に入ったと言っていたが入ったのは掘削中にできた穴、山の中にあるそれを洞窟と勘違いした。そして、不気味な声は穴の中と外の空気抵抗による風の音とも考えられるが……ここは九醒王の目撃情報があった場所だ)
別の支部に配属されていたのなら子供の勘違いで終わっていた可能性があるがここは目撃情報のあった場所、勘違いで終わらせるにはもったいないことが多い。
なにより一週間目新しい情報が無いこの状況での噂話だ、疑えるものは確かめる。
「子供の勘違いの可能性もあるが、一度この話を支部に持ち帰って相談する」
「あの……!」
工藤が不安そうな声を張りつめる。
「もし、自分みたいに勘違いだったら……志藤さんはどうします……?」
「どうする……って言うのは……」
「間違いを起こしてみんなに迷惑を掛けてしまった時、どうすればいいのかわからなくて……」
工藤の質問の意図を理解する。
さっきの勘違いをどうやら重く引きずっているようだ。ここは上司として、部下を励ます見せ場なのかもしれない。
「気にするな、その時はその時だ」
「え……」
「オレは君の上司であり、責任を取る立場だ。なにかあった時は責任を取るし、部下や後輩を育てる立場でもある。だから工藤くんは頑張れることを頑張ってくれ、わからないことは一緒に考えよう」
(くぅ~!!いいこと言ったな!オレ!!)
部下を励ます上司として理想の言葉を述べたつもりだ。
例え、十兵衛や宗治にキモがられても部下の励ましになっているのならそれでいい。
「志藤さん……励ましてくれてありがとうございます!自分、これからも頑張っていこうと思います!!」
「そうそう、頑張ってくれ」
「はい!」
「それじゃあ支部に戻って捜索の準備をしようか」
工藤を励ました彰。この言葉を切っ掛けに自信を持つ工藤だが、この先に起きる絶望をまだ誰も予想できていなかった。
鞘に納めている紅桜が薄っすらと怪しく光る。
「フフフっ、九醒王……か」




