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サムライ✕ACCEL  作者: ミミササ
序章・百鬼兄弟編
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第6話 特務機関の情報


 道中、奇襲に警戒しながら旅館に戻る。

 あれが異能による攻撃なのか。音もなく気が付けば近くにまで迫っていた、十兵衛が防いでくれていなければ今頃死んでいた。十兵衛とは違う、攻撃に特化したものだ。相手はおそらく死刑囚、川上龍二だ。相手を殺すことに躊躇はしないだろう。


――鈍楽亭――


 畳の匂いが香る旅館の一室。日が暮れかけた午後4時。

 軍服に着替え、座りながら寝ている十兵衛と気を失っている男を隣に彰と東雲は机を挟み話し合っていた。


「――なるほど、その2人が契約者っちゅことか。確かに脱獄囚の中に契約者がおるなんて情報は無かった。これは少し厄介な事になったなあ」


 説明している間に冷めたお茶を飲み、トントンと湯呑を叩き悩む。

 彰は素人ながら現状を整理してみる。相手の異能を把握できていないのは問題ないとして、邪陰の使役法がわからない現状はかなり危険だと認識できる。百鬼兄弟というイレギュラーの加え、囚人が契約者になったことや前代未聞の邪陰の使役など素人目から見ても異常事態というくらいわかる。前任者は邪陰で死んでいるのだから尚更だ。


「ところで宗治くんと彩希ちゃんはどうしたんや?十兵衛はそこで寝とるけど…」

「ああー、と、、、宗治は隣の部屋で彩希さんに怒られてます」

「なんで怒られとん?」

「宗治が悪いことしたからです」


 さっきから怒られているはずの隣室では怖いくらい物音がしない。

 足が攣ると言っていたから正座だとは思うが、どういう怒られ方をしているのか少し気になる。


「そっか、なら先に話進めとこか」


 東雲さんは急須(きゅうす)を手に取り、空になった湯呑に茶を注ぐ。熱々の湯気が立つ茶をズズッとすする。


「僕の中やとコイツの身柄をいったん支部まで持っていきたいんやけど、一つ問題がある」

「向こうの動きが変わるってことですか」

「せや、現状鈍楽亭(ここ)と君らの事がバレとんのは確実や。はよ行動せな、新しい追手に捕まって詰むからな。こっちの出方次第や、かといって僕が行ったら逃げられるしな」


 そもそも逃げられてしまえば元も子もない。

 選択を間違えれば終わる。こちらの行動次第で相手の動きが決まる。

 東雲さんは飲み干した湯呑を机に置く。


「まあ、彰くんが妖刀の能力を使えてへんこと以外問題はないな」


 確かに今のオレは妖刀を扱うどころか抜いてすらいない。

 そもそも、任務に参加する気すらなかった。


「彰くん。君、妖刀が使えへんってことは死ぬ確率が高いけど…覚悟はできとるか」


 凍てつくような目で言う。

 それは、契約者でもなく妖刀も使えない、一般人同様の彰に問いかける”死”の覚悟。


「…ここに来た時から死ぬ準備はできてます」


 本当は死にたくない。

 だが、断ることもせずにのらりくらりと来てしまって引き返すことはできない。なら、能力が使えなくても腹をくくって行こう。

 カッコつけたが内心かなり怯えている。体も少し震えている。


「そっか、じゃあ僕はそいつを抱えて特務機関に情報を伝えて来るわ。その間、宗治くん達と頑張ってな」


 東雲は男を担ぎ旅館を出る。

 部屋には壁を背に刀を抱きしめ寝ている十兵衛と一人静かに固まっている彰が残った。


「んゆ」


 姿勢を崩した十兵衛がどこからでたのかわからない声をだし、目を覚ます。

 辺りを見ると東雲と捕まえた男が居ない。


「軍人さん、話はもうおわったの」


 目を擦り、重い(まぶた)を開かせる。

 伸びをしようと腕を伸ばしたところ首が上がらない。腰のパキパキッという音がする。

 頭を前に倒していたせいか寝違えっている、「いたた」と首を押さえ立ち上がる。


「軍人さん?」


 いつもなら何かしら反応を返してくれる彰は妙に静かだ。

 その様子を見た十兵衛は異変に気付く。


「ごめんなさい、遅れました」


 説教が終わったのか扉から頭を下げる彩希とうなだれている宗治が出てくる。

 どうやら説教がかなり効いたようだ。


「あれ?東雲さんは」

「わかんない」


 東雲が居ない事に気付いた彩希が問いかけるも答えたのは十兵衛だった。

 先程まで居たはずの東雲が居ない事と何も反応しない彰に違和感を感じだ宗治が問う。


「どうしたんだ、彰?」

「お前ら…」


 重たい口を開け、あきらめたように言う。


「オレ、死ぬかもしんない」

「「「……は?」」」


――――――――


「つまり、妖刀の使い方を教えてほしいと」

「そういうことです!」


 事情を話し3人に土下座で頼み込む。

 今、妖刀の使い方を知っていて頼れるのはこの3人だけだ。この機会を逃したら絶対に後悔するし死ぬ気がする。


「そういわれてもなあ…」

「そこをなんとか」


 もう一度頭を下げ頼み込む。


「教えろって言われても、能力は妖魔刀剣しか知らないしな」

「わかる事だけでもいいから」

「それでいいんだったら、まあ…」

「ほんとうか!」


 顔を上げ宗治の方を見る。


「ただ、個人によるが俺は1週間はかかったぞ」


 その言葉を聞いて絶句する。

 1週間。通常通り進んでいれば問題ないのかもしれないが、悪化した今では10分でも早く使えないと人間である自分では死ぬ。


「頑張れ、軍人さん!俺は3日で使えたからきっとできるよ!」


 落ち込んでいるオレに十兵衛が励ましてくれるがまったく励ましになっていない。

 むしろ、お前との剣才に絶望するわ!。

 絶望しているオレに彩希さんが声を掛ける。


「大丈夫ですよ、私は1か月かかったので」


 彩希さん。励ましてくれるのはありがたいけど、それはそれでオレの状況が絶望的って言ってるようなもんだよ。


「そんじゃ、任務ついでに妖刀の使い方を教えるか」

「色々と不安だけど、よろしくお願いします」


 こうして、妖魔刀剣の使い方を教えてもらうことになった。



――廃工場――



「ずいぶん早いじゃないか」


 スラム街にある廃工場、開けたシャッターの入り口で脱獄犯の紅蓮と龍二は近づいて来る人物に言う。かつては兵器の部品を造っていた工場に東雲?は捕まった男を連れやってきた。


「てっきり夜に来るもんだと思ってたぞ」

「そのつもりだったんだが、いい情報が手に入ってな」


 持っていた男を地面落とす。

 奇妙な雰囲気に包まれた中、天井から声がする。


「どんな情報だ」


 東雲?は顔を上げ連なった廃菅の上にいる人影に話しかける。


「このアホが情報を吐いたせいで、特務機関の奴らが動き出すみてえだ」

「そうか。なら早めに潰しておかねえとな」

「あと、新人の情報も入手した」


 そう言うと東雲?はドロドロと彰や十兵衛の姿へと変わる。


「コイツ等が新しい特務機関の犬だ。今、変身している奴は昨日来たばっかの一般人(ゴミ)だ、気にしなくていい。むしろこのサムライは一番気を付けた方がいい。龍二の奇襲が失敗するくらい危険だからな」

「そうだぜ、そっちの軍人を狙ったのに物凄い早さで防がれてさ、自身失くしちゃうよ」


 龍二はめそめそと泣きまねをする。

 誰も気にせず話を続ける。


「だってよ兄貴、どうする?」


 天井に居る男は壁際に座る人影、兄に尋ねる。


「そうだな」


 「フゥー」と煙草の白い煙を口から吐き出す。

 少し考えるようにした後、煙草を2人の人物に交互に向ける。


「龍二、紅蓮」


 名前を呼ばれ兄の方を見る。


「お前たちに邪陰を2体やる」


 その言葉に素早く反応する。


「それってつまり殺してこいってことか?」

「この間みたいにやっちゃってもいいのか?」


 疑問に返しているがその目はギラギラとしている。それは、獲物を見つけた獣の様に。


「お前たちも限界だろ、お前達の役目はもう終わっている。後は好きに暴れればいい」


 その言葉を聞き二人は口角を上げる。


「それじゃあ、好きにさせてもらいましょうかね」

「ああ、前みたいに気持ちいい殺しがしたいな」


 狂気を浮かべる2人も元へ暗闇から全身が茶色く腐った人型の魚と蛙と虫が合わさった様な青く巨大な2足歩行の邪陰が近づいて来る。


「う…ん?ここは」


 気を失っていた男が目を覚ます。そこは百鬼兄弟がいる廃工場だった。

 顔を上げると目の前にはこの世の者とは思えない2体の化け物と狂気の笑みを浮かべる脱獄仲間がいた。


「う、うわああああああああああ」


 その光景に絶叫を上げる。急いでその場を離れようにも縄で拘束されているせいで立つことができない。隣を見ると彰?の姿をした何者かがいる。


「な、なんでこんなところにいるんだ。アンタ、俺を助けてくれるんじゃなかったのか!!」


 男は苦しみの表情を浮かべる。

 ここは男にとって一番来たくない場所だ。来たくなかったからこそ裏切って情報を吐き、保護されて逃げようとした。それなのになぜこんなところに居るのか理解できなかった。


「ん?ああ、俺の事か」


 彰?の姿をした人物はドロドロと溶け始めその姿を現す。紫色の髪にだらっとした姿勢、青い瞳の男が現れる。


「よっ」

「お前は、、紫嘉茂(しかも)、、」


 紫嘉茂 霰一(しかも せんいち)、詐欺13件、殺人5件を行った脱獄囚である。

 その見た目は、収監されていた頃の金髪とは違い、全体的に暗く変わっていた。


「殺されたはずじゃ…」

「おいおい勝手に殺すな。裏切ったのは俺じゃなくて魚屋の店主だ、お前と違って俺は裏切ってねえからな」


 その言葉に気が付いた男は再び視線を戻す。ニヤついた紅蓮と目が合い、全身に悪寒がはしる。

 

「蛙もどき、裏切り者(それ)食っていいぞ」


 紅蓮が指示を出すと蛙の邪陰は裏切り者に近づく。


「やめろ、、くるな、やめてくれ、、、」


 必死に体を動かし逃げようと後退する。しかし現実は残酷だ、いくら逃げようとしたところで現状は変わらない。


「俺が悪かった、、次は絶対に裏切らない、、、」

「……」


 日が暮れ始めた夕方。廃工場には静寂の代わりに男の荒い鼻息が聞こえる。


「いやだ、、」


 邪陰が段々と迫ってくる。

 裏切り者の目には絶望が滲みきっていた。目に映る化け物が自身を食べる。近づくにつれ鼻をつんざく血の匂いが増し、これが現実だと教えてくる。それがわかっている男の精神は限界に達した。


「いやだあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 ゴキュンッ。絶叫を上げ恐怖に歪んだ瞬間、口を開き中から鋭利な棘の付いた舌を男の腹部に刺し口の中へしまう。

 腹の中では男の絶叫が聞こえていたがグチャグチャと中にいる無数の寄生虫に食いまわされ、喉に浮かんでいた人の形は肉の塊へと変わる。ゴックンッ、と肉の塊を呑み込む。


 不気味な雰囲気の中、薄暗い工場の中を夕日が照らす。


「それじゃ、潰すか。特務機関」

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