第56話 新たな情報
第五支部からの帰還後、俺達は指令室に呼び出しをくらっていた。
ここ最近は呼び出されてばかりな気がする、今回もなにか問題が起こったのか情報を手に入れたのだろう。
襲撃の影響で動ける人材が少ないとは言え、他に人材はいない物かのか……と、そんなことを考えていたら指令室の前まで着いていた。
「失礼します」
毎度の如く緊張しながら扉を開く。やはりこの空気には慣れない、もしかしてオレって軍人の敵性低い?。
中へ入ると既に宗治達と時清たちの全員が揃っていた。今回も最後か……。
「よし、全員集まったな」
目の前には副長官と世詰さんの2人しかいない。いつもいるはずの東雲さんや酒井さんが今日はいないようだ。
「それでは今から重要任務についての情報を話す。全員、邪陰記帳の初めのページを開いてくれ」
全員がポケットにしまっていた邪陰記帳を取り出し、初めのページを開く。そこには九醒王と書かれた見出しが載っている
「今から話すのはそこに書いてある九醒王についての説明だ。まず九醒王と言うのは九体の邪陰の王の事だ」
「邪陰の……王……?」
「そうだ」
邪陰の王ってあいつ等に王とかいう概念があった事にも驚きだが、王が九体もいることの方が驚きだ。
「九醒王とは各時代ごとに確認された邪陰の王だ、その実力は小国規模なら単独で壊滅できるほどの力を持っている」
邪陰と戦ったことがあるからわかるが、奴らの力はせいぜい数体で町を破壊できるかどうかくらいの力しかない。
それがたった一体で小国を壊滅できる程度まであると言うのなら今までの邪陰とは比べ物にならない程の力を持っているはずだ。
「今回の重要任務と言うのは九醒王の存在が各地で発見されたことだ」
「それって一体だけじゃないってことですよね」
「ああ、今回発見されたのは全部で”九体”。九醒王全てだ」
その言葉はきっと重いはずの言葉なのだろう、だが新人でありながら何度も死闘をくぐり抜けてきたオレにとってはいつもの言葉にしか聞こえなかった。
とりあえず、邪陰記帳に載っている九醒王をみる。一番最近に生まれたのだと神華戦争の時に九醒王の最後が誕生している。
「この任務の重要性は国家の存続を意味している」
「あの……すみません、質問があるんですが」
「どうした、なんでも聞いてくれ」
時清が質問をする。
そう言えば柊家って次期当主がガラクと関係あったり、初代当主が特務機関の歴史に名を残してたりしてるんだよな。もしかしたらそれ繋がりで時清なら何か知っているかもしれない。
「九醒王の危険性はわかったんですが、どうして僕たちが集められたんですか。そんな重要な任務なら新人の僕たち以外にも優秀な人に頼った方がいいと思うんですが……」
もっともな質問だ。オレ達は特務機関の中では新人も新人だ、そんなオレ達が国家の存亡をかけた任務なんて任されていい仕事ではない。
「……その通りだ。だからこそ諸君らの階級を一つ上げることにした」
え、なに、どういう事?階級を一つ上げるって……?。
「これは諸君らの実績をたたえての昇格である。あめでとう」
「あの、理解が追い付かないのですが……」
「つまりですね、副長官はこう言いたいのです。先の戦いでの君達が優秀過ぎるが故に昇進させたから難しい仕事も頼みます、と」
「まあ……世詰の言っている事で間違いはないですね」
先の襲撃で人手不足の中、実績を上げたオレ達を昇進させて本来なら与えられない仕事を任せる……世詰さんが言ったことをまんま言ったが、要するに人材不足をオレ達で補ったと言う事か。
(……え、オレ等そんな成果上げてたの?)
「因みに、君たちの上司も昇進しました」
「酒井さんはともかく、東雲さんも……か」
隣に立っている宗治がボソッと呟く。
言いたいことはわかる、酒井さんは見た目からしてちゃんとしているが東雲さんはどこか不安を思わせるような言動をしている、とは言えあの人もちゃんとしている所はある……と思う。
「そう言う訳で、諸君らは偵察戦闘員から調査分析官に昇進となった。これにて晴れて九醒王の任務に就けるようになったわけだな」
(たぶんだけど、狙いはそこなんだろうな)
「そうですよ、狙いはそこです」
(やべ、聞こえてるんだった)
うっかり忘れていた。心の中で昇進の理由を読んでみたが、やっぱりそこか……。
「よって、諸君らには現地の構成員と共に九醒王を倒してもらう」
「現地って何か所くらいあるんですか?」
「場所は全部で二か所だ」
「二か所!?」
「副長官さん。さっき九体確認されたって言ってたよな、なんで現場が二か所しかないんだ」
「それについてだが、確認されたのは九体は全て移動を開始していてな。あくまで目撃された場所がその二か所だけと言う話だ」
「つまり、今現在も行方はわからないと言うことですか」
「そういう事だ」
今までの事を考えれば当然か。ガラクが介入している以上、邪陰が行動を開始して別の場所へと向かっている事だってありえる。
むしろ、目撃情報のあった場所から一歩も動かずに討伐されるのを待っているのであればそれは罠の可能性が高い。
「確認された現場には移動の痕跡が見られなかったが、近くにいることは確実だ。速やかに九醒王を探し出して討伐してくれ」
「副長官、お言葉ではありますが目撃情報付近に居るのであればそれは罠の可能性があります」
「……理由を聞いても?」
「ガラクの中には邪陰を操る異能を持っている者がいます。もし、その者の異能で九醒王が蘇り操られているのだとすれば何か策があっての行動だと思われます」
百鬼兄弟との戦闘後現れたフランと言う男は邪陰を操っていた。もし、これが原因で九醒王が全て蘇ったと考えれば操られている可能性だってある。
「なるほど、確かに貴様の言う通りかもしれない。だが、長官であるお兄様が不在の今、アタシにできることは限られている。それにムクロ隊の様な事が起きる前に手は打っておきたい」
「…………」
副長官の言う通り、長官不在の今副長官にできることは限られている。それにムクロ隊の様な事が起これば今度こそ組織の存続が危うくなる。
例え、今回の九醒王の行動が罠であってもそれを防ぐことは難しい。
「まあ、対策は無いがもうじきお兄様が帰ってくる。だから安心しろ、お兄様は帝国最強の契約者だ」
「……長官が最強かどうかはわかりませんが、副長官の言葉を信じて期待に応えられるよう頑張ります」
あれこれ考えていてもオレには任された仕事しかできない。なら、目の前の事に集中することにしよう。
「そうか、では現地に向かう編成をしようか」




