第54話 ひと時の休み
大変、長らく遅れましたが、第二章九醒王編の始まりです。
今現在、新しい小説を書いている途中ですのでそちらもお楽しみください。因みに、作者のお気に入りは主人公の彰と鬼和番衆のみんなです
――特務機関本部。
ムクロ隊を倒した彰たちは本部へと帰還し、長官代理の副長官に報告書を提出していた。
「なるほど、無事任務を終えたと言うことか」
書き上げた報告書を読み終え、一息つく。
指令室には遠征に出かけていた俺達4人と直属の上司である東雲さん、秘書の平坂さんの7人がいる。
「とりあえず、まずは遠征任務ご苦労だった。今日は休みを入れてある、また明日から頑張ってもらうぞ」
そう言われ、本日は休暇を貰った。エレベーターに乗り、資料館へと上がる。
「休暇か~急に言われてもなー……」
「なんにもすることねぇもんな……」
文句を言う十兵衛と宗治と共にエレベーターから降りて、そのまま資料館前へ行くと憲兵隊の人とすれ違う。
「おつかれさまです」
「おつかれさま~」
「お疲れ様です」
「おつかれ」
憲兵さんに全員挨拶すると軽く会釈を返してくれる。
特務機関の影響力は当然、軍にも及ぶ。オレが通っていた士官学校の理事長にも影響力があるのだから憲兵にだって影響力がある。
警察にも影響力はあり、普通は警察を使うべきなんだが、襲撃事件の調査で軍服の人物の捜査と言うことで憲兵が出動した。当たり前だが、この人たちは何も知らない。ここでの憲兵の仕事は中から運ばれてくる荷物の輸送と警備だけだ。
「やっぱり、拠点の移動とかするんだろうな」
「この騒ぎですしね……流石に同じ場所を使用し続けるわけにはいかないと思いますし……」
オレが初めて任務を与えられた時に極秘の存在だと伝えられている。警察や軍に顔が利く半面、存在自体を知られてはいけない。そう言う立場もあってか今回の件で拠点の移動は確実だと見ていいだろう。
「そう言えば時清達は?」
「先に休み貰ってるってよ」
「そっか」
ムクロ隊の一件で時清たちも三番隊を倒している。当然の権利と言えばそうなのだが、向こうの方が休みが少し長くないか?まあ、その辺は上の都合か……。
「休み貰ったけどさ、皆どこか行くの?」
「オレは……特にないな」
「右に同じく」
「私もです」
休みをもらったとは言え、急に与えられても使い道が無い。皆、特に何も考えていない。
そうとなると、行く場所は絞られるな……。
「バーにでも行くか……丁度、今の時間なら空いてるだろうし」
「それくらいしかないもんな」
宗治の同意を得る。平日の休み、特に要は無いがバーによって時間を潰すのも悪くないだろう。
「2人はどうする?ついて来るか、別行動するか」
「私はついて行きますけど、十兵衛さんはどうします」
彩希さんの隣にいる十兵衛は難しい顔をしている。なんだ、なにか考えているのは伝わってくるんだが……何を考えてるんだ?。
「どうした、十兵衛」
「……軍人さん」
「はい」
「バー……ってなに?」
「そこからか」
難しい顔をしていた理由はバーがなにかをそもそも知らなかったからか、知らないなら説明するか。
「簡単に言うとお酒が飲めて遊べる、大人の遊び場だ」
「大人の……遊び場?」
「そうだ。酒飲んでボーリングして、ダーツしてビリヤードで遊ぶ場所だ」
「なんとなーくわかった。ボーリング?か、なんだか知らないけど要するにお酒飲んで遊ぶ場所ってことだ」
「そういう事だ」
少し不安だが、平日の休みに遊ぶとこなどほとんどないためオレ達はバーに向かった。
――Bar.kintoki――
「いらっしゃいませ」
店の中に入る。中は少しお高い感じの雰囲気で広めの場所だ。入口手前にバーがあり、奥にはボーリングやダーツなどのゲームコーナー、バーの向かいにはステージがある。
ここは地下にあり、士官学校に通っていた時に友人たちとたまに来ていた場所だ。
「おや、今日はいつもの方々とは違う方なんですね」
「ま、まあ。その色々とありまして、今回は別のメンバーなんです」
どうやら顔を覚えていてくれたらしい。ここのマスターは接客が上手いようだ。
それに対してオレの返答はダメダメだな。
カウンター席に座り、飲み物の注文をする。
「マスター、フロリダを一つ」
「俺はプッシー・キャットを」
「私はシンデレラ」
「十兵衛はどうする」
一番奥に座る十兵衛に視線をやると、またもや難しい顔をしている。そうだ、ここはメニューが無いから慣れてない十兵衛はメニューがわからないのか。
「俺は……なんか美味しいので!」
「かしこまりました」
棚からいくつかのジュースとシロップを取り出しシェイカーに入れ一つずつ作っていく。
「なにが来るかな~」
「彰はここにはよく来るのか?」
「前はたまに来ていたな。最後に来たのは2か月前だな」
「結構最近だな」
「まあな、宗治はこういうところ来ないのか?」
「俺はあんまり……友人ってやつがあんまりいないんだよ、言わせんな」
マスターが作っているのを横目に宗治と会話する。士官学校に入ってから上手くやっていけているのか、少し心配になる。
「シンデレラ……ってなに?」
「童話のお姫様の名前ですよ。その名前から取られたモクテルの名前です」
「モクテル?」
「お酒の入っていないカクテルの事です」
「要するにジュースってことか」
かわいらしい会話が聞こえてくる。初心者の十兵衛に色々と教えている彩希さんの姿は親子の様だ。
「お待たせしました」
カウンターの上に四つのモクテルが並ぶ。作り始めてから1分も立っていない様な気がする。これがプロの業ってやつか。
「フロリダとプッシー・キャット、シンデレラと……」
左から順に名前を言っていく。
プッシー・キャットは赤みがかったオレンジ色をしているのもあって見分けがつくのだが、フロリダとシンデレラは共に黄色がかったオレンジ色をしているおかげで見分けがつきにくい。
そして最後に来たのは……。
「アリスでございます」
トロッとした真っ白な見た目をしている。
「こちら童話である不思議の国のアリスから名前を取られた一品となっておりまして、その見た目から童話の世界から連想されて名づけられました」
「へー」
「シンデレラとお揃いにと思いまして」
さすがマスター、出来る男は違う。女性陣にお揃いの物を提供することでカクテルがわからない十兵衛にも話題を振らせる策士っぷり、人生経験豊富なマスターにしかできない業だ。
「お揃いですね」
「シンデレラとアリス、どちらも童話から来てるのか」
「んじゃ、1杯飲んだら遊ぶか」
全員がグラスを持ち飲もうとしたとき、一人の女性の声がした。
「あれ、今日お客さんいるんだ」
入り口を振り返るとそこにはドレス姿の格好をした綺麗な女性が立っていた。
「愛美ちゃん。今日は非番だって……」
「ちょっと歌いたくなってね、マスターお客さんいるけど歌っても?」
「私は良いが……」
マスターと視線が合う、これは同意を求めているサインだ。
「オレは構いませんけど」
「俺も別にいいですよ」
「私も歌を聞けるなら」
「俺は遊びに来ただけだから気にしないよ」
「そう?じゃあ歌わせてもらうわね」
愛美はステージの舞台に立ち、歌を披露した。
その綺麗な歌声はその場に居た全員を魅了した。遊びに行こうとしていた十兵衛でさえ足を止めてその歌声に聞き入っていた。
オペラの様な美しい音色に女性の魅力を兼ね備えた美貌に目を奪われる。歌が終わると自然と拍手をしていた。
「あら、聞いてくれてたのね」
「あまりに綺麗だったもので、つい」
「そう、ありがとう」
お礼の言葉を言うと愛美はそのままバックヤードに消えて行った。
「綺麗な人だったね」
「そうだな」
「それじゃあ、俺遊び方わかんないから軍人さん、教えてね」
「はいはい」




