表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライ✕ACCEL  作者: ミミササ
第一章・ムクロ編
53/58

第53話 次の一手

 第一章『ムクロ編』はこれにて終わりになります。次回は第二章『九醒王編』が始まります。


 ――とある研究室。

 都市部から離れた山中にあるこの場所は木々に囲まれた自然の中にひっそりと紛れ込んでいる。

 ひび割れたコンクリートに囲まれた研究室の中、調は一つの遺体からある物を取り出していた。


「調、研究の進捗はどうなっている」

「もうそろそろ終わるよー」


 研究に協力するため研究室に訪れていた直人は入り口からその様子を眺める。

 ぐちゃぐちゃと弄られる遺体からは黒い何かがこびりついており、調はそれを慎重に取り出している。

 『神秘の研究者』の異名を持つ調の研究と言うのは邪陰の研究だ。この遺体はムクロ隊が襲撃時に回収した特務機関構成員の契約者だ。調は今この遺体を使って独自法で邪陰の一部を切り離す実験を行っているのだ。


「この実験が成功したら世紀の大発見になるねー!」

「終わったらその遺体をよこせ、僕が有効活用してやる」

「別にいいよ、用があるのは邪陰の部分だし」


 嬉々として語る調に対し直人の方は微塵も興味がなさそうだ。お互いの利害が一致しているからか問題は起きていない。

 慎重に取り出していた邪陰の一部をついに完全に切り離した。


「取れたー!」

「それが契約者の邪陰か」

「うん!あとは直人くんの異能だけ!」


 遺体に近づき直人は自身の手袋を外す。普段は清潔感を保つために着けている手袋だが、異能を使うのには邪魔だ。

 直人の異能は『合成改造(キマイラ)』任意の生物をその名の通り合体改造する異能だ。

 触れた遺体が変質し、邪陰の様な生き物をツギハギにした怪物になる。直人が人差し指で地面を差すと怪物は残っていないはずの異能を使い、地面に小さなクレーターを作る。


「威力が弱いが、概ね問題はなさそうだな」

「これこれ!これだよ!世紀の大発見!」


 調は飛び跳ねて大喜びする。

 契約者が異能を使えるのは邪陰を体内へと封印し、契約するからだ。だが、この怪物の体には邪陰の一部はない。先程、調が取り出したからだ。


「私の研究の最大の成果だー!」

「うるさいぞ」


 特務機関にはかなりの歴史があるが、調の様な研究を一度も行ったことが無い。人道に反し、極めて危険だからだ。

 これはガラクにとっての切り札にもなるだろう。


「研究は終わりましたか」


 ワープホールからフランとアルセーヌが現れる。


「今終わった所だ」

「研究は大成功!私達の切り札の完成だー!」

「それはそれは、大変喜ばしいことですね」


 フランが拍手をして祝ってくれる。それに続いてアルセーヌも拍手を送る。


「それで、他の皆さんはどこに?」

「愛美ちゃんは仕事、巴重ちゃんは昨日からずーっと部屋に籠ってるよ」

「輝と時利はムクロ隊の監視だ。先程連絡が入ったが、ムクロ隊は全滅したそうだ」

「そうですか。まあ、彼らの役目は果たしてくれましたし問題はありません」


 ガラクがムクロ隊を差し向けた目的は二つ。一つは宣戦布告の意思を伝える事。二つ目は『太古の遺産』を集めさせることだ。

 太鼓の遺産の事を伝えることで、危機感を持った特務機関側が集めるのを目的としている。


「それより、よかったのか」

「なにがですか?」

「時利が持ってきた柊 時道の遺体、あれは俺達の戦力の中でも上澄みだぞ」


 時道の実力はガラクの持つ戦力の中でもトップを張れるレベルだ、その遺体を下部組織であるムクロ隊に預けると言う行為が直人には理解できなかった。


「確かに柊 時道の遺体は我々の中でも一二を争うレベルでしたが、問題ありません。むしろここで使ってよかったとすら思っています」

「ほう、理由を聞いても」

「持っていても使い道が無ければ意味がありません。要するに宝の持ち腐れと言うやつです」


 ガラクの中で最後に入ったのは時利だ。その時利が持ってきた時道の遺体は戦力として予想外だったが、使い道が無いわけではない。ならば使える時に使っておこうと言うのがフランの考えだ。


「そうか」

「ええ、ですから問題はありません」


 今のところガラクの計画に支障はない、むしろ順調だ。調の研究が成功し、ムクロ隊の役目は終え、巴重の確保も完了している。強いて言えば紅桜が手に入れられていないのが問題くらいだ。


「それで、次の手はもう決まっているのか」

「ええ、我々の方の準備はできています」


 フランは入り口の方から玄関を一瞥(いちべつ)する。そこには一人の軍服を着た人型の邪陰と八体の邪陰がこちらを見ている。


「その奥にいる奴が次の手か」

「ええ、彼らは我々が集めた邪陰の中でも最上級の代物です」

「名前持ちか……」


 その言葉を聞いたフランはフフッと笑う。

 名前持ちの邪陰は他の邪陰と比べても強い。だが、今回フランが用意した邪陰はそんなレベルとは比べ物にならない程の強さを持っている。


「彼らは名前持ちの中でも一番上の存在、九醒王ですよ」

「ほう……」

「へえ……」


 フランが語った九醒王、その言葉に直人と調が反応する。聞き覚えがあったからだ。


「凄いのを用意したんだね」

「ええ、かなり頑張りましたから。そして、これに伴って皆さんにも動いてもらおうと思いまして……」

「そうか、やるのか」


 外していた手袋を再びつける。


「特務機関、長官。不動 天義(ふどう てんぎ)を始末します。その為に彼らを用意したんですよ」

「そうか、これなら僕のコレクションも連れて行った方がいいな」


 ペストマスクの上に被っている帽子を直す。フランの用意周到さから本気であることが直人にも伝わった。


「私の研究結果はどうする?」

「調さんの研究成果も使わせてもらいますよ。今回はこれが一番重要ですから」


 調から邪陰の一部を受け取ったフランは黒いそれを口の中へ放り込む。


「それでは動かしましょうか、次の一手を」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ