第50話 雫との再会
すみません、次回作について考えていたら遅れました。
ムクロ編は53話で終わる予定です。
三蔵との戦闘後、彰は三蔵の遺体を担いで山を下りていた。
長い階段を2人分の重さで降りている、それだけでも疲れるのに戦闘後の疲労も相まって余計に疲れる。
先に進んでいる十兵衛が振り返って聞いて来る。
「軍人さん、やっぱり俺が持とうか?」
「いや……いい、俺が……運ぶから……十兵衛は、折れた……妖刀を……」
「りょうかーい」
子供っぽいとはいえ十兵衛は女性だ。それにオレとは違って傷は回復していない、きっと疲労もあるはずだ、それなら傷が治っている俺が持つべきだ。負担を掛けるわけにはいかない。
重い体を何とか動かして山を下る。道中、十兵衛が何度か足を止めて待ってくれたおかげで道順を考えずに済んだ。
「軍人さん、もうそろそろ町に着くよ」
「わかった……」
町に着けば東雲さん達に連絡ができる。そうすればこの微妙に重たい遺体も持ち運ばなくて済む、仮に運ぶとしても宗治がいるから男手が増える。そうなればこの重たいのを一人で運ばなくて済む!。
山を下り、町に出た彰たちは宗治たちを探しにしばらく歩き回っていた。
「軍人さん、大丈夫?」
「だ……大丈夫だ……」
大丈夫ではない。額から汗が零れ、歩く速度はどんどん遅くなっている。
通常生きている人間に比べ遺体は重く感じる。その理由は死後硬直により関節が堅くなり、重心が体全体に広がるからだ。三蔵はもとより遺体であったがガラクの異能によって動かされた体は防腐処理が施されていた。
そのせいか本来ありえない死後硬直が急速に始まっていたのである。
(お、重い……さっきまではもっと軽かったはずだ)
「あ、宗治さん達だ!」
「おーい、彰ー!十兵衛ー!」
数十メートル前に宗治と彩希さんが見える。宗治の背に誰か背負われている。
「お前らも倒したみたいだな」
「そういう宗治さん達は誰を倒したの?」
「ムクロ隊二番隊 隊長の凪城 桜摩だ。そっちは倉骨 三蔵だろ」
「うん!」
そう言えばムクロ隊には隊長副隊長がいたんだった。倉骨三蔵は二番隊の副隊長だから、これでムクロ隊は全員倒したことになるのか。
「これでムクロ隊は全員倒したな」
「そんじゃ本部に連絡するか、予定ではもう少し泊る予定だし」
「これにて一件落着か」
ムクロ隊の討伐任務はこれにて一件落着、これでもうこの町にいることはなくなるのか……いや、正確にはあと数日宿泊する予定だが……。
(そうか、もうこれで帰るのか……)
任務が終わったが、すこし心残りがある。
それは雫ちゃんの事だ、あの日死んでいた事実を知ってから一度も連絡していない。きっと今だって連絡を待っているはずだ。それなのに未だ決心がつかない。
(そもそもオレは何のためにここに来たんだ……)
思い返す。オレはここに任務意外に大切な用事があって来た、それは雫ちゃんに長年秘めていた思いを伝えるためだ。
そのはずなのだが、怖くなっている。もし、この思いを伝えたら今までの関係が壊れる気がして怖い。そうなってしまったらオレは耐えられるのだろうか。
「彰、その荷物貸せ」
「?」
「いいから貸せ」
「お、おう」
突然、宗治に背負っていた三蔵の遺体を渡すよう言われる。
ただでさえ一人分の遺体を背負っているのに二人分に増えたら相当重いはずだ。しかし、何故急にそんなことを言ってくるんだ?。
「彰。お前、なにかやり残したことがあるんだろ」
「え……」
「軍人さんの顔見てたらわかるよ」
「ここ数日の彰さんはどこか落ち込んでましたし」
三人から背中を押される。この数日は雫ちゃんの事や東雲さんとの会話で頭の中がいっぱいいっぱいだった、だがそれも任務が終わって整理をつけてみれば思い残すことは一つだけだ。
「だがら、行ってこい。後悔しないようにな」
「……わかった。ありがとう、皆。行ってくる!」
みんなに背中を押されて廃病院に向かう。そうだ、オレは雫ちゃんにこの思いを伝えに来たんだ。そのためにここへ来る前電話をしたんだ!だから後悔のある道は選ばない。
病院目掛けて走る彰を三人は遠目で眺める。
「ようやくまともな顔になったな」
「これでいつもの彰さんに戻ってくれるといいんですけど……」
「まあ、軍人さんの事だから大丈夫だと思うけどね」
――廃病院――
三階の奥の部屋から白い患者服を着た少女が電話機のある廊下へと向かっていた。夜の8時だと言うのに病院には警備の一人もいない。それもそうだ、ここは十年前に経営者であった少女の両親が亡くなって以来、誰の手にも渡らずに廃墟として放置されているのである。
では何故そんな廃病院に少女が一人いるのか、その理由は少女は既に亡くなっており生前にやり残した事があるせいで地縛霊としてここに十年もの間、縛り付けられているのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
そんな少女の事を知った一人の男は今まさにその現場へと向かっていた。名は志藤 彰、少女である琴乃葉 雫に思いを寄せるかつての友人である。
病院の門を通り、三階の奥の部屋を見るが誰もいない。
(奥の部屋にいないってことは……廊下の電話機にいる!)
中へ入り三階へと急いで駆け上がる。
三階廊下。階段を上り切り、廊下へ出る。確か電話機があったのは……。
「彰……くん」
全力疾走したせいか息を切らしながら顔を上げる。
目の前の廊下には電話機があり、その前に一人の少女が立っている。少女はこちらを向き驚いた表情をしている。その顔は昔とは違い、成長して美人になってもどこか幼さが残った雫の顔だった。




