第48話 覚悟
次回はいよいよ決着です。
睨み合う影が喰らい合う。そう思うほど今の空気は緊張感を張りつめている。
土煙の中から無傷の三蔵が現れる。
「紅桜の強化蹴りでも無傷かよ……」
「軍人さん、相手は三蔵って名前なんだよな。なにか知ってることはないの」
「ないな。ただ東雲さん達が危険視しているくらいには有名と言う事しか知らねえ!」
三蔵の異名は『骨斬り三蔵』。かつて神華戦争にてその名を広めた特務機関の偵察戦闘員だ、その実力は異名の通り一撃で骨を斬る程の力を持っている。
能力を使用した時の一撃をまともにくらえば致命傷は避けられない。
「……ニテイルナ」
「は?」
「オマエ、ニテイルンダヨ。コウジニ……」
「だから、そのコウジって人をオレは知らねえんだよ」
「……ソウダヨナ」
いったい誰と勘違いしているのかわからないが、今はそんなことを気にしていられるほど余裕が無い。
抜骨から生み出される骨の応用技に翻弄されてばかりだ。どうにかして一撃を入れたいところだ。
「十兵衛、異能の刃をオレの合図で使えるか」
「使えるけど、使ったら軍人さんも動けなくなるよ」
「そのことについてだが、一つだけ確認を取りたい」
「なに?」
「十兵衛の異能の刃は”影に触れて”いないと効果がないのか」
彰には一つの考えがあった。だが、それを実行するには十兵衛の使う沈殿影法師、これの効力範囲を正確に理解しなければいけない。
「そうだ、影に触れて重くするのが効果だからね」
「そうか。なら、問題はない。オレの合図で使ってくれ」
「何をするの?」
「十兵衛が動きを封じている間に神社の屋根からアイツを叩き斬る!」
三蔵は契約者ではない。よって注意すべき点は妖刀の能力だけだ。だがその妖刀ですら三蔵は使いこなしている。
ならば十兵衛の沈殿影法師で動きを封じている間に神社から飛んでアイツを叩き斬るほかない。その間、十兵衛には注意を引いてもらう必要があるが、問題ないだろう。
「俺は足止めをすればいいわけだな」
「そういう事だ。行くぞ!」
彰は円を描くように端を走りながら神社へと近づく。
「ナニカサクセンガアルヨウダナ、イイダロウ。ソノサクセンノッテヤルゾ!」
「沈め・村正」
三蔵の言うコウジに彰が似ているからか甘く見られている。
地面を蹴り上げ十兵衛は三蔵と距離を詰め、横一文字の一太刀を三蔵が防ぐ。
「ハヤイ!サスガハケイヤクシャダナ!」
勢いそのままに飛び込んだ十兵衛は急いで振り返る。
視界のすぐそばには刃が迫ってきている、異能で影に片足を沈めて躱す。その隙に下方から村正で突きを放ち三蔵の腹部に突き刺さる。
「タノシイナ」
(コイツ、刺してもダメージが無いのか!)
「飛び出せ・抜骨」
抜骨から形成された骨が十兵衛を襲う、突き刺した村正を抜き影に沈んで回避する。
触手のように細い骨が鞭の様に暴れ散らかす。十兵衛は影で移動して距離を取る。
(異能的にはこっちの方が有利なのに攻撃手段は向こうの方が圧倒的に上だ!)
十兵衛の影の異能は汎用性が高い、だが妖刀である村正は触れた物を重くするだけで十兵衛の異能との相性はあまり良くない。影の異能は十兵衛の影にのみ入り込むことができるのを異能の刃で無理やり沈めているだけに過ぎない。
それに対して三蔵の妖刀は汎用性が高い、攻撃手段としても移動手段としても使える。加えて攻撃は触手上の細い一本骨の集中型、互いをぶつけ合いバラすことで攻撃する範囲型の二つに分けられる。
「十兵衛!」
「!」
彰が呼ぶ。神社の上を見ると既に彰が上っている。
今だ、今しかない。三蔵はちょうど神社の前で動きを止めている。使うなら今だ!。
「沈め・村正」
影に村正が沈み影が重たくなる。
『異能の刃・沈殿影法師』
地面の影と接しているのは十兵衛と三蔵だけだ。今動けないのはこの二人だけ、神社の屋根に乗っている彰までは影は繋がっていない。
「喰らえ・紅桜!」
紅桜の能力を使う。強化された身体能力で飛び、真上から三蔵目掛けて斬りかかる。
強化された身体能力は契約者にも劣らない程強い。その一撃は契約者ではない三蔵が防げるものではない。
三蔵は影に向けて能力を使う。
「飛び出せ・抜骨」
沈む影に能力を使う。だが当然影は沈んでいる訳なのでそこに骨が着くことはない、そこで打った手は骨をバラす広範囲攻撃による足場作りだ。
カチカチとなる骨が弾け、その勢いを足場に沈む影から飛び出した三蔵は降りかかる刃を躱し、彰の脇腹を一突きする。
「ぐっ!」
「軍人さん!」
十兵衛は能力を解除する。このままでは彰を巻き込みかねないからだ。
それを見た三蔵は飛び散った骨を足場に十兵衛に近づき、腕を切りつける。
「っ!」
「オモシロイナ、ハハハハハ!!」
戦闘の楽しさを実感する。神華戦争以来のまともな戦いに三蔵は楽しんでいる。が、なにか大事な事を思い出し、すぐに笑うのをやめる。
「ナニンダ、イマノハ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
(どうする……!もう打つ手はないぞ)
紅桜の能力で傷口を治しながら彰は考えをめぐらす。十兵衛の使う沈殿影法師は強力だ、それで決め手には欠けるが足止めとしては十分だ、だがそれをやすやすと突破して紅桜の一撃を躱して攻撃を当ててくる。
さすが英霊と言うべき存在だ、一筋縄ではいかない。事実彰の打つ手はもうない、あるとすれば紅桜による強化での消耗戦くらいだ。
(紅桜での消耗戦はできるだけ避けたい、使いすぎるとまた暴走するかもしれない……)
彰は紅桜に少しだけ恐怖を抱いている。使いすぎた場合、初めて使用した時の様に暴走するかもしれないからだ。
(他の、他の策はないのか……)
「飛び出せ・抜骨」
「!」
考えを必死で巡らすが三蔵は待ってはくれない、現実とは無情なものだ。骨が伸び、横凪に振るわれる。
「喰らえ!紅桜!」
反射的に紅桜を使う。もう後先考えていられない、三蔵の速さから考えて紅桜での消耗戦しか策はない。
(どうする……また、オレは……)
強化された身体能力を駆使して三蔵と戦う。
怖い。紅桜と仮契約したとは言え、また暴走して十兵衛にまで攻撃してしまったら……。そう考えると全身に悪寒がはしる。
その時、彰の脳内に昔の記憶が流れる。
「彰くん……彰くん……」
白いワンピースを着た少女がオレの名前を呼んでいる。綺麗な水色の透き通った髪色、その髪には見覚えがある。
「彰くん!」
「雫……ちゃん?」
「よかった、急に倒れるからびっくりしちゃったよ」
(この記憶は……そうだ、遊んでいる途中に訓練の疲れで倒れた時の記憶だ。だが何でこの記憶なんだ?)
懐かしさから来たものなのか、はたまた彰の長年秘めていた思いが生存本能から呼び起こした物か、わからないが雫との思い出が流れてくる。
「ごめんね、びっくりさせちゃった?」
(オレの意思とは無関係に口が動く!?)
「うん、びっくりして、、、」
「雫ちゃん!」
ぐすんと涙を浮かべる雫を彰は慌てて慰めようと背中をさする。
そうだこの時、たしか熱中症になりかけて意識が朦朧として、雫ちゃんが泣きそうになって慰めて、その後は……。
「、、ねえ、彰くん。約束して」
「なにを?」
「危険な事はしないで、私と遊ぼ」
雫は小指を立てて彰の前に出す。約束だ。当然、断る理由はない。小指を立てて小指を絡める。
「約束ね!」
「うん!約束!」
そうだ、約束。この時、生まれて初めて友達ができたんだ。だから、オレは雫ちゃんの事が……。
「喰らえ!紅桜!」
紅桜による更なる強化をする。
ごめん、危険な事はしない約束は守れない。でも、あそぶ約束なら守れる!。




