第47話 能力の相性
(ムクロ隊の残りは一つだけ、となるとコイツは二番隊)
(二番隊の人間は二人、一人は死人って聞いてるけど)
(コイツは明らかに生きている)
(ってことは……)
(二番隊隊長の凪城 桜摩か!)
状況を整理する。ムクロ隊も残すところ一つだけ、そして相手は最後の一部隊、二番隊の隊長とみて間違いないだろう。
異能を使って見せたと言うことは戦闘に入った合図とみる。
「一応聞いておく、お前がムクロ隊の隊長とみて間違いないんだな……」
「…………だ」
「すまねえが声が小さくて何言ってるかわかんねえ」
「そうだ」
微かに聞こえた声から返事が聞こえる。
どうやらムクロ隊の隊長で間違いないらしい。そうとなれば話は早い、やる事は一つだ。
「なら倒させてもらうぞ、敵として」
妖刀を抜き戦闘態勢に入る。
相手の異能はもうわかっている。ただもう一つ、妖魔刀剣の能力がわからない。
分身の異能がどこまで効くかはわからないが、分身体を見る限り武器までは分身できないらしい。できるのは異能を持つ本人だけだ。
「泳げ・濡れ燕」
能力を使い真っ先に武器を持っていない分身と思しき個体を斬る。
濡れ燕の刃が通り燕が出る。予想通り武器を持っていないのが分身体だ。
(武器を持っていないのが分身と言うことは、こっちが本物!)
能力を解除して燕を妖刀に戻し、本体を斬る。
刃が入り霞の様に消えて行く。
「!!」
(本体じゃない!)
斬った感触や消えて行くのを見る限りこれは分身だ、間違いない。だとしたら本体はどこに居るんだ。
宗治は訝しむ。敵を目視してから間違いなくまっすぐに突っ込んだ、それなのに斬ったのは分身だった。
「宗治!」
彩希が叫ぶ。振り返ると拳銃を片手に今まさに撃とうとする凪城の姿が見える。
体をよじり回避しようとするが間に合わない。
「放て・レーヴァテイン!」
紫色の閃光が凪城に向かって放たれる。そのおかげで撃たれることはなく回避できたかのように思えた。
ガシャンッ!ガラスが割れる音と共に銃声が鳴り、宗治の腹部に弾丸がめり込む。
「ぐっ!」
熱い。真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。そして間髪入れずに痛みが襲ってくる。
痛みで立つこともままならない。だが、一つだけわかったことがある。
「どうして……ちゃんと敵に向かって撃ったはずなのに!」
「彩希、よく見てみろ」
彩希が撃った方向を指さす。そこにはぐしゃぐしゃに割れたガラスが散らばり、貫通した向こう側にはレーヴァテインの跡が残っている。
「これって……」
「鏡だ、鏡の異能だ。そんで相手は一人じゃない……!」
まじかで見ていたから理解できる。これは異能だ、初めから用意されていた物じゃない。
これを使えるのであればわざわざ初めから姿を見せる必要はない、となると相手は一人じゃない。そして凪城が銃を持って攻撃してきたと言うことは……。連携の取れない邪陰か。
「もう片方は邪陰だ!」
「…………」
パキパキパキパキッ!――
どこからともなく凪城が現れる。その後ろには鏡で作られた異形の顔の邪陰がいる。
読みは当たっていた。おそらくこの邪陰の異能を使って視覚を誤魔化して隠れていたんだろう、どおりで見つからないわけだ。
彩希は腕を切って宗治の腹の傷に血を注ぎ込み再生させる。
「分身の異能に鏡で撹乱……厄介にもほどがあるな」
分身の異能でも厄介だ。それに加えて鏡の異能で撹乱して、本体をさらにわかりずらくする。これだけでこっちの手は彩希のレーヴァテイン一つしかない。
俺の濡れ燕は役に立たない。そうなるとやれることを他に探すしかないか。
「どうするの、私のレーヴァテインじゃ近づけない事しかできないわよ」
「わかってるよ、俺も今考え中だ」
戦い方からして相手の策は相当練られていると見ていいだろう。それなら相手の策を逆手にとって打ち破るのが良いが、生憎とそこまで手は割れていない。相性最悪だな。
(どうするか……俺ができるのは策を練る事だが、凪城と邪陰のコンボが厄介すぎる)
「…………」
凪城が何か言いながら近づいて来る。
策を練る暇はなさそうだ。先手を打たれる前に先に手を打って時間を稼ぐか……。
「彩希、レーヴァテインで凪城たちを撃ってくれ」
「策ができたのね」
「いや、まだできてない。先手を打たれるより先に手を打って時間を稼ぐだけだ」
「了解。放て・レーヴァテイン!」
目の前にいる凪城たちを攻撃するが鏡に穴が開くだけ、やはりと言うべきかそうそう目の前には現れないか。だとすれば……。
「そのまま見える限りの敵を薙ぎ払え!」
「見える限りってどれくらい……!」
「全部だ!」
相手の手の内が全てわからない上に先手を打ってくるのなら、時間を稼ぎつつ手を潰す、ごり押し戦法一択だ。
目につく限りの全てに映るすべてに攻撃する。
(相手の先方は手数による多さと鏡による撹乱、ならその全てを破壊するだけだ!)
「…………」
宗治は感づいていた。凪城たちの戦い方が異能を使った物量戦である事に、だとすれば取っていない戦法には何かしらの理由がある。それすなわち力不足と言う事だ。
(ここまで攻めてこないと言うことは読みは当たった、これで警戒すべき点は一つだけになった!)
「彩希、そのまま破壊していけ!」
「わかってるわよ!」
次々に凪城の手を破壊していく。宗治の読み通り凪城たちに攻めの手はない。だが、ただ見ているだけではない。
「流れろ・峰史」
彩希のレーヴァテインが目の前にいる凪城を攻撃しようとしたとき、先程までとは違う動きで凪城が妖刀の能力を開放する。
レーヴァテインの軌道が流れるように凪城たちからずれる。なるほど、これが妖刀の能力か、となれば警戒する点はなくなった。
「彩希!俺の合図でレーヴァテインを撃て!」
宗治は凪城に真っ向から突っ込んでいく。狙いはもちろん妖刀の能力無効だ。
「…………」
銃口を向けられる。当然のことだ、向こうもバカじゃない。俺の能力を知っていて近づけるわけがない。
銃声が鳴り弾丸が宗治を襲う。
「知ってるよ!」
「っ!!」
弾丸は宗治の頭部に直撃するが宗治は止まらない。そう、当たったのは邪陰の能力で生み出された鏡だ。増やし過ぎた鏡の位置を凪城はある程度認識していた、それでも宗治の用意した策である鏡には気がつけなかった、これには理由がある。
(破壊された鏡の内、何か所か不自然な点があった。これはそのうちの一つ、壊されていなかった鏡の位置をずらしたものだ!)
宗治は策を練るのと同時に観察していた。先が壊した邪陰の鏡の位置を、そこには不自然な点があった。それは凪城たちが通って移動していたと思しき鏡がいくつかある事だ。
その内の一つだけ、初めに銃を撃った位置の鏡だけが破壊されていなかった。宗治はこれを利用して自分の位置だけ錯覚させ凪城たちに近づいた。
「流れろ――」
「泳げ・濡れ燕」
凪城が能力を使うよりも先に宗治の濡れ燕が峰史に触れ燕が飛ぶ、これでレーヴァテインが躱されることはなくなった。
「彩希!」
「放て・レーヴァテイン!」
「っ!!!!」
パキパキパキパキッ!!!!――
レーヴァテインが大きく振り下ろされる。凪城と邪陰を巻き込んだ一撃は勝利を確信させた。宗治は間一髪のところでなんとか躱す。
「あっぶねえ……!もうちょっとで俺も巻き込まれるところだったぞ!」
「アンタがやれって言ったんでしょ!」
「それもそうか」
「それで、どうするの?」
宗治達の目の前には契約者としての肉体の強度のおかげで瀕死状態の凪城がいる。邪陰の方は消滅したようだ。
「彰たちを探そうにも、どの山かわからねえから宿で待つぞ」




