第45話 ムクロ隊2番隊
――三日目、夜。
初めの宿泊予定では最後の日、昼までに手掛かりになることは何も見つからなかった。一応、宿泊日数を伸ばして追加料金も払ってきた。
今は十兵衛と共に西の方を捜索している。
「軍人さん、大丈夫か?」
「え、なにがだ?」
「いや、昨日の事があったからさ……」
「ああ、気を使わせて済まない。ひとまず気持ちの整理はついた」
「そっか」
昨日の事があってからどうも本調子になれない、言葉ではごまかしているが実のところ未だ整理しきれていない。
雫ちゃんがどうしてオレなんかの連絡をずっと受けてくれているのか、どうしてオレは事実を知って会いに行けないのか、色々な事が頭の中を過っていく。
(軍人さん、やっぱり大丈夫じゃなさそうだな)
すこしかげる横顔を見る。その顔はどこか思い詰めているような気がしてとても大丈夫には見えない。
(まあ級友が死んだっていきなり伝えられて受け入れられないもんな……)
「軍人さん、軍人さん」
「どうした?」
「困った事があったら何か言ってね、俺も力になるから!」
「あ、ああ……」
戸惑う。なんかいきなり十兵衛が励ましてくれたのだが……オレそんなに元気なかったか?。
確かに未だ気持ちの整理がついていないが自分なりにはある程度整理をつけたつもりだ、完全にではないけど……。
「まあ、頼らせてもらうよ。相棒として十兵衛の事は信頼しているからな」
「そ、そうか!」
(相棒として信頼してるか……なんかすごく嬉しい!)
照れる。家を出てから今まで周囲には子ども扱いを受けてきた半面、相棒として信頼されていると言われたのは今回が初めてだからだ。
こんなことを言われたのはいつぶりだろうか……。
(懐かしいな、相棒って言われるの!)
脳裏に一瞬、思い出がよぎる。そこでは道場で十兵衛と共に稽古に励む……誰だっけ?…………あれ?。
(……何が懐かしいんだっけ?)
思い出に映る影は黒く塗りつぶされ、記憶が曖昧になる。
誰と道場で何をしていたのか、昔の何が懐かしかったのか、全て思い出せなくなる。
「んー?」
「どうした」
「…………いや、なんでもないよ。それより軍人さん、他に敵が潜んでいそうな所ない?」
「他か……」
この三日間、古史町の回れる場所を回ってみたがムクロ隊がいるような気配はない。東雲さんは情報を引き出すことに成功したと言っていから誤情報、と言う訳ではないと思うが……。
顎に手を当て考え込む。他に隠れられそうな場所、あったけなー。
「あ、一個だけあったわ」
「どこどこ」
「あそこの山」
彰が指さした先はどこにでもある様な山だ。
周囲が山に囲まれていると言うこともあって対して目立ちはしない。
「あの山に神社があるんだよ」
「そこに隠れていると?」
「そこくらいしか思いつくところはないからな」
幼少期、この街に居た頃を思い出す。雫ちゃんと綾部の三人のイツメンに周辺の子供たちと一緒によく遊んだ場所だ。
町中を探し回って見つからないと言うことは町はずれにある、あの神社くらいしか心当たりはない。
「宗治さん達には」
「一応連絡だけしておこう」
無線機を取り出し宗治達につなぐ。田舎と言うこともあってつながりが悪い。
「――こちら彰、こちら彰――」
「――ど……した――」
「――こ……ら、山…………神社に向……う――」
「――じ……じゃ……?――」
「――そ……だ――」
「――りょ……――」
通信が切れる。途切れ途切れだったが、話している感じ的に内容はある程度伝わっているはずだ。
「連絡はした、それじゃあ神社に行こうか」
「うん!」
(不思議なもんだな、初めはあんなに怖かったのに気が付けば慣れているんだからな)
慣れと言う物は恐ろしい、特務機関に来たばかりの頃は人を殺した十兵衛に恐怖すら覚えたのに初任務を終えて次の任務に就いた今となってはそんな恐怖気付けば慣れてしまっている。
「彰さん達からなんて連絡来たの?」
「山の神社に向かうってさ」
「そんなところあったの!?」
「知らねえ」
古史町を捜索していた宗治と彩希は彰からの連絡を受け立ち止まる。
「それでどうするの、彰さん達と一度合流する?」
「しねえよ、そもそもどこの山に神じゃがあるのかわからねえ」
山と言ってもどの山かわからない。周辺が山々に囲まれているのもあってどの山に神社がるのかさっぱりわからない。
「俺達はこのまま町を捜索するぞ」
「わかったわ」
「とりあえず、彰たちが捜索していたところにでも行くか」
宗治達がいる場所は東の方角だ彰達が捜索していた西の方も含めると捜索範囲が大きくなる。夜ということもあって住民のほとんどは眠りについている時間だ、聞き込みに時間を割かない以上同じ場所を何回も探すより捜索範囲を広げるのがいいだろう。
「東雲さん達ももう少し人員を割いてくれてもいいのにな」
「あの人たちなり考え方でもあるんでしょ」
「本当にそう思ってるのか?」
「……たぶん」
特務機関全体が襲撃にあったとは言え、もう少し人員を配置してくれてもいいはずだ。本来いたはずの東雲さんが欠けたこの状況で待機組から一人送ってほしいくらいのだが、上層部の事を考えると何とも言えない。
ムクロ隊を差し向けてきたガラクが次に何をしてくるかわからないからだ。現場の声と言う物は届いているはずだが、それを採用できる状況にないのも確かだ。
「まあ、上層部のお偉いさんも大変なのは理解してるつもりなんだがな……」
「そうね、ところで……後ろにいるのはムクロ隊の人で間違いないわよね」
「……だと、思うがな」
先程から視界の端にとらえてはいたが、なにもしてこない。後ろを振り向き姿を確認する。白い軍服に黒いマスク、情報と全く同じ人物像だ。
「ムクロ隊の人……で間違いありませんよね?」
「…………」
「?あのー」
「…………」
聞こえているのかわからないが、なにか喋っているのだけはわかる。
反応はあるようだ。
「とりあえず刀剣を持っていると言うことは敵と言う事で認識させてもらうぞ」
「…………」
妖刀に手を掛け問いかけるが声が小さすぎて何を言っているのかわからない。
一歩、前に踏み出して近づこうとした瞬間、残像の様な物が現れたかと思うと敵が2人に分身する。
「なるほど、分身の異能か……これは厄介だな」




