第43話 伝説の亡霊
次回からは彰たちの話です。あと、よければ感想や評価をください。
――第一支部、地下5階。
竜彦たちが葉藤と戦っている中、瑞季と玄筆は亡霊と向き合っていた。
「さて、竜彦も楽しんでくれているようだし、わたし達も楽しもうとしようか」
「…………」
「隊長、亡霊がずっと沈黙しているんですけど喋れるんですよね?」
「喋れるさ。でなければ妖刀を持つ意味が無いからね」
「動かないのは先手を譲ってくれている……と言う認識でいいんですよね」
「だろうね」
戦闘が始まってから亡霊は一歩も動かずに沈黙を貫いている。
余裕を持っているのか舐められているのかわからないが、こちらの攻撃を待っているのは確かだ。
「わたしから行ってもいいかい?」
「相手は天帝五刃の一つ空御仁を持ています。先手は隊長に任せて俺は援護に回ります」
「そうかい。待たせるのも悪いし、甘えさせてもらおうか。断て・グラム」
玄筆の妖魔刀剣は天帝五刃の一振り、魔剣・グラム。能力は断絶。
狙いを定めた対象を断絶する能力、例え障害の向こうに対象がいようが空間を超えて逃げようが狙われているのであれば障害や空間すらも断絶し能力や異能すらも斬る、まさに魔剣といえる代物だ。
(隊長の魔剣グラムは最強だ。何度もこの目で見てきた……だが、天帝五刃に階級があると言う話が本当なら、勝敗には俺の援護も加算される!!)
今日に至るまで天帝五刃同士での戦闘は幾度か行われていたが、それを目撃した者は数少ない。瑞季も見たことはないが一つだけ知っている事がある。
天帝五刃には強さによる階級がある。これは特務機関最高機密情報に指定されいているため長官と天帝五刃を持つ者にしかわからないことだ。
(相手は柊家の人間だ。もし、”あれ”が使えるのなら……この戦いに竜彦たちも加えるしかない……!)
グラムの断絶斬撃が真っすぐ亡霊に向かっていく。亡霊も空御仁を抜き能力を使用する。
「淘汰しろ・空御仁」
魔剣グラムに対するは同じく天帝五刃の一振り、空御仁。
能力は刀身で受けたあらゆる能力、異能を無効化する能力。これは伝説の亡霊が残した功績を知っている者であれば周知の事実だ。
そして今、天帝五刃の同士がぶつかる歴史的瞬間が訪れる。
「っ!!」
グラムの斬撃が空御仁で防がれる。結果はグラムの上。
空御仁は天帝五刃においてグラムの上に立った。
(グラムが防がれた!まずい、もし俺の予感が当たっているのなら……)
「霞め!粋月!」
すかさず妖刀を抜き能力を発動させる。瑞季の予感が正しければ、次に来るのは空御仁だけによる攻撃ではなく、異能と組み合わせた攻撃。ゲームで言いうところのハメ技、クソゲーとも言える攻撃だ。
刀身から大量の霧が散布され視界をくらませる。粋月の能力は刀身を霧状に変質させ攻撃する能力。本来の用途とは違う使い方だが、相手を考えれば仕方のないことだ。
「ありがとう、瑞季」
「隊長、やはり空御仁は……」
「ああ、グラムより強い。だけど傷はつけられた」
亡霊の肩に切り傷ができている。どうやら先程の一撃を完全に防げていたわけではないようだ。能力は上でも異能では下だったようで。
「瑞季、亡霊への攻撃は……」
「既にやっていますよ。けど、全部無駄になっています」
霧と化した粋月の攻撃を受けるが一瞬にして治る。
これが柊一族の異能『時間操作』。伝説の亡霊において警戒すべきことは3つ、空御仁と時間操作、そして時間操作の先にある異能の特異点である。
「でも倒す術はあるらしいね」
「ええ、隊長が負わせた傷だけ治っていませんね」
粋月で負った傷を時間操作の能力で巻き戻しているが、グラムに斬られた傷は治っていない。
「これで2つわかった事があるね」
「一つはグラムの能力が効くことと」
「全盛期の様に異能の特異点である力は使えないことだね」
柊家が特務機関と深いかかわりであるのは初代当主である伝説の亡霊が築き上げてきたものにある。当時、最強と呼ばれていた亡霊の強さは全盛期ほどではない。だが、逆に返せばそれ以外は劣っていないと言う事だ。
「喜ぶべきかな。もし、全盛期なら竜彦たちがいなかったら死んでいたよ」
「そうですね。でも、油断はできないです。全盛期ほどではないにしろ相手は柊家の初代当主、現にグラムの能力が防がれているんですよ」
「そうだね、油断はできない。だからわたしも異能を使うよ、それで一気に決める」
「わかりました。援護に回ります」
玄筆の目が赤くなる。異能は厳解刹那、身体能力強化の異能だ。効果は瞬間的な身体能力の強化、時間にして1秒。玄筆はこれを驚異的な集中能力を用いて使用しているため長期戦になると疲労による動きの鈍りが出てくる。その為、いつ本気を出してくるかわからない亡霊に対して短期決戦に持ち込んだ。
霧の中に突っ込んでいく。瑞季は粋月で亡霊の体中に攻撃し傷をつける。隊長の位置がバレないように撹乱している。
玄筆は霧の中から亡霊を見つけ出し能力で斬りかかる。
「断て・グラ――ッ!!」
グラムによる断絶を行う前に空御仁による凪による一太刀が襲い掛かる。
伝説の亡霊。その”伝説”たる所以は柊家を御三家や特別な一族へと導いた実力にある。時間操作の異能。契約者は邪陰を自身の体内へと封印することで契約者となり異能を手にする、柊家が異能を受け継いでいるのは初代当主たる柊 時道が時間操作の力を持つ邪陰の全てを体内へ封印した永久契約を結んだからである。
その実力は異能による甘えではなく、経験と努力、才能による強さである。
(隊長の位置がバレた!)
「淘汰しろ・空御仁」
(ふせ……いや、無駄か!)
続く突きによる攻撃を粋月で防ごうと霧の刀身を複数枚並べるが空御仁による能力無効によって全て通り抜けられる。
迫りくる切っ先に意識を向けギリギリのところで体をよじり躱す。
「あぶない、あぶない」
「隊長、大丈夫ですか」
「なんとか躱せたからね。それより瑞季、一瞬でいいから亡霊の動きを止めることはできるかい?」
「一瞬だけなら」
「なら行くよ」
玄筆と瑞季は霧の中へと突っ走る。先程と同じ作戦だ、亡霊だってバカではない。死んでいるとはいえ何度も何度も同じ手に引っ掛かる程、肉体の記憶力もないわけではない。
空御仁で霧を薙ぎ払い、周りの視界を晴らす。晴れ切れていない霧の中から一つの人影が見え、問答無用で斬りかかる。
「…………」
「残念だったな、相手が俺で……!」
斬りかかった一撃が水月で防がれる。自身の周りしか晴らしていなかった亡霊には霧に潜む瑞季の姿がわからなかった。これで隊長の言っていた一瞬だけの動きの停止が叶った。
「断て・グラム」
「……ッ!!?」
晴れた霧の中から現れた玄筆のグラムによって亡霊の体は上下に切り裂かれる。
「これで、ひとまずは倒したんですよね」
「わたし達の考えが正しければね」
斬り倒された亡霊は微動だにせずに、目の光が消えて行く。倒しきれたようだ。
「危なかったね、全盛期だったら全滅していたよ」
「100パー負けてた」
「おーい、隊長!」
上に空いた穴の向こうから竜彦たちの声がする。向こうも終わったようだ。
「無事なのだー?」
「無事だ―、隊長も俺も怪我はない」
「そうですかー」
「そっちに怪我人はでたかい?」
「こっちに怪我人はいない!」
「そうかい、なら合流して本部に連絡だけしておこうか」
その後、半壊した第一支部を破棄して別の拠点への移行準備に取り掛かり、本部へ一番隊を全滅させたことを連絡した。こうして第一支部を襲ったムクロ隊一番隊は壊滅した。




